遺産の分割について共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、家庭裁判所に遺産の分割を請求できます(民法907条2項)。家庭裁判所の手続には調停と審判があり、実務では調停から始めます。調停が不成立で終わった場合は、自動的に審判へ移行します(家事事件手続法272条4項)。
遺産分割の3つの手続
遺産分割を行う手続には、協議分割、調停分割、審判分割の3種類があります。表の下に行くほど、当事者の意思に反してでも分割の結果を実現する度合いが強くなります。
| 相続人全員の合意が必要か | 国家機関の関与が必要か | 決まった内容を強制的に実現できるか | |
|---|---|---|---|
| 協議分割 | 必要 | 不要 | 原則としてできない |
| 調停分割 | 必要 | 必要(調停委員会等) | できる |
| 審判分割 | 不要 | 必要(裁判官) | できる |
協議分割
遺産分割は、まず共同相続人の協議によって行います(民法907条1項)。裁判所など第三者の関与なしに、相続人だけで分割の内容を決められます。
反面、協議分割の成立には共同相続人全員の合意が必要です。第三者による説得や助言が予定されていないため、当事者間の対立が深刻であれば、合意に至る可能性は乏しくなります。合意ができても、その内容を強制的に実現することは原則としてできません(遺産分割協議の内容を公正証書に記載した場合には、強制執行が可能となる余地があります。民事執行法22条5号)。
協議で解決できない場合には、家庭裁判所の手続を利用します。相続人の一部が話し合いに応じない場合や、行方が分からず連絡が取れない場合も、民法907条2項の「協議をすることができないとき」に当たります。
調停分割
調停分割は、家庭裁判所の家事調停の手続によってなされる遺産分割です。調停委員会(裁判官と、民間から任命された家事調停委員で構成されます)が第三者の立場で介在し、紛争の解決を支援します。
調停は当事者全員の合意に基づいて自主的に紛争を解決する制度ですから、全員が納得し、かつ解決内容が相当である限り、事案に即した柔軟な解決を実現できます。審判では採用が困難な方法で遺産を分けることも可能です。その反面、当事者が1人でも反対すれば、調停による遺産分割は実現できません。調停が成立すると、調停条項の内容によっては強制執行もできます(家事事件手続法75条)。
審判分割
審判分割は、家庭裁判所の家事審判の手続によってなされる遺産分割です。裁判官が遺産分割の方法等を判断しますから、当事者全員の合意は必要ありません。したがって、審判で決まる分割の方法が、当事者の一部の意に沿わない内容となることもあります。審判の内容によっては、強制執行が可能です。
遺産分割事件は、家事事件手続法上、別表第2に掲げる事項として審判事件(同法39条、別表第2の12〜14項)であると同時に、調停事件の対象にもなります(同法244条)。裁判所は審判事件が係属していてもいつでも職権で家事調停に付することができ(同法274条1項)、実務では調停手続になじまないことが明らかな場合を除いて調停に付する運用がされています。審判を先に申し立てても、多くの場合は調停から進みます。なお、調停も審判も非公開の手続です(同法33条本文)。
申立ての要件と押さえておく期間
誰が、どこの家庭裁判所に申し立てるか
遺産分割の当事者となるのは、原則として共同相続人です。包括受遺者(遺言によって遺産の全部又は一定の割合を与えられた人。民法990条)や相続分の譲受人も当事者となります。相続人を1人でも除外してなされた遺産分割の調停又は審判は、全部が無効になると解されています。
調停の土地管轄は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、又は当事者が合意で定める家庭裁判所です(家事事件手続法245条1項)。審判の土地管轄は、相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所です(同法191条1項)。申立先、必要書類、手数料の詳細は、「遺産分割調停の申立先はどこの家庭裁判所ですか?必要書類と費用も教えてください」で解説しています。
遺産の一部だけを先に分割する方法
協議・調停・審判のいずれについても、遺産の全部ではなく一部について分割することが認められています(民法907条1項・2項)。範囲や評価に争いのある財産を残し、争いのない財産を先に分割するという進め方もできます。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合の一部分割については、家庭裁判所に請求できません(同条2項ただし書)。
期間に関して押さえておく事項
遺産分割そのものに期限はなく、相続開始から何年経っていても分割はできます。ただし、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割では、特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)と寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)の規定が適用されず、原則として法定相続分又は指定相続分による分割となります(民法904条の3)。10年経過前に家庭裁判所に遺産の分割を請求していた場合などの例外があり、施行日前に開始した相続にも適用されます(附則3条)。
相続税の申告と納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。遺産が分割されていないことを理由に、この期限が延びることはありません。分割協議が成立していないときは、各相続人が民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして計算し、申告と納税を行います。この場合、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例や配偶者の税額の軽減の特例は適用できない状態での申告になります。
その後に分割が行われ、分割に基づく税額と申告した税額とが異なるときは、修正申告又は更正の請求ができます。更正の請求ができるのは、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内です。この修正申告又は更正の請求では上記の特例を適用できますが、適用できるのは原則として申告期限から3年以内に分割があった場合に限られます(相続税法19条の2、27条、31条〜33条、55条、租税特別措置法69条の4)。当初の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておく必要があります。
手続の流れ
STEP1 遺産分割協議
相続人全員で遺産の分け方を話し合います。全員の合意ができれば遺産分割協議書を作成し、手続は終わります。合意に至らない場合、又は相続人の一部と連絡が取れないなどで協議自体ができない場合は、次の段階へ進みます。
STEP2 遺産分割調停の申立て
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書を提出します(家事事件手続法255条1項)。裁判所は、相続関係図と遺産目録を整理して調停期日を指定し、相手方に申立書の写しを送付したうえで、当事者双方に実情照会を行います。遺言の有無、相続人及び遺産の範囲、寄与分及び特別受益の主張、遺産取得の意向などが照会されます。
STEP3 調停期日での審理(段階的進行モデル)
遺産分割では、複数の論点が同時に議論されると話合いが混乱し、審理が進まなくなります。そこで各地の家庭裁判所は、期日で取り上げるテーマの標準的な順序を定めています。これを段階的進行モデルといい、次の5段階で進みます。
- 相続人の範囲——当事者となるべき相続人に過不足がないかを確認します。相続分も、遺言による指定がなければ民法900条以下の法定相続分によることをこの段階で確認します。
- 遺産の範囲——分割の対象となる財産の範囲について、当事者全員の合意による確認を目指します。
- 遺産の評価——個々の遺産の金銭的な評価を行います。分割方法によっては評価が不要となる場合もあります。
- 各相続人の取得額——特別受益や寄与分が認められる場合はそれらを考慮して相続分を修正し、各相続人の取得額を決めます。
- 遺産の分割方法——誰にどの遺産をどのような方法で帰属させるかを決めます。遺産の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して定めます(民法906条)。
このモデルは期日で取り上げる順番を示すものであり、前の段階の合意が未了だからといって後の段階に一切触れないという硬直的な運用はされません。各段階で合意ができたときは、その内容が中間合意調書として記録されます。
STEP4 調停手続の終了
調停手続は、次のいずれかの形で終わります。
調停成立
当事者全員が合意に達し、その合意内容が相当と認められて調停調書に記載されると調停が成立し、事件は終了します(家事事件手続法268条1項)。調停条項は確定した審判と同一の効力を持ちます。
調停不成立
当事者全員の合意が成立しないとき、又は合意の内容が相当と認められないときは、調停不成立となって家事調停事件が終了し、家事審判に移行します(同法272条1項)。調停の申立ての時に遺産分割の審判の申立てがあったものとみなされるため(同条4項)、改めて審判を申し立てる必要はありません。
調停に代わる審判
調停が成立しない場合において相当と認めるときは、家庭裁判所が、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で事件の解決に必要な審判をすることがあります(同法284条1項)。告知を受けた日から2週間以内に異議の申立てがなければ、確定した審判と同一の効力を持ちます(同法286条2項、287条)。
このほか、事件が性質上調停を行うのに適当でないと認めるときなどは、事件の進行が打ち切られます(同法271条)。
STEP5 遺産分割審判
審判手続では、裁判官が遺産分割の方法等を判断します。裁判所は、原則として当事者から陳述を聴いたうえで(家事事件手続法68条1項)、職権で事実の調査を行い(同法56条1項)、審判書を作成します(同法76条)。審判でも遺産の範囲や評価についての当事者の合意は尊重され、調停段階の中間合意が資料となることもあります。
裁判所の判断は、審判という形式で示されます(同法73条1項)。審判に対しては、告知を受けた日から2週間以内に即時抗告ができ(同法86条1項)、この期間の満了により審判が確定します(同法74条4項)。
なお、最高裁は、各相続人への審判の告知の日が異なる場合の即時抗告期間は、相続人ごとに各自が審判の告知を受けた日から進行すると判断しています(最決平成15年11月13日)。
調停・審判に要する期間は事案によって大きく異なります。期間の目安は、「遺産分割調停や審判にかかる期間はどのくらいですか?」で解説しています。

