「形だけの円満相続」で失敗しないための3つのポイント

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円満相続の落とし穴

相続が始まると、時には、事前に用意しておいた遺産分割協議書をその場の流れでサインさせようとしたり、いきなり郵便で送りつけてサインさせようとしたりする相続人が出てきます。

そのままサインすれば、当然、もめることはありません。
しかし、そのような円満相続はハッピーでしょうか。

その遺産分割協議書の内容が不公平だったら?
もめはしませんが、みんながハッピーでしょうか?
ハッピーなのは、サインをさせた相続人だけではないでしょうか?

もちろん、公平な相続には興味がなく、もめないことを最優先するのであれば、全く問題ありません。
しかし、自分だけ我慢をして、もやもやしたまま相続の書類にサインをする相続人もいます。
それは円満相続とはいえません。

世の中には、このような「形だけの円満相続」があふれています。
もめると大変ですよ、相続税の申告期限に間に合いませんよと言い、あたかも踏み絵を踏ませようとすることがよくあります。

もっとも、「形だけの円満相続」を避ける方法はあります。
たった3つ、以下のポイントを覚えておいてください。

  1. いきなり送られてきた相続の書類にすぐサインしない
  2. 相続不動産の無料査定を取得する
  3. 預金の取引明細書を3年程度遡って取得する

ポイント1:いきなり送られてきた相続の書類にすぐサインしない

1つ目のポイントは、「いきなり送られてきた相続の書類にすぐサインしない」です。

相続手続を相続人の一人に任せていたら、いきなり銀行の手続書類や遺産分割協議書が届くことがあります。
「相続手続に必要な書類」として、あまり深く考えずにサインしてしまう人もいますが、ちょっと待ってください。

相続人は私と兄の2人で、母の主な遺産は実家の土地建物のみ。相続から数か月たったある日、兄から遺産分割協議書と相続登記の書類が送られてきました。

遺産分割協議書の内容は、実家の土地建物は兄が取得する代わりに、私に1500万円を支払うというものでした。金額の根拠を聞くと、固定資産税評価額が3000万円なので、その1/2をお金であげるとのことでした。

私は、なるほどそれならと思い、さっそく遺産分割協議書と相続登記の書類にサインし、印鑑証明書と一緒に送り返しました。

相続分である1/2をお金でもらうのであれば、公平だと思うかもしれません。
問題は、自宅の土地建物を3000万円と評価すべきなのかどうかです。

結論から言えば、本来の評価額は3000万円よりも高い可能性があり、そのままサインすると損するかもしれないということです。

遺産分割における不動産評価は時価基準ですが、固定資産税評価額は納税のための基準です。
必ずしもイコールではありません。
むしろ、固定資産税評価額は、時価の7割程度を目途に設定されていますので、時価よりも低くなる場合が多いです(地方の不動産など、必ずしも常にそうなるわけではありません)。

たとえ法定相続分で遺産分割をしても、その前提となる遺産の評価方法を誤解していれば、公平な分け方にはなりません。

いきなり相続書類が送られてきても、遺産の内容や不動産の評価で誤解があるかもしれませんので、しっかり吟味する必要があります。

ポイント2:相続不動産の無料査定を取得する

2つ目のポイントは、「相続不動産の無料査定を取得する」です。

相続でよくある誤解の一つに、相続不動産の評価額があります。
特に、相続税の申告が必要な場合、税理士が計算した相続税評価額を当然の前提にして遺産分割しようとする相続人が出てきます。

しかし、相続税評価額は、相続税という納税のための基準です。
遺産分割の基準である時価は異なります。
そのため、相続税評価額を遺産分割でも当然の前提にする必要はありません。

本来、不動産鑑定士に鑑定してもらえば一番いいのですが、費用がかなりかかります。最初から不動産鑑定をするのはハードルが高いです。

一番おすすめなのは、不動産業者から無料で簡易査定書を取得することです。
2~3社から簡易査定書を取得し、その平均値を取れば、それなりに客観的な評価額が出てくると思います(裁判でもよく取られる方法です)。

ただし、査定の前提条件によって、評価額にかなりの幅が出る場合があります。
自分が取得した査定書の評価額が絶対のものと考えると、相続が無用に長引きます。
相手が取得した査定書の評価額、固定資産税評価額、相続税評価額とのバランスを考える必要があります。

いずれにせよ、相手の言う不動産評価額「なるもの」を鵜呑みにすると、誤解したまま「形だけの円満相続」になってしまう可能性があります。まずは無料の簡易査定書を取得した上で、相手の言う評価額でいいかどうか、別の評価額を主張できるかどうかを検討しましょう。

ポイント3:預金の取引明細書を3年程度遡って取得する

3つ目のポイントは、「預金の取引明細書を3年程度遡って取得する」です。

預金の取引明細書とは、預金口座の出入金の履歴を記載した明細書のことです。預金口座のある金融機関で取得できます。
それを見れば、預金の引出し・送金の時期や金額が分かります。

では、なぜ相続で、亡くなった方の預金の引出し・送金を確認する必要があるのでしょうか?

たとえば、亡くなる数か月前から、相続人の一人が合計1000万円の預金を引き出したとします。相続のときに残っていた預金は100万円です。

残った100万円を法定相続分で分ければ、それであなたは納得できるでしょうか?
生前に1000万円を引き出していたことを知っていれば、引き出した1000万円も分けるように言うはずです。

しかし、預金の残高しか知らされなければ、生前、どれだけお金が動いたのかを知ることはできません。
預金が100万円しかないと誤解し、そのまま遺産分割協議書にサインしてしまうでしょう。

他の相続人から通帳を出してもらい、確認するのが一番早いといえば早いです。
しかし、自分からは出さない場合もありますので、そのときは取引明細書を取得してください。
3年程度は遡った方がいいです。

しかし、遡れば遡るほどいいというわけではありません。
10年遡る人もいますが、銀行に支払う手数料が高くなりますし、5年以上昔のお金の流れを解明することは相当に困難です。解明が困難なことにこだわり続け、無駄に揉めて長引く可能性がありますので、どこかで「割り切る」ことがとても大事です。

多額の預金引出しが見つかった場合、引き出したと思われる相続人に確認します。
生前贈与や使い込みであれば、相続に反映させるべきでしょう。

なお、預金口座を解約していると、取引明細書の開示に応じない金融機関があります。
よく分からないまま相続手続がどんどん進み、預金口座を解約されてしまうと、調査に不可欠な取引明細書を取得できず、送金・出金状況の調査が困難になります。少しでも気になる場合は、先手先手で対応する必要があります。

また、遺言書がある場合は、さらに要注意です。
預金を相続していない相続人だと、預金の有無すら教えてもらえない場合があります。
預金口座を解約される前にすぐ動く必要があるのは当然ですが、口座の確認自体を拒否されないように「対応」する必要があります。

相続の正しい理解が大事

この3つのポイントを知っておくだけでも、なんだかよく分からないまま遺産分割協議書にサインしてしまうことを避けられます。しかも、相続の基本に関することで、そこまで難しいわけではありません。

とはいえ、もし話し合いの進め方で悩むことがあれば、遠慮なくご相談ください。一緒に解決策を考えましょう。
あなたが形だけの円満相続で後悔せず、「法の下の相続」を実現することを祈っています。

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