海外在住の相続人がいる場合、どのように調査・連絡したらいいですか?

回答

海外在住の相続人がいる場合でも、戸籍附票で「国外転出」の記載と転出先国名を確認したうえで、現地の在外公館(日本大使館・領事館)を通じて連絡を取り、必要書類を整えるのが基本の流れです。遺産分割協議では、印鑑証明書の代替として在外公館発行の「署名証明(サイン証明)」、住民票の代替として「在留証明」を用います。手続には相応の時間がかかるため、相続放棄期間(民法915条)や相続税申告期限との関係に注意して早期に着手することが望まれます。

目次

調査・連絡の概要

被相続人の相続人の中に海外在住者がいる場合でも、相続人としての地位や法定相続分は、国内在住者と全く同じです。ただし、所在の調査方法や、遺産分割協議に必要な書類の取得方法が国内とは異なります。

具体的には、相続人の所在については日本国内の戸籍附票で海外転出先(国名まで)を確認し、現地での詳細な居住地は本人への直接連絡または在外公館を通じて把握する流れになります。また、印鑑登録制度がない国に居住している相続人については、印鑑証明書の代替として在外公館発行の署名証明(サイン証明)を、住民票の代替として在留証明を用いるのが実務の取扱いです。

これらの書類の取得には、原則として相続人本人が現地の在外公館に出頭する必要があり、国内手続に比べて時間と手間がかかります。なお、令和7年5月27日から、在外公館での証明書のオンライン申請・電子受領(e-証明書)が一部の在外公館で開始され、令和7年3月24日からは戸籍電子証明書提供用識別符号(電子戸籍パス)による戸籍謄本の提出省略も可能となっています。

申請主体・申請先・必要書類

第一段階:戸籍附票の取得(国内側で実施)

項目内容
申請主体共同相続人の一人(単独で請求可)
申請先海外転出時に本籍地があった市区町村役場の戸籍住民課
必要書類申請書、被相続人および請求者の戸籍謄本(関係を示すもの)、本人確認書類、手数料(1通300〜400円程度)、郵送請求の場合は返信用封筒・定額小為替

戸籍附票は、住民基本台帳法16条に基づき、本籍地の市区町村が戸籍を単位として作成する帳簿で、住所の異動履歴が記録されます。国外転出した者についても、戸籍附票に「国外転出」の事実と転出先国名が記録され、令和4年1月11日からは生年月日・性別も基本記載事項に追加されました(住民基本台帳法17条等)。具体的な現地住所までは記録されないことが通常であるため、国名以上の情報は本人または外務省の所在調査を通じて把握する必要があります。

第二段階:外務省の所在調査制度

戸籍附票で転出先国名は判明しても、本人と連絡が取れない場合、外務省の「所在調査」制度を利用できます。これは、海外に在留している可能性が高く、長期(概ね半年以上)にわたってその所在が確認されていない日本人の連絡先等を、三親等以内の親族からの依頼により外務省が確認する行政サービスです。

項目内容
申請主体三親等以内の親族(配偶者、親、子、孫、祖父母、兄弟姉妹、おじ・おば等)、官公署、弁護士会
調査対象者生存が見込まれる日本国籍者(国籍喪失者は対象外)
申請先外務省領事局領事サービスセンター
主な要件連絡可能な親族・知人による所在確認を尽くしていること、調査対象国を特定できること
手数料無料

申請書、申請人の本人確認書類、調査対象者との続柄を示す戸籍謄本、調査対象国を特定できる資料等が必要です。本人と連絡が取れた場合、在外公館から本人に調査の趣旨を伝え、本人の同意があれば住所・連絡先が申請人に通知されます。

第三段階:海外在住相続人本人が在外公館で取得する書類

連絡が取れた相続人本人が、現地の在外公館(日本大使館・領事館)で取得する書類が、遺産分割協議や相続登記に不可欠となります。

書類内容・代替する国内書類手数料(1通あたり)
在留証明海外での居住地を証明。住民票の代替として、遺産分割協議書添付資料や相続登記の住所証明書類に用いる1,200円相当(現地通貨で支払い)
署名証明(サイン証明)本人の署名が本人のものであることを在外公館が証明。印鑑証明書の代替として、遺産分割協議書への署名の真正性を担保1,700円相当(現地通貨で支払い)
戸籍関係書類在外公館経由でも請求可能(本籍地に郵送請求するのが一般的)。または電子戸籍パスを利用国内市区町村の手数料

在留証明の形式:形式1(現住所のみを証明)と形式2(現住所および過去の住所、または現住所および同居家族を証明)の2種類があります。相続手続では、被相続人の住所変遷との沿革確認等で形式2が必要となる場合があります。

署名証明の形式:形式1(在外公館発行の証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印を行う方式)と形式2(申請者の署名を単独で証明する方式)の2種類があります。遺産分割協議書の場合、書類との一体性を担保する形式1が用いられるのが実務上一般的です。

申請要件(在留証明):(1)日本国籍を有する方であること(国籍喪失者は対象外)、(2)原則として日本に住民登録がないこと、(3)現地に既に3か月以上滞在し現在居住していること(または今後3か月以上の滞在見込みがあること)、(4)証明を必要とする本人が公館へ出向いて申請することが必要です(やむを得ない事情がある場合は委任状で代理申請可能な場合あり)。なお、既に日本国籍を離脱・喪失された方には、例外的措置として「居住証明」で対応する場合があります。

在外公館の所在地

外務省の在外公館リストで、各国の日本大使館・総領事館の所在地を確認できます。米国・中国・ブラジル等、複数の総領事館がある国では、相続人の居住地を管轄する公館に出頭する必要があります。

申請の流れ

ステップ1:戸籍附票で海外転出の事実と転出先国名を確認

被相続人の出生から死亡までの戸籍を集める過程で、海外在住の可能性がある相続人(子・きょうだい等)を把握します。次に、その相続人の戸籍附票を取得し、海外転出の事実と転出先国名を確認します。

ステップ2:相続人本人との連絡を試みる

転出先国名と過去の連絡先(メールアドレス・SNS・親族からの情報等)から、本人への直接連絡を試みます。連絡が取れれば、現地住所・連絡方法・遺産分割への意向を確認します。

ステップ3:外務省の所在調査制度を利用(連絡が取れない場合)

直接連絡が取れず、長期(概ね半年以上)所在不明の場合は、外務省の所在調査制度を利用します。三親等以内の親族から申請可能で、手数料は無料です。在外公館経由で本人と連絡が取れ、本人の同意があれば、外務省から申請人に住所・連絡先が通知されます。

ステップ4:必要書類の取得を依頼

連絡が取れた相続人に対し、在留証明と署名証明の取得を依頼します。本人が現地の在外公館に出頭する必要があるため、出頭可能な日程と必要書類(パスポート・滞在許可証等)を事前に伝えておくのが効率的です。令和7年5月27日からは、ORRネット経由でのオンライン申請・電子証明書(e-証明書)受領も可能になっています(イラン・ロシアの在外公館を除く)。

ステップ5:遺産分割協議書の送付と署名・証明取得

国内で作成した遺産分割協議書を海外の相続人に国際郵便で送付し、在外公館での署名証明手続のうえ、原本を返送してもらいます。署名証明(形式1)は、書類1通ごとに発行を受ける必要があるため、協議書の枚数分の手続が必要です。

所要期間と費用

  • 戸籍附票:数日〜2週間程度
  • 外務省の所在調査:申請から回答まで2〜3か月程度(状況により変動)
  • 在留証明・署名証明:在外公館の混雑状況により異なる(オンライン申請なら窓口出頭なしで完結する場合あり)
  • 国際郵便での書類往復:片道で1〜3週間程度
  • 全体の所要期間:相続人と連絡が取れてから書類が整うまで、最短でも1〜2か月、複雑な場合は半年以上かかることもあります

海外在住相続人の調査・対応で確認・整理すべき項目

戸籍附票の「国外転出」記載

戸籍附票の住所履歴欄の確認です。海外転出の場合は「国外転出」の記載と転出先国名が記録されます(住民基本台帳法16条以下に基づく市区町村の運用)。

調査のポイント

転出先国名のみで、現地住所までは記録されないことが通常です。複数回転出・再入国を繰り返している場合は、現在の住所として最新の転出記録を参照しつつ、過去の記録は所在歴として参考になります。国外転出後も戸籍附票自体は削除されないため(令和4年改正により本人特定情報を維持)、相続人特定資料として有効です。

相続人の国籍

戸籍に当該相続人の記載が残っているかを確認します。日本国民が自己の志望によって外国の国籍を取得した場合、国籍法11条1項により日本国籍を失います。この場合、戸籍上は除籍され、本人(または配偶者・四親等内の親族)は国籍喪失届を提出する義務を負います(国籍法11条1項、戸籍法103条)。

調査のポイント

国籍を喪失していても、被相続人との親族関係に基づく相続権そのものは民法に規定されており、国籍要件はありません(民法886条以下、890条等)。ただし、在外公館での在留証明・署名証明の発給対象は日本国籍を有する者に限られるため、国籍喪失者については、外務省の運用上、例外的措置として「居住証明」で対応する場合があり、また現地公証人による宣誓供述書等の代替手段が必要となる場合があります。

在留届の有無

外務省は、外国に住所又は居所を定めて3か月以上滞在する者に、その地域を管轄する領事官への在留届の提出を求めています(旅券法16条)。在留届は、書面または外務省の「ORRネット(在留届電子届出システム)」に登録されます。

調査のポイント

在留届は旅券法上の義務ですが、実際には未届の海外在住者もいます。在留届がなくても、本人と直接連絡が取れれば手続は進められます。長期所在不明の場合は、外務省の所在調査制度の活用が選択肢となります。

現地の印鑑制度の有無

居住国に印鑑登録制度があるかを確認します。日本以外で印鑑登録制度を持つ国は限られているため、ほとんどの場合、印鑑証明書は取得できません。

調査のポイント

印鑑証明書が取得できない場合、印鑑証明書の代替として在外公館発行の署名証明(サイン証明)を用います。遺産分割協議書には、署名(サイン)を行ったうえで、領事の面前での署名を在外公館が証明する流れになります。

在留証明の必要性

相続登記や預貯金の名義変更手続では、相続人の住所証明書類が必要となります。海外在住者については、住民票が取得できないため、在留証明を住所証明書類として用います。

調査のポイント

現住所のみを証明するもの(形式1)と、過去の住所も含めて証明するもの(形式2)があります。被相続人の住所変遷との沿革確認や、過去の住所証明が必要となる場合は、形式2の取得が望ましい場面があります。なお、戸籍附票の写しが取得できれば在留証明は不要となる場合があるため、提出先に事前確認することが望まれます。

相続トラブルに備えたアドバイス

海外在住相続人がいる相続では、書類取得の遅れと現地公館での手続負担が、紛争化や手続停滞の主因となります。各項目の確認結果を、その後の遺産分割協議・調停・相続税申告等にどう活かすかを整理してアドバイスします。

転出先国名は最初に確定させる

相続人調査の初期段階で、戸籍附票による「国外転出」記載と転出先国名を確定させておくことをお勧めします。国名が分かれば該当する在外公館が特定でき、その後の連絡ルートの計画が立てられます。逆に、国名すら不明のまま協議を進めると、いつまでも相続人を欠いた状態が続き、協議そのものが進められません。

国籍喪失でも相続権は失われない

海外で外国籍を取得して日本国籍を喪失している相続人については、「もう日本人じゃないから相続人ではない」と誤解されることがあります。国籍を喪失していても、被相続人との親族関係に基づく相続権は失われません。国籍喪失者を相続人から除外して協議を成立させても、無効になります。

在外公館の往復負担を見越した計画を

在外公館での署名証明・在留証明の取得は、相続人本人の出頭が必要であり、居住地から公館までの距離が遠い国では、相続人にとって相当の負担となります。スケジュール調整に余裕を持ち、可能であれば一度の出頭で必要な証明をまとめて取得できるよう、事前に書類一式と必要部数を整えておくことが望まれます。一度の出頭で済まないと、相続人の協力意欲が低下し、手続停滞の原因にもなります。

熟慮期間の伸長申立てを早めに検討

海外在住の相続人が相続放棄を視野に入れている場合、書類の往復だけで1〜2か月を要することもあり、3か月の熟慮期間内での判断が困難となる場合があります。期間内に判断が困難と見込まれる時点で、家庭裁判所への熟慮期間伸長申立て(民法915条1項但書)を早めに検討することをお勧めします。

税理士との早期連携

海外在住相続人がいると、遺産分割協議が10か月以内にまとまらない蓋然性が高まります。遺産分割未了のまま法定相続分で申告する場合の取扱い、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用するための「3年以内の分割見込書」(相続税法施行令4条の2第1項)の活用などについて、早期に税理士と連携することが望まれます。

不在者財産管理人制度の検討

戸籍附票で国外転出は確認できたものの、本人と全く連絡が取れず、現地住所も判明しない場合は、家庭裁判所への不在者財産管理人選任の申立て(民法25条)を検討することになります。

法定相続情報一覧図の活用

海外在住の相続人がいる場合でも、国内の戸籍関係から法定相続情報一覧図を作成しておくと、相続登記・預貯金手続・相続税申告等で重複して戸籍一式を提示する手間が省けます。海外在住者を含む全相続人を記載した一覧図を早期に取得しておくことをお勧めします。

取得した書類の保管

在留証明・署名証明は、在外公館発行の原本が遺産分割協議書・相続登記・相続税申告等で証拠として使用されます。再取得には再度本人出頭が必要となり、追加の負担が生じますので、必ず原本を保管しておくようにしてください。

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