【判例解説】遺産分割調停の無効→地方裁判所では判断できないとした事例(東京高裁平成29年5月31日判決)
30秒で要点
結論:遺産分割など別表第二にあたる家事調停の「無効」は、地方裁判所(地裁)では判断できません。家庭裁判所での手続が前提です。
理由:家事調停は家庭裁判所の専門手続であり、家庭裁判所の専属的管轄(その裁判所だけが扱う権限)に属するからです。
注意点:民事調停(簡裁の民事事件の調停)や裁判上の和解とは扱いが異なります。救済は家庭裁判所で検討します。
まず結論
本判決(東京高裁平成29年5月31日判決)は、遺産分割調停の無効を地方裁判所が判断することを否定。家事事件手続法を根拠に、原判決を取り消して訴えを却下しました。
事案の概要
兄弟姉妹らがA名義の遺産(不動産・預貯金・株式など)をめぐり、成立した(実質的な)遺産分割調停の有効性が争われました。
相続人XとYらは家庭裁判所の(実質的な)遺産分割調停で合意に至りました。その後、Xは「体調や説明不足により適切な理解ができなかった」などを理由に調停の無効を主張し、地裁へ提訴。第一審が判断したのに対し、控訴審の東京高裁は、家事調停の無効判断は地裁には許されないとして原判決を取り消し、訴えを却下しました。
争点の整理
地方裁判所で「家事調停の無効」を判断できるか、という管轄(どの裁判所が扱うか)の問題が中心でした。
- 争点1:家事事件手続法別表第二に属する調停(例:遺産分割)の無効を、民事訴訟で判断できるか(=裁判所の権限の有無)。
- 争点2:調停成立までの手続に瑕疵(かし:不備)がある場合、どのような手段で救済を図るか(家庭裁判所での是正の可否)。
- 争点3:調停調書の性質(執行力・確定力)と、民事訴訟法140条との関係。
裁判所の判断
結論は、遺産分割調停の無効は「地方裁判所では判断できない」。主な理由は、家事調停は家庭裁判所の専門手続であり、その有効性は家庭裁判所で扱うべきという制度設計にあります。
東京高裁は、家事事件手続法別表第二に掲げる事項に係る家事調停について、地方裁判所が無効を判断することは許されないと明確に示し、原判決を取り消して訴えを却下しました。参照条文として、家事事件手続法268条1項や民事訴訟法140条が挙げられています。
実務への影響・チェックリスト
遺産分割調停に不服があるとき、まず家庭裁判所での適切な救済手段(期日指定の申立てをし、調停無効を主張する)を検討することが実務の基本路線です。
- チェック1:問題の調停が「別表第二の家事調停(遺産分割など)」かを確認。
- チェック2:内容の行き違い・説明不足・事情変更(後から状況が変わったこと)など、主張の性質を整理。
- チェック3:家庭裁判所での見直し手続(期日指定の申立てをし、調停無効を主張する)を優先検討。地方裁判所の無効確認訴訟は原則×。
- チェック4:不動産名義変更・預貯金解約など執行・手続面の影響を、拙速に進める前に専門家と点検。
似た場面での分岐点
A(家事調停)なら家庭裁判所で、B(家事以外の民事調停・裁判上の和解)なら地方裁判所(民事訴訟)で判断。性質の見極めが先です。
- A(遺産分割など別表第二の家事調停)なら → 家庭裁判所での手続(期日指定の申立てをし、調停無効を主張する)を検討。
- B(家事に属しない民事調停や裁判上の和解)なら → 事情により無効・取消しを民事訴訟で争う選択肢が生じます(事案次第)。
判例比較表
項目 | 本件 | 比較判例 | 実務メモ |
---|---|---|---|
要件 | 別表第二の家事調停の「無効」を地方裁判所で問う訴え | 家事に属しない民事調停・裁判上の和解の無効主張 | まず事件の性質(家事か否か)を特定 |
帰結 | 地方裁判所の判断不可。訴え却下(東京高裁) | 事案により民事訴訟での判断があり得る | 誤った裁判所選択は時間・費用のロス |
補足 | 条文:家事事件手続法268条1項、別表第二、民訴140条 | 条文:民法・民訴の一般理論 | 救済ルートの選択を初動で確認 |