【判例解説】建築基準法に則って幅員4メートル道路を設定した上で、土地を分割取得させた事例(東京家裁昭和49年8月9日審判)
- 争点
既存の建物がある土地を、建築基準法(接道義務)を守りながらどう分割するか? - 結論
裁判所は、土地の中に「幅員4メートルの私道」を新設し、全員が家を建てられる区画割りを行った。 - ポイント
日当たりなどの条件差を埋めるため、道路の位置をあえて中心からずらすなどの工夫も行われた。
事案の概要
本件は、東京都練馬区にある約528平方メートル(約160坪)の土地と、その上の古い建物をめぐる、6人のきょうだい間の遺産分割トラブルです。

主な登場人物とその関係
- 被相続人(亡くなった方): 母(父は既に他界)
- 相続人(6名):
- 長女: 遠方(岩手県)に嫁いでいる。
- 二女・長男: 独立して別居中。
- 三女: 独身。実家で母と同居し、最後まで介護をしていた。
- 二男・三男: 生前に親の承諾を得て、敷地の一部にそれぞれ自宅を建てて住んでいる。
トラブルの経緯
遺産である土地は、手前(道路側)と奥に細長い形状をしており、すでに奥側の左右に二男と三男の家が建っていました。中央には母と三女が住んでいた古い実家がありました。
遺産分割協議において、きょうだい間で意見が対立しました。「土地を細分化すると価値が下がるから共有のままにすべき」という意見や、「きれいに等分して単独所有にしたい」という意見がぶつかり、調停でも話がまとまらず、裁判所の審判(裁判官による決定)に委ねられることになりました。
特に問題となったのは、「奥に住んでいる二男・三男の生活を守りつつ、手前の土地をどう分ければ、他のきょうだいも将来家を建てられるか」という技術的な点でした。
主な争点
この審判で主な争点となったのは、以下の点です。
建築基準法(接道義務)を満たす分割ができるか?
建築基準法では、家を建てるための敷地は「幅員4メートル以上の道路に、2メートル以上接していなければならない」というルール(接道義務)があります(建築基準法第43条)。
本件の土地は奥行きがあるため、単純に面積だけで分割線を引いてしまうと、奥にある土地や、道路から遠い土地が「道路に接しない土地(袋地)」となり、再建築ができない無価値な土地になってしまいます。 そこで、「全員の取得する土地が、建築可能な宅地となるような分割ラインをどう引くか」が最大の争点でした。
裁判所の判断
東京家庭裁判所は、法律の要件と「土地の実質的な利用価値」を考慮し、以下のような具体的かつ技術的な分割方法を命じました(東京家裁昭和49年8月9日審判)。
結論
土地の中央に「幅員4メートルの道路」を新設して分割
裁判所は、土地を有効活用するためには、新たな道路を作る必要があると判断しました。
具体的には、遺産である土地の中に新たに「幅員4メートルの私道(位置指定道路)」を設定し、この道路部分をきょうだい5人(土地を取得しない長女を除く)の共有としました。これにより、道路から奥まった場所に位置する土地も「道路に面した土地」となり、建築基準法上の要件を満たすことができます。
道路の位置を「中心から50センチ」ずらす
ここがこの判決の非常に興味深い点です。裁判所は、単に真ん中に道路を通すのではなく、道路の中心線をあえて「北側に50センチメートル」ずらしました。
最終的な分け方
- 二男・三男: 既に家が建っている奥の土地を取得。
- 長男: 新設道路の北側の土地(日当たり良好のため、面積はやや少なめ)を取得。
- 二女・三女: 新設道路の南側の土地(日当たり等の条件を考慮し、面積はやや広め)を取得。
- 長女: 遠方に住んでおり土地取得の必要性が低いため、他のきょうだいから現金(代償金)を受け取ることで解決。
判断の理由
- 新設道路の南側の土地(二女・三女が取得予定)は、さらに南隣にある第三者の建物等の影響を受け、日照条件や建築上の制限が厳しくなる。
- 新設道路の北側の土地(長男が取得予定)は、南側が道路となるため日当たりが良く、建築制限も緩やかである。
- この不平等を是正するため、条件の悪い「南側の土地」の面積を広くし、条件の良い「北側の土地」の面積を少し狭くするのが公平である。
このように、裁判所は単なる「面積の等分」ではなく、「土地の質の等分」を目指して、道路の位置を微調整しました。
弁護士の視点
この審判は、物理的に分割が難しい土地であっても、工夫次第で全員が納得できる解決が可能であることを示しています。ここから学べる対策は以下のとおりです。
「位置指定道路」の活用を検討する
広い土地を分割する場合、あえて土地の一部を「道路」として提供し合い(面積は減りますが)、残りの土地を確実に「建築可能な宅地」にすることで、資産価値を維持できます。「土地が減るのは損だ」と考えず、「道路を作ることで、すべての土地が宅地として生きる」という発想を持つことが重要です。
「面積」ではなく「価値」で分ける意識を持つ
遺産分割では「〇〇坪ずつ分ける」という面積の話になりがちですが、本件のように「日当たり」や「道路付け」によって、同じ1坪でも価値は大きく異なります。 「条件が悪い土地をもらう人は、面積を広くする」あるいは「条件が良い土地をもらう人は、代償金を多めに払う」といった柔軟な調整を行うことが、揉めない分割の秘訣です。
建物の解体や共有持分の解消を恐れない
本件では、古い実家(価値ゼロと評価)を取り壊すことを前提に、更地として新しい区割りを行いました。古い建物に固執すると、土地の有効活用ができません。 将来を見据え、「一度更地にして線を引き直す」という選択肢も視野に入れておきましょう。

