【判例解説】名義株を遺産と認めるには「自己資金で取得したことの立証」が必要と判断した事例(東京高裁平成24年2月8日判決)

目次
判例の基本情報(正確表記)
- 裁判所:東京高等裁判所
- 判決日:平成24年2月8日
- 事件番号:平成21年(ネ)第2596号
- 事件名:株式持分確認請求控訴事件
- 結論:原判決取消、主位的請求却下、予備的請求棄却
結論
東京高裁は、第三者名義の株式を故人の借名株=遺産と主張する側に対し、「Aの自己資金取得」の証明(通帳・送金記録・買付伝票など一次資料による資金の連続性)が必要と判示しました。この判決を前提にすれば、会社資金で取得された可能性が排斥できない限り、遺産性は否定されることになります。
事案の概要
- 創業者A死亡(昭和39年)後、相続人(子・孫)らが、Aの子Y名義の旧コクド株(のちNW株)を遺産と主張して持分確認を請求。
- 株式併合・株式移転(NWコーポ設立)等の再編を経て、過去時点の持分と現時点のNW株の持分が争われました。
判決の要旨
「証明の対象は飽くまで事実…Aの自己資金取得が証明されなければならない。」
「本件第三者名義株がAの借用名義株であると認めることはできず…Aの自己資金ではなく、コクド資金で取得された可能性がある。」
名義が他人でも「中身はAの株だ」と言うには、買付原資がA本人の口座から出ていると一次資料で示す必要があります。会社ぐるみの買い集め・管理の痕跡があると、会社資金での取得可能性が残り、遺産性は否定されます。過去時点のコクド株の持分確認は確認の利益なしとして却下。NW株の持分主張も、自己資金取得の立証不十分で棄却されました。
重要論点の解説
「自己資金取得」の厳格な立証が核心
- ポイント:通帳・振込控・買付伝票・払込領収書等の一次資料で、故人→売主/証券→受渡の資金の連続性を示すこと。
- なぜ重要? :口頭伝承や家訓・メモだけでは、裁判所は遺産性を認めませんでした。
- どんな場面で有用? :オーナー企業の未上場株・グループ内管理株の帰属争い。
間接証拠(家憲、遺訓、株主一覧、関係者の供述)の限界
- 理念文書(家憲・遺訓)や「◎印つき株主一覧」「関係者の供述」は、資金出所の直接証明にならない。
- 評価は補助的。一次資料を中核に据える準備が不可欠。
「会社資金説」の排斥ができないと遺産性は認められない
- 役員主導の買い集め・管理費用の負担等から、コクド資金で取得された可能性が具体的に指摘された事案。
- 社内決裁・経理処理の有無など、企業資金説を排斥する資料の探索・保全が鍵。
実務におけるポイント
- 資金の一次資料:故人名義の通帳・送金明細・小切手控、買付伝票・約定書・払込領収。入出金の連続性を図示する。
- 実質帰属の補強:配当の入金口座・議決権委任状・議事録メモ等。
- 会社関与の有無:社内の買い集め指示・経理処理の痕跡がないかを確認(あると会社資金説が強まる)。
- 増資払込の原資:誰の財布から払われたかを明確化。
読者へのアドバイス
- 家の紙束をスキャン:古い通帳・手形帳・買付伝票・往復書簡を年代別にPDF化。
- 年表づくり:「いつ/誰の口座/どこに払ったか」を横軸で整理し資金の地図を作る。
- 社内事情の聞き取り:OB・関係者に払込原資や経理処理の手掛かりがないか確認。
- 理念より証跡:家訓・供述は補助。一次資料を中心に。
まとめ
「誰の財布で買った株か」を一次資料で示せない名義株は、相続財産と認められにくい。