【判例解説】無償返還合意のある借地の底地を更地価格の5割・6割で評価(東京地裁平成25年12月25日判決)
30秒で要点
結論:無償返還合意(将来タダで返す約束)のある借地の底地は、更地価格の5割(物件I)・6割(物件F持分)で評価。価額弁償(お金で埋め合わせ)は口頭弁論終結時価で算定。
理由:路線価の借地権割合(I=8割、F=7割)に加え、譲渡制限の強い無償返還合意など個別事情を考慮し、通達の一律評価は採用しなかったため。
注意点:贈与税や登録免許税は「負担付贈与(条件付き贈与)」の「負担」に当たらず、免責的債務引受け(借金を引き受けること)のみが負担として控除されると判断。
まず結論
本判決(東京地裁平成25年12月25日判決)は、無償返還合意のある借地の底地を更地価格の5割・6割で評価しました。

事案の概要
後妻Xが、被相続人の子らY1〜Y3への生前贈与等で自身の遺留分(最低限の取り分)が侵害されたとして、価額弁償を求めた事件です。
被相続人は平成22年1月4日死亡。相続人は原告X(後妻・法定相続分1/2)と前妻の子Y1〜Y3、B(各1/8)。被相続人は平成19年8月16日、賃貸中の土地(I土地を各1/3、F土地持分を各1/6)と自社株(40株・60株・50株)をY1〜Y3に贈与。Xは遺留分を主張し、被告らは1041条に基づく価額弁償を選択。争点は、会社からの資金が「保証金」か「借入金」か、債務の帰属、贈与の負担性、底地(賃貸中土地)の評価、マンション持分の評価、弁償額など。
争点の整理
借入金の実質、贈与の負担、評価方法(底地)が主要論点でした。
- 争点1:会社への資金は保証金か借入金か(名目と実質)
- 争点2:その債務は遺産に含まれるか(誰が負うか)
- 争点3:生前贈与は負担付贈与(条件付き贈与)か(免責的債務引受け)
- 争点4:底地の評価(無償返還合意がある場合の5割・6割)
裁判所の判断
資金は実質「借入金」で、贈与と同時の免責的債務引受けは負担に当たる。他方、税負担は負担ではない。底地は更地価格の5割・6割で評価しました。
まず、帳簿上「保証金」として計上されていても、税理士の回答や金額の規模等から実体は借入金と認定(2億6000万円)。同債務は、平成19年8月16日にY1〜Y3が合計2億2354万4041円を免責的債務引受けし、残額は被相続人が後に完済したため、遺産に残らないと判断。したがって贈与は民法1038条の負担付贈与であり、引受債務額を控除して算定。ただし、贈与税や登録免許税の「過大負担」は負担に含まれないと退けました。底地の評価は、無償返還合意(借地の譲渡可能性を否定)等の個別事情を踏まえ、I土地は更地価格の5割、F土地持分は6割と認定。
実務への影響・チェックリスト
「無償返還合意のある底地=更地×5割・6割」という判断と、負担付贈与の範囲(税負担は含まれない)が示され、形式的な借地権割合で底地の評価が決まるわけではないことが明らかになりました。
- チェック1:無償返還合意(届出書)の有無・内容(譲渡制限の強さ)
- チェック2:贈与と同時の免責的債務引受けがあるか(負担付贈与の成立)
- チェック3:帳簿の名目より実質(保証金名義でも借入金の可能性)。
似た場面での分岐点
無償返還合意があるか否か、贈与と同時に債務引受けがあるか否かで、評価と遺留分の結論が変わります。
- 「無償返還合意あり・譲渡制限が強い」なら → 底地は更地価格から大きく控除(本件は5割・6割)。
- 「無償返還合意なし・譲渡可能性が高い」なら → 借地権割合の修正幅が小さく、評価は相対的に高く出る余地。
判例比較表
本件は「通達一律」ではなく「個別事情で修正」して底地を5割・6割とした点が特徴です。
項目 | 本件 | 比較(相続税申告の通達的取扱い) | 実務メモ |
---|---|---|---|
要件 | 無償返還合意あり。借地の譲渡可能性が低い。 | 簡便化のため一律割合を用いる場面がある(税務計算)。 | 裁判所は通達に拘束されず、実情で割合を調整。 |
帰結 | 底地=更地×5割(I)/×6割(F持分) | 一律の底地割合で評価しがち。 | 書面・届出・契約条項を証拠化して個別評価へ。 |
補足 | 免責的債務引受けは「負担」。税負担は負担に含まず。 | 税の多寡は税法の問題。 | 「負担」該当性は契約内容から判断。 |