遺産の共有持分を譲り受けた第三者は「共有物分割訴訟」で解決すべきとした事例(最高裁昭和50年11月7日判決)

この記事のポイント
  • 争点:遺産の共有持分を譲り受けた第三者は、共有関係を解消するためにどの裁判手続をとるべきか?
  • 結論:最高裁は、第三者がとるべき手続は「遺産分割審判」ではなく「共有物分割訴訟(民法258条)」であると判断した。
  • ポイント:遺産分割前に相続人が持分を第三者に譲渡すると、解決手続が複雑化するため、安易な持分譲渡には注意が必要。
目次

事案の概要

本件は、遺産である不動産の共有持分を第三者が譲り受けた場合に、どのような裁判手続で共有関係を解消すべきかが争われた事案です。

登場人物と相続関係

  • A1(被相続人):本件建物のもとの所有者。昭和25年1月13日に死亡。
  • A2(被相続人・A1の妻):本件土地のもとの所有者。昭和31年9月4日に死亡。
  • Y(A1およびA2の養子・被告/被上告人):共同相続人の一人。
  • B(A1およびA2の養子):共同相続人の一人。
  • X(第三者・原告側):Bから共有持分の贈与を受けた人物。

経緯

まず、A1が亡くなり、妻A2・養子Y・養子Bが本件建物を相続しました。その後A2も亡くなり、最終的にYとBが本件の土地建物をそれぞれ持分2分の1ずつ共有する状態になりました。

ところが、BはXに対し、昭和34年11月14日、自分が持っている持分2分の1を贈与しました。これにより、本件土地建物はYとXが各2分の1の持分で共有する状態になったのです。

しかし、YとBの間では遺産分割の協議がまだ成立していませんでした。Xは共有関係を解消するため、Yを相手に共有物分割訴訟(民法258条)を提起しました。これに対しYは、「遺産分割が終わっていない以上、共有物分割訴訟は提起できない」と主張し、訴えの適法性自体が争われることになりました。

主な争点

遺産の共有持分を譲り受けた第三者は、共有物分割訴訟を提起できるか?

この裁判で最も問題になったのは、共同相続人の一人から遺産不動産の共有持分を譲り受けた第三者が、共有関係の解消を求める場合にどの手続をとるべきかという点です。

具体的には、次の2つの考え方が対立しました。

1つ目は、遺産分割が未了である以上、第三者であっても遺産分割審判(家庭裁判所の手続)によるべきだという考え方です。控訴審(大阪高裁)はこの立場をとり、Xの訴えを却下しました。

2つ目は、第三者は相続人ではないのだから、遺産分割審判ではなく、民法258条に基づく共有物分割訴訟(通常の民事裁判)で解決すべきだという考え方です。

この対立の背景には、「遺産分割前の共有」と「通常の共有」の法的性質をどう理解するかという根本的な問題があります。

裁判所の判断

結論:共有物分割訴訟によるべき

最高裁は、控訴審(大阪高裁)の判断を破棄し、事件を差し戻しました。つまり、第三者であるXが共有物分割訴訟を提起すること自体は適法であるとの判断を示したのです。

遺産共有の法的性質

最高裁はまず、共同相続人が遺産分割前に遺産を共同所有する関係は、基本的には民法249条以下に規定する「共有」としての性質を有すると述べました。そして、共同相続人の一人から特定不動産の共有持分を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得でき、他の共同相続人とともにその不動産を共同所有する関係に立つとしました。

なぜ遺産分割審判ではないのか

最高裁が共有物分割訴訟を適切とした理由は、大きく3つあります。

第1に、譲渡された持分は遺産分割の対象から外れるという点です。 判決は次のように述べています。

共同相続人の一人が特定不動産について有する共有持分権を第三者に譲渡した場合、当該譲渡部分は遺産分割の対象から逸出するのと解すべきである

つまり、Bが自分の持分をXに贈与した時点で、その持分はもはや「遺産」ではなくなるため、遺産分割審判で扱う必要はないということです。

第2に、遺産分割審判の本来の目的・性質になじまないという点です。 遺産分割審判は、遺産全体の価値を総合的に把握し、共同相続人の具体的相続分に応じて分割することを目的としています。本来、相続人という身分関係にある者を当事者とし、遺産の全部について進められるべきものです。

もし第三者を遺産分割審判に関与させるとすれば、第三者に遺産分割の申立権を与え、当事者として手続に関与させる必要が出てきます。しかし、共同相続人に対する分割と第三者に対する分割では、対象・基準・方法がまったく異なります。相続人には遺産全体を対象として民法906条の基準に従った合目的的な分割が行われるのに対し、第三者に対しては当該不動産の物理的な一部を分与することが原則になります。

第3に、関係者全員の利益のバランスという点です。 第三者を遺産分割審判に参加させると、審判手続が複雑になり、相続人側にも手続上の負担がかかります。さらに第三者にとっても、自分が取得した持分とは関係のない他の遺産まで含めた分割手続の全てに関与しなければ分割を受けられないという不合理な負担が生じます。

共有物分割訴訟なら問題は生じないのか

最高裁は、共有物分割訴訟であれば対象を当該不動産に限定できるため、第三者の分割目的を達成するのに適切だと述べました。そして重要なのは、共有物分割訴訟の判決で共同相続人に分与された部分は、その後も共同相続人間の遺産分割の対象になると明示した点です。

つまり、共有物分割訴訟で不動産を「第三者の取り分」と「相続人側の取り分」に分けても、相続人側の取り分はその後の遺産分割で改めて分け直すことができるため、相続人の遺産分割に関する権利が害されることはないと判断されました。

弁護士の視点

この判例から学べる教訓は、遺産分割が完了する前に共有持分を安易に第三者へ譲渡すると、解決の手続が複雑化し、関係者全員の負担が増えるということです。

遺産分割前の持分譲渡に注意する

共同相続人の一人が自分の持分を第三者に譲渡すること自体は法律上有効ですが、それによって遺産分割と共有物分割という2つの異なる手続が並行して必要になる可能性があります。相続人間の話し合いだけで済んだはずの問題が、裁判所を巻き込んだ複雑な紛争に発展しかねません。

具体的な予防策

  • 遺産分割協議を速やかに進める
    分割が長引くほど、相続人の一人が持分を第三者に譲渡してしまうリスクが高まります。早期に協議を開始し、合意を目指すことが大切です。
  • 処分禁止の仮処分を検討する
    他の相続人が持分を勝手に処分しそうな場合には、裁判所に処分禁止の仮処分(不動産の売却や贈与を一時的に禁止する手続)を申し立てることも選択肢になります。本件でも、家庭裁判所が調停前の処分として処分禁止を命じていたにもかかわらず、贈与が行われたという経緯があります。
  • 相続財産の全体像を早期に把握・共有する
    財産目録を作成し、共同相続人全員で共有しておくことで、不透明な財産処分を防ぐことにつながります。

まとめ

本判決は、共同相続人の一人から遺産不動産の共有持分を譲り受けた第三者が共有関係の解消を求める場合、遺産分割審判ではなく、民法258条に基づく共有物分割訴訟によるべきであるという基準を示した重要な最高裁判例です。

その背景には、遺産分割審判と共有物分割訴訟ではそれぞれ目的・対象・基準が異なるという整理と、第三者と共同相続人双方の利益を調和させるという視点があります。

読者の方が覚えておくべきポイントは、遺産分割前の持分譲渡は法的に有効ではあるものの、手続を複雑化させるリスクがあるということです。相続が発生したら、できるだけ早期に遺産分割協議を進めることが、こうした複雑な事態を避ける最善の方法です。

よくある質問(FAQ)

相続人の一人が、遺産分割前に自分の持分を他人に売却することはできますか?

はい、法律上は可能です。 共同相続人は、遺産分割前であっても、自分の共有持分を第三者に譲渡(売却・贈与など)することができます。ただし、その場合、共有関係の解消手続が複雑になるため、他の相続人にとって大きな負担となる可能性があります。

遺産分割審判と共有物分割訴訟は何が違うのですか?

管轄する裁判所と手続の性質が異なります。 遺産分割審判は家庭裁判所で行われ、遺産全体を対象に相続人の事情を考慮して総合的に分割する手続です。一方、共有物分割訴訟は地方裁判所(または簡易裁判所)で行われ、特定の財産についての共有関係の解消を目的とする通常の民事訴訟です。

第三者が共有物分割訴訟で持分を得た場合、残りの相続人の遺産分割はどうなりますか?

残りの部分は、引き続き遺産分割の対象になります。 本判決では、共有物分割訴訟で相続人側に分与された部分は、その後も相続人間の遺産分割の対象となると明示されており、相続人の遺産分割に関する権利は害されないとされています。

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