相続財産の使い込みを認めない兄弟からお金を取り戻す方法

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使い込みの「捜査」を目的にすると解決が遠のく理由

親の死後、通帳や取引明細書を見てみると、多額の預金が引き出されていることが明らかになった、なんてことがあります。

これが相続の「使い込み問題」です。

相続人同士で激しくぶつかり合い、泥沼の争族に発展することもよくある難事件です。

使い込みらしき預金の引出しを見つけると、預金を管理していた兄弟を真っ先に疑います。
しかし、これが「争族の奈落」へと落ちていく第一歩です。

使い込みは、

お金を勝手に引き出した→引き出したお金を自分のために使った

という流れで完成します。

お金が引出しがあることだけでなく、勝手に引き出したことや、親のためではなく自分のために使ったことが必要です。

預金の所有者である親に聞ければ一番いいです。
しかし、肝心の親は亡くなっています。

事実関係がよく分からない

相続の使い込み問題を難しくする最大の原因がこれです。

警察が動いてくれればいいです。
しかし、親子間の横領は、刑法の規定により、刑が免除されます(刑法244条1項)。
自分で調べるしかありません。

とはいえ、あなたは警察ではありません。
調べるにも限界があります。

本来、親が生きているうちになんとかしなければならない問題でした。
親が亡くなってしまうと、使い込みを暴き、認めさせることはかなり大変です。

使い込みを認めさせること自体を目的にすると、やったやらない、言った言わないの平行線になり、あなたの相続は完全に止まります。

誰も住んでいない実家の固定資産税や管理費を何年も支払い続けることになったり、弁護士に依頼して何年も裁判を続けたりするなど、実害を被ります。

納得できないのは本当に分かります。

しかし、あなた自身のためにも、調査の限界を頭の片隅に置き、じゃあどうやって解決するのかを考えることが大事です。

使い込みを相続財産に戻して解決する方法

使い込みをした分を戻して遺産分割をするのが当然だと考える人がとても多いです。
しかし、それは必ずしも当然ではありません。

なぜなら、遺産分割は、

亡くなったときに残っていた遺産

の分け方を決めるものだからです。

生前に引き出された預金は、現金として残っていない限り、遺産分割の対象とはなりません。

「じゃあ相続で解決できないじゃないか」と言いたくなるかもしれません。

しかし、そういうわけではありません。

相続人全員の合意

があれば、相続の中でも解決できます。

具体的には、以下のような「操作」をします。

  • 預り金として扱う
    親から預かっている現金があることにして、相続財産に追加します。

  • 生前贈与として扱う
    生前贈与をもらったことにして、特別受益の持ち戻しにより相続分を減らす。

「使い込みはごまかされたままじゃないか」と言いたくなるかもしれません。

しかし、よく考えてください。
相続の中で解決できないのであれば、相続からは切り離され、別の手続(訴訟)で解決する必要があります。

密室で行われ、肝心の親が亡くなっている状況で、預金を勝手に引き出し、自分のために使ったことをどこまで証明できるでしょうか。
疑わしいことまでは説明できるかもしれません。
しかし、場合によっては、時間と費用がかかるだけになる可能性もあります。

また、犯罪として罰することができない以上、いずれにせよお金による解決になります。

総合的に考えて、相続の中で「手打ち」にする方がいい場合も多いです。

使い込みを「不当利得」として返還を求める方法

不当利得の返還とは?

相続人同士の話し合いで解決できない場合、いよいよ別の手続で進めるしかなくなります。

その手続とはなにかというと、訴訟です。

請求の理由としては、まず、

不当利得

の返還を求めることが考えられます。

簡単に言いますと、

理由もないのにお金を手に入れた

のだから、それを返すように求めることです。

親の預金を勝手に自分のものにしたのであれば、理由もないのにお金を手に入れたことになります。そのため、使い込みの返還を求める根拠になります。

不当利得の返還を求めるためには?

訴訟で不当利得の返還を求めるためには、一般的に、以下の事情を証明する必要があります。

  1. 親の預金が減ったこと(損失)
  2. 引き出した兄弟に利得があること(利得)
  3. ①と②との因果関係
  4. 引き出した兄弟に預金の引出し権限がなかったこと(法律上の原因の不存在)

預金が減ったこと(①)は、通帳や取引明細書を見れば分かります。

その他の事情(②~④)も、疑わしいところまでは説明できるかもしれません。
しかし、それ以上は手持ちの証拠に左右されます。

特に、昔のことになればなるほど、記憶が曖昧になったり証拠が残っていなかったりします。

何をどこまで証明できそうか考えた上で、ある程度見通しを立てながら相続の話し合いをする必要があります。

使い込みを「損害」として賠償を求める方法

損害賠償とは?

不当利得以外の請求の理由として考えられるのは、

損害賠償

です。

損害賠償というと、交通事故でけがをさせたような場合が典型です。
あまりピンと来ないかもしれません。

しかし、使い込みの場合も、預金という権利が侵害されています。
そのため、使い込みの返還を求める根拠になります。

損害賠償を求めるためには?

訴訟で損害賠償を求めるためには、一般的に、以下の事情を証明する必要があります。

  1. 親の預金が存在し、引き出されたこと
  2. 親の預金を引き出したのが請求されている兄弟であること
  3. 引き出した兄弟に故意または過失があること

なお、③の「故意」は、「わざと」という意味ではなく、「知っていた」という意味です。

簡単に言いますと、

親の預金を勝手に使っちゃダメなことを知りながら

ということです。

なお、やることは不当利得とあまり変わりありませんので、細かいことは気にしなくても大丈夫です。

使い込みを全額請求できるわけではないことに注意

不当利得や損害賠償で誤解しがちですが、

使い込みを全額請求できるわけではない

ことには注意です。

損害を受けたのは親であり、あなたではありません。
あくまでも、親の相続人として請求することになります。
返還を求める権利を親から相続し、その相続した権利に基づいて請求するという発想です。

たとえば、親が1000万円の預金を使い込まれた場合、親であれば1000万円の返還を求めることができます。

しかし、あなたが請求できるのは、自分の相続分のみです。
親の代わりに全額請求できるわけではありません。

つまり、使い込みを遺産に戻して遺産分割をしても、相続した不当利得返還請求権または損害賠償請求権で返還を求めても、相続分であることには変わりがありません。

そういう意味においても、使い込みを相続の中で解決するのは、それなりに合理的といえます。

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