【判例解説】建物が土地をまたぐ現物分割は土地の価格を著しく損なうとして、競売を命じた事例(東京地裁昭和45年9月24日判決)
- 争点:建物が建っている共有地を、物理的に半分に分ける(現物分割)ことは有効か?
- 結論:裁判所は、建物が土地をまたぐ分割は価値を著しく損なうとして、土地全体の「競売」を命じた。
- ポイント:不動産の共有トラブルは、現物が分けられないと強制的に売却されるリスクがある。
事案の概要
この事件は、亡くなった女性(被相続人)の遺産である「土地」をめぐり、夫(本来の相続人)と、土地の持分を買い取った第三者との間で「土地の分け方」が争われた事例です。

主な登場人物とその関係
- 被相続人(亡くなった方): 妻・A(昭和23年死亡)
- 被告(土地の共有者): 夫・Y(土地上の建物に居住)
- 原告(土地の共有者): X1・X2(本来の相続人ではない人物から持分を買い取った第三者)
トラブルの経緯
この土地はもともと、亡くなった妻・Aの所有でしたが、複雑な経緯を経て、夫(被告)と原告らが「2分の1ずつ」共有している状態になりました。
この土地の上には建物が存在しており、物理的に土地を使う上での制約がありました。
共有状態を解消したい原告らは、夫(被告)に対して「共有物分割」を求めて裁判を起こしました。
裁判では、原告が持分を持っているかどうかも争われましたが、最終的に「建物があるこの土地を、具体的にどう分けるのが適切か」という分割方法が最大の争点となりました。
主な争点
この裁判で特に問題になったのは、不動産の実務でもよくある以下の点です。
建物がある土地を物理的に半分(現物分割)にできるか?
土地の共有を解消する際、原則的な方法は、土地に線を引いて物理的に分ける「現物分割」です。
しかし、本件の土地には建物が建っていました。もし土地を真ん中で2つに分けると、その境界線が建物を横切ってしまうことになります。
そこで、「建物を無視して土地を分けることは妥当か? それとも別の方法をとるべきか?」が争点となりました。
「現物分割」ができない場合、どう解決すべきか?
原告は「相手の持分をお金で買い取りたい(価格賠償)」とも主張していましたが、被告はこれに応じませんでした。
現物分割が難しい場合に、裁判所がとるべき分割方法は「誰かに買い取らせる」ことなのか、それとも「土地全体を売却して現金を分ける(競売)」ことなのかが問われました。
裁判所の判断
裁判所は、物理的に土地を分けることの不利益を重視し、最終的に「土地全体を競売にかけ、代金を分ける(換価分割)」という判決を下しました(東京地裁昭和45年9月24日判決)。
現物分割は「著しく価格を損する」ため不採用
裁判所は、現地の状況を確認したうえで、次のように判断しました。
“各土地を二分の一づつに分割した場合いずれの土地においても一つの建物が分割された土地の双方にまたがって存在することになる事実が認められるから、現物分割は著しく価格を損するおそれがあるといわねばならない。”
もし土地を物理的に半分に分けると、1つの建物が「Aさんの土地」と「Bさんの土地」の両方にまたがって建つことになります。
これでは、土地を使う権利関係が複雑になり、土地としての利用価値や売却価値が激減してしまいます(「著しく価格を損する」状態)。
裁判所は、このような「形式的に分けることはできても、それによって不動産の価値が壊れてしまうなら、現物分割はすべきではない」と判断しました。
消去法で「競売」を選択
また、原告が希望した「お金を払って買い取る方法(価格賠償)」については、
“裁判による共有物分割の方法は現物分割か換価分割であつて、価格賠償による分割方法は認められない”
と述べました(※注:これは判決当時の法解釈に基づくものです)。
結果として、「物理的に分けるのはダメ」「誰かが買い取るのもダメ」となったため、残る手段である「競売」が命じられました。
弁護士の視点
この判例は、共有不動産を持つことのリスクを如実に示しています。将来のトラブルを防ぐためのポイントは以下の通りです。
「共有」は強制売却のリスクがある
不動産を兄弟や親族と共有名義にしていると、話し合いがこじれた場合、最終的に裁判所によって「競売」を命じられる可能性があります。
競売になると、一般的に市場価格よりも安い金額で買い叩かれることが多く、住んでいる家であっても手放さざるを得なくなる可能性があります。安易な共有登記は避けるべきです。
建物の位置関係を把握しておく
土地を相続する際、「とりあえず半分ずつ共有で」とすることがありますが、将来分けようとしたときに、本件のように「建物が邪魔で分筆(物理的な分割)ができない」という事態に陥ることがあります。
相続が発生した段階で、「将来的にどう分けるか」を測量図などを見ながらシミュレーションしておくことが重要です。
遺言書で「単独所有」を指定する
最も確実な予防策は、遺言書を作成することです。「長男には自宅を、次男には預金を」といった形で、不動産を誰か一人の単独所有にさせる内容の遺言を残すことで、そもそも「共有状態」を作らせないことが、トラブルを未然に防ぐ鍵となります。

