上場株式は、証券会社からの郵便物や預金通帳の配当金入金などから取引口座を特定し、各証券会社に死亡日時点の残高証明書を請求して銘柄・株数を確定します。相続税評価額は、死亡日の終値と、死亡月・その前月・前々月の各終値月平均額のうち最も低い価額で評価するのが原則です(財産評価基本通達169)。終値月平均額は日本取引所グループの月間相場表で確認できます。
上場株式の調査の概要
上場株式とは、東京証券取引所などの金融商品取引所に上場され、市場で売買できる株式をいいます。平成21年(2009年)の株券電子化により上場株式の株券は廃止され、現在はすべて証券保管振替機構(ほふり)と証券会社等の口座を通じて電子的に管理されています。そのため、上場株式の調査は、被相続人がどの証券会社等に口座を持っていたかを特定することから始まり、判明した証券会社に死亡日時点の残高証明書を請求して銘柄と株数を確定する、という流れになります。
評価額については、場面によって基準が異なる点に注意が必要です。相続税の申告では、財産評価基本通達169により、課税時期(被相続人の死亡の日)の最終価格(終値)と、死亡月・その前月・前々月の各月の終値月平均額のうち、最も低い価額で評価します。一方、遺産分割協議や調停で株式の価値を踏まえて分け方を決める場面では、相続開始時ではなく分割時の時価を基準とするのが実務の一般的な取扱いです。本記事では、調査(銘柄・株数の確定)と相続税評価額の確認方法を中心に解説します。
申請主体・申請先・必要書類
残高証明書の請求の概要は次のとおりです。必要書類の詳細は証券会社ごとに異なるため、最初の連絡の際に確認してください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 請求できる人 | 相続人、遺言執行者、これらの代理人(詳細は各社所定) |
| 請求先 | 被相続人が口座を開設していた証券会社(取引店または相続専用窓口) |
| 請求するもの | 死亡日を基準日とする残高証明書(必要に応じて取引履歴・顧客勘定元帳も) |
| 主な必要書類 | 各社所定の請求書/被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本/請求者が相続人であることが分かる戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写し/請求者の印鑑証明書・本人確認書類 |
| 費用 | 無料〜1通1,100円(税込)程度。証券会社により異なる(※最新情報を要確認) |
| 所要期間 | 書類提出から発行まで1〜2週間程度が目安 |
申請の流れ
ステップ1:取引していた証券会社を特定する
次のような手がかりを順に確認します。
- 自宅に届いた郵便物:取引残高報告書、特定口座年間取引報告書、株主総会招集通知、配当金計算書など
- 預金通帳:配当金の入金、証券会社との間の入出金(摘要欄に証券会社名が印字されます)
- 確定申告書の控え:株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書があれば株式取引があったことが分かり、添付された特定口座年間取引報告書から証券会社が判明します
- パソコン・スマートフォン:証券会社からのメール、ブラウザのブックマークや閲覧履歴(ネット証券は郵便物が少ないため特に重要です)
これらで特定しきれない場合や、口座の漏れがないか網羅的に確認したい場合は、証券保管振替機構(ほふり)への登録済加入者情報の開示請求を行います。
ステップ2:証券会社に相続発生を連絡する
連絡により証券口座は凍結され、以後の売買や出金はできなくなります。相続手続書類一式とあわせて、残高証明書の発行依頼書も送ってもらうとスムーズです。
ステップ3:死亡日時点の残高証明書を請求する
基準日は必ず「死亡日」を指定します。相続税申告に添付する場合、死亡日以外の日付を基準とするものは使えません。取引経過の確認が必要な場合は、取引履歴(顧客勘定元帳)も同時に請求すると効率的です。
ステップ4:銘柄ごとに評価額を確認する
残高証明書で銘柄・株数が確定したら、評価額を確認します。
取得した書類で確認すべき項目
残高証明書や取引報告書は、銘柄と株数を書き写して終わりではなく、次の4点を意識して読み解きます。
銘柄・株数と単元未満株の有無
まず残高証明書に記載された銘柄と株数を確認します。このとき見落としやすいのが単元未満株(1単元に満たない端数の株式)です。単元未満株は、証券会社の口座ではなく、発行会社の株主名簿管理人(信託銀行等)が開設した特別口座で管理されていることがあり、その場合は証券会社の残高証明書に表れません。株主名簿管理人から届いていた配当金計算書の株数と残高証明書の株数を突き合わせ、差があれば株主名簿管理人に照会します。なお、通帳に入金された配当金額を1株当たり配当金額(源泉徴収後)で割り戻すと、おおよその保有株数の見当をつけることもできます。
預り区分(特定口座・一般口座・NISA口座)
残高証明書や取引残高報告書には、銘柄ごとの預り区分が表示されます。区分により相続後の移管手続や課税上の取扱いが異なるため、内訳を控えておきます。特定口座の銘柄については毎年「特定口座年間取引報告書」が交付されているはずであり、過去の取引状況を把握する資料にもなります。一般口座の銘柄については、取得価額の分かる資料(取引報告書等)が手元に残っているかも確認しておくと、相続後に売却する際の譲渡所得の計算に役立ちます。
相続税評価額(死亡日の終値と直近3か月の終値月平均額)
相続税申告における上場株式の評価額は、財産評価基本通達169により、次の4つの価額のうち最も低いものです。
- 課税時期(死亡日)の最終価格(終値)
- 死亡月の毎日の最終価格の月平均額
- 死亡月の前月の毎日の最終価格の月平均額
- 死亡月の前々月の毎日の最終価格の月平均額
死亡日が土日祝日などで取引所の取引がない場合は、死亡日に最も近い日の最終価格(前後に同じ近さの日がある場合はその平均額)を用います(財産評価基本通達171)。
2〜4の終値月平均額は、日本取引所グループの「月間相場表」(株式相場表)に銘柄ごとの「終値平均」として掲載されており、毎月第7営業日に前月分が公表されます。死亡日の終値は同グループの「東京証券取引所日報」等で確認できます。月間相場表は掲載期間を過ぎた年のファイルから順次削除されるため、必要な月のファイルは早めにダウンロードして保存しておくと安心です。なお、証券会社によっては、残高証明書とあわせて相続税評価額の参考資料を発行してくれる場合もあります。
配当金の状況(配当期待権・未収配当金)
死亡のタイミングによっては、株式本体とは別に、配当に関する権利が相続財産となります。配当基準日の翌日から配当確定日(株主総会決議日)までの間に死亡した場合は「配当期待権」、配当確定日の翌日から配当金支払日までの間に死亡した場合は「未収配当金」として計上します。配当期待権は、予想配当の金額から源泉徴収されるべき所得税額等に相当する金額を控除した金額で評価します(財産評価基本通達193)。株主名簿管理人から届く配当金計算書で、基準日・支払日と金額を確認してください。

