非上場株式(同族株式)の調査はどのようにしたらいいですか?

回答

非上場株式は証券会社を通じて調査できないため、発行会社の登記事項証明書を取得したうえで、株主名簿の閲覧・謄写(会社法125条2項)、計算書類の閲覧(会社法442条3項)、定款の閲覧(会社法31条2項)を会社に請求して調査します。確認の中心は①株式数と議決権割合、②譲渡制限・売渡請求条項、③決算内容と配当実績で、評価は財産評価基本通達(評基通178〜189-6)により同族株主か否かで方式が分かれます。

目次

調査・手続の概要

非上場株式とは、証券取引所に上場されていない株式のことで、相続税の財産評価では「取引相場のない株式」と呼ばれます。被相続人が経営していた会社の株式(いわゆる自社株)や、親族・知人の会社に出資していた株式が典型です。

上場株式であれば証券会社の口座や証券保管振替機構(ほふり)への開示請求で把握できますが、非上場株式はこれらの仕組みの外にあり、発行会社が管理する株主名簿でしか保有関係を確認できません。そのため調査は、(1)自宅資料から発行会社を特定する、(2)会社の登記事項証明書を取得する、(3)株主としての地位に基づいて会社に株主名簿・定款・計算書類の開示を求める、という流れになります。これにより、保有株式数と議決権割合、譲渡制限の有無、会社の財産状態が分かり、評価方式の判定と、誰が株式を取得するかの検討に直結します。

申請主体・申請先・必要書類

まず手がかりとなるのは自宅保管資料です。株券、株主総会の招集通知、配当金の支払通知書、確定申告書控え(配当所得の記載)、被相続人が経営者であった場合は法人税申告書の控えなどから発行会社を特定し、次の書類を取得します。

入手する書類請求先請求できる者根拠・費用の目安
登記事項証明書(履歴事項全部証明書)全国の法務局(オンライン請求可)誰でも可書面請求600円、オンライン請求490円(窓口受取)・520円(送付)
株主名簿の閲覧・謄写発行会社の本店(株主名簿管理人がある場合はその営業所)株主・債権者(請求理由の明示が必要)会社法125条2項
定款の閲覧・謄写発行会社の本店株主・債権者会社法31条2項
計算書類(貸借対照表・損益計算書等)の閲覧・謄本交付発行会社の本店株主・債権者会社法442条3項(謄本交付は会社所定の費用)
会計帳簿・これに関する資料(総勘定元帳・仕訳帳・伝票等)の閲覧・謄写発行会社議決権の3%以上を持つ株主(請求理由の明示が必要)会社法433条1項
法人税申告書(別表二を含む)・株主資本等変動計算書発行会社・顧問税理士法定の閲覧請求権はなく、会社の任意の協力による

株式が複数の相続人に承継された場合、遺産分割が終わるまでの間、その株式は相続人全員の準共有となります。準共有株式について株主としての権利を行使するには、相続人の中から権利行使者を1人定めて会社に通知するのが原則であり(会社法106条)、株主名簿・計算書類の閲覧や会計帳簿の閲覧謄写も、この権利行使者を指定したうえで、戸籍謄本等で相続関係を示して請求するのが通常です。遺産分割により特定の相続人が株式を取得した後は、その相続人が単独の株主として請求できます。

計算書類(貸借対照表・損益計算書等)の閲覧・謄本交付はすべての株主が請求できますが(会社法442条3項)、総勘定元帳や仕訳帳といったより詳細な会計帳簿の閲覧・謄写は、議決権の3%以上を持つ株主に認められた権利です(会社法433条1項)。いずれも会社が拒めるのは法定の拒絶事由がある場合に限られます。

なお、法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)には上位株主の氏名・持株数・議決権数が記載される有力な資料ですが、法律上の閲覧請求権はないため、任意の協力により入手します。

申請の流れ

ステップ1:手がかり資料の収集

自宅の保管書類・郵便物・確定申告書控えを確認し、発行会社の商号と本店所在地を特定します。

ステップ2:登記事項証明書の取得

法務局の窓口・郵送・オンライン(登記・供託オンライン申請システム)で履歴事項全部証明書を請求します。会社の登記情報は誰でも取得でき、即日〜数日で入手できます。

ステップ3:会社への連絡

発行会社に相続発生を通知し、株主名簿の名義書換手続と、閲覧・謄写請求の窓口を確認します。

ステップ4:株主名簿・定款・計算書類の請求

共同相続の場合は、権利行使者を定めて会社に通知したうえで(会社法106条)、書面で請求理由(相続財産の調査のためなど)を明らかにして請求します。株主名簿(会社法125条2項)・定款(会社法31条2項)・計算書類(会社法442条3項)はすべての株主が請求でき、計算書類は本店に5年間備え置かれているため直近数期分の閲覧・謄本交付を求められます。より詳細な評価が必要で議決権の3%以上を持つ場合は、総勘定元帳・仕訳帳等の会計帳簿の閲覧・謄写も請求できます(会社法433条1項)。

ステップ5:評価用資料の収集

評価の検討には直近3期分程度の決算書・株主資本等変動計算書・法人税申告書が目安です。法定の備置き対象外の資料は、会社・顧問税理士に任意の開示を依頼します。

取得した書類で確認すべき項目

被相続人の保有株式数と議決権割合

株主名簿または別表二で被相続人名義の株式数を確認し、登記事項証明書の発行済株式総数と突き合わせて議決権割合を計算します。過半数なら取締役選任などの普通決議を、3分の2以上なら定款変更などの特別決議を単独で左右できる水準であり、この株式が財産であると同時に会社の経営権そのものであることを意味します。誰が取得するかが遺産分割の焦点になり得るため、まず正確な数字を押さえます。

株主構成の全体像と同族株主への該当性

被相続人個人の持株だけでなく、親族グループ全体でどれだけの議決権を占めているかを確認します。財産評価基本通達では、株主の1人とその同族関係者の議決権合計が50%超(50%超のグループがない場合は30%以上)のグループに属する株主を「同族株主」とし(評基通188(1))、取得者が同族株主等に当たるか否かで評価方式が根本的に変わります。判定には親族関係の把握が必要なため、相続人調査で取得した戸籍がここでも活用できます。

譲渡制限の有無と相続人に対する売渡請求条項

登記事項証明書の「株式の譲渡制限に関する規定」欄で、譲渡に会社の承認を要する旨の定めの有無を確認します。非上場会社の大半は譲渡制限会社です。あわせて定款に、相続などの一般承継で株式を取得した者に対し会社が売渡しを請求できる旨の定め(会社法174条)があるかを必ず確認してください。この条項があると、相続人は会社からの請求により意思に反して株式を手放す可能性があり、後述のとおり時間的制約も働きます。

株券発行の有無

登記事項証明書で株券発行会社かどうかを確認します。株券発行会社であれば、株券の現物が遺品の中にあるかを探す必要があります。現在は株券不発行が原則ですが、設立の古い会社では株券発行の定めが残っていることがあります。

決算書から読み取る会社の財産状態と配当実績

貸借対照表では純資産の部の金額を確認します。純資産は株式評価の基礎となる数字で、取得時期の古い不動産など含み益のある資産の有無も評価に影響します。株主資本等変動計算書や損益計算書からは配当実績を確認します。配当実績は配当還元方式による評価の基礎となるほか、被相続人が受け取っていた配当金の入金口座を預貯金調査と突き合わせる手がかりにもなります。

役員欄にみる被相続人の地位と会社との債権債務

登記事項証明書の役員欄で、被相続人が代表取締役・取締役であったかを確認します。被相続人が経営者であった場合、会社に対する貸付金(決算書では「役員借入金」などの負債科目)や、逆に会社からの借入金が存在することが少なくありません。これらは株式とは別個の相続財産・相続債務であり、決算書の勘定科目から見落とさず拾い出します。

非上場株式の評価の枠組み(税務上の時価と私法上の時価)

非上場株式の評価には、性質の異なる二つの「時価」があることをまず押さえておく必要があります。一つは相続税申告で用いる「税務上の時価」で、財産評価基本通達による画一的な評価です。もう一つは遺産分割や株式の売買で問題になる「私法上の時価」で、その株式の実際の価値を意味します。両者は別概念であり、評価額が乖離することも珍しくありません。

税務上の時価(財産評価基本通達による評価。評基通168、178〜189-6。)は、株式を取得した相続人が発行会社の経営支配力を持つ同族株主等に当たるかどうかで方式が分かれます。同族株主等が取得した場合は、原則的評価方式により、会社の規模(総資産価額・従業員数・取引金額で大会社・中会社・小会社に区分。評基通178)に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式またはその併用で評価します。同族株主以外の株主が取得した場合は、会社規模にかかわらず、年配当金額を10%の利率で還元する配当還元方式で評価され、一般に原則的評価方式より低い金額になります。土地や株式の保有割合が高い会社など「特定の評価会社」は、原則として純資産価額方式等によります。実際の計算は国税庁の「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」で行いますが、専門性が高いため、相続税申告では税理士が計算するのが通常です。

一方、遺産分割で相続人間の取り分を決める際に前提となるのは、私法上の時価です。私法上の時価は、特定の評価方法が定められておらず、収益に着目する方式(DCF法等)、純資産に着目する方式、類似会社と比較する方式などを事案に応じて使い分けるため、評価額の幅が出やすく争いになりやすいという特徴があります。調査の段階では、評価そのものに立ち入る前に、どちらの時価の検討にも共通して必要な資料(株主構成・会社規模・資産構成・配当実績・直近3期分の決算書類)を漏れなく集めておくことが重要です。

参考リンク

相続トラブルに備えたアドバイス

経営権の帰属を見据えた議決権割合の検討

同族会社の株式は、財産としての価値と会社の支配権という二つの顔を持ちます。議決権の過半数や3分の2を握る株式を誰が取得するかでその後の会社経営は一変しますし、逆に株式を法定相続分どおりに分散させると、どの相続人も単独では意思決定できない不安定な状態を招きます。

さらに、遺産分割までの間株式は相続人全員の準共有となり、議決権行使には権利行使者の指定(会社法106条)が必要になるため、協議が長引くと会社の意思決定そのものが滞るおそれもあります。調査で確認した議決権割合をもとに、経営を承継する相続人とそれ以外の相続人の利害調整を早めに検討しておくことをお勧めします。

評価方法の争点化への備え

非上場株式は、遺産の中でも評価額が最も争いになりやすい財産のひとつです。相続税申告で用いる財産評価基本通達による評価額と、遺産分割や遺留分の場面で前提とすべき時価は必ずしも一致せず、どの評価手法を採るかで金額が大きく変動します。同じ株式でも、支配株主側から見るか少数株主側から見るかで適正と考える評価は対立しがちです。

評価論に立ち入る前に、まず直近3期分の決算書・申告書類を早期に確保しておくことが、後の協議や調停で評価を議論する共通の土台になります。会社側の協力が得られるうちに資料を集めておく視点が大切です。

売渡請求条項がある場合の時間的制約

定款に相続人等に対する売渡請求の定め(会社法174条)がある場合、会社は相続があったことを知った日から1年以内に株主総会の特別決議を経て売渡しを請求でき(会社法176条1項)、請求を受けた相続人は原則として拒めません。売買価格は協議で定まらなければ、請求の日から20日以内の裁判所への価格決定申立てによります(会社法177条)。

後継者以外の相続人にとっては株式の現金化の機会になる一方、意に反した買取りを迫られる場面にもなり得ますから、この条項の有無は相続の初期段階で把握しておくことをお勧めします。

会社情報へのアクセス格差の解消と名義の確認

会社経営に関与している相続人とそうでない相続人との間では、会社情報へのアクセスに格差が生じがちです。株主名簿や計算書類の閲覧・謄写請求権は株主の地位に基づく法律上の権利であり、会社が拒絶できる場合は限定されていますから、口頭での依頼に応じてもらえないときは、請求理由を明示した書面で正式に請求する方法が考えられます。

また、株主名簿上の名義人と実際の出資者が異なる、いわゆる名義株の疑いがある場合には、出資資金の出どころや配当の帰属先まで遡った確認が必要です。

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