遺産分割のやり直しはできますか?無効や取消しになるケースとはどのようなものですか?
遺産分割協議(相続人全員の話し合いによる遺産の分け方の合意)は、相続人全員が合意すればやり直すことができます(合意解除)。また、一部の相続人が協議に参加していなかった場合は無効となり、詐欺・強迫があった場合は取り消すことができます(民法96条)。ただし、代償金の不払いなど、協議で定めた約束が守られなかったことを理由とする解除(債務不履行解除)は認められません(民法541条の適用なし)。
結論
遺産分割協議のやり直しが認められるかどうかは、その理由によって異なります。
相続人全員が改めて合意すれば、既に成立した遺産分割協議をやり直すことは可能です。遺産分割協議は相続人全員の合意により成立するものですから、全員が合意すれば、これを解消して再度協議をすることもできます。
一方、遺産分割協議に無効事由や取消事由がある場合には、その協議の効力自体を争うことになります。他方で、協議で定めた約束が守られないこと(債務不履行)を理由にやり直しを求めることは、判例上認められていません。
根拠と条件
遺産分割協議のやり直しが問題になる場面は、大きく分けて次の4つがあります。
合意解除(相続人全員の合意によるやり直し)
相続人全員が同意すれば、成立した遺産分割協議を合意により解除し、改めて遺産分割をやり直すことができます。
なお、最高裁は、共同相続人の全員が既に成立している遺産分割協議の全部または一部を合意により解除した上で改めて遺産分割協議をすることは法律上妨げられないと判断しています(最高裁平成2年9月27日判決)。
合意解除にあたっては、相続人全員の同意が必要であり、一部の相続人だけの意思では解除できません。また、合意解除の結果やり直しを行うと、税務上は新たな贈与や交換とみなされる可能性がある点にも注意が必要です。
無効となる場合
遺産分割協議が無効となる代表的な場合は、次のとおりです。
- 共同相続人の一部が参加していなかった場合:遺産分割協議は共同相続人全員で行う必要があります(民法907条1項)。一部の相続人を除外して行われた協議は無効です。たとえば、被相続人に認知された子がいることを知らずに協議を行った場合などがこれにあたります。
- 意思能力を欠いていた場合:協議の時点で認知症等により意思能力(自分の行為の結果を理解する能力)を欠いていた相続人がいた場合、その協議は無効となります(民法3条の2)。
- 公序良俗に反する場合:協議の内容が公序良俗に反する場合も無効です(民法90条)。
取消しが認められる場合
遺産分割協議に取消事由がある場合は、取消権を行使することで協議の効力を否定することができます。代表的な取消事由は次のとおりです。
- 詐欺・強迫:他の相続人から虚偽の事実を告げられて合意した場合(詐欺)や、脅されて合意した場合(強迫)は、遺産分割協議を取り消すことができます(民法96条)。
- 錯誤:遺産の内容や価額など、協議の前提となる重要な事実について誤解があった場合は、錯誤を理由に取り消すことができます(民法95条)。ただし、重要な事実についての錯誤であり、かつ表意者に重大な過失がないことが必要です。
なお、詐欺・強迫による取消権は、追認をすることができる時から5年間、または行為の時から20年間で消滅します(民法126条)。
債務不履行を理由とする解除は認められない
遺産分割協議で「長男が母の介護費用を負担する」「代償金として○○万円を支払う」などの約束をしたにもかかわらず、これが履行されなかった場合であっても、債務不履行を理由に遺産分割協議を解除することはできません。
なお、最高裁は、共同相続人間で遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が協議で負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって遺産分割協議を解除することはできないと判断しています(最高裁平成元年2月9日判決)。
遺産分割協議は、その性質上、法的安定性の要請が高く、債務不履行を理由にいつでも解除できるとすると、遡及的に法律関係が覆されてしまい、第三者を含む関係者に重大な影響を及ぼすおそれがあるためです。この場合、履行されない債務については、別途、履行の請求や損害賠償の請求によって解決を図ることになります。
具体的な場面での適用
設例1:相続人全員の合意によるやり直し
被相続人Aの相続人がB・C・Dの3名で、遺産分割協議によりBが自宅不動産を、C・Dがそれぞれ預貯金を取得する内容で合意が成立したとします。その後、全員が「やはり自宅を売却して代金を3等分したい」と考えた場合、B・C・D全員の合意があれば、先の協議を解除して改めて遺産分割をやり直すことができます。
設例2:一部の相続人が参加していなかった場合
被相続人Aの相続人がB・Cの2名であると考えて遺産分割協議を行い、協議書を作成したとします。ところが、後からAに認知した子Dがいることが判明した場合、Dを除外して行った遺産分割協議は無効となります。B・C・Dの3名全員で改めて協議をやり直す必要があります。

