退職手当金・弔慰金の調査はどのようにしたらいいですか?

回答

被相続人が在職中に死亡した場合の死亡退職金・弔慰金は、勤務先(会社等)への照会と退職金規程・支給規定の確認によって調査します。小規模企業共済の共済金は独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)に請求します。これらは相続税法上は「みなし相続財産」として課税対象となりますが、民法上は支給規定で受給権者の範囲・順位が定められている場合、受給権者固有の権利として遺産には含まれないのが原則です。退職金規程では、受給権者の範囲・順位、支給額、弔慰金の別建て、支給確定時期を確認します。

目次

調査・手続の概要

被相続人が会社等に在職したまま亡くなった場合、勤務先から遺族に対して死亡退職金が支給されることがあります。あわせて、弔慰金・花輪代・葬祭料などが支給される場合もあります。これらは、被相続人が生きていれば本人が受け取るはずだった給付や、遺族の生活保障・弔意のために支給される給付です。

調査の出発点は、被相続人がどの会社・団体に勤務し、どのような退職金制度・共済制度に加入していたかを特定することです。そのうえで、勤務先に死亡退職金・弔慰金の有無を照会し、支給の根拠となる退職金規程(退職給与規程)や支給基準を確認します。個人事業主や会社役員が加入する小規模企業共済については、中小機構に共済金を請求します。

これらの給付には、相続税法と民法という二つの異なる法律が同時に及びます。

第一に、相続税法上の扱いです。死亡退職金(退職手当金等)のうち、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります(相続税法3条1項2号。いわゆる「みなし相続財産」)。弔慰金は通常は課税対象になりませんが、一定額を超える部分は退職手当金等として課税対象に取り込まれます(相続税法基本通達3-20)。

第二に、民法上の扱いです。死亡退職金が遺産分割の対象となる「相続財産(遺産)」に当たるかどうかは、相続税法上の扱いとは別の問題です。退職金規程等で受給権者の範囲・順位が定められている場合、判例は、受給権者である遺族が自己固有の権利として取得するものであり、相続財産には属さないとしています(最判昭和55年11月27日)。

この「相続税はかかるが、原則として遺産分割の対象ではない」という一見矛盾する関係を正しく理解しておくことが、調査の前提となります。なお、被相続人が生前に退職して退職金を受け取った後に亡くなった場合は、死亡退職金ではなく通常の相続財産(遺産)として扱われます。

申請主体・申請先・必要書類

死亡退職金・弔慰金と小規模企業共済では、請求先と必要書類が異なります。主な例は次のとおりです。

調査・請求の対象申請主体申請先主な必要書類・確認資料
勤務先の死亡退職金・弔慰金受給権者である遺族被相続人の勤務先(会社・団体等)死亡の事実と続柄を示す戸籍(除籍)謄本、各社所定の請求書類。あわせて退職金規程(退職給与規程)の写しの確認を求める
小規模企業共済の共済金受給権順位が最上位の遺族独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)共済金等請求書(様式小701)、契約者の死亡が記載された戸籍謄本、受給権を証する戸籍、共済契約締結証書、受取口座の確認資料

勤務先の退職金は、会社ごとに制度の有無も支給基準も異なります。まずは制度の存否と退職金規程の内容を確認することが調査の中心になります。

小規模企業共済については、受給権者の範囲・順位が小規模企業共済法に定められており、民法上の相続の一般原則とは異なります。受給権順位が最も上位の遺族が請求手続を行います(先順位者を越えて請求することはできません)。受取方法は一括受取りのみで、分割受取りや併用受取りは選択できません。

申請の流れ

死亡退職金・弔慰金の調査は、おおむね次の手順で進めます。

勤務先・加入制度の特定

被相続人の経歴書、在職していた会社名・役職・勤続年数、給与所得の源泉徴収票、所得税の確定申告書などを手がかりに、勤務先と加入制度を確認します。確定申告書の「小規模企業共済等掛金控除」欄に記載があれば、小規模企業共済等に加入していたことが分かります。

勤務先への照会

勤務先に対し、死亡退職金・弔慰金の支給の有無、支給額、支給時期、支給の根拠となる退職金規程の内容を照会します。退職金規程の写しの交付を求め、受給権者が誰になるかを確認します。

必要書類の準備

受給権者であることを示す戸籍関係書類などを準備します。受給権順位が下位になるほど、被相続人が成人してから死亡までの状況が把握できる戸籍(除籍)謄本など、複数の戸籍が必要になることがあります。

請求手続

各社所定の手続、または中小機構への共済金請求を行います。小規模企業共済では、請求受付からおおむね3週間程度で共済金が口座に振り込まれるのが通常の取扱いとされています。

所要期間・費用は、勤務先の社内手続や戸籍収集の範囲によって変動します。戸籍は複数の本籍地から取り寄せる必要が生じる場合があるため、早めに着手することが望まれます。

取得した書類で確認すべき項目

死亡退職金・弔慰金の調査では、退職金規程・支給規定の記載内容を読み解くことがメインになります。とりわけ、後の遺産分割や相続税申告に直結する次の項目を確認します。

受給権者の範囲・順位の定め方

退職金規程で、死亡退職金を受け取る者(受給権者)の範囲と順位がどのように定められているかを確認します。これは、その退職金が遺産分割の対象になるかどうかを左右する最も重要な項目です。

確認の視点は、受給権者の範囲・順位が民法の相続人の範囲・順位と異なる定め方になっているかどうかです。たとえば、配偶者がいる場合に子は受け取れないとされていたり、内縁の配偶者が含まれていたり、被相続人の収入によって生計を維持していたかどうかで順位に差を設けていたりする場合は、民法とは異なる独自の定め方といえます。判例は、こうした定め方がされている退職金について、受給権者の固有の権利であり遺産には属さないと判断しています。

逆に、規程に「相続人に支払う」とのみ書かれている場合や、受給権者の定めが置かれていない場合は、扱いが分かれる可能性があるため、規定の文言を正確に把握しておく必要があります。

支給額と計算方法

支給される死亡退職金の金額と、その計算方法(基本給・勤続年数・役職等に基づく算定式の有無)を確認します。退職手当金には金銭のほか現物で支給されるものもあり、現物支給の場合も相続税法上は退職手当金等に含まれます(相続税法基本通達3-24)。金額は、後述する相続税の非課税枠の判定や、高額な場合の特別受益の検討にも関わります。

弔慰金・死亡見舞金の別建て支給の有無

死亡退職金とは別に、弔慰金・死亡見舞金・葬祭料などが支給されているかを確認します。弔慰金は通常は相続税の課税対象になりませんが、退職金規程等に基づいて支給されるなど実質的に退職手当金に該当する部分や、一定額を超える部分は退職手当金等として課税対象となります。基準となる金額は、業務上の死亡であれば死亡当時の普通給与の3年分、業務上の死亡でなければ半年分とされ、これを超える部分が退職手当金等として扱われます(相続税法基本通達3-20)。そのため、弔慰金名目で受け取った金銭であっても、名目だけで判断せず、支給の趣旨と金額を確認する必要があります。

支給確定の時期

被相続人の死亡後、いつ支給額が確定したかを確認します。ここでいう「支給が確定」とは、支給される金額が確定することを指します。支給されること自体は決まっていても金額が確定していない段階では、まだみなし相続財産には算入されません(相続税法基本通達3-30)。死亡後3年以内に支給(金額)が確定したものは、みなし相続財産として相続税の課税対象になります(相続税法3条1項2号)。

一方、死亡後3年を経過してから支給が確定したものは、相続税ではなく、受け取った遺族の一時所得として所得税の課税対象になります。課税の枠組みが変わるため、確定時期は資料の整理上も重要な確認項目です。

小規模企業共済の受給権順位と共済金額

小規模企業共済に加入していた場合は、受給権者の順位と共済金額を確認します。受給権者の範囲・順位は小規模企業共済法に定められており、配偶者(婚姻の届出をしていない内縁の配偶者を含みます)が第1順位、子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹等が第2順位以下となります。生命保険のように受取人を自由に指定することはできません。共済金は遺産には含まれませんが、みなし相続財産(死亡退職金)として相続税の課税対象になります。

参考リンク


相続トラブルに備えたアドバイス

死亡退職金・弔慰金は、「相続税はかかるのに、原則として遺産分割の対象ではない」という独特の性質を持つため、相続人間で認識が食い違いやすい財産です。調査で確認した内容が、後の遺産分割協議や相続税申告にどう影響するかを整理しておきます。

遺産該当性は支給規定の定め方で決まる

死亡退職金が遺産分割の対象になるかどうかは、退職金規程で受給権者がどう定められているかによって決まります。最高裁は、退職金規程で受給権者の範囲・順位が民法の相続人の順位決定の原則と異なる定め方がされている場合、受給権者である遺族は相続人としてではなく規程の定めにより直接これを自己固有の権利として取得するものであり、死亡退職金の受給権は相続財産に属さないと判断しています(最判昭和55年11月27日)。

したがって、こうした規程に基づく死亡退職金は、原則として遺産分割協議の対象にはならず、遺産分割協議書に記載する必要もありません。受給権者として規程上定められた遺族が直接受け取ります。受給権者の範囲・順位の定め方を確認することには、こうした意味があります。

規程に定めがない場合の扱い

退職金規程に受給権者の定めがない場合や、「相続人に支払う」とのみ定められている場合は、扱いが分かれる可能性があります。受給権者の定めがない以上、死亡退職金請求権を相続人が相続したものとして遺産分割の対象になると考える余地がある一方、法人の決定によって特定の遺族個人に支給されたものとして相続財産性が否定された例もあります。規定の文言があいまいな場合は、遺産に含まれるかどうかについて相続人間で見解が対立しやすいため、規程の確認結果を早い段階で他の相続人と共有しておくことが望まれます。

相続放棄をした人との関係

死亡退職金が受給権者固有の権利として遺産に属さない場合、相続放棄をした人であっても、規程上の受給権者であれば死亡退職金を受け取ることができます。これは「相続」ではなく「自己固有の権利」として受け取るものだからです。小規模企業共済の共済金も同様に、遺産には含まれません。

もっとも、規程に定めがなく死亡退職金が相続財産に含まれると判断される場合には、これを受け取ると相続を承認したものと扱われ、後から相続放棄ができなくなるおそれがあります。相続放棄を検討している場合には、死亡退職金が固有財産か相続財産かを受領前に確認しておくことに注意が必要です。

相続税の非課税枠の活用

死亡退職金・小規模企業共済の共済金は、遺産分割の対象でなくても相続税の課税対象になります。ただし、すべての相続人が受け取った退職手当金等の合計額のうち、「500万円×法定相続人の数」までの金額は非課税となります(相続税法12条1項6号)。この法定相続人の数は、相続放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の数で計算します。なお、この非課税枠は相続人が受け取った場合に適用されるもので、相続人以外の人が受け取った退職手当金等には適用されません。

この非課税枠は、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)とは別枠で設けられています。死亡退職金と生命保険金の両方がある場合は、それぞれの調査結果を整理し、申告漏れがないようにすることが望まれます。

高額な退職金と相続人間の公平

死亡退職金が遺産に比して著しく高額である場合には、相続人間の公平の観点から問題となることがあります。生命保険金については、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が著しいと評価すべき特段の事情がある場合に、特別受益に準じて持戻しの対象となるとした判例があり(最決平成16年10月29日)、死亡退職金についても同様の枠組みで議論されることがあります。

特定の遺族だけが高額な死亡退職金を受け取ると、他の相続人から不公平を指摘される場面が生じ得ます。支給額が大きい場合には、その金額と支給の経緯を確認し、他の相続人との情報共有を図っておくことが、後の紛争予防につながります。

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