認知症だと相続できない?成年後見人の手続や費用は?
相続では成年後見人が必要な場合がある
成年後見人とは、認知症などで判断能力を失った人の代わりに法律行為を行うため、家庭裁判所に選任される人のことをいいます。
判断能力がない状態だと、たとえ本人がサインしたとしても、売買などの法律行為は無効とされてしまいます。
このような場合、判断能力を失った人の代わりに法律行為を行う人が必要で、これが成年後見人になります。
相続でいえば、たとえば、親が亡くなったとします。
しかし、その相続人の一人が認知症で判断能力を失っていたとしたら、銀行の手続も遺産分割協議もできません。
また、遺言で何も相続できなかったとしても、遺留分の請求はできません。
親族が勝手に書面にサインしても、無効になってしまいます。
認知症の程度によっては、遺産分割協議や遺留分の請求をするため、まずは成年後見人を選任してもらう必要があるわけです。
成年後見人をつけるための手続
誰が申し立てるのか
成年後見の申立てができるのは、配偶者、4親等内の親族、市町村長、検察官などです。
成年後見人をつける本人も申立人になれますが、認知症で判断能力を失っていれば、親族等が申し立てることになります。
【主な4親等内の親族】
- 親、祖父母、子、孫
- 兄弟、叔父、叔母、甥、姪、いとこ
- 配偶者の親、祖父母、子、孫
- 配偶者の兄弟、叔父、叔母、甥、姪 など
どこに申し立てるのか
成年後見は、本人の住所地(住民登録をしている場所)を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
たとえば、本人の住民票が東京23区内にあるのであれば、東京家庭裁判所(成年後見センター)になります。
申立てに必要なものは何か
東京家庭裁判所で申し立てる場合、以下の書類が必要です。
後見開始申立書
申立事情説明書
親族関係図
本人の財産目録及びその資料
相続財産目録及びその資料(本人が相続人となっている遺産分割未了の相続財産がある場合のみ)
本人の収支予定表及びその資料
後見人等候補者事情説明書
親族の意見書
診断書(成年後見制度用)
診断書付票
本人情報シート
本人の戸籍個人事項証明書(戸籍抄本)
本人の住民票又は戸籍の附票
後見人等候補者の住民票又は戸籍の附票
本人が登記されていないことの証明書
誰が成年後見人になるのか
親族や弁護士・司法書士等の専門職が成年後見人になることが多いです。
申立の際に成年後見人候補者を記載することもできますが、最終的には裁判所が決定します。
親族間に意見の対立がある、不動産の売買を予定している、遺産分割協議で利益相反が生じるなどの場合は、親族ではなく専門職を成年後見人に選任する可能性が高いです。
なお、以下の人は成年後見人になることはできません。
(1) 未成年者
(2) 家庭裁判所で成年後見人、保佐人、補助人等を解任されたことがある人
(3) 破産開始決定を受けたが,免責許可決定を受けていないなどで復権していない人
(4) 現在、本人との間で訴訟をしている又は過去に訴訟をした人
(5) 現在、本人との間で訴訟をしている又は過去に訴訟をした人の配偶者,親又は子
(6) 行方不明である人
成年後見人をつけるために必要な費用は?
東京家庭裁判所で成年後見の申立てをする場合の費用は、以下のとおりです(2020年8月現在)。
なお、東京家庭裁判所では、申立ての段階で必要な申立手数料、登記手数料、郵便切手代、鑑定費用につき、後見開始審判の際、本人の負担とする裁判をする運用になっています。
つまり、申立人が負担した申立て手数料等は、後で還ってきます。
申立時に必要な費用
・申立手数料:800円
・登記手数料:2600円
・郵便切手代(送達・送付費用):合計3270円
審判までに必要な費用
・鑑定費用:10万円前後
なお、2019年の統計によれば、成年後見関係事件(後見・保佐・補助開始、任意後見監督人選任)のうち、鑑定を実施したのは全体の7パーセントです。また、鑑定費用は、約54.7%が5万円以下で、約95.3%が10万円以下に留まっています。
成年後見人の選任後に必要な費用
弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任された場合、管理財産額に応じて、月額2~6万円程度の報酬の支払いが必要になります(基本報酬)。また、身上監護で「特別な困難」があった場合には、報酬が付加されます(付加報酬)。
たとえば、基礎報酬が月額3万円だったとして、1年で3万円×12か月=36万円かかります。本人が亡くなるまで継続しますので、10年間続けば360万円かかりますし、その間、不動産売却その他の業務で付加報酬が発生すれば、それ以上になります。
なお、親族が成年後見人になった場合、報酬の請求はしないことが多いですが、報酬の申立自体は可能です。
民事信託(家族信託)は認知症対策として有効だが、リスクもあるので要注意!
近年、認知症対策として、民事信託(「家族信託」という造語で呼ぶことも多いです。)が盛んに宣伝されています。
民事信託は、本人の判断能力があるうちに、親族に財産の名義を形式的に移して管理運用を任せ、認知症になった後も、その親族が継続して財産の管理運用ができようにする仕組みです。
成年後見の場合、成年後見人は本人のために財産管理しますので、たとえば、財産を投資に回したり、相続対策で生前贈与したりすることは、基本、できなくなります。
民事信託であれば、親族に名義を移して資産運用を任せますので、そもそも成年後見人の財産管理から外れます。
認知症になった後も投資や相続対策を柔軟に行いたいということであれば、民事信託は有効な仕組みといえます。
しかし、民事信託契約書の作り方によっては、財産管理を任された親族に管理運用を白紙委任することにもなりかねません。
民事信託を濫用し、自分の利益を図る危険がありますので、特定の親族に全てを委ねるのではなく、他の親族や専門職が監督する仕組みにしておく必要があります。
その際、財産管理を任せる親族に忖度する親族や専門職ではなく、ある程度中立的に監督してくれる人が望ましいです。
これは、民事信託のみならず、財産管理委任契約でも起こることです。
本人が認知症になり、財産管理を任せた親族を監督できなくなった後、財産管理を任された親族が、財産管理委任契約に乗じ、我が物顔でやりたい放題やる事例も散見されます。
財産管理権の濫用がきっかけで親族間紛争が激化する場合もありますので、民事信託でも財産管理の委任でも、特定の親族にだけ全てを任せるのは慎重にすべきです。