【判例解説】不動産は現物分割し、差額は預貯金で調整すべきと判断した事例(長崎家裁諫早出張所昭和62年9月1日審判)
- 争点
複数の不動産がある場合、売却せずに公平に分けることは有効か? - 結論
裁判所は、不動産を各相続人に現物で配分し、格差を預貯金で調整する方法を採用した。 - ポイント
遺産分割時の「時価」で評価し、調整用の現金・預貯金を確保しておくことが重要。
事案の概要
本件は、亡くなった方(被相続人)が遺した「複数の不動産」と「多額の預貯金」をめぐり、相続人間で遺産分割の方法が争われた事例です。

主な登場人物とその関係
- 被相続人:亡くなった方(親)
- 相続人:合計6名
- 被相続人の実子3名
- 先に亡くなった実子の子である孫3名(代襲相続人)
※代襲相続人とは、本来相続するはずだった子が先に亡くなっている場合に、その子(孫)が代わりに相続権を引き継ぐ制度のことです。
遺産の内容
- 不動産:
- 長崎市内にある宅地3筆(いずれも他人に賃貸中)
- 熊本県八代市にある家屋1棟
- 金融資産:貸付信託や銀行預金など(合計約2,000万円)
- その他:家財道具一式(時価約5万円)
トラブルの経緯
遺産の中に、利用状況や価値が異なる複数の不動産が含まれていました。
相続人の人数も多く、「誰がどの不動産を取得するか」「不動産ごとの価値の差をどう埋めるか」について意見が対立しました。
また、一部の相続人が土地の立退き交渉などに尽力していたため、その貢献(寄与分)を認めるかどうかも問題となり、家庭裁判所の審判(裁判所の判断)を仰ぐことになりました。
主な争点
不動産は「売却」すべきか?それとも「現物」で分けるべきか?
遺産分割には主に3つの方法があります。
- 現物分割:不動産などをそのままの形で分ける方法。
- 換価分割:売却して現金化し、そのお金を分ける方法。
- 代償分割:特定の人が不動産をもらい、他の人に自分の財産から代償金を払う方法。
本件では、権利関係の複雑な貸宅地(底地)などが含まれており、これらを売却して清算する(換価分割)のか、土地そのものを各相続人に割り振る(現物分割)のかが大きな争点となりました。
相続人の「立退き交渉」などは寄与分として認められるか?
相続人の一人が、被相続人の土地を有効活用するために、借家人との立退き交渉や古い建物の取壊し作業を行っていました。
この活動によって不動産の価値が維持・増加したとして、通常の相続分に上乗せして財産をもらえる「寄与分(きよぶん)」が認められるかが争われました。
裁判所の判断
裁判所は、本件について以下のとおり判断しました。
結論
裁判所は、不動産を売却するのではなく、可能な限り不動産そのものを各相続人に取得させる「現物分割」が相当と判断しました。
具体的には、長崎市の宅地3筆を実子3名にそれぞれ1筆ずつ取得させ、熊本県の家屋は現在管理している孫に取得させました。
その上で、不動産ごとの価値のバラつきによって生じる不公平については、遺産に含まれる約2,000万円の預貯金の配分を増減させることで調整を行いました。
判断の理由
- 現状の尊重
宅地は賃貸中であり、家屋も特定の相続人が管理しています。これらを無理に売却して現金化するよりも、現状の利用状況を維持したまま所有権を移転させる方が、経済的な損失や混乱が少ないと判断しました。 - 公平性の確保
幸い本件には調整に使える十分な「預貯金」がありました。そのため、不動産の価値が高い人には預貯金を少なく、低い人には多く配分することで、誰の持ち出しもなく公平な分割が可能でした。
立退き・解体への尽力に対して「300万円」の寄与分を認める
裁判所は、土地の借家人との立退き交渉や建物の解体を行った相続人の貢献を高く評価しました。
これらの行為は、単なる親族の協力義務を超えて不動産の価値を高める「特別の寄与」にあたるとして、300万円の寄与分を認めました。
評価額は「時点修正」を行う
不動産の評価については、鑑定時の価格をそのまま使うのではなく、審判時までの地価変動(市街地価格指数)を反映させた「時点修正」を行い、現在の価値に引き直して計算しました。
弁護士の視点
この判例から学べる「将来のトラブルを防ぐための対策」は以下の2点です。
「調整用の現金」を用意しておく
不動産を現物分割する場合、どうしても「高い土地」「安い土地」の差が出ます。
本件のように、遺産の中に十分な現金・預貯金があれば、それを調整弁として使うことで、不動産を売却せずにスムーズに解決できます。
不動産をお持ちの方は、「分けにくい不動産」に見合うだけの「分けやすい現金」もセットで残すことを意識して資産形成を行うことが重要です。
財産価値を高める活動は「記録」を残す
親の不動産の立退き交渉や、大規模な修繕、売却準備などを代行する場合は、将来「寄与分」として主張できる可能性があります。
ただし、認められるハードルは高いため、「どのような交渉を行ったか(日報)」「いくら費用を立て替えたか(領収書)」などの客観的な証拠を必ず残しておきましょう。

