相続人が認知症の場合、遺産分割はどうする?成年後見の手続と費用を解説

「相続人の一人が認知症だけど、相続で凍結された預金をどうやって解約したらいいのか・・・」
「認知症の相続人に成年後見人をつける必要があるが、手続きや費用がよく分からない・・・」

今、あなたもこのように悩んでいませんか?
認知症の相続人の成年後見人になり、遺産分割協議を行ったこともありますので、その気持ちはよく分かります。

そんな悩みを抱えるあなたに、この記事では以下の内容をご紹介します。

・認知症の相続人がいると、なぜ成年後見人をつける必要があるか。
・成年後見申立ての具体的な手続き
・成年後見にかかる費用

この記事を読み終わった頃には、成年後見の手続きや費用が具体的に分かり、認知症の相続人がいる場合の対応についてヒントが得られることでしょう。

目次

認知症の相続人がいると、成年後見人が必要になる場合がある

相続が開始すると、遺言書で遺産の分け方が決まっていない限り、遺産分割協議を行います。
遺産分割協議は相続人全員で行う必要がありますので、認知症の相続人も遺産分割協議に参加することになります。

しかし、認知症の症状には程度があり、認知症の診断がなされているからといって、それだけで遺産分割協議を行えないわけではありません。

軽度の認知症であれば、初期症状で、短期記憶は減退しているかもしれません。
しかし、判断能力が失われているわけではありませんので、遺産分割協議は可能です。

逆に、認知症が進行していると、判断能力が失われている可能性が高いため、遺産分割協議を行うことは困難です。

このような場合、認知症の相続人本人の代わりに遺産分割協議を行う代理人が必要になります。
その代理人となるのが、成年後見人です。

成年後見人は家庭裁判所が選任しますので、以下、成年後見の手続きや費用について解説します。

なお、成年後見に手続きが必要だったり費用がかかったりするからといって、判断能力がない認知症の相続人に、遺産分割協議書にサインさせるのはやめましょう。
そのような遺産分割協議は無効であり、あとで他の親族や成年後見人から争われる可能性があります。

成年後見人をつけるための手続

誰が成年後見を申し立てるか

成年後見の申立てができるのは、配偶者、4親等内の親族、市町村長、検察官などです(民法7条)。
成年後見人をつける本人も申立人になれますが、認知症で判断能力が減退しているため、実際のところ、申立ては困難です。
そのため、親族が申し立てるのが通常です。

【主な4親等内の親族】

  • 親、祖父母、子、孫
  • 兄弟、叔父、叔母、甥、姪、いとこ
  • 配偶者の親、祖父母、子、孫
  • 配偶者の兄弟、叔父、叔母、甥、姪 など

どこの裁判所に申し立てるか

成年後見は、本人の住所地(住民登録をしている場所)を管轄する家庭裁判所に申し立てます(家事事件手続法117条1項)。
たとえば、本人の住民票が東京23区内にあるのであれば、東京家庭裁判所(成年後見センター)になります。

成年後見の申立てに必要なものは何か

東京家庭裁判所で成年後見を申し立てる場合、以下の書類が必要です。

  1. 後見開始申立書

  2. 申立事情説明書

  3. 親族関係図

  4. 本人の財産目録及びその資料

  5. 相続財産目録及びその資料(本人が相続人となっている遺産分割未了の相続財産がある場合のみ)

  6. 本人の収支予定表及びその資料

  7. 後見人等候補者事情説明書

  8. 親族の意見書

  9. 診断書(成年後見制度用)

  10. 診断書付票

  11. 本人情報シート

  12. 本人の戸籍個人事項証明書(戸籍抄本)

  13. 本人の住民票又は戸籍の附票

  14. 後見人等候補者の住民票又は戸籍の附票

  15. 本人が登記されていないことの証明書

裁判所で申立書類を一式もらうこともできますが、パソコンでプリントアウトできる人は、裁判所のホームページからダウンロードした方が早いです。

なお、他の家庭裁判所でも概ね同じですが、管轄裁判所のホームページなどで確認することをお勧めします。

誰が成年後見人になるか

親族もなれますが、弁護士・司法書士等の専門職が成年後見人になることが多いです。
申立の際に成年後見人候補者を記載することもできますが、最終的には裁判所が決定します。

2022年の統計によれば、成年後見関係事件(後見・保佐・補助開始、任意後見監督人選任)のうち、親族が成年後見人等に選任されたのは全体の19.1%に留まります。
つまり、統計上、全体の8割以上は、弁護士や司法書士といった親族以外の専門職が成年後見人等に選任されるということです。

たとえば、親族間に意見の対立がある、不動産の売買を予定している、遺産分割協議で利益相反が生じるなどの場合は、通常、専門職が成年後見人に選任されるでしょう。

なお、以下の人は成年後見人になることはできません(民法847条)。
(1) 未成年者
(2) 家庭裁判所で成年後見人、保佐人、補助人等を解任されたことがある人
(3) 破産開始決定を受けたが,免責許可決定を受けていないなどで復権していない人
(4) 現在、本人との間で訴訟をしている又は過去に訴訟をした人
(5) 現在、本人との間で訴訟をしている又は過去に訴訟をした人の配偶者,親又は子
(6) 行方不明である人

成年後見人をつけるために必要な費用

東京家庭裁判所で成年後見の申立てをする場合の費用は、以下のとおりです(2023年12月現在)。

なお、東京家庭裁判所では、申立ての段階で必要な申立手数料、後見登記手数料、郵便切手代、鑑定費用については、後見開始審判の際、本人の負担とする運用になっています。

つまり、申立人が負担した申立手数料等は、後で還ってきます。

申立時に必要な費用

・申立手数料:800円
・後見登記手数料:2600円
・郵便切手代(送達・送付費用):合計3720円

審判までに必要な費用

・鑑定費用:10万円前後

もっとも、申立て時に医者の診断書を提出している場合は、基本的に精神鑑定は行いません。

実際、2022年の統計によれば、成年後見関係事件(後見・保佐・補助開始、任意後見監督人選任)のうち、鑑定を実施したのは全体の4.9パーセントにすぎません。

また、2022年の統計によれば、精神鑑定でかかった鑑定費用は、以下のようになっています。
・5万円以下:45.4%
・5万円超え10万円以下:41.5%
・10万円超え15万円以下:12.7%
・15万円超え20万円以下:0.2%

つまり、全体の約86.9%の事件において、鑑定費用は10万円以下に留まっています。

成年後見人の選任後に必要な費用

弁護士や司法書士などの専門職が成年後見人に選任された場合、管理財産額に応じて、月額2~6万円程度の報酬の支払いが必要になります(基本報酬)。

また、身上監護で「特別な困難」があった場合、さらに報酬が付加されます(付加報酬)。

たとえば、基礎報酬が月額3万円だったとして、1年で3万円×12か月=36万円かかります。
本人が亡くなるまで継続しますので、10年間続けば360万円かかりますし、その間、不動産売却その他の業務で付加報酬が発生すれば、それ以上になります。

なお、親族が成年後見人になった場合、報酬の請求はしないことが多いですが、報酬の申立て自体は可能です。

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