遺産分割Q&A

遺産分割とはどのような手続ですか?

遺産分割とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を、その財産を受け継ぐ人たち(共同相続人)の間で分け合うための手続です。

相続が開始すると、被相続人の遺産は共同相続人の共有状態(遺産共有)となります。この共有状態を解消し、具体的に誰がどの遺産をどれだけ取得するかを決めるのが遺産分割の目的です。遺産分割は、共同相続人の共有財産をその相続分に従って公平かつ合理的に分配する制度です。

遺産分割は、まず共同相続人全員での話し合い(遺産分割協議)で行うことが原則です。しかし、話し合いがまとまらない場合や話し合いをすることができない場合には、家庭裁判所に遺産分割を請求することができます。家庭裁判所の手続では、調停または審判を通じて遺産分割が進められます。

遺産分割の流れを教えてください。

遺産分割の手続きは、一般的に以下の段階を経て進められます。

①相続人の確定
まず、誰が法律上の相続人であるかを確定します。戸籍などを確認して行います。

②遺産の範囲の確定
故人が遺したプラスの財産(不動産、預貯金など)やマイナスの財産(借金など)を含めた全ての遺産をリストアップします。遺産分割の対象となる財産とそうでない財産があります。

③遺産の評価
遺産を公平に分けるために、リストアップした財産の価値を評価します。評価の基準となる時期や方法は、遺産の種類によって異なります。

④具体的相続分の確定
相続人の法定相続分または指定相続分を基に、特定の相続人が受けた生前贈与(特別受益)や、遺産の維持・増加への特別な貢献(寄与分)があれば、これらを考慮して、最終的に取得すべき具体的相続分を計算します。

⑤分割方法の決定
確定した具体的相続分に基づき、遺産を具体的にどのように分けるかを決定します。主な方法としては、遺産をそのまま分ける現物分割、遺産を取得する人が他の相続人に金銭などを支払う代償分割、遺産を売却してその代金を分ける換価分割、遺産を共有状態のままにする共有分割などがあります。当事者の希望や遺産の種類、性質などを考慮して方法が選択されます。

これらの手続きは、まず相続人全員での話し合いである遺産分割協議によって進められることが一般的です。協議がまとまれば、その内容を記した遺産分割協議書を作成し、それに従って遺産の名義変更などを行います。

もし、協議がまとまらない場合や話し合いが難しい場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てることができます。調停では、調停委員を交えて話し合いを進め、合意による解決を目指します。家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件は、原則として調停を経由します。

調停でも合意に至らない場合は、遺産分割審判に移行します。審判では、提出された資料や調査結果に基づき、裁判官が遺産分割の方法などを決定します。

調停での合意(調停成立)または審判が確定すると、その内容に従って遺産の具体的な帰属が確定します。特に不動産などの登記が必要な財産については、この確定内容に基づいて登記手続きが行われます。

遺産分割協議がまとまらない場合、どうすればいいですか?

遺産分割協議がまとまらない場合、次のステップとして、家庭裁判所の手続きに進むことになります。家庭裁判所での手続きには調停と審判がありますが、通常まずは遺産分割調停を家庭裁判所に申し立てて、話し合いによる解決を目指します(調停前置)。

調停では、裁判官や調停委員が間に入り、相続人全員で遺産の分け方について話し合いを進めます。話し合いは、遺産の範囲や評価、各相続人の取得割合などを順序立てて進めていくのが一般的です。これにより、争点を整理し、合意を積み重ねていくことを目指します。調停で相続人全員の合意が成立すれば、その内容が調書に記載され、遺産分割は終了となります。

調停でも話し合いがまとまらない場合や、そもそも話し合いができない場合には、遺産分割審判という手続きに移行します。審判では、提出された書類や行われた調査に基づいて、裁判官が一切の事情を考慮し、遺産の分割方法を決定する判断(審判)を下します。

このように、遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所の手続きを利用して、遺産分割の解決を目指していくことになります。

遺産分割の対象となる財産は何ですか?

遺産分割は、故人(被相続人)が遺した財産を複数の相続人で具体的に分ける手続きです。この対象となる財産は、基本的には相続開始時に故人が所有していた全ての財産ですが、いくつかのルールがあります。

遺産分割の対象となるための基本的な要件は以下の通りです。

①相続開始時に故人が所有していたプラスの財産であること
借金などのマイナスの財産(消極財産)は、遺産分割の直接の対象とはなりませんが、相続全体の清算において考慮されます。

②遺産分割を行う時点でも存在していること
ただし、相続開始後に相続人の一人が遺産を処分してしまった場合でも、一定の要件を満たせば、処分されなかったものとして遺産分割の対象とみなすことができる場合があります(民法906条の2)。また、特定の相続人に「相続させる」という遺言があった不動産のように、相続開始と同時に特定の相続人に帰属が確定した財産は、遺産分割の対象から外れます。

③まだ相続人の間で分割されていないこと
一部分割として既に分け方が決まった財産は、その後の遺産分割の対象にはなりません。また、預貯金債権のような性質上不可分とされるものを除き、相続開始と同時に当然に各相続人に相続分に応じて分かれる「可分債権」は、原則として遺産分割の対象となりません(例:貸付金債権など)。しかし、相続人全員の合意があれば、これらの財産も遺産分割の対象とすることができます。

具体的に遺産分割の対象となる主な財産としては、以下のようなものがあります。
・不動産(土地、建物)
・動産(家財道具、骨董品、自動車など)
・預貯金債権(銀行預金、ゆうちょ銀行の通常貯金など)
 相続開始後に入金された賃料なども、預貯金口座と一体になっている場合は対象となります。
・株式(上場・非上場問わず)
・投資信託、国債などの有価証券
・借地権など
・現金(故人が所持していた現金、遺産を売却した代金など)

遺産分割の対象にならない財産は何ですか?

すべての財産が遺産分割の対象となるわけではなく、法律上、対象から外れるものがあります。
遺産分割の対象とならない主な財産は、以下の通りです。

一身専属権
これは、故人の個人的な性質に強く結びついており、その故人のみに帰属し、他の人が引き継ぐことができない権利や義務のことです。例えば、特定の資格に基づく権利などがこれに該当する場合があります。

祭祀に関する財産 先祖を祀るための財産(系譜、祭具、墳墓など)
相続財産とは別に扱われます。これらは、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき人が承継すると定められています。仏壇なども祭祀財産に含まれるのが一般的ですが、非常に高価な純金の仏像など、財産的価値が強いと判断される場合は、遺産分割の対象となることもあります。

可分債権
金銭債権のように、その性質上、相続開始と同時に当然に各共同相続人にその相続分に応じて分割されるもの(可分債権)は、原則として遺産分割の対象とはなりません。例えば、故人が第三者に貸していたお金の返還請求権などがこれにあたります。ただし、相続人全員が同意した場合は、これらの可分債権も遺産分割の対象とすることができます。

特定の受取人が指定されている生命保険金請求権や死亡退職金
生命保険金や死亡退職金は、保険契約や会社の規定によって特定の受取人(多くの場合、配偶者や相続人)が指定されている場合、その受取人自身の固有の財産とみなされます。したがって、これらは故人の遺産には含まれず、遺産分割の対象とはなりません。ただし、受け取った保険金や退職金の額と遺産の総額とのバランスなどから、共同相続人間の公平を著しく害するといえる特別な事情がある場合には、例外的に遺産に準じて考慮されることがあります。遺族給付金や高額療養費の払戻金なども、原則として遺産分割の対象とはならないとされています。

遺産分割の時点で存在しない財産
遺産分割は、現在存在する遺産を対象に行われるのが原則です。ただし、相続開始後に相続人の一人が勝手に遺産を処分してしまったような場合でも、一定の要件を満たせば、処分されなかったものとして遺産分割の対象とみなすことができる場合があります。また、特定の相続人に「相続させる」という遺言があった財産は、相続開始と同時にその相続人に帰属することが確定するため、遺産分割の対象から外れます。

既に一部分割された財産
遺産の一部について、既に相続人間で分け方について合意が成立し、その合意に従って具体的に分割された財産は、その後の遺産分割手続きの対象にはなりません。

これらの財産は、遺産分割の手続きの中で分け合う対象にはなりませんが、相続全体の状況(債務の有無など)によっては、相続人全員でその扱いについて話し合うことが必要となる場合もあります。

遺産の調査はどのようにやればいいですか?

遺産分割を進める上で、まず故人(被相続人)の財産を正確に把握することが重要になります。しかし、調査は、基本的に相続人ご自身で行う責任があります。

主な遺産の種類ごとの調査方法は、以下のとおりです。

預貯金
◦被相続人が取引していた可能性のある金融機関に対し、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など)を提示することで、単独で残高証明書や過去の取引履歴の開示を求めることができます。被相続人の利用していた通帳やカードが見つかれば、その金融機関から調べることができます。
◦取引があったか不明な金融機関については、故人の自宅近くや勤務先周辺の金融機関に当たってみると良いでしょう。
◦解約済みの口座についても、一定期間の取引経過の開示を求めることが可能です。
◦ただし、調査嘱託のように裁判所を介した手続きでは、預貯金の存在にある程度の蓋然性が必要とされます。被相続人以外の名義の預貯金については、原則としてその名義人の同意が必要です。

不動産
◦被相続人の住所地の市区町村役場で、固定資産税の納税通知書や、故人名義の不動産を一覧にした名寄帳(なよせちょう)を取得することで、所有している不動産を把握できます。名寄帳には、固定資産税が課税されていない非課税の不動産が記載されている場合もあります。
◦これらの情報をもとに、管轄の法務局で全部事項証明書を取得すれば、より詳細な情報(所在地、面積、所有者、抵当権設定の有無など)を確認できます。
◦不動産の評価資料として、固定資産評価証明書や、相続税の申告に使われる路線価図なども入手できます。

有価証券(株式、投資信託など)
◦証券会社や銀行など、被相続人が取引していた可能性のある金融機関に照会します。取引報告書や口座残高報告書などが見つかれば手掛かりになります。
◦非上場株式の場合は、その会社に問い合わせる必要があります。

その他の財産
◦自動車は、車検証で所有者を確認できます。
◦骨董品や美術品などについては、鑑定が必要になる場合もあります。
◦貸付金などの債権については、契約書や借用書などから確認します。
◦借金などのマイナスの財産についても、借用書や督促状、故人の手帳やパソコン、あるいは信用情報機関への照会などで確認します。

遺産分割協議がまとまらず家庭裁判所での手続き(調停や審判)になった場合、裁判所は、当事者の申出(上申)に基づき、必要に応じて関係機関に調査の嘱託を行うことがあります。例えば、金融機関に預貯金口座の有無や取引履歴の報告を求めたりすることがあります。ただし、これはあくまで裁判所が必要と判断した場合であり、当事者自身ができる限りの調査を尽くしたことが前提となります。裁判所が職権で全ての遺産を網羅的に調査してくれるわけではありません。また、探索的な調査は認められない傾向があります。

調査しても遺産の存在が明らかにならなかった場合、その遺産は未分割のまま残ることになり、後日判明した時点で改めて遺産分割の対象となります。

遺産分割には期限があるのでしょうか?

遺産分割は、故人(被相続人)の遺産を共同相続人で分け合う手続きですが、遺産分割の請求そのものに、法律で定められた「〇年以内にしなければ権利が消滅する」といった厳密な期限はありません。相続が発生してから何年経っていても、遺産が未分割の状態であれば、いつでも遺産分割の協議や家庭裁判所への申立てを行うことができます。

しかし、相続開始から長期間が経過すると、遺産分割の方法や計算に影響が出る場合があります。特に、2023年4月1日に施行された民法の改正により、相続開始から10年を経過した後に遺産分割を行う場合、原則として特別受益(生前贈与など)や寄与分(故人の財産維持・増加への特別な貢献)を遺産分割の計算に反映させることができなくなりました。

これは、長期間が経過すると、生前の贈与や特別な貢献があったかどうかの証拠が見つけにくくなったり、関係者の記憶が曖昧になったりして、正確な事実関係を把握することが難しくなるためです。また、遺産が未分割のまま放置されることで、所有者不明の土地が増加するといった社会的な問題への対応という側面もあります。

改正法の施行日(2023年4月1日)の時点で既に相続開始から10年を経過していたケースについても、5年間の猶予期間が設けられています。したがって、2028年4月1日以降に遺産分割の請求や申立てが行われた場合には、相続開始から10年が経過していれば、原則として特別受益や寄与分は考慮されずに、法定相続分(民法で定められた相続割合)などに基づいて遺産が分割されることになります。

ただし、この10年の期間制限は絶対ではなく、共同相続人全員が特別受益や寄与分を遺産分割で考慮することに合意した場合は、10年を経過した後でも、それらを反映させた遺産分割を行うことが可能です。

このように、遺産分割の請求自体に期限はありませんが、期間が長く空くと特別受益や寄与分が考慮されなくなるという影響があるため、遺産分割は相続が開始した後、速やかに進めることが望ましいといえます。

遺産の一部だけを先に分割することはできますか?

はい、遺産の一部だけを先に分割することは可能です。これを「一部分割」といいます。

遺産分割は、亡くなった方(被相続人)の遺産全体について行うのが原則ですが、共同相続人全員が合意すれば、特定の財産だけを選んで先に分割することができます。

例えば、急いで現金が必要な場合に預貯金だけを先に分割したり、利用したい不動産だけを先に分割したりといったことが、相続人全員の同意があれば協議で実現できます。家庭裁判所での調停の手続においても、相続人全員の合意があれば一部分割を行うことが可能です。

家庭裁判所での審判の手続においても、裁判所が適切と判断した場合に一部分割が認められることがあります。これは、例えば一部の遺産について争いがあり、その審理に時間がかかるものの、一部分割をすることで紛争の早期解決につながるような場合などが考えられます。

ただし、一部分割を行う際は、後々のトラブルを防ぐため、どの財産を分割の対象とするのか、また残りの遺産についてはどのように扱うのか(例えば、残りの遺産はどのように分割するのか、今回受け取った財産を考慮するのかなど)を、分割協議書や調停調書などで明確にしておくことが重要です。

預金の一部分割に反対する相続人がいる場合、どうすればいいですか?

遺産の一部だけを選んで先に分割する「一部分割」という方法がありますが、これは共同相続人全員が合意した場合に限り可能となります。したがって、預貯金だけを遺産全体の分割より先に分けたいという希望に対して、共同相続人の一人でも反対する方がいれば、全員の合意によるその一部分割は成立しません。

しかし、遺産分割の手続が全て終わるのを待たずに預貯金から資金が必要となる場合のために、別の制度があります。

一つは、遺産分割が成立する前でも、各共同相続人が単独で、遺産に属する預貯金債権のうち、一定の金額(個々の預貯金債権の額の3分の1に、請求する相続人の法定相続分を乗じた額)までを金融機関から払い戻すことができる制度です(民法第909条の2)。これは遺産分割そのものではありませんが、払い戻した金額は後の遺産分割の中で遺産の一部をすでに取得したものとして扱われます。

もう一つは、遺産分割の調停や審判の手続を家庭裁判所に申し立てている場合に、預貯金債権の仮分割の仮処分を申し立てる方法です。これは、相続債務の支払いや相続人の生活費など、預貯金債権を行使する必要性があり、かつ他の相続人の利益を害さないと認められる場合に、家庭裁判所が判断して預貯金の一部または全部を仮に取得させるものです。

このように、預貯金の一部分割に全員が合意できない場合でも、状況に応じて利用できる手続があります。

相続人になるのは誰ですか?

相続人には、常に相続人となる「配偶者相続人」と、一定の順位で相続人となる「血族相続人」がいます。

①配偶者相続人
被相続人に法律上の配偶者がいる場合、その配偶者は常に相続人となります。内縁の配偶者は、原則として相続人にはなりません。

②血族相続人
血族相続人には相続できる順位があります。先順位の人がいる場合、後順位の人は相続人になりません。

第1順位:子
被相続人の子が第1順位の相続人です。
子が被相続人よりも前に亡くなっている場合は、その子(被相続人から見て孫)が代わって相続人になります(これを代襲相続といいます)。
胎児は、相続においては既に生まれたものとみなされ、相続権が認められます。

第2順位:直系尊属
子やその代襲相続人がいない場合、被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)が第2順位の相続人となります。親等の近い人が優先されます。

第3順位:兄弟姉妹
子やその代襲相続人、直系尊属もいない場合、被相続人の兄弟姉妹が第3順位の相続人となります。
兄弟姉妹が被相続人よりも前に亡くなっている場合は、その子(被相続人から見て甥、姪)が代わって相続人になります(代襲相続)。

ただし、これらの条件を満たす場合でも、相続に関する不正行為を行った者は相続権を失ったり(相続欠格)、遺留分を有する推定相続人が非行などによって家庭裁判所の手続きで相続権を剥奪されたりする場合があります(推定相続人の廃除)。

代襲相続とは何ですか?

代襲相続とは、本来相続人になるはずだった人が、相続が開始するよりも前に亡くなったり、相続に関する一定の理由(相続欠格や廃除)によって相続権を失った場合に、その人の「子」が、代わって相続人となる制度です。

これは、民法において、被相続人の財産を引き継ぐ権利を持つ人は、被相続人が亡くなった時に生存している必要がある、という原則(同時存在の原則)の例外の一つとして位置づけられています。

代襲相続が発生する主なケースは、以下のとおりです。

・相続開始前に、本来の相続人が亡くなった場合

・相続欠格:相続に関して不正な行為(例えば、被相続人の遺言書を偽造するなど)をしたために、法律上当然に相続権を失った場合

・推定相続人の廃除:遺留分を有する推定相続人(配偶者、子、直系尊属)が、被相続人に対して虐待や重大な非行を行った場合などに、家庭裁判所の手続きによって相続権を失わせる場合

これらの理由で相続権を失った人(被代襲者といいます)の直系卑属(子や孫など、下の世代の血族)が代襲相続人となります。具体的には、被相続人の子が相続権を失った場合はその子(被相続人から見て孫)が、被相続人の兄弟姉妹が相続権を失った場合はその子(被相続人から見て甥や姪)が代襲相続人となります。

ただし、相続放棄をした場合は代襲相続は発生しません。相続放棄をした方は、最初から相続人ではなかったとみなされるため、その方の子が代わって相続する、ということはありません。

代襲相続人は、本来相続人となるはずだった人(被代襲者)が受け取るはずだった相続分を引き継ぎます。代襲相続人が複数人いる場合は、その相続分を均等に分け合うことになります。

なお、養子縁組をした孫がいる場合など、養子としての相続権と孫としての代襲相続権の両方を持つケースでは、それぞれの地位に基づいて相続権を持つこともあります。

相続放棄とは何ですか?

相続放棄とは、相続人が、亡くなった方(被相続人)の財産を相続する権利をすべて拒否する意思表示のことです。

これは、相続が始まったときに、被相続人の財産(不動産、預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めた一切の権利義務)をすべて受け継ぐという包括的な承継の効果を、全面的に拒否する手続きです。

相続放棄を選ぶのは、例えば、被相続人に借金などのマイナスの財産がプラスの財産よりも多い場合などです。相続放棄をすることで、これらの負債を相続せずに済むようになります。

相続放棄が家庭裁判所に受理されると、その相続に関しては、その人は最初から相続人ではなかったものとして扱われます。その結果、プラスの財産もマイナスの財産も一切受け継がなくなります。また、相続放棄をした人が親である場合に、その子供が親に代わって相続する「代襲相続」は起こりません。相続放棄の効力は非常に強く、登記などの手続きをしていなくても、誰に対してもその効力を主張できます。

ただし、一度相続放棄をすると、原則として後から撤回することはできませんので、慎重に判断する必要があります。

相続放棄に期限はありますか?

相続放棄は、原則として、ご自身が相続人になったことを知ったときから3か月以内にしなければならないとされています。この3か月の期間内に、家庭裁判所に対して、相続放棄をする意思があることを申述するという手続きをとる必要があります。

「相続人になったことを知ったとき」というのは、①被相続人が亡くなったこと②ご自身が相続人になったことの両方を知った時点を指します。

ただし、例外的にこの3か月の期間を過ぎてからでも相続放棄が認められる場合があります。例えば、被相続人に借金などのマイナスの財産(消極財産)が全くないと信じており、そう信じることに相当な理由があった場合です。このようなケースで、後になって予想外の多額の借金などがあることを知った場合などには、「自己のために相続の開始があったことを知った時」の解釈が問題となり、期間経過後でも相続放棄が受理される可能性があります。

相続放棄をした後の遺産分割はどうなりますか?

相続放棄が家庭裁判所に受理されると、その相続に関しては、その人は最初から相続人ではなかったものとして扱われます。つまり、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなるということです。そして、遺産分割の手続きにおいては、相続放棄をした人は参加者から外れることになります。

相続放棄をした人がいる場合、その人が受け取るはずだった相続分は、他の相続人が受け取ることになります。相続放棄をした人の子や孫が代わりに相続する「代襲相続」は、相続放棄を原因としては起こりません。

もし、亡くなった方に配偶者と子がいる場合で、子が全員相続放棄をしたときは、子の代わりに孫が相続する代襲相続は起きないため、相続権は次の順位である被相続人の両親や祖父母(直系尊属)に移ります。さらに直系尊属も全員いないか相続放棄した場合は、その次の順位である被相続人の兄弟姉妹に相続権が移ることになります。このように、相続放棄によって相続人の範囲が変わることがあります。

結果として、遺産分割協議や調停といった手続きは、相続放棄をしなかった残りの相続人全員で行うことになります。相続放棄をした人の分を含めて、残った相続人の間で遺産をどのように分けるかを話し合って決定します。

遺産分割における不動産の評価方法を教えてください。

不動産の評価方法としては、まず当事者間で合意ができれば、その評価額が尊重されます。合意のためには、当事者が評価に必要な資料を提出することが求められます。

具体的な不動産の評価においては、以下のような資料が参考にされることが多いです。

・固定資産評価証明書
 市町村が固定資産税の課税のために評価した額です。

・相続税評価額
 相続税申告のために税理士などが評価した額です。

・公示地価・基準地標準価格
 国や都道府県が公表する土地の価格で、比較的実際の取引価格に近いとされます。

・不動産業者の査定書
 大手不動産業者などが算定した査定額です。

これらの資料を参考に、簡易な方法で評価額を推測することが実務上よく行われます。

土地の評価では、更地として評価するのが原則ですが、借地権や使用借権といった利用権が設定されている場合は、その権利の種類や内容に応じて評価額が減価されます。

建物は、自用の建物であれば土地の評価額と単純に合算されますが、老朽化が著しい建物で取り壊しが必要な場合は、評価がゼロに近くなることもあります。賃貸されている建物(貸家)の場合は、評価額から借家権割合(地域により異なりますがおおむね3割程度)を減価して評価されることもあります。

抵当権が設定された不動産については、被相続人の債務のための抵当権であれば、債務も相続の対象となるため、不動産の評価においては原則として考慮されません。しかし、第三者の債務のために設定されている場合は、第三者の資力がないなど特別な事情によっては、債務額を考慮した評価となる考え方もあります。

マンションやアパートなどの収益用不動産の評価においては、将来得られるであろう賃料収入などに基づいて評価する「収益還元法」も考慮されることがありますが、計算が複雑なため簡易な評価には向きません。

当事者間で評価に争いがある場合や、評価が困難な不動産がある場合は、不動産鑑定士などの専門家による鑑定を行うこともあります。鑑定費用は一般的に相続人全員で負担することになります。

不動産鑑定士による鑑定が必要になるのはどのような場合ですか?

遺産を公平に分けるためには、まずその価値を正確に把握する必要があります。不動産の評価額について、相続人の皆様の間で話し合い、合意ができれば、原則としてその合意した評価額が尊重されます。評価の話し合いでは、固定資産評価証明書や相続税評価額、不動産業者の査定書などが参考にされることが多いです。簡易な方法で評価額を推測することも行われます。

しかし、以下のような場合には、相続人の皆様だけでは評価額について合意することが難しく、不動産鑑定士による専門的な鑑定が必要となることがあります。

①相続人の間で、不動産の評価額について意見が大きく対立している場合

②不動産の性質が特殊で、評価が難しい場合
・土地に土壌汚染の疑いがある、高圧線下にある、あるいは接道していない(無道路地)など、利用や売却に制約がある土地。
・複雑な権利(借地権、使用借権など)が設定されている土地(いわゆる底地など)。
・著しく古い建物で、取り壊しが必要になる可能性がある建物。
・賃貸アパートやオフィスビルなど、収益を生む目的で使用されている不動産(専門的な計算方法である収益還元法などを用いる必要があり、簡易な評価には向かないため)。

鑑定を行うには費用がかかりますが、これらのケースでは、公平な遺産分割を実現するために専門家による客観的な評価が不可欠と判断されることがあります。

相続財産の評価時点はいつですか?

遺産分割において、相続財産の評価額を定める基準時は、原則として「遺産分割時」となります。これは、遺産分割の手続きが、相続が発生した時点(相続開始時)で共同相続人の共有となった財産を、実際に分け合う時点(遺産分割時)で存在しているものを対象とするという考え方が実務では採られているためです。家庭裁判所における遺産分割の実務でも、この立場を採用しています。

ただし、遺産分割の話し合いで、特定の相続人が被相続人から生前に特別な利益(特別受益、例えば多額の生前贈与や遺贈など)を受けていた場合や、被相続人の財産の維持または増加に特別に貢献(寄与分)していた場合を考慮して、各相続人の具体的な取得分を決めることがあります。この場合、特別受益や寄与分を計算に入れるための基礎となる相続財産(「みなし相続財産」と呼ばれます)を算出するために、「相続開始時」における遺産の評価も必要となります。

そのため、特別受益や寄与分が遺産分割で考慮されるケースでは、遺産分割の対象となる不動産などの財産について、「相続開始時」と「遺産分割時」という二つの時点での評価が必要となるのが原則です(二時点評価)。これは、相続開始から遺産分割までの間に財産の価値がどのように変動したかなどを考慮し、公平な分割を実現するためです。

もっとも、相続開始時と遺産分割時が近く、財産の価格に大きな変動がない場合は、共同相続人全員で話し合って合意すれば、相続開始時または遺産分割時のいずれか一方の時点の評価を用いることもあります。

一度合意した評価額を後から修正できますか?

一度合意した評価額の修正や撤回が全く許されないわけではありません。しかし、話し合いや調停を進めていく中で、評価額を含め様々な事項について合意を積み重ねていくことは、遺産分割を円滑に進める上で重要です。特に、調停で話し合いが進み、評価額について合意した内容を「中間合意」として調書(裁判所の記録)に記載した場合、その合意内容は尊重されるべきものと考えられます。

もし、一度合意した評価額について、後になって他の相続人の方が撤回したいと申し出た場合、その撤回が認められるかどうかは、合意が成立した経緯や、その後の事情の変化など、さまざまな状況を考慮して判断されることになります。撤回が信義則(信頼を裏切らない一般的なルール)に反すると判断されるような特別な場合には、撤回が認められないこともあります。

仮に、一度合意した評価額の撤回が認められてしまうと、評価額を確定するためには、改めて相続人の方々全員で話し合って合意を目指すか、それが難しい場合は、不動産鑑定士による鑑定を実施して専門的な評価額を求める必要が生じることがあります。鑑定には費用も時間もかかります。鑑定が必要になった原因が合意の撤回にある場合、撤回した方が鑑定費用を負担すべきと考えられることもあります。

このように、遺産分割における不動産の評価は、まずは相続人の方々全員の話し合いによる合意が大切であり、一度合意した評価額は、原則として尊重されるべきものです。

特別受益とは何ですか?

遺産分割における「特別受益」とは、被相続人(亡くなった方)が、特定の相続人に対して、相続の開始前に、遺贈(遺言による財産の無償譲渡)や生前贈与によって与えた、「相続分の前渡し」と考えられる特別な利益のことをいいます。この特別受益は、共同相続人全員の間での公平な遺産分割を実現するために考慮される制度です。

特別受益として扱われるものは、主に以下の二つです。

①遺贈
被相続人が遺言によって、相続人の一人に財産を無償で譲る場合です。これは、遺産の公平な分配という観点から、原則として特別受益とみなされます。

②特定の生前贈与
被相続人が亡くなる前に、特定の相続人に対して行った贈与のうち、特に以下のようなものが特別受益になります。

・婚姻や養子縁組のための贈与(結婚の際の持参金や住宅購入資金の援助など)。
・生計の資本としての贈与(事業を始めるための開業資金、自宅を購入するための資金、高等教育の学費など、その後の生活の基盤となるような、ある程度まとまった財産上の利益)。

ただし、親族間の扶養義務の範囲内で行われる通常の生活費の援助 や、社会的な儀礼として行われるお祝い(進学祝いや季節の贈答品など) は、原則として特別受益には含まれません。また、生命保険金も、特定の受取人が指定されている場合は、原則として遺産分割の対象とならず、特別受益としても扱われないことが多いです。

特別受益の持ち戻しとは何ですか?

相続において、特別受益を受けた人がいる場合、そうでない他の相続人と比べて取得する財産に差が生じます。この不公平を調整し、相続人全員が公平に遺産を受け取れるようにするために、「持ち戻し」という計算を行います。

具体的には、被相続人が亡くなった時に残っている財産(遺産)の価額に、その特別受益の価額を足し合わせます。この合計額を「みなし相続財産」といいます。そして、この「みなし相続財産」を基準にして、各相続人の本来の相続分(法定相続分や、遺言で指定された指定相続分)を計算します。最後に、特別受益を受けた人については、計算した相続分から、既に受け取った特別受益の価額を差し引いて、その人が実際に遺産から受け取るべき額(具体的相続分額)を算出するという流れになります。

(計算式)
①みなし相続財産 = 相続開始時に現存する遺産価額 + 特別受益の価額
②各相続人の具体的相続分 = (みなし相続財産 × その人の相続分割合) ― (その人が受けた特別受益の価額)

この持ち戻しの計算をすることで、特別受益を受けた人も含めて、被相続人の財産全体を考慮した上で、それぞれの相続人が最終的に受け取るべき財産の額が明確になります。

特別受益にならない生前贈与はありますか?

特別受益にあたる贈与とは、通常、共同相続人に対して行われた、遺贈のほか、婚姻や養子縁組のための贈与、あるいは生計の資本としての贈与を指します。しかし、全ての生前贈与が特別受益となるわけではありません。

特別受益とならない、あるいはなりにくい生前贈与としては、例えば以下のようなものが挙げられます。

扶養義務の範囲内とみられる援助
親が子に対して行う通常の学費や生活費の援助は、親族間の扶養義務の履行とみなされる範囲であれば、原則として特別受益にはあたりません,。ただし、被相続人の資産や収入、他の相続人との比較からみて、扶養義務の範囲を超えて著しく高額であると判断される場合は、特別受益となる可能性もあります。近年では、大学進学が一般的になっていることなどから、高等教育の学費であっても、他の兄弟との間に著しい差がないなど、ケースによっては特別受益と扱われないこともあります,。

社会的な儀礼の範囲内のもの
年末年始の小遣いや祝い金、病気見舞いなど、親族間での一時的あるいは通常の援助は、特別受益としては扱われないことが多いです。また、婚姻や養子縁組に際しての費用(持参金、支度金、挙式費用など)も、客観的に見て被相続人の資力や社会的地位に照らし、共同相続人間の公平を害するほどの高額でない場合は、特別受益とされない傾向にあります。

相続人全員に同程度なされている贈与
被相続人が、特定の相続人だけでなく、共同相続人全員に対して、それぞれ同程度の贈与を行っているような場合は、被相続人が相続人間の公平を考慮していたと推測されるため、特別受益とは扱われないことがあります。

特別受益にあたるかどうかは、贈与の性質や金額、被相続人の資力や他の相続人との公平性など、個別の事情によって判断が異なります。

学費の援助は特別受益になりますか?

一般的に、親が子に対して行う学費の援助は、民法上の扶養義務の一環として、または親子間の協力扶助義務の範囲内で行われる通常の援助と考えられています。そのため、原則として遺産分割の際に特別受益(遺産の前渡し)としては扱われません。

しかし、例外的に、その援助の金額が「あまりに高額」であると評価される場合には、特別受益と認められる可能性があります。特に、医学部や歯学部など、入学金や授業料、施設費などが非常に高額になる高等教育のための費用については、多額の援助が子の将来の職業に直結する「生計の資本としての贈与」と評価され、特別受益と認められる可能性が高いと考えられています。私立大学の医学部などの学費は、国公立大学の学費と比較して高額なため、特別受益と認められやすい傾向にあります。

学費の援助が特別受益に該当するかどうかは、援助された金額やその性質、遺産全体の金額に占める割合、さらには被相続人や援助を受けた側の経済状況、他の相続人への援助の有無など、個々の具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。単に他のきょうだいと進学先や学費に差があるというだけでは、直ちに特別受益とはなりません。”

被相続人の建物に無償で住んでいたことは特別受益になりますか?

原則として特別受益には当たらないと考えられています。

その理由は、被相続人の建物に無償で住むという行為は、家族に対する扶養や援助としての性格が強く、恩恵的な要素によるものと考えられるためです。遺産の前渡し、という特別受益の性質に当てはまりにくいと言えます。

たとえ、被相続人と同居せずにその建物に住んでいた場合で、賃料相当額に価値があるのではないか、という主張がされたとしても、原則として特別受益とは認められません。建物の無償での使用は、第三者への対抗力もなく、明け渡しも比較的容易であることから、経済的な価値はないに等しいと評価されるためです。また、もし居住していた期間の賃料相当額全てを特別受益とみなすと、その額が遺産総額と比べて非常に高額になる場合もあり、これを特別受益と認めるのは遺産分割の公平の観点から相当ではない、という考え方もあります。

したがって、被相続人の建物に無償で住んでいたという事実だけをもって、その相続人が特別受益を受けた、と判断されることは基本的にありません

被相続人の土地を無償で借り、自宅を建てたことは特別受益になりますか?

相続人が被相続人所有の土地上に建物を建てて所有し、被相続人に対して土地の賃料(地代)を支払っていなかった、すなわち、被相続人の土地を無償で使用していた場合は、原則として、使用借権に相当する額の特別受益として認められます。

これは、金銭や不動産自体の贈与とは異なりますが、相続人(当事者)が建物を所有し、今後も所有し続けられるための基盤となる土地を無償で使用できるという点に財産的価値があると評価されるためです。特別受益額は、使用借権相当額となります(木造戸建てであれば、土地の評価額の1割程度)。

ただし、調停や審判の実務においては、被相続人の土地を無償で使用した相続人が、最終的にその土地を遺産分割により単独で取得する場合が多く、その際には、使用借権の負担による減額を行わず、土地については更地価格で評価するという方法が取られることが多いです。これは、使用借権相当額を特別受益として持ち戻して計算すると、結局、更地価格で評価した場合と同じ結果になるという考え方に基づいています。

死亡保険金は特別受益になりますか?

死亡保険金請求権は、保険契約によって指定された保険金受取人固有の権利であり、相続財産とは性質が異なります。したがって、原則として、死亡保険金は遺産分割の対象とはならず、特別受益にはあたりません。

ただし、例外的なケースとして、保険金の額が遺産総額との対比で非常に高額であるなど、他の共同相続人との間で著しい不公平が生じるといえるような「特段の事情」がある場合には、公平の観点から、特別受益に準じて、遺産に持ち戻して計算の対象とされることがあります。

この「特段の事情」があるかどうかは、保険金額と遺産総額の比率のほか、受取人である相続人と被相続人との関係(同居の有無、介護への貢献度など)、各相続人の生活実態といった様々な事情を総合的に考慮して判断されます。

遺言で取得した財産は特別受益になりますか?

相続における特別受益には、被相続人からの生前贈与だけでなく、「遺贈(いぞう)」(遺言によって特定の人に財産を贈与すること)も含まれます 。したがって、遺言によって財産を取得した場合、その財産は特別受益にあたります。

相続人の配偶者や子供に対する生前贈与も特別受益になりますか?

特別受益は、遺贈や生前贈与を受けた「相続人自身」が対象となります。したがって、相続人ではない親族が被相続人から生前贈与を受けたとしても、原則として、相続人自身の特別受益とはみなされません。

しかし、例外的なケースとして、相続人の配偶者や子供に対する生前贈与であっても、実質的に相続人に対する生前贈与と同視できるような場合には、相続人の特別受益となる可能性があると考えられています。これは、相続人が受け取るべき利益を、その親族が代わりに受け取ったと考えられるような場合です。

例えば、被相続人が相続人の子の大学の学費を負担した場合や、相続人の配偶者が被相続人所有の土地を無償で使用していた場合などが、このような「実質的に相続人に対する生前贈与と同視できるか」という観点から議論の対象となることがあります。

ただし、どのような場合に「実質的に相続人に対する生前贈与と同視できる」と判断されるかは、単純ではありません。その生前贈与がされた目的、被相続人の経済状況、生前贈与を受けた親族やその相続人の生活状況、他の相続人との関係性など、個別の具体的な事情を考慮して判断されます。例えば、子の学費負担についても、被相続人の学歴や経済力、他の兄弟への学費負担状況などによっては、特別受益とされない場合もあります。

特別受益の主張・立証はどのようにしたらいいですか?

特別受益だと主張するには、遺産分割の話し合いや、家庭裁判所での調停・審判の手続きの中で、「特定の共同相続人が、いつ、誰から、どのような目的で、いくらの財産を受け取ったのか」を具体的に明らかにして主張する必要があります。

そして、その主張を裏付けるための証拠資料を提出することが重要です。証拠となり得るものとしては、以下のようなものが考えられます。

・被相続人の預貯金口座の取引履歴、出金伝票、通帳など、財産の移動がわかるもの

・不動産登記簿謄本、贈与契約書など、名義変更や贈与の事実がわかるもの

・当時の状況や生前贈与の目的(生計の資本のためなど)を示す書類(手紙、日記、領収書など)

・関係者の陳述書

これらの資料をもとに、生前贈与があった事実、そしてそれが特別受益にあたるような目的で行われたことを具体的に主張・立証していくことになります。

特別受益の持戻しの免除とは何ですか?

特別受益の持戻しの免除とは、特別受益の例外として、相続財産に持ち戻されないことをいいます。

被相続人が、「特定の相続人が受けた遺贈や生前贈与について、遺産分割の際に相続財産に加算しなくてよい」という意思表示をしていたと認められる場合には、その意思が尊重され、特別受益として扱われない(みなし相続財産に加算されない)ことになります。これは、相続人間の公平よりも、被相続人の「特定の相続人に、相続分とは別に、この財産を与えたい」という特別な意思を優先させるものです。

特別受益の持戻し免除の意思表示が認められるのはどのような場合ですか?

特別受益の持戻し免除の意思表示は、遺言などの書面で明確に示されている場合はもちろん、被相続人とその相続人との関係や、生前の様々な事情から、黙示的に(明確な言葉や書面ではないが)そのような意思があったと推認される場合にも認められることがあります。

黙示の意思表示が認められるかどうかは、贈与が行われた動機や目的、贈与を受けた相続人と被相続人との関係、他の相続人との関係、当時の生活状況など、一切の事情を総合的に考慮して判断されます。

例えば、配偶者や、経済的に独立して生活を送ることが難しい子が、被相続人から生活の支えとなるような高額な現金などの贈与を受けていた場合には、被相続人がその相続人の今後の生活のために贈与したのであり、遺産分割の際に持ち戻しを不要とする意思があったと認められることがあります。

一方で、相続人が被相続人所有の土地を無償で使用していたようなケースでは、原則として持戻し免除の意思表示は認められにくい傾向にあります。遺言による遺贈の場合も、生前贈与と比べてより明確な意思表示が必要とされることがあります。

また、平成30年の相続法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用の建物やその敷地を生前贈与または遺贈した場合には、原則として持戻し免除の意思表示があったものと推定されることになりました。これは、長年の貢献に報い、残された配偶者の住居と今後の生活を保障するための規定です。

寄与分とは何ですか?

寄与分とは、共同相続人の中に、亡くなられた方(被相続人)の財産を維持したり増やしたりすることに、特別に貢献した方がいた場合に、その貢献度を遺産分割に反映させる制度です。この制度は、相続人間の実質的な公平を図るために設けられています。

どのような貢献が「特別の寄与」として認められるかというと、単に家族として通常期待されるような扶養や協力義務の範囲内の行為ではなく、被相続人の財産の維持または増加に貢献し、それが通常期待される程度を超える特別な貢献である必要があります。例えば、被相続人の家業に無償で長年従事したり(労務提供型)、被相続人の借金を肩代わりして払ったり(財産給付型)、あるいは重い病気や高齢で介護が必要な被相続人に対して、専門の介護者に依頼する代わりに無償で集中的な療養看護を行ったり(療養看護型)といった行為がこれに当たり得ます。こうした特別な貢献によって、もしその貢献がなければ支出されるはずだった費用(例えば、ヘルパーに支払う費用など)が免れたり、財産価値が増加したりした場合に、その貢献が評価されます。

寄与分が認められた場合、その貢献をした相続人は、法定された相続分や遺言で指定された相続分に、貢献度に応じて算定された寄与分の額を加えたものが、その方の最終的な相続分となります。これにより、遺産分割において、その方の取得分が多くなる形で公平が図られることになります。

寄与分の具体的な金額については、まず相続人全員での話し合い(協議)で決めます。もし相続人間での協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に「寄与分を定める処分」の申立てをして、裁判所の判断を仰ぐことになります。家庭裁判所では、寄与行為の時期、方法、程度、遺産の額など、一切の事情を考慮して寄与分が定められます。

なお、法改正により、相続開始から10年を経過した後に遺産分割をしようとする場合は、原則として寄与分の主張ができなくなるという時的制限が設けられています。この点には注意が必要です。

寄与分はどのような場合に認められますか?

寄与分が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

①特別の貢献
単なる親族間の扶養義務の範囲を超えた、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献であること

②財産の維持または増加への貢献(因果関係)
その貢献によって相続財産が実際に維持または増加した、あるいは減少を防いだという財産上の効果があること。精神的な援助や協力だけでは認められません。

③無償性
貢献が無報酬、または、これに近い状態で行われたこと

なお、具体的な「特別の貢献」にあたりうる寄与行為の類型としては、次のようなものがあります。

・家業従事型
被相続人が営む農業や事業に、無報酬またはそれに近い低い報酬で従事し、財産の維持・増加に貢献した場合です。継続性や専従性(片手間ではない、かなりの負担を要するもの)なども考慮されます。

・金銭等出資型
被相続人の不動産の購入資金や、病気治療のための医療費、施設入所費用などを負担した場合です。財産を給付する行為なので、継続性や専従性は必ずしも必要ありません。

・療養看護型
病気などで療養中の被相続人を、無報酬またはそれに近い低い報酬で献身的に介護・看護した場合です。単なる同居による家事援助に留まらない、被相続人が療養看護を必要とする病状であったことや、無償性、継続性などが要件となります。介護保険制度における要介護度などが参考になる場合もあります。

・扶養型
被相続人を経済的に扶養し、本来かかるはずだった生活費などの出費を免れさせた場合です。扶養の必要性や、通常期待される範囲を超える貢献であることなどが要件となります。

・財産管理型
被相続人の財産(不動産など)を、無報酬またはそれに近い低い報酬で管理した場合です。財産管理の必要性や、特別の貢献、継続性などが要件となります。

これらの寄与行為の内容、期間、程度、相続財産の額など、様々な事情を考慮して寄与分が認められるかどうかが判断されます。

寄与分の主張・立証はどのようにしたらいいですか?

相続における寄与分を遺産分割で考慮してもらうためには、ご自身で具体的な貢献を主張し、それを証明する資料を提出する必要があります。

遺産分割事件は、家庭裁判所の手続きではありますが、実質的には当事者自身が責任を持って、自分に有利な事実を主張し、それを裏付ける証拠を提出する「主張・立証」を行うという考え方で運用されています。これは、特別受益(生前贈与など)の主張についても同様です。

したがって、寄与分があると主張する相続人が、ご自身の貢献について具体的に主張し、その主張を証明するための資料を提出する責任があります。これを「主張立証責任」といいます。

具体的に主張すべき内容は、単に「貢献した」というだけでは足りません。
・どのような貢献をしたのか(例:病気の被相続人の介護をした、家業を手伝ったなど)
・その貢献が、親族として通常期待される範囲を超えた「特別の寄与」にあたる理由
・その貢献によって、被相続人の財産が減るのを防いだり、増やしたりといった「財産上の効果」がどのように生じ、それが貢献とどのような「因果関係」にあるのか

などを、他の相続人にも分かるように具体的に説明する必要があります。

そして、これらの主張を裏付けるために、以下のような証拠資料を提出することが求められます。
・介護の記録(頻度、内容、期間など)
・家業への従事状況を示す資料(労働時間、内容など)
・被相続人の財産の維持や増加に貢献したことを示す資料(経費の領収書、収支に関する記録など)
・被相続人の病状や介護の必要性を示す診断書や介護保険の認定資料など
・ご自身の貢献内容や被相続人との関係性について記した陳述書

家庭裁判所によっては、寄与分の主張を整理するための「寄与分主張整理表」やその記載例といった書式を用意しており、これらのツールを活用して主張内容を整理することが期待されています。調停委員会は、提出された主張や証拠資料に基づいて、寄与分が認められるかどうか、またその程度について検討し、調整を行います。

なお、寄与分があると主張する側が具体的な主張や証拠資料の提出を行わない場合、調停委員会や裁判官が職権で寄与分を積極的に調査したり、認めたりすることは原則としてありません。

親の家業を手伝っていた場合、寄与分は認められますか?

家業に従事する貢献(家業従事型)は、この「特別な貢献」の一つとして認められる類型の一つです。
ただし、単に家業を手伝っていただけで自動的に認められるわけではありません。寄与分として認められるためには、主に以下の要件を満たす必要があります。

①特別の貢献であること
親子という身分関係に基づいて通常期待される範囲を超えた貢献である必要があります。単なる家族としての手伝いを超えていると評価されることが重要です。

②無償またはこれに近いこと
家業に従事した期間、無給であったか、あるいは労働の内容や期間に比べて著しく低い給与しかもらっていなかったこと。生活費を受け取っていた場合でも、それが貢献に見合わないほど低ければ無償性が認められることがあります。

③継続性があること
一時的な手伝いではなく、ある程度の長い期間、継続して家業に従事していたことが必要です。

④専従性(高い負担度)があること
片手間の手伝いではなく、かなりの時間や労力を費やし、家業に専念していた、あるいはそれに近い状況であったこと。完全にその仕事だけをしている必要はありませんが、相応の負担があったことが求められます。

⑤相続財産の維持または増加に貢献したこと
その家業への従事が、実際に被相続人の財産を減らさないようにしたり、増やしたりする効果(財産上の効果)をもたらしたこと。家業の収益向上や財産の維持に直接的または間接的に貢献したことが必要です。精神的な援助や協力だけでは認められません。

親の個人事業ではなく、会社組織の場合、原則として会社の経営への貢献は「被相続人の事業に関する労務の提供」には直接当たらないため、寄与分は認められません。ただし、会社の実質が被相続人の個人企業に近く、貢献と被相続人の資産確保に明確な関連がある場合は例外的に認められる余地があります。

これらの要件は、家業の内容、貢献した期間、程度、受け取っていた報酬などを考慮して総合的に判断されます。寄与分が認められる場合の金額は、通常であれば得られたであろう収入から生活費などを差し引いて計算されたり、遺産全体に対する貢献の割合で判断されたりします。

認知症の親を介護していた場合、寄与分になりますか?

認知症の親御さんの介護は、この「特別の貢献」の一つとして、「療養看護型」の寄与分として認められる可能性があります。

寄与分が認められるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。 まず、行った介護が、親族としての通常の扶養義務や協力義務の範囲を超えた「特別の」貢献であることが必要です。単に同居していたというだけでなく、以下の点が考慮されます。

・療養看護の必要性
親御さんが実際に介護や看護を必要とする病状(状況)にあったか。例えば、介護保険の要介護認定を受けている場合、要介護度2以上が一つの目安となります。診断書や介護保険の認定資料などが証拠となり得ます。

・継続性
その介護が、一定以上の期間にわたって続けられたこと。おおむね1年以上が目安とされています。

・専従性
片手間の手伝いではなく、ご自身の本来の仕事や生活に影響を与えるほどのかなりの負担を伴う介護であったこと。

次に、その貢献(介護)に対して、親御さんから相当の対価(給料など)を受け取っていないこと(無償性)が必要です。

そして、その貢献によって、本来かかるはずだった介護費用(職業看護人を雇う費用や施設入所費用など)の支出を免れるといった、親御さんの財産が減少することを防いだり、増加させたりといった具体的な「財産上の効果」があり、その効果との間に結びつき(因果関係)があることが必要です。単に精神的な支えや協力を行っただけでは、通常、寄与分としては評価されません。

寄与分が認められるかどうか、また具体的にいくら認められるかは、上記の要件を満たすかどうかに加え、介護の時期、方法、程度、親御さんの財産の額など、一切の事情を総合的に考慮して判断されます。

親の不動産を管理していた場合、寄与分になりますか?

不動産の管理は、この寄与分の一つである「財産管理型」の寄与分として認められる可能性があります。

ただし、単に親族として手伝う程度の管理では、寄与分として認められることは難しいです。寄与分が認められるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

①「特別の貢献」であること
親族としての関係に基づいて通常期待される範囲を超えた貢献である必要があります。単なるごく日常的な手伝いを超えていると評価されることが求められます。
例えば、被相続人が高齢や病気などで管理が難しかった場合に、あなたが代わって管理を行ったなど、財産管理の必要性があったこと、賃貸物件の管理(賃料の回収、修繕の手配、立ち退き交渉など)や、広大な土地の維持管理(草刈り、清掃など)、あるいは不動産に関する訴訟対応 といった、ある程度専門的・継続的な内容の管理を行った場合などが該当し得ます。一方、被相続人の家の庭の雑草をたまに刈る程度では、特別な貢献とは認められにくいでしょう。

②「無償性」があること
その管理行為に対して、相当な対価(報酬)を受け取っていなかったこと。無報酬またはそれに近い低い報酬で行われたことが必要です。

③「継続性」があること
ある程度の期間、継続して財産管理を行ったこと。一時的な管理では認められにくい傾向があります。

④「財産上の効果」があること(因果関係) 
あなたの管理によって、被相続人の財産が減らずに済んだ(維持された)り、あるいは増加したりといった、具体的な財産上の効果が生じたこと。例えば、賃料収入が確保された、不動産の劣化を防げた、訴訟で財産を失わずに済んだ、などが考えられます。精神的な援助や協力だけでは、残念ながら寄与分は認められません,。

これらの貢献を主張し、寄与分として認めてもらうためには、客観的な資料を提出することが重要です。管理の内容や期間がわかる記録(例えば、管理日誌、作業記録)、管理によって生じた収益(賃料収入など)に関する資料(通帳の写し、収支計算書など)、負担した経費に関する領収書、不動産の状態を示す写真などが役立ちます。

ただし、客観的な資料が十分でない場合でも、遺産分割の話し合いや家庭裁判所での手続きの中で、関係者からの聴き取りなどを通して、実際の貢献内容やその負担、被相続人の財産状況などを総合的に判断し、寄与分が認められる可能性もあります。

寄与分はどのように算定したらいいですか?

寄与分の算定は、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額、その他一切の事情を考慮して決められます。単に貢献の内容だけで決まるのではなく、遺産全体の状況なども影響します。

主な貢献の類型ごとの算定の考え方は、以下のとおりです。

家業従事型
親御さんが経営する家業に無報酬またはそれに近い状態で従事し、事業に貢献した場合です。この場合の算定では、もしその仕事に専従していたとしたら通常得られたであろう給与額を基準とし、そこから生活費など被相続人から受け取っていた利益分を差し引き、貢献した期間を乗じて計算する、という方法が一般的です。ただし、農業などではこの計算が難しいため、遺産全体に対する貢献の割合で算定することもあります。

療養看護型
病気などで療養が必要な親御さんの看護や介護を無報酬またはこれに近い状態で行った場合です。算定では、本来であれば専門の看護人や施設に支払う必要があったであろう費用を基準に考えます。ただし、その基準額がそのまま認められるのではなく、親族としての扶養義務などを考慮した裁量割合(通常0.5~0.8程度)を乗じて調整されることが多いです。介護保険制度の要介護度も、必要な介護の程度を示す目安として考慮されることがあります。

金銭等出資型
親御さんのために不動産の購入資金、医療費、施設費用などを負担したり、親御さんの事業に金銭を出資したりした場合です。この場合は、実際に支出または給付した金額を基準とし、無償性などを考慮して判断されます。

扶養型
親御さんを継続的に扶養し、親御さん本来の生活費の出費を免れさせた場合です。算定では、扶養に要した費用に関する資料(家計簿、領収書、通帳など)を参考に、それが親族として通常期待される範囲を超えた特別な貢献であったかなどを考慮して判断されます。

財産管理型
親御さんの不動産などの財産を無報酬またはこれに近い状態で管理し、財産維持に貢献した場合です。算定では、もし第三者に管理を委託した場合にかかるであろう報酬額などを基準に、無償性などを考慮して判断されることが一般的です。

いずれの場合も、貢献の内容や程度、無償性、そしてそれが実際に親御さんの財産を維持または増加させることに繋がったか(財産上の効果)が重要な判断要素となります。貢献を証明するためには、介護日誌、領収書、通帳の記録、関係者の証言など、客観的な資料が役に立ちます。

相続開始後の貢献は寄与分になりますか?

寄与分は、被相続人が亡くなるまでの、被相続人やその財産に対する貢献を評価する制度です。したがって、相続開始後の貢献、例えば、相続した財産の管理や、そこから生じる費用(税金など)の負担などは、寄与分としては認められません。

ただし、相続開始後に相続財産の管理費用などを立て替えて支払った場合などは、遺産分割の手続きの中で、相続人全員の合意があれば、遺産分割の方法を話し合う際に考慮されることはあります。しかし、これは寄与分としてではなく、相続財産に関する費用負担として別途調整されるものです。

寄与分が認められにくいのはどのような場合ですか?

寄与分として認められにくいのは、主に以下のような場合です。

「特別の貢献」とは言えない場合
親族として通常期待される範囲内での世話や手伝いは、「特別の貢献」とは認められにくい傾向があります。例えば、ごく日常的な買い物や掃除の手伝い、病状が軽く特別な介護が必要ではなかった場合の看病などは、特別な貢献とは評価されにくいと考えられます。また、精神的な支えや協力だけでは、残念ながら寄与分は認められません。

「無償性」がない場合
その貢献に対して、親御さんから十分な給料や生活費、あるいは不動産の無償使用といった経済的な利益を十分に受け取っていた場合、無償性が認められず、寄与分としては考慮されにくくなります。

「財産上の効果」が認められない場合
あなたの貢献が、親御さんの財産を維持したり増やしたりすることに直接的に繋がらなかった場合です。例えば、親御さんが経営する会社の事業への貢献は、個人への貢献ではなく会社への貢献とみなされやすく、直接的な財産上の効果と認められにくい場合があります(例外的に認められる場合もあります)。

相続開始「後」の行為
親御さんが亡くなられた後に、遺産を管理したり、葬儀費用を立て替えたり、相続に関する手続きを手伝ったりする行為は、基本的に寄与分という制度の対象には含まれません。これらは遺産分割とは別の問題として扱われることが多いです。

他の相続人の遺留分を侵害する場合
寄与分として認められる金額が、他の相続人の遺留分(最低限相続できる権利)を大きく侵害するような場合、その主張が認められにくいことがあります。

相続人の配偶者の貢献も寄与分になりますか?

相続人の配偶者の方は、相続人ではないため、原則として寄与分を直接主張することはできません。

しかし、平成30年の相続法改正により、「特別の寄与」という新しい制度が新設されました。この制度は、相続人以外の被相続人の親族が、被相続人に対して療養看護などの貢献を行った場合、その貢献に応じた額の金銭(これを特別寄与料といいます)を相続人に対して請求することができるというものです。

「特別の寄与」の規定が適用されるのは、令和元年7月1日以後に開始した相続についてです。

この特別寄与料を請求できるのは、相続人以外の被相続人の親族(被相続人の六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族)です。相続放棄をした方や相続権を失った方は請求できません。

特別の寄与行為としては、「療養看護その他の労務の提供」が想定されており、寄与分における療養看護型や家業従事型などが含まれます。例えば、相続人の配偶者が被相続人の療養看護に努めた場合などがこれにあたります。

特別寄与料の額は、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額、その他一切の事情を考慮して家庭裁判所が定めます。特別の寄与が認められても、特別寄与者(相続人の配偶者など)は遺産分割の当事者ではないため、被相続人の遺産から直接金銭を取得するのではなく、相続人から金銭の支払いを受けることになります。

「特別寄与料」を請求する手続きを教えてください。

特別寄与料を請求する手続きは、以下のようになります。

まず、特別の貢献をした方(特別寄与者)と相続人との間で、特別寄与料の支払いについて話し合いを行います(協議)。

協議がまとまらない場合や、話し合いができない場合には、特別寄与者は、家庭裁判所に対して「特別の寄与に関する処分の調停または審判」を申し立てることができます。

この家庭裁判所への申立ては、相続が開始したこと、および、相続人が誰であるかを知った時から6か月以内に行う必要があります。または、相続が開始した時から1年以内という期限もあり、いずれか早い方の期限を過ぎると請求できなくなるため、注意が必要です。

家庭裁判所は、申立てを受けると、特別の貢献があった時期、方法、程度、相続財産の額、その他一切の事情を考慮して、支払われるべき特別寄与料の額を判断し、定められることになります。貢献の内容としては、療養看護や家業への従事などが想定されていますが、財産管理なども含まれる場合があります。

これらの貢献が、ご親族として通常期待される程度を超えた、特別な貢献であると認められる必要があります。また、その貢献が無償で行われ、被相続人の財産が維持されたり増えたりしたこと、そしてそれらの間に因果関係があることなども考慮されます。

特別寄与料の支払いが認められた場合、貢献をした方は相続人ではないため、被相続人の遺産を直接取得するのではなく、特別寄与料の支払いを命じられた相続人ご自身の財産から金銭の支払いを受けることになります。家庭裁判所での特別の寄与に関する手続きは、遺産分割の手続きとは独立して進めることができます。

配偶者居住権とは何ですか?

配偶者居住権は、令和元年(2019年)7月1日以降に開始した相続から適用される新しい権利です。これは、残された配偶者(亡くなった方の夫または妻)が、住み慣れた自宅での生活を続けやすくするために創設されました。

これまでの遺産分割では、自宅の所有権を取得しようとすると、自宅の評価額が高いために、預貯金などの他の財産を十分に受け取れないという問題がありました。また、自宅の所有権を他の相続人が取得した場合、配偶者がその自宅に住み続けるには、新たに賃貸借契約を結ぶなどの必要があり、不安定になる可能性がありました。

そこで、配偶者居住権の制度が設けられ、配偶者は、自宅の所有権ではなく、その建物に無償で住み続ける権利(使用および収益をする権利)を取得できるようになりました。これにより、配偶者は自宅に住み続けながら、自宅の所有権の価値に対応する分以外の遺産(預貯金など)も相続によって取得し、老後の生活資金を確保しやすくなります。

配偶者居住権が成立するためには、いくつかの条件があります。まず、相続開始時に、被相続人(亡くなった方)が所有していた建物に、その配偶者が無償で居住していたことが必要です。内縁の配偶者は含まれません。また、その建物が被相続人の単独所有であるか、配偶者と被相続人の共有である必要があります(第三者を含む共有の場合は成立しません)。これらの条件を満たした上で、遺産分割の話し合い(協議)や家庭裁判所の審判、または遺言や死因贈与によって、配偶者が配偶者居住権を取得すると決められる必要があります。

配偶者居住権を取得すると、配偶者は、原則として亡くなるまで、その建物に無償で住み続けることができます。ただし、遺産分割の話し合いや遺言で、終身以外の期間を定めることも可能です。配偶者居住権は、他人に譲渡することはできません。

配偶者居住権を第三者に対しても主張できるようにするためには、登記が必要です。建物の所有者は、配偶者に対して、この登記を備えさせる義務を負います。

なお、配偶者居住権とは別に、相続開始から一定期間(最低6か月)自宅に無償で住むことができる「配偶者短期居住権」という権利もありますが、これは遺産分割の手続きや相続分には影響しない一時的な権利です。

配偶者居住権を取得するメリットは何ですか?

配偶者居住権を取得する主なメリットは、以下のとおりです。

①住み慣れた自宅での生活を続けられる
被相続人の建物に住んでいた配偶者が、その建物に住み続ける権利を確保できます。原則として、その権利の存続期間は配偶者の終身の間とされます。

②生活のための財産を確保しやすくなる
建物の所有権を取得する場合と比較して、配偶者居住権は低廉な価額で評価されます。これにより、建物の所有権を取得しない代わりに、預貯金などの他の遺産をより多く取得し、その後の生活資金に充てやすくなります。遺産分割において、配偶者は自身の具体的相続分から配偶者居住権の財産評価額を控除した残額について、居住建物以外の遺産を取得できようになります。

③建物の所有者が変わっても住み続けられる(登記による対抗力)
配偶者居住権を登記することで、たとえその後に建物の所有者が第三者に変わったとしても、その第三者に対して居住権を主張し、住み続けることができます。

配偶者居住権の評価額はどのように算定したらいいですか?

配偶者居住権の評価方法にはいくつかの考え方がありますが、家庭裁判所の実務では、簡易な評価方法が用いられることが多いです。これは、居住建物と敷地の現在の価額から、配偶者居住権の負担が付いた所有権(負担付建物所有権と負担付土地所有権等)の価額を差し引いて算出する方法です。

具体的には、以下の計算式で表されます。

配偶者居住権の価額 = 建物敷地の現在価額 - 配偶者居住権付所有権の価額

さらに、「配偶者居住権付所有権の価額」は、以下の計算式で求められます。

負担付建物所有権の価額 = 固定資産税評価額 × 〔(法定耐用年数 - (経過年数 + 存続年数)) ÷ (法定耐用年数 - 経過年数)〕 × ライプニッツ係数

負担付土地所有権等の価額 = 敷地の固定資産税評価額ないし時価 × ライプニッツ係数

「法定耐用年数」は建物の構造などによって定められており(例:木造住宅は22年、鉄筋コンクリート造は47年)、「存続年数」は配偶者居住権が続く期間を指します。終身の場合は、簡易生命表の平均余命の値が使用されます。「ライプニッツ係数」は、将来の価値を現在の価値に換算するための係数で、法定利率(現在は3%)に基づいて定められた数値が使われます。

遺言で配偶者居住権を取得した場合、特別受益として扱われますか?

遺言(遺贈)によって配偶者居住権を取得された場合、原則として「特別受益」として扱われます。配偶者居住権も財産的な価値があるため、遺贈によって取得した場合は特別受益として考慮されます。

ただし、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、遺言によって配偶者居住権が遺贈された場合、被相続人(遺言をした方)は、その遺贈について特別受益として扱わない(つまり、遺産分割の際に持ち戻して計算に入れない)という意思表示をしたものと推定すると定められています。この規定は、配偶者居住権の遺贈についても準用されます。

そのため、婚姻期間が20年以上の夫婦で、配偶者居住権を遺言により取得された場合には、特別受益として計算上の持ち戻しをする必要がない、つまり特別受益として遺産分割に影響を与えないことが多いということになります。

遺産分割調停の流れを教えてください。

遺産分割調停は、相続人全員で被相続人の遺産をどのように分けるかについて話し合い、合意を目指す手続きです。この手続きは、家庭裁判所の調停委員会が間に入り、中立な立場で話し合いをサポートしながら進められます。

遺産分割調停を開始するには、まず家庭裁判所に申立てを行います。申立書には、相続関係や遺産の内容などの必要事項を記載し、戸籍謄本や遺産目録などの関係書類とともに家庭裁判所に提出します。

申立てが受理されると、家庭裁判所によって調停期日が指定され、相続人全員に通知されます。調停期日では、当事者(相続人など)が家庭裁判所に出頭し、調停委員会を介して、それぞれの希望や意見を述べ、遺産分割の内容について話し合いを行います。遠隔地に住んでいる場合など、個別の事情によっては、電話会議システムなどを利用して期日に参加することも可能です。

調停における話し合いは、通常、以下のような段階を経て進められます。

①相続人の範囲と遺産の範囲の確定
法律上の相続人が誰か、そして遺産に含まれる財産や負債は何かを確定します。

②遺産の評価
遺産を構成する個々の財産(不動産、預貯金、株式など)の価値を評価します。

③特別受益・寄与分の確定
被相続人から生前に受けた特別な利益(特別受益)や、被相続人の財産の維持または増加に対する特別な貢献(寄与分)の有無やその評価額を検討します。

④具体的な分割方法の検討
これらの確定した事項(相続人の範囲、遺産の範囲・評価、特別受益・寄与分)に基づき、各相続人がどの遺産をどのような方法で取得するか、具体的な遺産の分け方を話し合います。

話し合いの結果、相続人全員が遺産分割の内容について合意に至った場合、調停は成立します。合意された内容は調停調書に記録され、この調停調書は確定した審判と同一の効力を持ちます。

一方、話し合いを重ねても相続人全員の合意に至らない場合は、調停不成立として手続きが終了します。調停が不成立となった場合、遺産分割調停の申立てがあった時に家庭裁判所による審判の申立てがあったものとみなされ、自動的に審判手続きに移行します。また、調停が成立しない場合に、家庭裁判所が当事者双方のために公平であると判断した解決案を「調停に代わる審判」として示すことがあり、これに対して当事者から異議の申立てがなければ、確定した審判と同じ効力を持ちます。なお、申立人は、調停の手続きが終了するまでの間であれば、申立てを取り下げることも可能です。

調停委員はどういう人ですか?

家庭裁判所で行われる遺産分割調停には、調停委員会が関与します。この調停委員会は、1名の裁判官または家事調停官と、2名以上の調停委員で構成されています。

調停委員は、遺産分割調停において重要な役割を担う存在です。事件の前面に立ち、当事者である相続人の皆さんの話を懇切丁寧に聞き取り、適切な解決の導き手となって、話合いによる解決を目指します。

遺産分割事件は、亡くなった方の財産を分けるという経済的な側面に加えて、親族間の紛争という側面も持ち合わせています。このような事件では、当事者ご自身が主張を行い、それを裏付ける証拠資料を提出することが基本となりますが(当事者主義的運用)、調停は話合いによる解決を目指す手続きであるため、調停委員会(調停委員)は当事者主義的な運用を柔軟に捉え、一方の当事者だけでなく、相手方に対しても主張の根拠となる証拠資料の提出を促したり、説得を行ったりして、当事者間の調整を図ります。

調停委員は、当事者の皆さんが直面する問題に頭を悩ませながら、裁判官や裁判所書記官、家裁調査官、事務官といった他の裁判所職員とも協働し、日常的な議論を通じて事件の解決に向けた工夫をしています。

遺産分割調停が不成立になった場合、その後の手続きはどうなりますか?

遺産分割調停が不成立になった場合、その手続きは審判手続(正式審判)へ移行します。これは「審判移行」と呼ばれ、家庭裁判所に調停を申し立てた時点で、同時に審判の申立てもあったものとみなされるためです。

審判手続では、家庭裁判所の裁判官が、当事者の主張や提出された証拠資料などに基づいて、遺産分割の方法を判断し、審判(裁判官の決定)を出します。当事者は審判期日に出頭し、自分の考え(陳述)を述べたり、事実に関する調査が行われたりします。

ただし、調停が不成立となった場合でも、家庭裁判所は「調停に代わる審判」を出すことがあります。これは、調停による解決が見込めない場合でも、裁判所が職権で、一切の事情を考慮して事件の解決に必要な判断を示すものです。特に遺産分割事件では、欠席当事者がいる場合などにこの「調停に代わる審判」が活用されることがあります。

「調停に代わる審判」が出された場合、その内容に不服がある当事者は、原則として2週間以内に異議を申し立てることができます。この期間内に異議が申し立てられると、「調停に代わる審判」は効力を失い、先ほどの審判手続(正式審判)へ移行することになります。異議申立てがなければ、「調停に代わる審判」は確定し、遺産分割が終了します。

遺産分割審判に納得できない場合、不服申立てはできますか?

遺産分割審判の結果に納得ができない場合、不服を申し立てることは可能です。この不服申立てを即時抗告といいます。

即時抗告は、審判の告知を受けた日(審判書の正本または謄本が送達された日)から2週間以内に行う必要があります。この2週間が経過すると、審判は確定し、原則としてその内容に従わなければならなくなります。

即時抗告が受け付けられると、事件は上級の裁判所である高等裁判所に送られ、そこで改めて審理が行われます。高等裁判所では、家庭裁判所が出した審判が適切であったかどうかが、提出された資料や双方の主張に基づいて検討されます。

「調停なさず」とは何ですか?

「調停なさず」とは、家庭裁判所で行われる調停手続きが、当事者間の話し合いによる合意に至らなかった場合(不成立)とは異なる形で終了することをいいます。正式には「調停をしない措置」と呼ばれ、家事事件手続法という法律に基づいています。

この措置は、調停委員会が、話し合いを進めることが難しいと判断した場合にとられます。具体的には、次のような場合が考えられます。

事件の性質上、調停を行うのに適当でないと認められる場合
例えば、遺産分割の調停で、そもそも誰が相続人であるかに争いがある、あるいは遺産に何が含まれるかに大きな争いがあり、調停で話し合う以前にこれらの前提となる問題を確定させる必要がある、特別受益や寄与分を主張しているのに、遺産の評価額が決まらない場合などです。後見人が選任されていないために当事者の意思確認が難しい場合なども、これに該当することがあります。

当事者が不当な目的で、みだりに調停の申立てをしたと認められる場合
例えば、調停を長引かせること自体が目的であるなど、真剣に話し合いによる解決を目指す意思が見られない場合です。申立てた側が正当な理由なく期日に出頭し続けないような場合も含まれ得ます。

このような判断が調停委員会によってなされると、「調停をしない措置」として調停事件が終了します。これは、話し合いがまとまらなかった「不成立」とは異なり、文字通り「調停手続きを行わない、あるいは途中で打ち切る」という形の終了となります。

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