相続分がないことの証明書(特別受益証明書)とは?

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相続分がないことの証明書とは何か

親が亡くなってしばらく経つと、他の兄弟から「相続分がないことの証明書」が送られてくる時があります。
他にも「特別受益証明書」「相続分不存在証明書」などの呼び方がありますが、意味は同じで、自分は相続しないことを認める書面になります。

具体的には、「被相続人から既に財産の分与を受けており、被相続人の死亡による相続については、相続する相続分の存しないことを証明します。」などと記載された書面に、相続をしない相続人が署名・押印します。

なお、相続しないという点において、相続放棄と混同する人もいます。
しかし、相続分がないことの証明書と相続放棄とは、似て非なるものです。

相続分がないことの証明書を作成する理由

相続分がないことの証明書が必要になるのは、主に相続登記の場面です。

通常、不動産の相続登記をするには、遺産分割協議書を作成する必要があります。
しかし、相続人全員で遺産分割の話し合いがまとまる必要がありますし、書面の内容も複雑になりますので、作成の手間と時間がかかります。

また、相続放棄申述受理証明書(ないし受理通知書)でも相続登記できますが、「正式な」相続放棄は家庭裁判所に「相続放棄の申述」手続をする必要があり、こちらも手間と時間がかかります。

これに対して、相続分がないことの証明書は、2、3行のごく簡潔な書面ですので、すぐに作成できます。
遺産分割協議や「正式な」相続放棄によらず、他の相続人だけで簡易に相続登記できますので、相続登記における便利な書類として利用されます。

相続分がないことの証明書に安易にサインするのはNG!

しかし、相続登記をするための書類だからといって、ただの手続書類と考えるのは早計です。
「正式な」相続放棄とは異なり、放棄するのは遺産(プラスの財産)だけで、負債(マイナスの財産)はそのままだからです。

被相続人(亡くなった人)が借金をしていた場合、相続人が遺産のみならず借金も相続します。
「相続分がないことの証明書」にサインする前提として、借金は他の相続人が支払う約束をしていたとしても、それはあくまでも相続人同士の約束事であり、債権者には関係のない話です。

つまり、遺産も借金も引き継がないつもりで「相続分がないことの証明書」にサインしたと思ったら、借金の方は支払わなければならないという事態もあり得るわけです。

書面の意味内容を理解していなかったのであれば無効になりますが、相続登記の申請自体を阻止できるわけではなく、時間と費用をかけて訴訟をする必要があります。

また、証明書の記載内容が事実と異なっているが、意味内容は理解していた場合は、裁判例自体は分かれており、訴訟も長期化する可能性があります。

そのため、「相続分がないことの証明書」にサインするのは慎重にし、なるべく遺産分割協議書を作るか、家庭裁判所で「正式な」相続放棄の手続をすることをおすすめします。

相続分がないことの証明書を作る方にもリスクがある

相続分がないことの証明書は、サインする方だけでなく、作る方にもリスクがあります。

実際は生前贈与を受けていないのに生前贈与を受けたことにして「相続分がないことの証明書」を作成した場合、事実と異なる証明書にはなりますが、全く無効になるわけではないと解されています。

しかし、相続分を事実上放棄した相続人から相続分を多くもらうことになる相続人に対する贈与や相続分の譲渡などと見なされ、贈与税がかかるリスクがあります。便利だからといって、事実と異なる書類を作るのは避けた方がいいでしょう。

そもそも相続の書類に安易にサインするのがNG!

相続分がないことの証明書以外にも、相続手続ではたくさんの書類が必要です。
しかし、そもそもどのような書類かよく分からず、「何かの手続で必要な書類」と考え、安易にサインしてしまう人も多くいます。

たとえば、正式な遺産分割協議書の作成を後回しにし、遺産整理手続の一環として、預貯金の解約手続をどんどん進めていく場合があります。
単なる解約手続のつもりでサインしたとしても、それは遺産の一部を分割したことになります。
そして、後付けで遺産分割協議書を作成しようした時、そんなつもりではなかったといって揉めたりします。

そのようなことになる大きな原因は、手続最優先で解約や名義変更をどんどん進め、完了させた手続と辻褄が合うように遺産分割しようとする相続のやり方にあります。
本来、遺産をどのように分けるかが先ですので、よく分からないまま解約や名義変更に同意させようとするやり方には注意が必要です。

流れ作業的に相続の書類にサインをしてしまい、後で揉めたり後悔したりする場合があります。
書類の内容と意味をよく確認し、納得してからサインするようにしてください。

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