遺産分割の話し合いがまとまらないときはどうすればいいですか?

回答

遺産分割の話し合い(協議)がまとまらないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます(民法907条2項)。調停でも合意に至らない場合は、自動的に審判手続に移行し、裁判所が分割方法を決定します(家事事件手続法272条4項)。遺産分割の紛争解決手続は、「協議→調停→審判」の3段階で進む仕組みになっています。

目次

手続の概要

遺産分割は、共同相続人全員の話し合い(遺産分割協議)によって行うのが原則です(民法907条1項)。しかし、相続人の間で意見が対立し、協議が調わないときや、そもそも協議をすることができないときは、各共同相続人は家庭裁判所に遺産の分割を請求することができます(民法907条2項)。

家庭裁判所での手続には、調停審判の2種類があります。遺産分割事件は、家事事件手続法上、別表第2に掲げる事項として審判事件(家事事件手続法39条、別表第2の12〜14項)に分類されますが、家事事件手続法244条により調停事件の対象にもなります。遺産分割事件は当事者の合意による自主的かつ円満な解決に親しむため、家事審判事件が係属したとしても、裁判所はいつでも職権で家事調停に付することができます(家事事件手続法274条1項)。このような性質から、実務上は、まず調停を申し立てるのが一般的です。

手続の全体像は、次の3段階に整理できます。

第1段階:遺産分割協議(当事者間の話し合い) 相続人全員で遺産の分け方を話し合います。全員が合意すれば、遺産分割協議書を作成して手続が完了します。

第2段階:遺産分割調停(家庭裁判所での話し合い) 協議がまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停委員会(裁判官1名と調停委員2名以上で構成)が間に入り、当事者の合意形成を目指します。

第3段階:遺産分割審判(家庭裁判所の判断) 調停が不成立で終了した場合、自動的に審判手続に移行し(家事事件手続法272条4項)、裁判所が遺産の分割方法を決定します。

手続の要件・準備

遺産分割調停の申立て

遺産分割調停を申し立てるには、申立書を作成して家庭裁判所に提出します(家事事件手続法255条1項)。

管轄裁判所: 調停事件として申し立てる場合の土地管轄は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、又は当事者が合意で定める家庭裁判所です(家事事件手続法245条1項)。相手方が複数いて住所地が異なる場合は、そのすべてに土地管轄が生じます。

申立手数料: 1件(被相続人1名)につき1,200円分の収入印紙を申立書に貼付します(民事訴訟費用等に関する法律3条、別表第1の15項の2、8条)。

必要書類(主なもの):

  • 遺産分割調停申立書及びその写し(相手方の人数分)
  • 被相続人の出生から死亡までの全戸籍謄本・改製原戸籍謄本(原本)
  • 相続人全員の戸籍謄本(原本)
  • 相続人全員の戸籍の附票又は住民票(原本・取得後3か月以内)
  • 遺産に関する資料(登記簿謄本又は全部事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金の通帳の写し又は残高証明書、株式等の関係書類の写しなど)
  • 遺言書がある場合はその写し
  • 事情説明書(各裁判所が定める様式)

遺産分割審判の管轄

審判事件として申し立てる場合の土地管轄は、相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所です(家事事件手続法191条1項)。調停不成立で審判に移行した場合は、調停を行っていた家庭裁判所がそのまま審判手続を行うのが実務上の原則です。ただし、相続開始地を管轄する家庭裁判所で手続が行われていなかった場合には、管轄裁判所への移送又は自庁処理の裁判がなされます(家事事件手続法9条1項)。

手続の流れ

STEP1:遺産分割調停の申立て

相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に調停申立書を提出します。裁判所は、申立書を受理すると、相続関係図や遺産目録の整理、調停期日の指定及び通知、相手方への申立書写しの送付、双方への実情照会(遺言の有無、遺産の範囲、協議の有無、特別受益や寄与分の主張の有無などの確認)を行います。

STEP2:調停期日(第1回)

第1回調停期日では、当事者へのオリエンテーション(遺産分割手続の手順の説明、当事者の事案解明義務と立証行動への意識付けなど)が行われます。調停委員会は、当事者から事情を聴きながら、次の手順で段階的に論点を整理していきます。

  1. 相続人の範囲を確定する
  2. 遺産の範囲及び遺産に付随する法律関係を確定する
  3. 遺産を評価する
  4. 特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)・寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)を確定する
  5. 遺産の分割方法を確定する

この段階的な進め方は「段階的進行モデル」と呼ばれ、各論点について対立点がある場合は、順番に合意の形成を図っていくことになります。

STEP3:調停期日(第2回以降)

第2回以降の期日では、前提問題・付随問題の取扱いの確定と記録化、遺産分割の対象財産の確定、遺産の評価額の確定、寄与分及び特別受益の確定、具体的相続分の算定及び分割方法の確定といった作業が進められます。各論点について当事者間の合意が積み重ねられ、その合意は中間合意調書として記録されることがあります。中間合意調書は、審判手続に移行した場合にも審判の資料とすることができます。

STEP4:調停の終結

調停手続は、以下のいずれかの形で終結します。

(1)調停成立

当事者間に合意が成立し、調停機関(調停委員会若しくは裁判所)がその合意が相当であると認めてこれを調停調書に記載すると調停は成立します(家事事件手続法268条1項)。調停条項は確定した審判(家事事件手続法39条)と同一の効力を有し(同法268条1項)、金銭の支払や物の引渡し、登記義務の履行などの具体的給付義務を定めた調停調書の記載は、執行力ある債務名義と同一の効力を有します(家事事件手続法75条)。

(2)調停不成立・審判への移行

当事者間に合意の成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認められる場合には、調停機関は調停を不成立として事件を終了させることができます(家事事件手続法272条1項)。この場合、調停の申立ての時に遺産分割の審判の申立てがあったものとみなされ(同条4項)、申立人等による特段の行為なくして審判手続に移行します。

(3)調停に代わる審判

家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で事件の解決のため必要な審判をすることができます(家事事件手続法284条1項)。当事者が審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てなければ、この審判は確定した審判と同一の効力を有します(同法286条・287条)。

STEP5:遺産分割審判

調停不成立により審判に移行した場合、家庭裁判所は、家事事件手続法の定める規定により審理を進めます。審判手続においても、遺産の範囲、特別受益、寄与分、遺産の評価などについて合意が尊重されます。裁判所は、原則として当事者からの陳述を聴いた上で(家事事件手続法68条1項)、職権で事実の調査を行い(同法56条1項)、審判書を作成します(同法76条)。

審判に対しては、当事者は即時抗告(審判の告知を受けた日から2週間以内。家事事件手続法86条1項)をすることができます。即時抗告の期間が経過すると、審判は確定します(同法74条4項)。

なお、最高裁は、各相続人への審判の告知の日が異なる場合における即時抗告期間について、相続人ごとに審判の告知を受けた日から進行すると判断しています(最高裁平成15年11月13日決定)。

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