遺産分割調停や審判にかかる期間はどのくらいですか?

回答

遺産分割の調停・審判に、法律上の審理期間の定めはありません。調停は、①相続人の範囲、②遺産の範囲、③遺産の評価、④各相続人の取得額、⑤分割方法の順に合意を積み重ねる方法で進み、家庭裁判所の運用では申立てから第7回期日までにおおむね1年を要するものとされています。調停が不成立になると当然に審判へ移行するため(家事事件手続法272条4項)、その分の期間が加わります。

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結論

遺産分割の調停・審判にかかる期間は、争いのある論点の数と相続人の状況によって、事案ごとに大きく異なります。いつまでに終わらせなければならないという期限が法律で定められているわけではないため、実際の事件の統計と、家庭裁判所の運用上の目標が目安になります。

全国の家庭裁判所が令和7年に終局させた遺産分割事件は16,431件で、審理期間の内訳は次のとおりです(最高裁判所「令和7年司法統計年報(家事編)」第45表)。

審理期間件数割合
6か月以内5,760件約35.1%
6か月超1年以内5,398件約32.9%
1年超2年以内3,839件約23.4%
2年超3年以内962件約5.9%
3年超472件約2.9%

1年以内に終わった事件が約68%を占める一方、2年を超えたものも約8.7%あり、短期で終わる事件と長期化する事件が混在しています。

もっとも、この数字には取下げで終わった2,405件も含まれています。調停成立または審判による認容で終わった8,399件に限ると、1年以内は約58%にとどまり、2年を超えたものが約12%あります(同第53表)。話合いをまとめて終局した事件は、全体の数字よりも長くかかっているということです。

期日の回数も同じ統計から分かります。調停が成立した7,033件のうち、期日を6回から10回重ねたものが2,015件でもっとも多く、5回以下で成立したものは3,909件(約56%)です(同第45表)。

家庭裁判所の運用にも、期間の目安が示されています。遺産の範囲は原則として第3回調停期日までに確定することを目標とし、申立てから第7回期日までにおおむね1年を要することを前提に、第7回期日では調停成立を妨げている事情とその対策を協議する運用がとられています。統計上もっとも多い6回から10回という期日回数は、この目安とおおむね重なります。

期間を左右する事情

遺産分割調停は、相続人全員の合意がなければ成立しません。その合意は、①相続人の範囲、②遺産の範囲、③遺産の評価、④各相続人の取得額(特別受益・寄与分の有無とその評価)、⑤遺産の分割方法という順序で、段階ごとに積み上げていきます(段階的進行モデル)。各段階で合意ができたその都度、内容を調書にして次の段階へ進むため、争いのある段階が多いほど期日を重ねることになり、期間は延びます。

期間を大きく左右するのが、前提問題と付随問題の扱いです。

前提問題とは、遺産を分けるという実質的な話合いに入る前に決着をつけておかなければならない問題をいいます。相続人の範囲についての争いは人事訴訟(親子関係不存在確認訴訟など)、遺言書の効力や解釈についての争いは遺言無効確認訴訟、遺産分割協議の効力についての争いは分割協議無効確認訴訟、遺産が被相続人のものかどうかの争いは遺産確認訴訟で、それぞれ解決する必要があります。これらを不明確にしたまま調停を進めると、仮定の議論の応酬が続いて手続が空転すると指摘されています。

付随問題とは、使途不明金、葬儀費用、相続債務の負担、相続開始後に生じた賃料、遺産管理費用など、遺産分割に付随して生じる法的紛争をいいます。相続人全員が合意すれば調停の中で一緒に話し合えますが、審判に移行した場合は審判の対象になりません。合意ができなければ、不当利得返還請求や損害賠償請求として民事訴訟で解決することになります。調整の難しい付随問題を調停で解決しようとしたために長期化した例も、家庭裁判所の側から挙げられています。

そのほか、期間に影響する典型的な事情としては、次のものがあります。

  • 相続人の数が多い場合や、期日に出席しない相続人がいる場合
  • 所在の分からない相続人がいる場合。不在者財産管理人の選任が必要となり、調停を成立させるにはさらに権限外行為の許可の審判を要します(民法25条1項、28条)
  • 判断能力に問題のある相続人がいる場合。成年後見人等の選任を待つことになります
  • 不動産の評価に争いがあり、鑑定を実施する場合。鑑定はそれ自体で数か月を要します
  • 特別受益(被相続人から生前に受けた贈与などの特別な利益)や寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)の主張が対立する場合

期間に関係する手続上の制度と運用

当事者や代理人の予定が合わないと、期日と期日の間隔が広がってしまいます。これを避けるため、第2回以降の期日を決める際に、次回期日と次々回期日の2期日を同時に指定する方法がとられることがあります。東京家庭裁判所では平成29年2月からこの2期日指定を原則としており、審理期間の短縮につながったとされています。

遠方に住む相続人がいる場合には、電話会議システムやウェブ会議システムを利用できます。調停委員会が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いたうえでこれらの方法により期日の手続を進めることができ、この方法で参加した当事者は期日に出頭したものとみなされます(家事事件手続法258条1項、54条、260条1項6号)。従来は遠隔地に住んでいることが要件とされていましたが、この要件は削除されました。遺産分割調停では、これらを利用した期日で調停を成立させることもできます(同法268条3項参照)。

段階ごとの合意を調書に残す運用も、期間に関係します。調停の手続の期日については原則として調書を作成しなければならないとされており(家事事件手続法253条本文)、遺産の範囲や評価、遺言書の効力といった前提問題の合意、鑑定の前提条件の合意、分割方針の合意が成立したときは、その内容を調書にする運用が広く行われています。これは中間合意調書と呼ばれ、争点とその解決方法について当事者全員が共通の認識をもつことにつながります。

出席する相続人の間で合意ができているのに欠席する相続人がいる場合などには、家庭裁判所が調停に代わる審判をすることがあります(家事事件手続法284条1項)。当事者全員に告知され、適法な異議申立てがされなければ確定し、確定した審判と同一の効力を有します(同法287条)。異議申立てがされた場合は効力を失い、調停の申立ての時に審判の申立てがあったものとみなされます(同法286条7項)。令和7年に終局した遺産分割事件16,431件のうち、調停に代わる審判で終わったものは5,306件と、全体の約32%を占めます。

主張が平行線であることだけで、直ちに調停が不成立になるわけではありません。合意ができない対立点が明確になり、調停委員会の評議を経た心証の開示にも応じない場合に審判へ移行するものとされ、少なくとも遺産の範囲と評価額が確定するまでは審判に移行しないのが通例です。調停が不成立で終わると、調停を申し立てた時に審判の申立てがあったものとみなされ、当然に審判手続へ移ります(同法272条4項)。審判の審理期間が加わるため全体はさらに長くなり、審判に対して即時抗告がされれば、抗告審の期間も加わります。

相続税の申告期限との関係

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です。調停・審判の審理期間を考えると、期限内に遺産分割が終わらないことは珍しくありません。

期限までに分割がまとまらない場合には、未分割のまま法定相続分で相続税を申告することになります。この場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は当初の申告では適用できません。ただし、申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、分割ができた後に更正の請求等の手続によってこれらの適用を受けられます。

分割が長引くこと自体が、納税資金の確保、賃貸不動産の管理や賃料の帰属、同族会社の株式の議決権行使や運営に影響することもあります。

こうした場面では、遺産の一部だけを先に分割する方法もあります。共同相続人は遺産の全部だけでなく一部の分割もでき、その一部の分割を家庭裁判所に請求することもできます(民法907条1項・2項)。たとえば、被相続人Aの相続人がB・Cの2名で、自宅不動産の評価には争いがあるものの預貯金には争いがないという場合、預貯金だけを先に分割の対象とすることが考えられます。一部分割については、「遺産の一部だけを先に分割することはできますか?」で解説しています。

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