名義株(他人名義の株式)の調査はどのようにしたらいいですか?

回答

名義株とは、他人から名義を借りて株式の引受け・払込みが行われた結果、株主名簿上の名義人と真の株主が一致しない株式をいいます。株式の帰属は名義ではなく実質で判断され、名義人ではなく実質上の引受人(真の株主)が株主になります(最判昭和42年11月17日)。その判断は複数の要素を総合して行われますが、中でも取得資金を誰が拠出したかが重視されます。調査では、(1)取得資金の出捐元、(2)配当金の入金先と申告者、(3)株主としての権利行使の状況、(4)株券・関係書類の管理状況、(5)名義借りの経緯と贈与税申告の有無を、預金取引履歴・株主名簿・確定申告書等から確認します。

目次

調査・手続の概要

名義株とは、他人から名義を借用して株式の引受け及び払込みが行われた結果、株主名簿上の名義人と、その株式に係る真の株主とが一致しない株式をいいます。典型的には、被相続人が資金を出して取得した株式が、配偶者・子・親族・従業員などの名義で保有されているケースです。

名義株が生まれた背景としては、平成2年改正前の商法では株式会社の設立に7名以上の発起人が必要とされていたため、創業者が親族や知人の名義を借りて会社を設立した例が多くあります。このほか、家族名義の証券口座で被相続人が株式を購入していた場合などにも、名義と実質の食い違いが生じます。

株式が誰に帰属するかについて、最高裁は、他人の承諾を得てその名義を用いて株式の引受け・払込みがされた場合には、名義人(名義貸与者)ではなく実質上の引受人(名義借用者)が株主になると判断しています(最判昭和42年11月17日)。

名義株の調査は、性質の異なる二つの作業から成ります。第一に、家族等の名義になっている株式の中に被相続人の名義株が紛れていないかを見つけ出す作業(発見)、第二に、見つけた株式について実質上の引受人が被相続人であったことを裏付ける作業(帰属の確認)です。

ここで注意が必要なのは、名義株の調査では、被相続人名義の口座を探しても目的の株式は出てこないという点です。証券保管振替機構(ほふり)の開示請求や証券会社の残高証明は、いずれも被相続人の氏名・住所を手がかりに「被相続人名義の口座」を検索する仕組みであり、他人名義になっている名義株はこれらの照会には現れません。被相続人名義の有価証券を網羅的に把握する手続は通常の有価証券調査の領域であって、名義株の発見はそれとは別のルートで進める必要があります。

なお、名義株が特に問題となりやすいのは、非上場の同族会社株式です。

確認する資料・入手先

名義株の調査には単一の照会窓口がありません。発見の端緒となる資料を集め、それらを突き合わせて実質上の引受人を判断していきます。主な資料は次のとおりです。

確認する資料入手先入手できる人調査上の役割
自宅・貸金庫の保管資料(家族名義の株券・取引残高報告書・配当金計算書等)被相続人の自宅・貸金庫相続人名義株の発見。家族名義の書類を被相続人が保管していたこと自体が端緒
株主名簿の閲覧・謄写(会社法125条)発行会社株主(地位を承継した相続人を含む)・債権者非上場同族会社の名義人の顔ぶれを確認。名義株の主戦場
法人税申告書別表二(同族会社等の判定に関する明細書)発行会社・関与税理士法律上の請求権はなく任意の開示を依頼同上(株主名簿が整備されていない会社で特に有用)
被相続人の預貯金取引履歴各金融機関相続人(単独で可)払込原資の出金・家族名義口座への資金移動を追う。発見と帰属確認の双方の中核
被相続人の確定申告書等の閲覧(申告書等閲覧サービス)被相続人の納税地の税務署相続人全員の来署、または申請者以外の全員の委任状・印鑑証明書を添えた一部の相続人配当所得の申告者を確認
被相続人名義のほふり開示・取引残高報告書ほふり・各証券会社法定相続人等補助。被相続人名義側から取引履歴をたどり、家族名義口座への移管痕跡を探す端緒
名義人名義の口座照会(ほふり・証券会社)ほふり・各証券会社名義人本人(またはその代理人)補助。名義人が協力的な場合に名義株の現状(銘柄・残高)を確認

ここで重要なのが、名義人(家族等)名義の証券口座や預金口座は、原則として名義人本人でなければ照会できないという点です。ほふりも証券会社も、照会者本人の名義の口座しか開示しません。

したがって、名義人の協力が得られない場合、他の相続人が名義人名義の口座を直接調べることはできず、名義株の現状(銘柄・残高)の確認は閉ざされます。この照会の壁があるため、名義株の調査は、相続人が単独で取得できる資料、すなわち自宅・貸金庫の保管資料、被相続人の預金取引履歴、同族会社の株主名簿・別表二を主軸に据えて進めることになります。

調査の進め方

ステップ1:名義株の端緒をつかむ

自宅や貸金庫に保管された家族名義の株券・取引残高報告書・配当金計算書(支払通知書)・株主総会招集通知などを確認します。被相続人宛てだけでなく、家族名義の株式関係書類を被相続人が手元で保管していなかったかを確認することが重要です。家族名義の書類を被相続人が管理していたこと自体が、名義株を疑う端緒になります。あわせて、被相続人の生前の言動、メモ、出資関係の資料も手がかりになります。

ステップ2:同族株式は株主名簿・別表二で株主の顔ぶれを確認する

名義株が最も問題となるのは、非上場の同族会社株式です。被相続人が実質的に支配していた会社については、株主名簿の閲覧・謄写(会社法125条)や法人税申告書別表二の開示により、株主として記載されている家族・親族・知人の名義を確認します。これらの名義人の中に、被相続人が資金を出した株式が含まれていないかを検討します。

ステップ3:被相続人の預金取引履歴で資金の流れを追う

被相続人の預貯金の取引履歴を取得し、株式の払込みや買付けの原資となった出金、家族名義口座への資金移動を確認します。これは名義株の端緒であると同時に、実質的な引受人を裏付ける中核資料です。取引履歴を遡れる期間は一般に10年程度とされているため(※各金融機関の運用を要確認)、古い取得については、設立時の出資関係資料や会社保管の株式申込書類など、別の資料を当たることになります。

ステップ4:ほふり・証券会社照会は補助的に用いる

上場株式の名義株では、被相続人を手がかりにした照会では家族名義の株式は出てきません。そこで、被相続人名義のほふり開示で判明した証券会社に被相続人の取引履歴を請求し、家族名義口座への移管の痕跡をたどります。

また、名義人(家族)が協力的であれば、名義人本人にその名義の口座をほふり・証券会社に照会してもらい、名義株の現状(銘柄・残高)を確認します。名義人名義の口座は名義人本人しか照会できないため、協力が得られない場合、このルートは使えません。

なお、ほふりの開示費用は被相続人名義・名義人名義いずれも1件6,050円(税込)、法定相続情報一覧図のコピーを提出した場合は1件4,950円(税込)で、開示結果の送付までに1か月ほどかかります。

ステップ5:配当の帰属を確認し、整理・記録する

配当金の入金口座、配当金計算書の宛先、配当所得を誰が申告していたかを確認します。被相続人の過去の確定申告書は、自宅に控えがなければ税務署の申告書等閲覧サービスで確認できますが、死亡した人の申告書等の閲覧には相続人全員の関与(全員の来署、または申請者以外の全員の委任状と印鑑証明書の添付)が必要です。

最後に、取得時期・資金の流れ・名義借りの経緯を時系列に整理し、根拠資料と対応させて記録します。

取得した書類で確認すべき項目

名義株の調査の核心は、集めた資料から「その株式の実質上の引受人(真の株主)は誰か」を読み取ることです。裁判実務上、実質上の引受人の判断は、次の7つの要素を総合して行われています(東京地判昭和57年3月30日等)。

  1. 株式取得資金の拠出者
  2. 関係当事者間の関係およびその間の合意の内容
  3. 株式取得の目的
  4. 取得後の利益配当金や新株等の帰属状況
  5. 関係当事者と会社との関係
  6. 名義借りの理由の合理性
  7. 株主総会における議決権行使の状況

これらのうち、特に①取得資金を誰が拠出したかという要素が重視される傾向にあります。相続調査では、これらの要素を裏付ける事実を資料から確認していくことになりますが、書類から読み取るチェックポイントは、おおむね次の5点に整理できます。

株式取得資金の出捐元

その株式の購入代金や払込金を実際に負担したのは誰かを確認します。7要素の中で最も重視される事情です。

被相続人の預金取引履歴上の出金と、株式の取得時期・取得価額・払込金額との対応関係を確認します。証券口座での購入であれば買付代金の入金元、非上場会社の設立・増資であれば払込時の送金記録が手がかりになります。被相続人の口座から名義人の口座を経由して払込みがされている場合には、その経由の記録も含めて確認します。

配当金の入金先と申告者

株式の果実である配当金を誰が受け取り、誰の所得として扱っていたかを確認します。配当金計算書(支払通知書)の宛先、配当金の振込先口座の名義と実際の管理者、そして確定申告書で配当所得を申告していたのが誰かを照合します。名義人が配当の存在すら認識しておらず、配当が被相続人の管理する口座に入金され続けていたという事情は、実質的な所有者が被相続人であった方向の資料になります。

株主としての権利行使の状況

株主総会の招集通知や議決権行使書が誰に届き、誰が議決権を行使していたかを確認します。非上場の同族会社であれば、株主総会議事録や委任状の有無も確認の対象です。名義人が株主総会に一度も関与せず、議決権行使を含む株主としての行動をすべて被相続人が取り仕切っていた場合、名義人は形式上の存在にとどまっていたことがうかがわれます。

株券・関係書類の管理状況

株券(発行されている場合)、口座開設書類の控え、取引残高報告書などを誰が保管していたかを確認します。証券口座の届出住所や届出印が被相続人のものと共通していないかも確認のポイントです。自分の財産であれば自分で管理しているのが自然ですから、名義人名義の株式関係書類が一括して被相続人の自宅や貸金庫から発見されたという事実は、被相続人が実質的に株式を支配していたことを示す手がかりになります。

名義借りの経緯・目的と贈与税申告の有無

その名義になった時期と経緯、名義を借りた目的やその合理性を確認します。発起人数の確保や取引上の便宜など名義借りに合理的な理由があったか、株主名簿の名義書換の時期、贈与契約書の有無、贈与税申告書の有無、上場株式であれば証券口座間の移管記録を確認します。

被相続人から名義人への贈与として整理できる事情があれば、その株式は名義人の固有財産という方向に傾き、贈与の裏付けが何もなく当初から名義だけが使われていた事情があれば、名義株(実質は被相続人の財産)という方向に傾きます。もっとも、贈与税申告の有無だけで帰属が決まるわけではなく、上記の各要素と併せた総合的な確認が必要です。

参考リンク

相続トラブルに備えたアドバイス

名義株の遺産性は争点化しやすい

名義株が遺産に含まれるかどうかは、遺産の範囲そのものに関わる問題です。名義と実質のずれは外形からは分かりにくいうえ、資金の拠出など実質上の引受人をめぐる事情を知る者(被相続人)が既に亡くなっていることも多いため、相続財産の中でも特に争点化しやすい類型といえます。

遺産分割の調停・審判は相続財産の存在を前提として行われるものであり、家庭裁判所が前提問題である帰属性について判断しても既判力(後の手続を拘束する効力)は生じないとされています(最大決昭和41年3月2日)。そのため、相続人間で帰属性について合意ができない場合には、地方裁判所に遺産確認の訴え(その株式が被相続人の遺産に属することの確認を求める訴え)を提起して帰属性を確定したうえで、遺産分割の手続を進めることになります。 こうした事態に備え、調査の段階で前記の各要素に関する客観的な資料を揃えておくことをお勧めします。

贈与の場合は特別受益の問題になる

調査の結果、名義人への贈与があったと整理できる場合、その株式は、名義人の固有財産となり、遺産には含まれません。もっとも、名義人が相続人であれば、その贈与が特別受益として持戻しの対象となるかどうかという別の検討が生じます。名義株の調査と生前贈与の調査は表裏の関係にあるため、株式の生前贈与の調査と併せて確認を進めることが効率的です。

名義人の協力が得られない場合に備え、単独で取得できる資料から確保する

名義人名義の証券口座や預金口座は、原則として名義人本人しか照会できません。また、被相続人の確定申告書の閲覧には相続人全員の関与が必要であり、一人でも協力しない相続人がいると利用できません。協力が得られない事態に備え、相続人が単独で取得できる資料、すなわち被相続人の預金取引履歴、被相続人名義についてのほふり開示、自宅・貸金庫の保管資料の確認を先行させることをお勧めします。特に取引履歴は遡及できる期間に限りがあるため、取得時期が遅れるほど資金の流れを裏付ける資料は失われていきます。

税務上の取扱いと遺産分割上の取扱いは別物であることに注意

国税庁の「相続税の申告のためのチェックシート」でも、有価証券について「名義は異なるが、被相続人に帰属するものはありませんか」という確認項目が設けられており、名義株は相続税の申告漏れの典型例とされています。もっとも、相続税申告でその株式を被相続人の財産として計上したからといって、遺産分割においても当然にそのとおり確定するわけではありません。税務上の取扱いと民事上の帰属の判断は別の手続で行われるものです。両者で考慮される事情は重なりますが、一方の結論を他方にそのまま持ち込めるわけではないことを意識して、資料の整理を進めることが望まれます。

確認した事実は時系列で記録しておく

名義株の判断は、取得から相続開始までの長い期間にわたる事実の積み重ねによって左右されます。取得時期・資金の流れ・配当の帰属・名義書換の経緯を時系列表に整理し、それぞれの根拠資料と対応させておくと、後の遺産分割協議や調停で説明がしやすくなります。

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