ネット銀行の調査はどのようにしたらいいですか?
ネット銀行の口座は、(1)被相続人が生前にマイナンバーを口座に紐付けていれば、預金保険機構の「相続時預貯金口座照会」で全金融機関の口座を一括して照会でき(口座管理法)、(2)それ以外は各ネット銀行の公式相続窓口へ個別に照会します。通帳や郵便物が乏しいため、まずはパソコン・スマートフォンのアプリ、メール、引落・振込の記録から利用していた銀行を絞り込むことが調査の起点になります。取引履歴は相続人の一人が単独で開示請求でき、残高証明書も実務上、相続人の一人から請求できます。
ネット銀行の口座調査の概要
ネット銀行の調査は、大きく分けて二つのルートで進めます。
一つは、2025年(令和7年)に運用が始まった相続時預貯金口座照会です。これは、口座管理法(正式名称「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」)に基づく制度で、相続人が一つの金融機関に申し込むだけで、預金保険機構が被相続人のマイナンバーに紐付いた全金融機関の口座情報をまとめて照会してくれます。ネット銀行も対象に含まれるため、口座の所在をまとめて把握できる有力な手段です。ただし、照会できるのは被相続人が生前にマイナンバーを紐付けていた口座に限られる点に大きな限界があります(紐付けは本人の任意です)。
もう一つは、各ネット銀行への個別照会です。利用していた銀行に当たりをつけて、各行の相続窓口に死亡を連絡し、残高証明書や取引履歴の発行を請求します。相続時口座照会で把握しきれない口座(紐付けがない口座)は、このルートで確認することになります。
いずれのルートでも、出発点となるのは「被相続人がどのネット銀行を使っていたか」という手がかりの収集です。紙の通帳や定期的な郵便物が乏しいネット銀行では、この手がかり探しが調査の成否を分けます。
なお、預金口座の取引経過(取引履歴)は、相続人の一人が他の相続人全員の同意なく単独で開示を請求できるとされています。同居の相続人が情報を出してくれない場合でも、相続人であれば単独で照会・請求に動ける点を押さえておきましょう。
口座の存在を示す手がかりを確認する
ネット銀行調査では、被相続人の身辺に残された記録から、利用していた銀行を絞り込む作業が最初の山場です。次の手がかりを順に確認します。
パソコン・スマートフォンの利用状況
ネット銀行の取引は端末上で行われるため、被相続人のパソコンやスマートフォンが最大の手がかりになります。インストールされている銀行アプリ、ブラウザのブックマークや閲覧履歴、保存されたログインID、ワンタイムパスワード用の認証アプリ(トークンアプリ)などを確認します。アプリのアイコンがあれば、その銀行を利用していた可能性が高いといえます。
メールの受信記録
ネット銀行は、入出金通知・取引明細・キャンペーン案内などを電子メールで送ることが一般的です。被相続人のメールアカウントで銀行名を検索すると、利用していた銀行や口座の動きの痕跡が見つかります。フリーメール(Gmail等)やプロバイダメールのほか、スマートフォンのキャリアメールも確認の対象です。
郵便物・書類
ネット銀行でも、口座開設時のキャッシュカードや本人確認のための書類、一部のキャンペーン案内などが郵送されることがあります。自宅に届く郵便物や保管された書類のなかに、ネット銀行名の記載がないかを確認します。
引落・振込の記録からの逆引き
すでに把握できている他の口座(給与・年金の振込口座や、店舗型銀行の通帳)の入出金から、ネット銀行への資金移動を逆引きする方法も有効です。クレジットカードの利用明細に記載された引落口座、公共料金やサブスクリプションの引落先からネット銀行が判明することもあります。
提携サービスの利用状況
ネット銀行はグループの提携サービスと一体で使われていることが多く、提携サービスの利用が口座の手がかりになります。たとえば、楽天市場・楽天カードの利用は楽天銀行、SBI証券の利用は住信SBIネット銀行、PayPay・Yahoo!関連サービスの利用はPayPay銀行、というように、関連サービスの痕跡から銀行を推測できます。証券口座やポイントサービスの明細も確認しておきましょう。
確定申告書・支払調書
被相続人が確定申告をしていた場合、利子所得や口座情報が申告書に表れていることがあります。預貯金の利子に関する記録や、金融機関から発行された書類が手がかりになります。
これらの手がかりで利用銀行を特定できたら、次の照会手続に進みます。手がかりが乏しく利用銀行が分からない場合は、まず相続時預貯金口座照会の利用を検討するのが効率的です。
申請主体・申請先・必要書類
調査ルートごとに、申請主体・申請先・必要書類を整理すると次のとおりです。
| 調査ルート | 申請できる人 | 申請先 | 主な必要書類 |
|---|---|---|---|
| 相続時預貯金口座照会(口座管理法) | 相続人(包括受遺者を含む)の一人、またはその代理人 | 預金保険機構の委託先金融機関(取引のない金融機関でも可。窓口・郵送・電子的手段) | 申込書、被相続人の死亡が確認できる書類(戸籍等)、申請者と被相続人の関係が確認できる書類、申請者の本人確認書類等 |
| 各ネット銀行への個別照会 | 相続人、遺言執行者、その他相続権利者のいずれか1名 | 各ネット銀行の相続窓口(公式相続ページ・電話。手続は原則郵送) | 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本等、申請者が相続人等であることがわかる戸籍謄本・審判書・委任状等、申請者の印鑑証明書(発行から6か月以内の原本)等 |
相続時預貯金口座照会では、「法定相続情報一覧図の写し」(法務局発行の認証文付きの原本)があれば戸籍謄本の提出に代えられます。各ネット銀行の個別照会でも、法定相続情報一覧図の写しを提出すると戸籍一式の提出を原則省略できる扱いが一般的です。
必要書類の細目や様式は、制度・金融機関ごとに異なり、改定されることもあります。申込前に、預金保険機構および各行の公式案内で最新の内容を確認してください。
調査の流れ
相続時預貯金口座照会の流れ
- 委託先金融機関(取引のない金融機関でも申込可)に、相続時預貯金口座照会を申し込みます。複数の被相続人について照会する場合は、被相続人ごとに申し込みます。
- 申込時に手数料を支払います。手数料は1件につき5,060円(消費税込)で、受付後は照会結果の内容にかかわらず返金されません。
- 預金保険機構が、被相続人のマイナンバーをもとに各金融機関へ照会します。
- 申込から1か月程度で、申込書に記入した通知先(日本国内)へ「相続時照会結果通知書」が転送不要の簡易書留(圧着ハガキ)で届きます。
- 通知書に記載された金融機関へ、別途、残高証明書や取引履歴の請求・相続手続を行います。
被相続人の死後10年までの照会が対象です。なお、申込により被相続人の死亡が各金融機関に伝わるため、照会対象の口座について取引停止(凍結)の措置が取られることがあります。
各ネット銀行への個別照会の流れ
- 利用していたネット銀行の公式相続ページや相続専用窓口に、口座名義人が亡くなった旨を連絡します。連絡した時点で口座は凍結され、以後の入出金や引落はできなくなります。
- 各行から相続手続の案内・書類一式が郵送されます。
- 必要書類をそろえて返送し、残高証明書・取引履歴明細証明書の発行を請求します。発行手数料がかかります(たとえば楽天銀行では残高証明書が1通524円〔税込〕、取引履歴明細証明書は対象期間により異なります。)。
- 残高証明書・取引履歴を受領し、内容を確認します。発行までの期間は銀行や手続内容により数週間程度かかることがあります。
ネット銀行は店舗を持たないため、手続は原則として郵送でやり取りします。複数のネット銀行を利用していた場合は、各行に同様の手続を行う必要があります。
取得した書類で確認すべき項目
照会で口座を把握し、残高証明書・取引履歴を取得したら、相続調査として次の項目を確認します。ネット銀行は一つの口座に多様な機能がぶら下がっていることが多く、店舗型銀行以上に「付随する資産の見落とし」に注意が必要です。
同一銀行内の複数口座・目的別口座
ネット銀行では、代表口座のほかに、目的別の口座や預け先を持てる仕組みがあります。たとえば、住信SBIネット銀行のSBIハイブリッド預金(SBI証券と連携した預金)や、各行の目的別口座(貯蓄用の区分けされた口座)などです。残高証明書を取得する際は、これら付随する口座・残高も漏れなく証明対象に含まれているかを確認します。
証券口座・FX口座・暗号資産との連携
ネット銀行は、グループ内の証券・FX・暗号資産サービスと口座を連携していることがあります。銀行口座の入出金に証券口座やFX口座への資金移動が表れていれば、銀行預金以外の有価証券・デジタル資産が存在する可能性が高く、別途の調査対象になります。銀行調査をきっかけに、連携先の資産まで視野を広げることが見落とし防止につながります。
ポイント・電子マネー等の残高
ネット銀行・提携サービスでは、ポイントや電子マネーの残高が蓄積されていることがあります。これらが相続の対象となるかは各サービスの規約によって異なり、相続を認めない取扱いもあります。財産性の有無は規約次第ですが、調査の段階では「残高があるか」「規約上どう扱われるか」を確認しておくと、後の整理がスムーズです。
連携している外部口座・自動振替
取引履歴には、他行口座との定期的な資金移動や、公共料金・サブスクリプションの自動振替が表れます。ここから、まだ把握できていない別の口座や、解約すべき継続契約が判明することがあります。
死亡日時点の残高(残高証明の基準日)
遺産の評価は被相続人の死亡日が基準となるため、残高証明書は死亡日を基準日として取得するのが原則です。基準日の指定を誤ると評価額の前提がずれてしまうため、請求時に基準日を確認します。
取引履歴の入出金
取引履歴では、死亡直前・直後の入出金、大口の出金、定期的な送金の有無などを概観します。
参考リンク
- 口座登録法及び口座管理法に基づく業務(預金保険機構)
- 口座管理法(預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律)全文(e-Gov法令検索)
- 預貯金口座付番制度(デジタル庁)
- 法定相続情報一覧図の写しの交付(法務局)
- 住信SBIネット銀行 各種お手続き・設定
- 楽天銀行 相続のお手続き
各ネット銀行の連絡先・必要書類・手数料は、改定されることがあります。手続前に各行の公式相続ページで最新の内容を確認してください。
相続トラブルに備えたアドバイス
相続時口座照会には限界がある
相続時預貯金口座照会で照会できるのは、被相続人が生前にマイナンバーを紐付けていた口座に限られます。紐付けは本人の任意であるため、紐付けがされていないネット銀行口座は、照会結果に表れません。照会結果が「該当なし」でも、ネット銀行口座が存在しないとは限らないという点には特に注意が必要です。相続時口座照会を入口としつつ、パソコン・スマートフォン・メール・引落記録からの手がかり調査を併用し、両面から押さえることをお勧めします。
見落としは遺産分割協議のやり直しにつながる
ネット銀行口座は気づかれにくく、遺産分割協議の後に新たな口座が判明する事態が起こりがちです。遺産の一部が漏れていた場合、その財産について改めて協議が必要となり、場合によっては紛争の蒸し返しを招きます。調査の段階で財産目録にネット銀行口座を含めておくことが、後の手続の安定につながります。
取引履歴は相続人の一人が単独で開示請求できる
なお、最高裁は、金融機関は預金契約に基づき取引経過を開示する義務を負い、共同相続人の一人は、他の相続人全員の同意がなくても被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を単独で求めることができると判断しています(最判平21年1月22日)。
この判例が直接認めたのは取引経過(取引履歴)の開示請求権です。残高証明書については、この判例の射程外ですが、共同相続による預金契約上の地位の承継等を根拠に、実務上は相続人の一人からの請求で発行されるのが一般的です。ネット銀行でも、残高証明書・取引履歴明細証明書は相続人等のいずれか1名の請求により発行されます。同居の相続人が情報を共有してくれない場合でも、相続人であれば単独で照会・請求に動ける点を念頭に置いておくと、調査を停滞させずに進められます。
連携資産まで視野を広げる
ネット銀行調査は、銀行預金そのものだけでなく、連携する証券口座・FX口座・暗号資産・ポイントへの「入口」でもあります。銀行口座の入出金に資金移動の痕跡があれば、預金以外の資産が眠っている可能性があります。預金の確認で調査を終えず、連携先の資産まで確認することが、財産全体の把握につながります。
死亡の連絡で口座が凍結される点に留意する
相続時口座照会の申込や各行への死亡連絡により、口座は凍結されます。凍結後は入出金や引落ができなくなるため、公共料金やサブスクリプションの引落が滞ることがあります。引落先になっている契約の有無を取引履歴で確認し、必要な切替えを進めておくと、相続人の生活上のトラブルを避けられます。

