初心者でも分かる「遺留分計算の基礎」

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「正しい遺留分」を請求するために

「正しい遺留分」を請求するためには、遺留分と遺留分侵害額を正しく計算する必要があります。
しかし、遺留分を法定相続分と誤解していたり、法定相続分×1/2とだけ覚えていたりする人も多く、「正しい遺留分」を請求できていないケースが散見されます。

以下では、初心者でも分かる遺留分計算の基礎を解説します。

遺留分の計算方法

遺留分の計算式

遺留分は、以下の計算式で計算します(民法1042条)。

通常の場合

「遺留分を算定するための財産の価額」×1/2×法定相続分

直系尊属(親、祖父母)のみが相続人の場合

「遺留分を算定するための財産の価額」×1/3×法定相続分

相続人が妻と子(1人)の場合

たとえば、相続人が妻と子(1人)の場合、それぞれの遺留分は以下のとおりです。

  • 妻の遺留分:「遺留分を算定するための財産の価額」×1/4

  • 子(1人)の遺留分:「遺留分を算定するための財産の価額」×1/8

「遺留分を算定するための財産の価額」の計算式

遺留分=法定相続分×1/2ないし1/3と単純に考える方もおられますが、重要なのは、その前提となる「遺留分を算定するための財産の価額」の計算です。

以下の計算式で計算します(民法1043条、1044条)。

「遺留分を算定するための財産の価額」
=相続開始時における相続財産の額  
 +相続人に対する生前贈与(婚姻・養子縁組のための贈与と生計の資本として受けた贈与のみ)の額(原則10年以内)
 +相続人以外の第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内)
 -被相続人(亡くなった方)の債務の額

事例

・相続財産:5000万円の自宅不動産のみ
・生前贈与:子の1人に3000万円の生前贈与あり
・相続債務:なし

このような場合、「遺留分を算定するための財産の価額」は以下のとおりです。

  • 「遺留分を算定するための財産の価額」=5000万円+3000万円-0円=8000万円

「遺留分を算定するための財産の価額」を算定するためのポイント

「遺留分を算定するための財産の価額」を算定するための重要なポイントは、以下の3つです。

  1. 相続財産を正しく評価する
  2. 漏れている遺産を調査・発見する
  3. 生前贈与を調査・発見する

①(相続財産を正しく評価する)のポイント

①(相続財産を正しく評価する)は、特に不動産で問題となります。

税理士や司法書士が出してくる財産目録では、不動産を固定資産税評価額や路線価での評価している場合がほとんどです。
しかし、遺留分の計算で用いるのは時価です。
そのため、不動産業者から簡易査定書を取得したり、場合によっては不動産鑑定を依頼したりします。

誤解されている方も多いのですが、相続税申告における遺産の評価方法と遺留分における遺産の評価方法は異なります。
相続税申告における遺産の評価方法は、あくまでも相続税を支払うための基準です。しかも、相続税申告においては、遺産の評価額が低ければ低いほど納税額が低くなりますので、遺産を低く評価する方向に行きます。
税理士が出してくる財産目録の評価額をそのまま鵜呑みにしてしまうと、本来請求できる遺留分の金額から低くなる可能性がありますので、注意が必要です。

もっとも、逆に、不動産業者から取得した簡易査定書を絶対のものと考え、その査定額にこだわりすぎるのもよくありません。
あくまでも机上査定ですし、業者によって査定額に幅がありますので、固定資産税評価額や路線価と比較しながら柔軟に考えることが大事です。

②(漏れている遺産を調査・発見する)と③(生前贈与を調査・発見する)のポイント

②(漏れている遺産を調査・発見する)と③(生前贈与を調査・発見する)は、主に通帳ないし取引明細書で預貯金口座の動きを精査して行います。

たとえば、銀行口座で証券会社とのやり取りがあるのに、財産目録に株式や投資信託がないのであれば、遺産から漏れている可能性があります。仮に相続時にはなかったとしても、生前に証券口座を解約し、相続人の一人に生前贈与したかもしれません。

また、預金口座から多額の引出しや相続人への送金があれば、生前贈与の可能性があります。

遺産が漏れている場合や生前贈与を見逃している場合には、そもそも計算式の前提が間違っていますので、何度計算しても本来の遺留分額にはなりません。

税理士や司法書士が出してくる財産目録から一歩踏み込んだ調査をすることで、初めて「正しい遺留分」を算定できるわけです。

遺留分侵害額の計算方法

遺留分侵害額の計算式

実際に請求できる金額は「遺留分侵害額」であり、以下の計算式で計算します(民法1046条)

「遺留分侵害額」=遺留分の金額-相続財産・生前贈与の受領額+相続債務の負担額

生前ないし相続時にもらったものは請求額から控除し、負担した相続債務は請求額に加算することがポイントです。

たとえば、遺留分権利者である相続人の遺留分が1000万円で、遺言書では何ももらえなかったが500万円を生前贈与でもらっていた場合、遺留分侵害額は以下のとおりです。

  • 遺留分侵害額=1000万円-500万円+0円=500万円

つまり、遺留分をそのまま請求するのではなく、生前贈与などでもらったものは差し引く必要があります。

もっとも、全ての生前贈与を差し引くわけではなく、法律で決まった生前贈与を差し引きますので、注意が必要です。

「正しい遺留分」の計算はとても複雑

以上のとおり、遺留分の計算はとても複雑です。遺産を正しく評価し、生前贈与を調査・発見しなければ、「正しい遺留分」を計算することはできません。

特に、交渉での早期解決を目指す場合、計算上の最大値が低ければ、低い金額からの交渉になってしまいます。
遺留分に加算できる材料を事前にどれだけ見つけられるかがとても重要です。


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