遺産分割に期限はありますか?いつまでに手続きすべきですか?

回答

遺産分割そのものに法律上の期限はなく、共同相続人はいつでも協議で分割できます(民法907条1項)。ただし、相続開始の時から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益・寄与分を主張できません(民法904条の3)。このほか相続税の申告期限(10か月)や相続登記の申請義務(3年)など、遺産分割の進め方に影響する期間の定めがあります。

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遺産分割に期限が定められていない理由

被相続人が死亡すると、相続財産は各相続人の相続分に従って共同で帰属します(遺産共有、民法898条1項)。この状態を解消し、個々の財産を誰が取得するかを確定させる手続が遺産分割です(民法909条)。

民法907条1項は、共同相続人がいつでもその協議で遺産の全部または一部の分割をできると定めており、「いつまでに分割しなければならない」という締切りは置いていません。遺産をどう分けるかは相続人が本来自由に処分できる事柄であり、その時期も相続人の判断に委ねられているためです。協議が調わないときに家庭裁判所へ分割を請求できること(民法907条2項)も、期間の経過によって変わりません。

たとえば、被相続人Aが亡くなってから15年が経過していても、相続人全員の話し合いがまとまれば、遺産分割協議は有効に成立します。

もっとも、改正前の民法には遺産分割を行う期間の定めがなく、分割されないまま被相続人名義で放置される土地が生じていました。これが所有者不明土地(不動産登記簿から所有者が直ちに判明しない土地など)の発生要因の一つと指摘されたことから、令和3年の民法・不動産登記法改正により、遺産分割を促し、遺産共有を早期に解消する方向の見直しが行われています。遺産分割の進め方に影響する現在の期間の定めは、この改正によるものが中心です。

遺産分割に関わる期間の定め

相続開始後に問題となる主な期間は、次のとおりです。

期間内容根拠条文
3か月相続放棄・限定承認の申述ができる期間(熟慮期間)民法915条1項
10か月相続税の申告・納付の期限相続税法27条1項
3年相続登記(所有権移転登記)の申請義務の期限不動産登記法76条の2
10年特別受益・寄与分を主張できる期間民法904条の3

このうち、分割の内容そのものを左右するのが、民法904条の3の10年になります。

相続開始から10年(民法904条の3)

相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割については、特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)の持戻しと、寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)の規定が適用されません。相続開始から長期間が経った後の具体的相続分の主張を認めると、早期の遺産分割を妨げる要因になるため、これを抑える趣旨で令和3年改正により新設された制度です。

期間の満了時は、経過措置により「相続開始の時から10年」と「令和10年4月1日」のいずれか遅い方となります(民法904条の3、令和3年改正民法附則3条後段)。この規定は施行日前に開始した相続の遺産分割にも適用されるため、すでに相続開始から10年以上が経過している場合でも、令和10年4月1日までは特別受益・寄与分を主張できます。

10年の起算点は相続開始の時です。相続人が被相続人の死亡の事実を知っていたか、知ることができたかは考慮されません。

期間が満了する前に相続人が家庭裁判所へ遺産の分割を申し立てていれば、その後に期間が経過しても特別受益・寄与分の主張ができます(民法904条の3第1号)。期間の満了前6か月以内に、遺産の分割を申し立てられない「やむを得ない事由」が相続人にあった場合も、その事由が消滅したときから6か月を経過する前に申し立てれば同じ扱いを受けます(同条2号)。この「やむを得ない事由」は、客観的にみて申立てを期待できない事情をいい、相続人の主観的な事情は含まれないと解されています。

相続税の申告期限(10か月)

相続税の申告と納付の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です(相続税法27条1項)。遺産分割が終わっていないことを理由にこの期限が延びることはありません。

相続登記の申請義務(3年)

相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請する義務を負います(不動産登記法76条の2第1項)。改正法の施行日前に相続が開始していた場合にも適用されます(附則5条6項)。

遺産分割がまとまっていない段階では、法定相続分での相続登記を申請するか、相続人申告登記の申出をすれば、義務を履行したものとして扱われます(不動産登記法76条の3)。その後に分割が成立して法定相続分を超えて所有権を取得したときは、分割の日から3年以内に改めて登記を申請します(同法76条の2第2項)。

期間を経過した場合の効果

10年を経過した場合

特別受益や寄与分による修正ができなくなり、法定相続分(遺言による指定があるときは指定相続分)に従って分割することになります。

設例

被相続人Aの相続人は子B・Cの2名。遺産は4,000万円。BはAの生前に1,000万円の贈与(特別受益)を受けていた。

■ 10年を経過する前に分割した場合
 みなし相続財産 4,000万円 + 1,000万円 = 5,000万円
 一応の相続分  5,000万円 × 1/2 = 2,500万円(B・Cとも)
 Bの具体的相続分 2,500万円 - 1,000万円 = 1,500万円
 Cの具体的相続分 2,500万円

■ 10年を経過した後に分割した場合
 法定相続分により B・Cとも 2,000万円

なお、10年を経過した後でも、共同相続人全員が具体的相続分による分割に合意したときは、特別受益・寄与分を考慮した分割ができるとされています。これに対し、10年を経過する前にあらかじめ「10年経過後も具体的相続分によって分割する」と合意しておいても、その合意に効力は認められないと解されています。

また、令和3年改正により、相続開始後10年を経過した後は、遺産分割の調停・審判の申立てを取り下げるには相手方の同意が必要になりました(家事事件手続法273条2項、199条2項)。他の相続人が取下げを知らないまま効力が生じ、具体的相続分による分割を求める期間を失うことを避けるための規定です。10年経過後の遺産分割の詳しい扱いについては、「相続から10年経つと特別受益や寄与分が主張できなくなるって本当ですか?」で解説しています。

相続税の申告期限を過ぎた場合

期限までに分割が調わないときは、各相続人が法定相続分に応じて遺産を取得したものとして計算し、申告を行います(未分割申告)。この場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、当初の申告では適用を受けられません。申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておくと、申告期限から3年以内に分割が成立した時点で、更正の請求などによりこれらの特例の適用を受けられます。

なお、遺産分割が全体としてはまとまらない場合でも、遺産の一部について先に分割する方法があります(民法907条1項)。争いのない財産だけを先に分け、残りの財産の分割を後に回す進め方で、家庭裁判所に対しても一部の分割を求められます(同条2項)。一部分割の要件と進め方は、「遺産の一部だけを先に分割することはできますか?」で解説しています。

相続登記の申請義務に違反した場合

正当な理由がないのに申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられます(不動産登記法164条1項)。

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