【判例解説】名義株を遺産と認めるには「自己資金で取得したことの立証」が必要と判断した事例(東京高裁平成24年2月8日判決)
- 争点:
創業者が他人名義で管理させていたとされる株式は、「創業者の遺産」として相続できるか? - 結論
裁判所は、創業者個人の資金で購入した証拠がないとして、遺産には当たらないと判断した。 - ポイント
名義株と認められるには、「故人の財布(自己資金)から支払われたこと」の立証が最重要。
事案の概要

本件は、西武グループ創業者であるAさん(被相続人)が亡くなった後、その子や孫たち(原告)が、Aさんの後継者であるYさん(被告)に対して起こした裁判です。
Aさんが亡くなった際、会社の株式の多くは、後継者であるYさんや、会社の役員・従業員などの「第三者名義」になっていました。
原告らは、以下のように主張しました。
- 「これらの株は、Aさんが生前に自分のお金を出して買い、便宜上、Yや従業員の名義を借りていただけ(借用名義株)である」
- 「したがって、実質的な所有者はAさんであり、Aさんの『未分割の遺産』として私たちにも相続権がある」
これに対し、名義人であるYさん側は「株式は適法に譲り受けた自分のものだ」と反論し、真っ向から対立しました。
主な争点
最大の争点は、「名義が他人になっている株式を、故人の遺産(名義株)と認めさせるには何が必要か?」という点です。
故人が「私の株だ」と言っていたら遺産になるか?
原告らは、Aさんが生前「コクド(会社)の株はほとんど全て自分のものだ」と家族に語っていたことや、従業員たちも「名義を貸しているだけ」と認識していたことを根拠に、これらはAさんの遺産であると主張しました。
この「当事者の認識」だけで、法的に「遺産」と認められるかが問われました。
裁判所の判断
結論
東京高等裁判所は、「問題の株式はAさんの遺産(名義株)ではない」と判断し、原告らの請求を退けました(東京高裁平成24年2月8日判決)。
判断の理由
その理由は、法的な所有権の判定において「誰がお金を出したか(資金の出所)」を最重視したためです。
「個人の財布」から出たお金か?
裁判所は、ある株が「名義株(故人の所有物)」であると認めるためには、「故人が個人の資金(自己資金)で取得したこと」の証明が必要不可欠だという基準を示しました。
本件では、以下の理由から「個人の資金」とは認められませんでした。
- Aさんが株を買い集めるよう指示していた事実はあるが、その購入資金がAさんのポケットマネーだった証拠がない。
- むしろ、会社(コクド)の役員が動いて集めていたことから、会社のお金(法人資金)で買い取った可能性が高い。
「認識」だけでは所有権は決まらない
原告らは「従業員も『自分は名義人なだけ』と認める念書などを出している」と主張しました。
しかし裁判所は、たとえ関係者が「あれはAさんの株だ」と思っていたとしても、「Aさんが自分のお金で買った」という事実が証明されない限り、Aさん個人の遺産にはならないと判断しました。
また、Aさんが生前残した家訓(家憲)に「自分で会社の株を持とうと思うな」「株は財団などに保管させること」と記されていたことから、Aさん自身も「個人所有ではなく、会社(家)のもの」という認識だったと推認しました。
弁護士の視点
この判例は、中小企業のオーナー経営者や、資産管理会社を持つご家庭にとって、非常に重要な教訓を含んでいます。
「資金の出所」が極めて重要
「名義株」のトラブルにおいて、裁判所は「名義が誰か」よりも「実質的に誰が金を出したか」を徹底的に検討します。
「おじいちゃんの株だってみんな知っていた」という証言だけでは勝てません。「おじいちゃんの個人通帳から、株の購入代金が支払われた記録」などの証拠が重要です。
将来の紛争を防ぐための対策
もし現在、家族の名義を使って株式や預金を管理している場合は、相続発生前に以下の対策をとるべきです。
- 名義を実態に合わせる
生前に贈与契約や譲渡契約を結び、名義と実質的所有者を一致させておく。 - 確認書を作成する
どうしても名義を分けておく必要がある場合は、「この財産は実質的に〇〇の所有であり、××は名義を貸しているに過ぎない」という旨の合意書(確認書)を作成し、署名押印しておく。
曖昧なまま相続を迎えない
本件のように「会社のお金か、社長個人のお金か」が曖昧なままだと、死後に何十年にもわたる裁判に発展しかねません。税務調査でも厳しく指摘されるポイントですので、今のうちに税理士や弁護士と整理しておくことを強くお勧めします。

