被相続人の通帳の使用料引落履歴や、鍵・貸金庫カード・契約書類の有無を手がかりに貸金庫の利用を確認し、取引のあった金融機関に照会します。貸金庫使用契約上の地位は相続人全員に承継されます。契約の解約には相続人全員の同意が必要であり、開扉・内容物の確認についても、金融機関は、実務上、相続人全員の同意(所定の届書への署名・押印等)を求めるのが原則です。開扉時は、現金・貴金属・有価証券・権利証・遺言書などの内容物を相続人立会いのもとで記録し、必要に応じて公証人による事実実験公正証書を作成して証拠化することができます。
貸金庫調査・開扉手続の概要
貸金庫の調査は、(1)被相続人が貸金庫を利用していたかを確認する「有無の調査」と、(2)契約のある金融機関で貸金庫を開け、中身を確認したうえで契約を終了させる「開扉・解約」の二段階に分かれます。
貸金庫使用契約上の地位(金融機関の保護函という空間を使用する権利)は、一身専属的なものではなく、被相続人の死亡により相続人に承継されます(民法896条)。相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまでは、この使用権は相続人全員の準共有となります(民法898条、264条)。
ここで、開扉と解約は法的な位置づけを分けて理解しておくとよいでしょう。契約の解約は、共有物の処分・変更行為(民法251条1項)に当たるため、相続人全員の同意が法律上必要です。これに対し、貸金庫を開けて中身を確認する行為そのものは、共有物の保存行為(民法252条5項。令和3年改正前は同条ただし書)として各相続人が単独でもできるとする見解もあります。もっとも、金融機関の実務では、内容物の持ち出しによる相続人間のトラブルや金融機関自身が紛争に巻き込まれることを防ぐため、約款・規定に基づいて、開扉についても相続人全員の同意・立会いを求める運用が一般的です。したがって、法的な整理はともかく、実際には開扉・解約のいずれについても相続人全員の関与を前提に進めることになります。
貸金庫を調査することで、通帳や残高証明書には現れない財産が見つかることがあります。具体的には、現金、貴金属・宝石類、株券などの有価証券の現物、不動産の権利証(登記識別情報通知)、保険証券、そして遺言書などです。貸金庫は被相続人が「大切なもの」を保管しておく場所であるため、相続財産の把握において見落とせない調査対象となります。
なお、貸金庫を提供しているのは主に都市銀行・地方銀行・信託銀行などで、ゆうちょ銀行や多くのネット銀行は貸金庫サービスを扱っていません。被相続人の取引金融機関の種類を踏まえて、貸金庫の有無を確認していくことになります。
貸金庫の有無を確認する方法
貸金庫の有無は、次の手がかりから確認していきます。
第一に、被相続人の預貯金通帳の摘要欄を確認する方法です。貸金庫の使用料は、利用する店舗で開設した預金口座から自動的に引き落とされる扱いが一般的で、多くの金融機関が年1回、または半年ごとにまとめて使用料を引き落としています。そのため、通帳に毎年同じ時期・同じ金額の引落が記録されていれば、その金融機関で貸金庫を契約していた手がかりになります。摘要欄にどのような名目で表示されるかは金融機関によって異なりますが、引落先や金額、毎年同時期に繰り返されているかどうかから、貸金庫の使用料かどうかを判断できます。残高証明書や取引履歴を取得する際には、あわせてこの引落の有無も確認しておくとよいでしょう。
第二に、鍵・貸金庫カード・契約書類などの遺品を確認する方法です。貸金庫には、利用者が保管する鍵で開けるタイプと、専用の「貸金庫カード」で貸金庫室に入室するタイプがあります。被相続人の遺品の中に、銀行名の入った小さな鍵や、貸金庫カード、貸金庫使用申込書の控えなどが見つかれば、それが貸金庫利用の直接の証拠になります。
第三に、取引のあった金融機関に直接照会する方法です。相続が発生した旨を金融機関に連絡する際に、預貯金口座だけでなく貸金庫契約の有無もあわせて確認できます。預貯金の調査の過程で取引金融機関を洗い出したうえで、各金融機関に貸金庫契約の有無を尋ねるのが確実です。
開扉・解約の申請主体・申請先・必要書類
貸金庫の開扉・解約は、相続のための預貯金手続と一体で進めるのが一般的です。申請の主体・申請先・必要書類は、おおむね次のとおりです。金融機関によって書類の名称や細部の取扱いが異なりますので、契約のある店舗に事前に確認してください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請主体 | 相続人全員(同意のうえで代表者一人が手続を行うことも可能。立ち会えない相続人は委任状で対応) |
| 申請先 | 貸金庫の契約がある金融機関の店舗(口座のある支店と同一とは限らない) |
| 主な必要書類 | ・金融機関所定の相続手続書類(相続関係届書・相続届等。相続人全員の署名・実印による押印) ・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍)謄本(または法定相続情報一覧図の写し) ・相続人全員の戸籍謄本 ・相続人全員の印鑑証明書(発行後6か月以内など期限の定めあり) ・貸金庫の鍵・貸金庫カード ・被相続人の届出印 ・立ち会えない相続人の委任状 ・手続をする相続人の本人確認書類 |
被相続人の戸籍については、「法定相続情報一覧図の写し」(法務局が発行する認証文付きの書類)を提出することで、戸籍謄本一式の提出が不要になるのが通常です。複数の金融機関で相続手続をする場合は、先に法定相続情報一覧図を取得しておくと、戸籍の束を何度も提出する手間を省けます。取得方法は法務局・法務省の案内を参照してください。
開扉・解約の流れ
開扉・解約は、おおむね次の手順で進めます。
- 相続発生の連絡と貸金庫契約の確認
取引金融機関に相続発生を連絡し、貸金庫契約の有無を確認します。この連絡により、被相続人名義の口座は入出金が停止されます(口座凍結)。 - 必要書類の準備と全員の同意の取り付け
金融機関から所定の相続手続書類を受け取り、相続人全員の署名・押印を集めます。戸籍・印鑑証明書等もあわせて準備します。立ち会えない相続人がいる場合は委任状を用意します。 - 開扉日の予約と立会い
金融機関と開扉日を調整します。原則として相続人全員で立ち会いますが、全員の同意があれば代表者一人が立ち会うこともできます。 - 内容物の確認・記録
貸金庫を開け、中身を確認します。後の段落で述べるとおり、内容物は一覧化し、写真を撮るなどして記録しておくことが重要です。 - 解約・格納物の引き取り・精算
内容物をすべて引き取り、鍵やカードを返却して契約を解約します。使用料を前払いしている場合は、解約時に未経過分が月割で返金され、未払分があれば精算するのが一般的な取扱いです。
所要期間は、書類がそろってから開扉・解約まで数日から数週間程度が目安ですが、相続人が多い場合や全員の同意取り付けに時間がかかる場合は、さらに日数を要します。貸金庫などの預金以外の取引がある場合、預貯金の払戻しにも追加の日数がかかることがあります。
なお、相続人間に対立があり、開扉に全員が立ち会えない場合や、内容物をめぐる紛争が予想される場合には、公証人による「事実実験公正証書」を活用する方法があります。これは、公証人が開扉に立ち会い、貸金庫の中に何が入っていたかを自ら確認して記録する公正証書です。相続人から嘱託を受けて、相続財産把握のために被相続人名義の貸金庫を開け、その内容物を点検・確認する事実実験公正証書を作成することが、公証実務上の取扱いとして認められています(日本公証人連合会)。作成された公正証書の原本は公証役場に保存され、公文書として高度の証明力をもちます。手数料は、事実実験等に要した時間1時間までごとに1万3000円です(公証人手数料令26条。令和7年10月1日施行の現行手数料令による)。公証人が金融機関に出張して開扉に立ち会う場合(役場外執務)は、これに加えて日当2万円(4時間以内の場合は1万円)と交通費の実費がかかります。手数料は改定されることがあるため、利用前に公証人連合会の案内で最新額をご確認ください。
開扉後に確認・記録すべき内容物
現金
貸金庫に保管された現金は、被相続人の相続財産です。預貯金として残高証明書に現れないため、金額を正確に数えて記録します。手元にあった現金(いわゆるタンス預金)と同様に、遺産分割の対象となる財産として扱う整理が必要です。なお、近年は金融庁の監督指針改正を受けた貸金庫業務適正化の流れで、貸金庫内での現金保管を禁止する金融機関も出てきています(たとえば、みずほ銀行は2026年2月から現金保管を不可とし、保管中の現金の引き取りを求めています)。
貴金属・宝石類の現物
金地金、コイン、宝飾品などは、それ自体が経済的価値をもつ相続財産です。品目・数量を記録し、必要に応じて後日に評価(鑑定)の対象とします。換価して分けるのか現物のまま分けるのかは、後の遺産分割で検討することになります。
有価証券・権利証などの重要書類
株券・債券の現物や、不動産の権利証(登記識別情報通知)、各種契約書類が保管されていることがあります。これらは、被相続人が保有していた株式・不動産その他の財産の存在を示す手がかりになります。株券の現物が出てきた場合は証券保管振替機構(ほふり)への開示請求や証券会社の調査につながり、権利証が出てきた場合は不動産の登記事項証明書の取得につながります。
保険証券
生命保険の保険証券が見つかれば、契約の存在が確認できます。保険証券では、契約者・被保険者・保険金受取人・保険金額などを確認することになります。受取人が指定された死亡保険金は、調査の整理としては原則として遺産分割の対象外として扱われますが、その意味については後述します。
遺言書
貸金庫から遺言書が出てくることがあります。自筆証書遺言(法務局の保管制度を利用していないもの)は、開封せず、家庭裁判所の検認を経る必要があります。公正証書遺言であれば検認は不要です。遺言書の存在は、その後の相続手続の前提を大きく左右するため、発見した場合の取扱いには特に注意が必要です。
被相続人以外の名義の物品
被相続人以外の名義の通帳・証券、家族や第三者の物と思われる品が保管されていることもあります。誰の財産かによって相続財産に含めるかどうかの整理が変わるため、名義や保管の経緯がわかる手がかりとあわせて記録しておきます。判断に迷うものは、独断で持ち出さず、相続人間で確認できる状態にしておくことが大切です。
参考リンク
- 日本公証人連合会「事実実験公正証書」:相続人の嘱託による貸金庫開披・内容物点検の公正証書について
- 日本公証人連合会「手数料」:事実実験公正証書の手数料(※最新の金額を要確認)
- 三菱UFJ銀行「相続のお手続き」:相続手続の流れ・必要書類
- 三井住友銀行「相続」:相続手続の案内
- みずほ銀行「大切な方が亡くなられたら」:相続手続の案内
- みずほ銀行 FAQ「被相続人が契約していた貸金庫について必要な手続きを教えてください」:貸金庫の開扉・解約に相続人全員の同意が原則必要である旨の案内
相続トラブルに備えたアドバイス
隠し財産の有無を確認する最後の砦としての位置づけ
貸金庫は、預貯金照会や残高証明書ではとらえきれない財産(現金・貴金属・株券の現物・別の金融機関の通帳など)が眠っている可能性のある場所です。ここを確認せずに遺産分割を終えてしまうと、後から内容物が判明したときに「他にも財産があったのではないか」という不信を生み、協議のやり直し(蒸し返し)につながりかねません。貸金庫の有無の調査は、財産の取りこぼしを防ぎ、分割の前提となる財産を確定させるうえで重要な意味をもちます。
内容物の記録・証拠化
開扉時には、内容物の一覧(品目・数量・金額)を作成し、写真を撮っておくことを強くお勧めします。後日、「貸金庫に入っていたはずの物がない」「金額が違う」といった主張が出ると、立証が難しく深刻な対立に発展しがちだからです。相続人間に対立がある場合や高額な財産が予想される場合には、公証人による事実実験公正証書を作成しておくと、第三者である公証人が確認した記録として高い証明力をもち、後の争いを未然に防ぐ効果が期待できます。
開扉に立ち会えない相続人への配慮
前述のとおり、開扉・解約には金融機関の運用上、相続人全員の同意(所定の届書への署名・押印)が必要です。これは相続人の側で選べるものではなく、手続を進める前提になります。一方で、全員の同意さえあれば、開扉そのものは代表者一人が行うこともでき、相続人全員が物理的に立ち会う必要まではありません。
ここで気をつけたいのは、開扉に立ち会わなかった相続人にとっては、貸金庫に何が入っていたかの確認が代表者任せになるという点です。後になって「あったはずの物がない」「事前に聞いていた内容と違う」といった主張が出ると、深刻な対立に発展しがちです。可能であれば相続人全員で立ち会い、それが難しい場合でも、先に述べたとおり開扉時の内容物を写真や一覧で記録して全員に共有しておくことが、無用な疑念を避けるうえで重要です。
遺言書が出てきた場合の取扱い
貸金庫から自筆証書遺言が見つかった場合は、その場で開封せず、家庭裁判所の検認手続を経る必要があります。検認前に開封すると過料の対象となり得ますし、遺言の内容によっては開扉や解約以前に相続手続の進め方そのものが変わることもあります。遺言書を発見したら、まず遺言の種類(自筆証書か公正証書か)を確認し、自筆証書であれば検認に進む、という順序を意識してください。
受取人指定のある保険証券が出てきた場合の整理
保険証券が見つかり、保険金受取人が特定の相続人に指定されている場合、その死亡保険金は受取人固有の権利とされ、調査の整理としては原則として遺産分割の対象外として扱います。もっとも、保険金額が遺産全体に比して著しく高額であるなどの事情があるときは、例外的に特別受益に準じて持戻しの対象となり得ると判断された例があります。詳しい判断基準は割愛しますが、貸金庫から保険証券が出てきた段階で、受取人と保険金額を正確に記録しておくことが、後の検討の出発点になります。
解約を後回しにしない
貸金庫の使用料は、契約が続いている限り発生し続けます。相続手続が長引くと、その間の使用料が負担になりますし、口座凍結後は引落もできなくなるため、未払いが累積することもあります。また、内容物の確認が遅れるほど、他の相続手続(不動産・有価証券・保険等)の前提となる財産の把握も遅れます。貸金庫契約があると分かったら、早めに開扉・内容物の確認・解約まで進めておくことをお勧めします。

