【判例解説】内縁(事実婚)の一方が死亡した場合、財産分与は不可(最決平成12年3月10日)
30秒で要点
結論:内縁(事実婚)の一方が死亡して関係が終了した場合、民法768条(離婚の財産分与)の類推適用(本来の規定を似た場面に広げて使うこと)は認められない。扶養義務(生活費の助け合い義務)の相続も否定
理由:離婚と死亡は法制度上の処理が異なり、死亡の場合は相続(民法896条)で清算する構造だから。
注意点:内縁の「離別」時は財産分与の類推適用が一般に肯定されるが、「死亡」時は不可。代替策(遺言・保険・共有名義・立替金請求など)を検討。
まず結論
本決定は、内縁関係が死亡で解消した場合に財産分与請求はできないと明確に示し、死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となって相続人に承継されることも否定しました。
事案の概要
生存内縁配偶者が、死亡した内縁配偶者の相続人に対し「財産分与」を求められるか(民法768条)が焦点となった事件です。
事件名は「財産分与審判に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件」。第一審・抗告審を経て、最高裁第一小法廷が抗告を棄却(確定)。条文上は離婚の財産分与(民法768条)と相続の一般原則(民法896条)が交差する場面で、死亡により開始した相続の枠組みの中で、内縁配偶者に清算・扶養の請求を認めるかが問われました。
争点の整理
「死亡による内縁解消」に財産分与法理を持ち込めるか、そして扶養義務は遺産負担として承継されるか、という二本柱です。
争点1:民法768条の類推適用の可否(内縁死亡時に財産分与ができるか)。
争点2:死亡内縁配偶者の扶養義務(生活費の助け合い義務)が遺産の負担として相続人に承継されるか。
争点3:生存内縁配偶者が相続人に対し清算・扶養を含む財産分与請求権を持てるか。
裁判所の判断
結論は、「財産分与の類推適用は不可」かつ「扶養義務の承継も不可」。理由は、離婚と死亡では清算方法が制度的に異なり、死亡後は相続で処理する設計だから、です。
最高裁は、離別による内縁解消に民法768条を類推適用する合理性は肯定しうるとしても、死亡による内縁解消後に、開始した遺産について財産分与の道を開くことは「相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込む」として否定しました。また「死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となって相続人に承継される余地もない」と明言しています。
実務への影響・チェックリスト
内縁の「死亡」では財産分与は使えません。生前対策と、死後は固有の請求(立替金・共有・貸金等)を丁寧に仕分けることが肝心です。
チェック1:死亡時は財産分与×。相続(民法896条)の仕組みで処理される。
チェック2:扶養義務の承継×。生活費補助の継続請求は不可。
チェック3:代替策の検討—遺言(遺贈)、生命保険・共済の受取人指定、死亡退職金・弔慰金の支給要件(就業規則・規約)を確認。
チェック4:死後の精算—立替金・貸金・共有出資・不当利得(法律上の正当な理由なく利益を得た場合)など、固有の法的構成で主張・証拠化。
似た場面での分岐点
内縁が「離別」なら財産分与の類推適用◯、しかし「死亡」なら財産分与は不可で相続ルールへ。
- もしA(内縁が離別で終了)なら → X(財産分与審判の申立てを検討)。
- もしB(内縁が死亡で終了)なら → Y(相続法で処理。遺言・保険・固有請求の可否を点検)。
判例比較表
項目 | 本件 | 比較判例 | 実務メモ |
---|---|---|---|
要件 | 内縁が死亡で終了 | 内縁が離別で終了 | 終了原因で処理が分かれる |
帰結 | 財産分与の類推適用×/扶養義務承継× | 財産分与の類推適用◯(準婚関係の清算) | 死亡時は相続枠組みで処理、離別時は分与で清算 |
補足 | 相続による承継の構造を重視 | 当事者の貢献・清算の公平を重視 | 死亡時は遺言・保険・共有等で生前対策が有効 |
よくある質問(FAQ)
関連判例・参考情報
- 最高裁第一小法廷決定平成12年3月10日・平成11年(許)18号(民集54巻3号1040頁ほか)
- 民法768条・896条
- 判例タイムズNo.1037