相続を「本当に」法律どおりに行うための3つのポイント
ポイント1:相続は手続よりも中身が主役
1つ目のポイントは、「相続は手続よりも中身が主役」です。
たしかに、相続は手続が多くて大変です。目の前の手続を進めるだけで手一杯になってしまうでしょう。
しかし、預金や株式の名義変更も、相続税の申告も、相続登記も、本来、遺産の分け方が決まってから、決まった分け方に従って行います。つまり、相続の主役は、あくまでも遺産の分け方という中身です。
そんなこと分かっているよと思われるかもしれません。
しかし、手続上の都合を最優先して遺産の分け方を決めようとする人がとても多いです。
たとえば、相続税が安くなることを最優先し、不動産の分け方を決めようとするときがあります。
しかし、相続全体の相続税は安くなったとしても、その恩恵を受けるのは別の相続人(特に不動産を取得する人)だけで、自分の相続税はそこまで変わらないかもしれません。
また、相続税の申告期限に間に合わないという理由で、とにかく遺産分割協議書にサインするよう迫られることがあります。
これは、本当によくあります。
しかし、遺産の分け方に納得していないのに、相続税の申告期限を理由にサインするのは本末転倒です。
とりあえず未分割のまま申告をし、正式に決まったら修正すればいいだけの話です。
もう一度言います。
相続は手続ではなく中身が主役
です。
遺産の分け方という中身を決め、決まった分け方に従って手続を行うのが本来の相続です。
手続上の都合を最優先し、納得できない分け方にするのは本末転倒です。
しかし、手続の期限ばかりに目が行き、もやもやしたまま相続の書類にサインをする人はかなりいます。
逆に、手続の期限を盾にし、自分にとって都合のいい分け方でサインさせようとする「ずるい人」もいます。
相続を法律どおりにやりたいのであれば、主役とわき役を取り違えないことがとても大事です。
ポイント2:亡くなる前の話に要注意
2つ目のポイントは、「亡くなる前の話に要注意」です。
相続の対象となるのは、亡くなったときに残っていた遺産です。
そのため、遺産分割でも遺留分でも、亡くなったときに残っていた遺産だけしか見ない人が多いです。
しかし、たとえば、亡くなる数か月前に、多額の預金が引き出されていたらどうでしょうか?不動産が処分されていたらどうでしょうか?
引き出された預金や不動産の売却金の行方が分かっているのであれば、特に問題はありません。
問題は、お金の行方が分からない場合です。
他の相続人が勝手にとったのであれば、遺産に戻してもらう必要があります。
亡くなった人から贈与を受けたのであれば、その分、贈与を受けた相続人の相続分が減る可能性もあります(「特別受益の持ち戻し」といいます)。
亡くなったときの遺産だけしか見ず、亡くなる前の預金の引出しや不動産の売却に気が付かなければ、法律どおりの相続は実現できません。
もう一度言います。
亡くなる前の話に要注意
です。
相続税申告書の財産目録や残高証明書ですと、基本、亡くなったときの遺産しか分かりません。
通帳や口座の取引明細書で「過去の出入金」を調べないと、亡くなる前の財産処分を見落としてしまいます。
そこまでやって初めて、法律どおりの相続を実現できるわけです。
ポイント3:法定相続分=法律どおりの分け方ではない
3つ目のポイントは、「法定相続分=法律どおりの分け方ではない」です。
○分の1で分けるのが法律ですよと言われるときがあります。
しかし、ちょっと待ってください。
それは本当に法律どおりの分け方でしょうか?
結論から言えば、半分合っていて、半分間違っています。
相続は、○分の1という「法定相続分」で分けるのが原則です。
そう、「原則」。
特殊な事情があれば、逆に「法定相続分」で分けると法律どおりの分け方になりません。
特殊な事情を考慮した相続分を「具体的相続分」といいます。
法律どおりの分け方というのは、この「具体的相続分」で分けることをいいます。
たとえば、亡くなった親に対する介護などの貢献は、いわゆる「寄与分」として、「法定相続分」を修正する特殊な事情となります。つまり、貢献した分、相続分が増えます。
亡くなった親からもらった生前贈与も、いわゆる「特別受益」として、「法定相続分」を修正する特殊な事情となります。
つまり、先にもらった分、相続分が減ります。
もう一度言います。
法定相続分=法律どおりの分け方ではない
です。
貢献した分や先にもらった分を考慮せず、○分の1という割合で機械的に相続分を決めてしまう方が不公平です。
特殊な事情を考慮して初めて、法律どおりの相続(具体的相続分)を実現できるわけです。
口で言うと分かりにくいかもしれませんので、以下、具体例でご説明します。
相続人は子2人、遺産は1000万円の預金のみ、子Aが500万円の生前贈与をもらっており、子Bが500万円の介護貢献をしていたケース
- 単純に法定相続分で分けた場合
- 子A=1000万円×1/2(法定相続分)=500万円
- 子B=1000万円×1/2(法定相続分)=500万円
- 具体的相続分で分けた場合
- 子A={(1000万円+500万円-500万円)×1/2}-500万円=0円
- 子B={(1000万円+500万円-500万円)×1/2}+500万円=1000万円
つまり、法定相続分で単純に分けるものだと誤解した場合、子Aの相続分は本来よりも500万円多くなりますが、子Bの相続分は本来よりも500万円少なくなります。
全然違いますね。誤解って怖いです。
相続の正しい理解が大事
この3つのポイントを知っておくだけでも、なんだかよく分からないまま遺産分割協議書にサインしてしまうことを避けられます。
しかも、相続の基本に関することで、そこまで難しいわけではありません。
それでも、もし話し合いの進め方で悩むことがあれば、遠慮なくご相談ください。
一緒に解決策を考えましょう。
あなたが形だけの円満相続で後悔せず、「法の下の相続」を実現することを祈っています。