「もめない相続」で大後悔?遺産分割協議書にサインする前にやるべき3つのこと

「他の相続人が依頼した行政書士から遺産分割協議書が届いたが、そのままサインしても大丈夫なのだろうか。でも、何か言ってもめるのは嫌だな・・・」
「固定資産税評価額は役所が決めた評価額だと言われたが、やけに金額が低いような気がする。でも、何か言ってもめるのは嫌だな・・・」

今、あなたもこのように悩んでいませんか?
相続でもめたくないと思いつつ、そのまま遺産分割協議書にサインするのはためらわれる相続人が多くおられますので、その気持ちはよく分かります。

そんな悩みを抱えるあなたに、この記事では、「もめない相続」で後悔しないよう、遺産分割協議書にサインする前にやるべきことを解説します。

実際、もやもやを抱えたまま遺産分割協議書にサインするのは止め、やるべきことをやった上で、もめることなく公平な相続を実現できた方もおられます。

この記事を読み終わった頃には、「もめない相続」なのに後悔する理由が分かり、より公平で納得できる相続を実現するヒントが得られるでしょう。

目次

「もめない相続」の落とし穴

相続が始まると、時には、事前に用意しておいた遺産分割協議書をその場の流れでサインさせようとしたり、いきなり郵便で送りつけてサインさせようとしたりする相続人が出てきます。

そのままサインすれば、当然、もめることはありません。
しかし、そのような「もめない相続」はハッピーでしょうか。

その遺産分割協議書の内容が不公平だったら?
もめはしませんが、みんながハッピーでしょうか?
ハッピーなのは、サインをさせた相続人だけではないでしょうか?

もちろん、公平な相続には興味がなく、もめないことを最優先するのであれば、全く問題ありません。
しかし、自分だけ我慢をして、もやもやしたまま相続の書類にサインをする相続人もいます。
それは本当に円満な相続とはいえません。

世の中には、このような「形だけの円満相続」があふれています。
もめると大変ですよ、相続税の申告期限に間に合いませんよと言い、あたかも踏み絵を踏ませようとすることがよくあります。

もっとも、「形だけの円満相続」を避ける方法はあります。
たった3つ、以下のことを覚えておいてください。

  1. いきなり送られてきた遺産分割協議書にはすぐサインしない
  2. 不動産業者から相続不動産の簡易査定書を取得する
  3. 預金の取引明細書を3年程度遡って取得する

やるべきこと①:いきなり送られてきた遺産分割協議書にはすぐサインしない

遺産分割協議書にサインする前にやるべきことの1つ目は、

いきなり送られてきた遺産分割協議書にはすぐサインしない

です。

相続手続を相続人の一人に任せていたら、行政書士や司法書士などの「相続の専門家」から、いきなり遺産分割協議書が届くことがあります。

「相続手続に必要な書類」として、あまり深く考えずにサインしてしまう方もおられますが、一度立ち止まってよく考えてください。

相談事例

相続人は私と兄の2人で、母の主な遺産は実家の土地建物のみ。相続から数か月たったある日、兄が依頼した相続専門の行政書士から、遺産分割協議書と相続登記の書類が送られてきました。

遺産分割協議書の内容は、実家の土地建物は兄が取得する代わりに、私に1500万円を支払うというものでした。金額の根拠を聞くと、固定資産税評価額が3000万円なので、その1/2をお金であげるとのことでした。

相続の専門家から送られてきた書類でもあったため、私は、それが遺産分割のルールなのだと思い、さっそく遺産分割協議書と相続登記の書類にサインし、印鑑証明書とともに返送しました。

実際の相談事例ですが、相続分である1/2をお金でもらうのであれば、公平だと思うかもしれません。
問題は、自宅の土地建物を3000万円と評価すべきなのかどうかです。

結論から言えば、本来の評価額は3000万円よりも高い可能性があり、そのままサインすると損をするかもしれないということです。

遺産分割における不動産評価は時価基準ですが、固定資産税評価額は、固定資産税という納税のための基準です。
必ずしもイコールではありません。
むしろ、固定資産税評価額は、時価の7割程度を目途に設定されていますので、時価よりも低くなる場合が多いです(地方の不動産など、必ずしも常にそうなるわけではありませんが)。

たとえ法定相続分で遺産分割をしたとしても、その前提となる遺産の評価方法を誤解していれば、公平な分け方にはなりません。

いきなり遺産分割協議書が送られてきても、遺産の内容や相続不動産の評価などで誤解があるかもしれませんので、しっかり吟味する必要があります。

やるべきこと②:不動産業者から相続不動産の簡易査定書を取得する

遺産分割協議書にサインする前にやるべきことの2つ目は、

不動産業者から相続不動産の簡易査定書を取得する

です。

簡易査定書とは、不動産業者が作成する不動産の評価書のことで、通常、不動産の売却提案をする際に作成します。
売却を予定していない場合でも、無料で作成してくれますので、相続不動産の時価を把握するための参考資料になります。

なぜ相続不動産の簡易査定書を取得する必要があるのか

相続でよくある誤解の一つに、相続不動産の評価額があります。
特に、相続税の申告が必要な場合、税理士が計算した相続税評価額を当然の前提にして遺産分割しようとする相続人が出てきます。

しかし、相続税評価額は、相続税という納税のための基準です。
遺産分割の基準である時価とは異なります。
そのため、相続税評価額を遺産分割でも当然の前提にする必要はありません。

本来、不動産鑑定士に鑑定してもらえば一番いいのですが、費用がかなりかかります。
最初から不動産鑑定をするのは、かなりハードルが高いと思います。

そのため、相続実務では、次善の策として、不動産業者から無料で簡易査定書を取得し、参考にすることが多いです。

2~3社から簡易査定書を取得し、その平均値を取れば、それなりに客観的な評価額が出てくると思います(遺産分割調停でもよく取られる方法です)。

簡易査定書の注意点

ただし、不動産査定の前提条件によって、評価額にかなりの幅が出る場合があります。
自分が取得した査定書の評価額を絶対のものとして考えると、評価額の合意が難しくなり、相続が無用に長引きます。

相手が取得した査定書の評価額、固定資産税評価額、相続税評価額も参考にしつつ、なるべく評価額で合意できるよう、柔軟に考えていく必要があります。

いずれにせよ、他の相続人の言う評価額「なるもの」を鵜呑みにすると、ただもめないだけの不公平な相続になってしまう可能性があります。

まずは無料の簡易査定書を取得した上で、相手の言う評価額でいいかどうか、別の評価額を主張できるかどうかを検討しましょう。

やるべきこと③:預金の取引明細書を3年程度遡って取得する

遺産分割協議書にサインする前にやるべきことの3つ目は、

預金の取引明細書を3年程度遡って取得する

です。

預金の取引明細書とは、預金口座の出入金の履歴を記載した明細書のことです。預金口座のある金融機関で取得できます。
被相続人(亡くなった方)の預金の取引明細書を見れば、生前の預金の引出し・送金の時期や金額が分かります。

なぜ預金の取引明細書を取得する必要があるのか

では、なぜ相続で、被相続人の預金の引出し・送金を確認する必要があるのでしょうか?

たとえば、亡くなる数か月前から、相続人の一人が合計1000万円の預金を引き出したとします。
相続のときに残っていた預金は100万円です。

残った100万円を法定相続分で分ければ、公平な相続として納得できるでしょうか?
生前に1000万円を引き出していたことを知っていれば、引き出した1000万円も分けるように言うはずです。

しかし、預金の残高しか知らされなければ、生前、どれだけお金が動いたのかを知ることはできません。
遺産としての預金が100万円しかないと誤解し、そのまま遺産分割協議書にサインしてしまうでしょう。

他の相続人から被相続人の通帳を出してもらい、確認するのが一番早いといえば早いです。
しかし、自分からは出さない場合もありますので、そのときは、銀行から取引明細書を取得してください。
相続人であれば、被相続人の預金の取引明細書を取得できます。
遡る期間はケースバイケースですが、少なくとも相続開始から3年程度は遡った方がいいと思います。

取引明細書を精査し、多額の預金引出しが見つかった場合には、まず引き出したと思われる相続人に事情を確認します。
生前贈与や使い込みであれば、相続に反映させるべきでしょう。

預金調査における注意点

とはいえ、昔に遡れば遡るほどいいとは必ずしも言えません。
取引明細書を10年遡って取得する相続人もおられますが、取引明細書だけで、お金の流れを解明したり、疑わしい相続人を追及したりできるわけではありません。
他にも必要な証拠はありますが、5年以上昔になると、保存期間の経過により、取得できない場合も多いです。

解明が困難なことにこだわり続けてしまうと、無駄に揉めて長引く可能性があります。
どこかで「割り切る」ことがとても大事です。

なお、預金口座を解約していると、取引明細書の開示に応じない金融機関があります。
よく分からないまま相続手続がどんどん進み、預金口座を解約されてしまうと、調査に不可欠な取引明細書を取得できず、送金・出金状況の調査が困難になります。少しでも気になる場合は、先手先手で対応する必要があります。

また、遺言書がある場合は、さらに要注意です。
預金を相続していない相続人だと、預金の有無すら教えてもらえない場合があります。
預金口座を解約される前にすぐ動く必要があるのは当然ですが、口座の確認自体を拒否されないように「対応」する必要があります。

相続の正しい理解が大事

この3つのやるべきことを知っておくだけでも、何も言えないまま遺産分割協議書にサインし、後で後悔してしまうことを避けられます。
しかも、専門家ではなく相続人本人でもやれることであり、必ずしも難しいわけではありません。

それでも、もし「もめない相続」と公平な相続の両立で悩むことがあれば、遠慮なくご相談ください。
東京相続弁護士法人は、相続問題の解決に特化し、「最高の相続専門店」を目指している弁護士事務所です。
よりよい解決法が見つかるよう、お手伝いさせていただきます。

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