【判例解説】養子縁組前の養子の子も代襲相続できる(大阪高裁平成元年8月10日判決)
30秒で要点
結論:養子縁組前に生まれた「養子の子」でも、養親の実子の子(実の孫)であれば、養親の相続で親(養子)を代襲できる。
理由:文理解・家族実態・衡平(つり合い)の観点から代襲相続(親の代わりに相続)を肯定。
注意点:養親の直系卑属(孫)に当たるかが分岐。血縁がなければ結果が逆になる可能性大。
まず結論
本判例(大阪高裁平成元年8月10日判決)は、「養子縁組前の養子の子」でも養親の実子の子(実の孫)なら代襲相続を認めた。
事案の概要
養子縁組前に生まれた子(孫に当たる)が、養親(祖父)の相続で、先に亡くなった親(養子)を代襲できるかが争点。
被相続人Aは昭和59年10月26日死亡。相続関係は、後妻Y、Aと先妻Bの長女X1、X1と養子Cの長女X2・長男X3、Aが認知した非嫡子X4の計5人が想定された。Cは昭和29年2月25日にA・Yの養子となり同日にX1と婚姻、X2はそれに先立つ同年2月2日出生、X3は昭和41年8月3日出生。Cは昭和53年6月9日に先に死亡していた。
争点の整理
(1)代襲要件の充足、(2)相続財産の範囲(建物・土地・駐車場収益)、(3)金銭清算の可否。
- 争点1:X2・X3が「被相続人の直系卑属(孫)」に当たり、Cを代襲できるか。
- 争点2:本件建物・土地が遺産か贈与(生前・死因)か。
- 争点3:駐車場賃料等の収益の帰属と分け方
裁判所の判断
孫に当たるX2はCを代襲できる。家族実態と衡平にも合致し、条文の文言とも矛盾しない。
高裁は、X2は「養子Cのみの観点では直系卑属に当たらない」が、「母X1(Aの実子)から見ればAの孫」であると整理。姉妹で実生活に差異がないのに、養子縁組届出の前後だけで「長女に相続権がなく二女のみに相続権が生ずるのは極めて不合理」と述べ、代襲相続を肯定した。また、戸籍先例(昭55・8・5民事甲第19号、昭56・2・3民事甲第240号)も「縁組前の養子の子」の代襲を認めることを参照した。
実務への影響・チェックリスト
養子の子でも、血縁ルートで被相続人の直系卑属(孫)に当たるなら代襲可―という整理が実務における安全運転。
- チェック1:当該子が被相続人の「直系卑属(孫)」に当たるルート(血縁・姻族)を時系列で可視化。
- チェック2:縁組日・婚姻日・出生日・死亡日を正確に把握(本件は昭29/2/25縁組・同2/2出生・昭53/6/9被代襲者死亡)。
- チェック3:生前贈与・死因贈与の有無と立証資料(本件は建物が遺産と認定:主文1)。
- チェック4:不動産・駐車場収益の帰属と分け方、負担(固定資産税、修繕等)を別立てで計算。
似た場面での分岐点
A(孫に当たる)なら代襲可、B(孫に当たらない)なら代襲不可の可能性大。
- A(養子の子が、被相続人の実子の子=孫)なら → 代襲相続を主張できる余地が大きい。
- B(養子の子が、被相続人と血縁・直系卑属関係を持たない)なら → 代襲相続は否定される可能性大(大津地判昭37年4月23日は否定例)。
判例比較表
項目 | 本件 | 比較判例 | 実務メモ |
---|---|---|---|
要件 | 養子縁組前の養子の子でも、被相続人の実子の子(孫)であれば代襲可。 | 縁組前の養子の子が孫に当たらず、代襲不可(大津地判昭37年4月23日)。 | 「孫かどうか」で分岐。血縁ルートの特定が鍵。 |
帰結 | 代襲相続人を肯定(X2等)。建物は遺産と認定し金銭清算も命令。 | 代襲否定。遺産分割の構成から除外。 | 先例も引用して説得力を補強。 |
補足 | 戸籍先例(昭55・8・5、昭56・2・3)も代襲肯定を示唆。 | 家族実態より形式を重視した傾向。 | 届出・出生・死亡の前後関係を正確に。 |
よくある質問(FAQ)
関連判例・参考情報
- 大阪高等裁判所 第7民事部 判決(相続財産確認等請求控訴事件)平成1年8月10日・昭和63年(ネ)825号/判例タイムズNo.708(1989.11.15)222–225頁
- 戸籍先例:昭和55年8月5日民事甲第19号・民事局第三課長回答/昭和56年2月3日民事甲第240号・事務局長回答(判タ708号224頁言及)
- (法令)民法887条2項、727条