【判例解説】遺産の大半を占める不動産を「売却して代金を分ける」のが最適とされた事例(大阪家裁昭和46年10月9日審判)

この記事のポイント
  • 争点:遺産のメインである不動産を、誰も利用しておらず分けにくい場合、どう分割すべきか?
  • 結論:裁判所は「占有状況」や「相続人の意向」を考慮し、売却して現金を分ける(換価分割)のが最適と判断した。
  • ポイント:空き家を無理に共有するより、現金化して公平に分けることが法的に適切な解決策となる。
目次

事案の概要

今回の事例は、父親の遺産相続において、財産の中心である「不動産」の扱いを巡り、子供たち6人の意見がまとまらず裁判所の判断(審判)を仰いだケースです。

主な登場人物とその関係

  • 被相続人(亡くなった方): 父A(昭和43年8月死亡)
  • 相続人(遺産をもらう人): 長男や長女を含む子供6名

トラブルの経緯

父であるAさんが亡くなりましたが、遺言書はありませんでした。

遺産には株式や電話加入権などもありましたが、資産価値として「重要な割合」を占めていたのは、宅地・建物・山林などの「不動産」でした。

しかし、これらの不動産を誰が引き継ぐかについて話し合いがまとまらず、家庭裁判所での調停も不成立となりました。

この裁判例で特筆すべき事情は、以下の3点です。

  1. 不動産が遺産のメインであること。
  2. 相続開始後、その不動産に住んでいる相続人が一人もいなかったこと。
  3. 相続人たちは「売ってお金にするならそれでも良い」という意向を持っていたこと。

このように、重要な財産でありながら「誰も使っていない」不動産をどう公平に分けるかが、裁判所での最大の焦点となりました。

主な争点

遺産の大部分を占める不動産について、「換価分割(売却)」は有効か?

遺産分割には、主に3つの方法があります。

  1. 現物分割: 不動産をそのまま(あるいは分筆して)分ける。
  2. 代償分割: 誰かが不動産をもらい、他の人に代わりの現金を払う。
  3. 換価分割: 不動産を売却し、その代金を分ける。

一般的に、不動産は「生活の拠点」であるため、誰かが住み続ける現物分割や代償分割が優先されがちです。

しかし本件では、相続人が6人と多く、物理的に土地を分けるのは困難でした。また、誰も住んでいないため、特定の誰かが引き継ぐ必然性も低い状況でした。

そこで、「裁判所が強制的に不動産を売却し、お金で分けること」が、法的に見て最も適切な分割方法と言えるかどうかが争点となりました。

裁判所の判断

大阪家庭裁判所は、弁護士を「遺産管理者」に選任して不動産を売却させ、経費を差し引いた代金を相続人6名で均等に分けるよう命じました(大阪家裁昭和46年10月9日審判)。

判断の理由

裁判所は、単に「分けられないから売る」としたのではなく、以下の4つの要素を総合的に検討した上で結論を出しています。

  1. 物件の重要性: その不動産が遺産の中で重要な割合(価値)を占めていること。
  2. 占有状況: 相続人の中に、その不動産に住んでいる人や利用している人がいないこと。
  3. 相続人の意向: 相続人たちが「売却してお金で分けるのが良い」と考えていること。
  4. 分割の難易度: 現物のまま6人で分けるのは難しいこと。

審判では、このロジックが明確に示されています。

“遺産中重要な割合を占めている不動産(宅地・建物・山林等)につき、物件の占有状況、相続人の意向、分割の難易、相続人中には占有する者もないなどの事情を考慮するときは、右不動産を適正な価格で換価した上分配するのが最も適切な分割方法である”

つまり、「誰も住んでおらず、みんなもお金を望んでいて、物理的に分けるのも難しいなら、売って現金を分けるのが一番公平である」というのが、裁判所の示した結論です。

結果

裁判所が選任した管理者(弁護士)により、不動産は1,630万円(当時の金額)で換価され、報酬等を引いた残金(約1,483万円)が各相続人に分配されました。

弁護士の視点

この判例から学べる「将来のトラブルを防ぐための対策」についてアドバイスします。

「揉めてから売る」とコストがかさむ

この判例で注目すべきは、売却代金から約80万円(※当時の金額)もの費用(管理者への報酬など)が差し引かれている点です。

もし、裁判になる前に家族間の話し合いで「売って分けよう」と合意できていれば、自分たちで不動産業者に依頼して売却でき、こうした「争うためのコスト」を節約できたはずです。

「話し合いがこじれて裁判所任せになると、手元に残るお金が減る」という現実を知っておくことが大切です。

「清算型遺贈」を遺言で残す

将来、誰も住む予定のない実家がある場合は、親が元気なうちに遺言書を作成することをお勧めします。

遺言書の中で「不動産を売却・換金して、その代金を長男・長女に等分で相続させる」という形式(清算型遺贈)を指定しておけば、相続発生後に「売るか売らないか」で揉めることなく、スムーズに現金化の手続きに入ることができます。

よくある質問(FAQ)

相続人の一人が「家を売りたくない」と反対していても、売却できますか?

審判になれば、強制的に売却となる可能性があります。

話し合い(協議)の段階では全員の合意がないと売却できません。しかし、話し合いがまとまらず家庭裁判所の審判になった場合、本件のように「誰も住んでいない」「代償金を払える人がいない」といった事情があれば、反対者がいても裁判所が売却(換価分割)を命じることがあります。

裁判所を通さずに、自分たちだけで「換価分割」をすることはできますか?

はい、可能です。

相続人全員が合意すれば、代表者が不動産を売却し、その代金を全員で分けることができます(任意売却)。裁判所を通さないため、予納金や管理人報酬などのコストを抑えられ、手取り額が多くなるメリットがあります。

不動産を売却して現金を分けた場合、税金はどうなりますか?

相続税とは別に「譲渡所得税」がかかる場合があります。

不動産を売って利益が出た場合(先代が買った価格より高く売れた場合など)、その利益に対して所得税と住民税がかかります。換価分割の場合、売却代金を受け取った割合に応じて、各相続人がそれぞれ確定申告をして税金を納める必要があります。

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