【判例解説】「相続目的」の養子縁組を有効と判断した事例(東京高裁令和元年7月9日決定)
- 争点:「遺産を継がせるため」だけの孫との養子縁組は有効か?
- 結論:裁判所は「法的な親子関係を作る意思があれば、動機が相続対策でも有効」と判断した。
- ポイント:「形式だけの縁組」とみなされないよう、当事者の意思確認が重要。
事案の概要
本件は、祖父が自分の遺産を孫に直接相続させる目的で養子縁組を行い、その有効性が争われた事案です。
主な登場人物とその関係
- 養親(祖父): 自分の財産を、配偶者や子のない実子に加え、孫たちに直接承継させたいと考えていました。
- 養子(孫・抗告人): 平成21年に祖父と養子縁組を行いました。
経緯
祖父の死後、家庭裁判所での手続き(死後離縁申立)の中で、家庭裁判所は「この縁組は、もっぱら遺産相続のみを目的としたものであり、真実の親子関係を作る意思(縁組意思)を欠いているため無効である」と判断しました。
これに対し、孫(養子)側が「縁組は有効である」と主張して、東京高等裁判所に不服を申し立てました。
主な争点
最大の争点は、「相続対策や遺産承継を主目的とした養子縁組に、法的な効力(縁組意思)があるか」という点です。
民法上、当事者に「縁組をする意思」がない場合、その縁組は無効となります(民法802条)。
家庭裁判所(原審)は、「遺産をもらうためだけの便宜的な届出であり、親子として生活する意思がなかった」として無効と判断しましたが、果たして「相続目的」は「縁組意思の欠如」にあたるのでしょうか。
裁判所の判断
結論
東京高等裁判所は、原審(家庭裁判所)の判断を覆し、「養子縁組は有効」との判断を下しました(東京高裁令和元年7月9日決定)。
判断の理由
その理由は、以下のとおりです。
「相続目的」であっても直ちに無効とはならない
裁判所は、確かに本件の縁組が「養親の財産を孫である抗告人に相続させることを目的としてされたもの」であると認定しました。
しかし、「たとえそのような目的があったとしても、養親と養子の間に『法的な親子関係(法定血族関係)』を形成する意思がある限り、直ちに縁組を無効とすることはできない」と判示しました。
つまり、「動機」が節税や遺産承継であったとしても、法的に親子になるという「意思」さえあれば、縁組は有効に成立するという判断です。
「縁組意思」を裏付ける行動があった
裁判所は、養子(孫)の具体的な行動にも着目しました。
養子は、養親の死後に行われた遺産分割協議において、「養子としての立場」で参加し、実際に遺産を相続しています。
この事実から、裁判所は「後に抗告人が養子として遺産分割に関与し、養親の遺産を相続したことからすれば、抗告人に縁組意思が存在したことは明らか」と結論づけました。
弁護士の視点
この判例は、相続対策として広く行われている「孫養子」の有効性について、重要な指針を示しています。
「動機」と「意思」は区別される
「節税のために養子にするなんて、本物の親子じゃない」と感情的に思われることがありますが、法律の世界では「動機(なぜするか)」と「意思(法的な身分関係を作る気があるか)」は区別されます。
本判決により、動機が純粋な相続対策であったとしても、それだけを理由に養子縁組が無効になる可能性は低いことが改めて確認されました。
「無効」とされるリスクへの対策
ただし、どんな場合でも有効になるわけではありません。過去の判例(最高裁など)でも、当事者が縁組の届出を提出すること自体は了解していても、「真に親子関係の設定を欲する効果意思」が全くない場合は無効とされる余地があります。
トラブルを防ぐためには、以下の点が重要です。
- 生前の意思確認
養親と養子が双方納得の上で署名・押印し、自らの意思で届出を行うこと。 - 周囲への説明
なぜ養子縁組をするのか、他の推定相続人(実子など)にも説明し、無用な「無効主張」を招かないようにすること。

