【判例解説】遺産が不動産のみ、専業農家でない等の事情から現物分割が相当と判断した事例(大阪高裁昭和53年1月14日決定)

30秒要約
遺産が不動産中心で、代償金支払の実現性や相続人の生活実態、調停〜審判の経緯を総合し、現物分割のみを相当と判断しました。
「全部取得+代償金」という分割方法は、常に認められるわけではなく、資金の手当てや管理の見通しが弱いと採用されにくいという方向性が示されました。
判例の基本情報
- 裁判所:大阪高等裁判所
- 決定日:昭和53年1月14日
- 事件番号:昭和51年(ラ)125号
- 事件名:遺産分割審判に対する即時抗告申立事件
- 結論:抗告棄却(原審の「現物分割のみ」を維持)
事案の概要
- 遺産の構成:被相続人の遺産は農地等の不動産に限定。
- 主張の対立:抗告人は「農地の全部取得+代償金支払い」を主張したが、採用されず。
- 背景事情:抗告人は専業農家でなく、他の相続人にも不在地主化の懸念や農機未保有などの事情あり。従来の調停や審判の進行の経緯も考慮されました。
判決の要旨
被相続人の遺産が不動産のみであること、抗告人が専業農家でないこと、従来の調停審判の進行の経緯からして、現物のみの分割としたのはやむをえないとされた事例。
遺産の内容が不動産のみの場合、代償分割よりも、現物分割の方が公平かつ履行可能と評価されることがあります。
全部取得を主張する側に「継続的利用の合理性」(例:専業での営農など)が乏しいと、代償分割は退けられやすくなります。さらに、調停から審判に至るまでの歩みや当事者の姿勢といった手続の経緯も、最終的な分割方法の選択に実務上の重みを持ちます。
重要論点の解説
遺産の構成が不動産に偏重(代償金の実現性)
本件は、遺産が不動産のみという典型例でした。代償金を前提とする場合は、金額の妥当性、資金調達の見通し、支払い時期・方法、税負担・担保などを具体的に示す必要があります。これらが不確実であればあるほど、現物での按分の方が確実で公平と評価されやすくなります。
代償金:一部相続人が遺産をまとめて取得し、他の相続人へ金銭で均衡を取る方法
現物分割:家や土地など「物そのもの」を物理的に分けて取得する方法
相続人の生活実態・管理能力(専業性の有無など)
誰が取得する場合でも、「使い続けられるか・管理できるか」という現実性は重要です。専業性や居住・耕作の実態、農機・人手・時間などの資源が不足していると、「全部取得+代償金」の合理性は弱まります。
反対に、利用できる人が利用し、管理できる人が管理する形へ寄せると、将来の紛争や管理不全のリスクを抑えやすくなります。
手続の経緯(調停から審判までの歩み)
調停段階での提案・譲歩、資料提示、相手方への配慮などの履歴は、審判での選択に影響する可能性があります。本件でも、手続の進行経緯を踏まえたうえで「現物のみの分割」が相当とされました。理屈の整合性だけでなく、実際に回るかどうか(履行可能性・継続性)を裁判所は重視します。
解決のポイント
遺産が不動産のみの場合、まず、不動産の現況を正確に把握するため、不動産ごとの利用実態、測量の要否、越境・通路、地役権、農地転用・許可の見込み、維持コスト(固定資産税・管理)を整理します。
現物分割を目指す場合、現物分割の「実行可能性」を固めます。分筆の可否、通路確保、生活動線、排水・擁壁、安全性、境界確定まで落とし込み、概算費用を添えると、評価上の争いを回避しつつ、合意形成が進みやすくなります。
代償分割を目指す場合、「代償金の支払可能性」を提示します。誰が・いつ・いくら・どう払うか(融資の見込み、売却計画、分割払い、担保)と、どの評価方法で金額を決めるかをセットで具体化できれば、現物分割との比較衡量が可能になります。この点が曖昧なままだと、本件のように、現物分割の判断に傾きやすくなります。
まとめ
- 遺産の内容が不動産のみで、代償金支払の実現性が低い場合、現物分割が相当と判断される可能性があります。
- 相続人の生活実態(専業性・管理能力)と手続の経緯が方法選択に影響します。
- 「全部取得+代償金」は、主張すれば当然認められるわけではなく、公平性と履行可能性の両面から検討が必要です。