同居相続人が固定資産税納税通知書を見せてくれない場合、どうすればいいですか?

回答

固定資産税納税通知書を入手できなくても、被相続人名義の不動産は別ルートで把握できます。第一に、令和8年(2026年)2月2日に施行された所有不動産記録証明制度(不動産登記法119条の2)を利用すれば、相続人が法務局に請求することで、被相続人が登記名義人として記録されている全国の不動産を一覧化した証明書を取得できます。第二に、市区町村に名寄帳(地方税法387条に基づく土地名寄帳・家屋名寄帳)を請求すれば、その市区町村内の被相続人名義の不動産を一覧で把握できます。いずれも各相続人が単独で請求でき、同居相続人の協力は不要です。むしろ、納税通知書を見せない背景に、遺産を隠匿しようとする意思が読み取れる場合には、預貯金・有価証券・貸金庫等の調査も早期に着手することが望まれます。

目次

調査・手続の概要

固定資産税納税通知書は、毎年4月から6月頃に各市区町村が不動産所有者に送付する書面で、課税明細書(物件ごとの所在・地目・地積・評価額・課税標準額・税額)が添付されています。被相続人と同居していた相続人が通知書を受け取り、これを開示しないというケースは実務上少なくありませんが、通知書を入手できなくても、別の方法で被相続人名義の不動産を把握することができます

第一は、令和8年(2026年)2月2日に施行された所有不動産記録証明制度(不動産登記法119条の2)です。法務局に請求することで、被相続人が登記名義人として記録されている全国の不動産を一覧化した「所有不動産記録証明書」を取得できます。市区町村ごとに照会する必要がなく、登記情報ベースで全国を横断的に検索できるため、被相続人がどの自治体に不動産を持っていたか不明な場合に特に有効です。

第二は、市区町村への名寄帳の請求です。名寄帳は、地方税法387条に基づき市町村が固定資産課税台帳の登録事項に基づいて作成する土地名寄帳・家屋名寄帳の写しで、その市区町村内の被相続人名義の不動産が一覧で記載されています(共有持分を含む)。納税義務を承継した相続人は、各自単独で交付を請求できます。

両者は併用するのが基本です。所有不動産記録証明制度は、登記情報がベースとなるため、未登記建物は捕捉できません。他方、名寄帳は、市区町村が課税対象として把握している不動産が対象のため、通常、未登記建物も記載されています。両者を組み合わせることで、被相続人名義の不動産を網羅的に把握できます。

固定資産税納税通知書・名寄帳・所有不動産記録証明書の違い

三者の機能を整理すると、次のとおりです。同居相続人が納税通知書を見せてくれない場合の代替策を考えるうえで、各書類の機能を理解しておくことが有用です。

項目固定資産税納税通知書名寄帳所有不動産記録証明書
発行者各市区町村各市区町村法務局
根拠地方税法364条地方税法387条不動産登記法119条の2
取得方法毎年4〜6月頃に被相続人宛て送付相続人が単独で申請・取得相続人が単独で申請・取得
範囲その市区町村内の課税対象不動産その市区町村内の不動産(課税対象が中心)全国の登記名義不動産
共有不動産持分の表示は限定的単独・共有を区別して取得可能登記情報ベースで捕捉
非課税不動産課税対象外は載らない自治体により記載されない場合あり登記されていれば捕捉
未登記建物課税対象なら載る課税対象なら載る捕捉できない
入手の主導権受領者(同居相続人)が開示する必要あり各相続人が単独で請求可各相続人が単独で請求可

このように、所有不動産記録証明書で全国を横断的に押さえ、名寄帳で未登記建物・非課税物件の補完をするのが、現時点で最も網羅的な不動産調査の進め方です。

不動産調査の進め方

ステップ1:所有不動産記録証明制度の利用(全国横断)

法務局に対し、所有不動産記録証明書の交付を請求します。請求できるのは、所有者本人または相続人等です。請求書には、被相続人の氏名と住所(過去の住所・旧姓を含む)などの検索条件を記載します。手数料は、書面請求の場合、検索条件1件あたり1,600円(オンライン請求の場合は1,000円)です。

被相続人の住所や氏名が登記簿上の表記と一致しない場合(旧住所のまま登記が放置されている、旧字体の氏名で登記されている等)は、抽出されないことがあります。過去の住所・氏名についても検索条件として記載することで、検索の網を広げることができます。

詳細は、法務省の所有不動産記録証明制度についてで確認できます。

ステップ2:名寄帳の請求(市区町村単位)

被相続人の本籍地・最終住所地・かつての居住地などの市区町村に対し、名寄帳の交付を請求します。所有不動産記録証明制度では捕捉できない未登記建物や、自治体によっては非課税物件も確認できます。

ステップ3:通帳の引落し履歴の確認

被相続人の預金口座の取引履歴を取得すれば、固定資産税の口座引落しの記録から、被相続人が固定資産税を納付していた市区町村を特定できます。引落しの記載には市区町村名が表示されるのが通常です。これにより、被相続人が思いがけない自治体に不動産を所有していたことが判明し、ステップ2の請求先を絞り込むことができます。

ステップ4:登記情報の確認

特定の不動産の所在地が分かっている場合は、登記情報提供サービスや法務局で登記事項証明書を取得し、被相続人の所有権の有無や持分・抵当権等を確認します。

ステップ5:過去の確定申告書の確認

被相続人が確定申告をしていた場合、申告書に不動産所得・固定資産税の経費計上があれば、所有不動産を特定する手がかりになります。同居相続人の協力が得られない場合には、被相続人の顧問税理士に対し、相続人の立場で照会することを検討してください。

取得した名寄帳で確認すべき項目

評価額と課税標準額の区別

固定資産税納税通知書を見ながら不動産評価額を確認することに慣れている方は、特に注意が必要です。相続実務で使用するのは「評価額」であって「課税標準額」ではありません。住宅用地特例等の適用を受けた後の課税標準額を評価額と誤認すると、相続税申告や遺産分割協議の前提が崩れます。

共有持分の有無

被相続人と同居していた配偶者・子が、被相続人と共有名義で不動産を所有しているケースは少なくありません。共有不動産については代表者にのみ納税通知書が送付されるため、被相続人が代表者でない場合は、納税通知書を見ても共有不動産を把握できないことがあります。名寄帳の請求時には「単独・共有を問わず被相続人名義のすべての不動産」と明示して請求することで、共有不動産の漏れを防ぎます。

未登記建物

登記されていない建物(増築部分・古い農家住宅等)であっても、市区町村が課税対象として把握していれば名寄帳に記載されます。所有不動産記録証明制度では捕捉できない未登記建物を発見できるのは名寄帳ならではの強みです。

複数市区町村への並行請求

被相続人の本籍地・最終住所地・かつての居住地・出身地など、不動産を所有していた可能性のあるすべての市区町村に並行して請求します。所有不動産記録証明書(ステップ1)である程度の当たりがついている場合は、その所在地を含む市区町村を優先します。法定相続情報一覧図を取得しておくと、複数の市区町村への並行請求を効率化できます。

参考リンク

機関・自治体案内ページ
法務省(所有不動産記録証明制度)所有不動産記録証明制度について(法務省)
東京都(都税事務所)固定資産に関する証明等(23区内)・相続人(東京都主税局)
横浜市固定資産に関する証明書(横浜市)
大阪市固定資産課税台帳の閲覧を申請される方へ(大阪市)
名古屋市名寄帳(土地・家屋)の閲覧(写しの交付)の申請(名古屋市)

※各自治体のページ構成は更新されることがあるため、最新の案内は「(自治体名) 名寄帳」で検索のうえ、各自治体公式サイトでご確認ください。所有不動産記録証明制度の手数料・運用は今後変更される可能性があるため、請求前に法務省ホームページで最新情報をご確認ください。

相続トラブルに備えたアドバイス

固定資産税納税通知書の引渡しに固執しない

同居相続人が固定資産税納税通知書を出さないという場面では、引渡しを求めて感情的に対立を深めるより、まず所有不動産記録証明書と名寄帳の取得から粛々と進めるほうが効率的かつ確実です。所有不動産記録証明書は被相続人の相続人として法務局に請求でき、名寄帳は地方税法上の納税義務を承継した相続人として各市区町村に請求でき、いずれも他の相続人の同意は不要です。書面の取り合いに時間を費やすより、法務局・市区町村の窓口に動くほうが結果が出ます。

所有不動産記録証明書の限界を知っておく

所有不動産記録証明制度は、相続実務にとって画期的な制度ですが、万能ではありません。登記簿上の氏名・住所と請求書記載の検索条件が一致しない不動産は抽出されないため、被相続人が結婚前の旧姓のまま登記している、転居前の旧住所のまま登記が放置されている、旧字体で登記されている等の場合、捕捉漏れが生じます。請求時には、判明している過去の住所・旧姓を漏れなく検索条件に含めることが望まれます。

また、登記名義人として記録されていない不動産(未登記建物等)は捕捉できないため、所有不動産記録証明書だけで調査を終えるのではなく、名寄帳との併用が必須です。

不動産以外の財産の調査にも着手する

固定資産税納税通知書を見せない理由として、(a)単に手元にない・紛失した、(b)整理が面倒、(c)他の相続人に詳細を知られたくない事情がある、といった様々な理由がありえます。このうち(c)の可能性が読み取れる場合には、不動産以外の財産についても同様に開示しない可能性があることを念頭に置く必要があります。

固定資産税納税通知書だけでなく、通帳、生命保険の証券、有価証券の取引報告書なども開示しない場合には、不動産調査と並行して、預貯金・生命保険・有価証券・貸金庫・暗号資産等の財産調査も早期に着手することをお勧めします。これらの調査も、各相続人が単独で各機関に照会できるため、同居相続人の協力なしに進められます。

評価額と課税標準額の取り違えを防ぐ

仮に納税通知書を後から入手できたとしても、「評価額」と「課税標準額」を取り違えると相続税申告や遺産分割協議の前提を誤ります。両者の数値を正確に区別し、相続実務では「評価額」を使用することを徹底してください。倍率方式での相続税評価は「評価額×倍率」となるため、ここでの取り違えは申告誤りに直結します。

不動産漏れによる協議の蒸し返しリスク

被相続人が複数の市区町村に不動産を所有している場合、自宅近隣以外の不動産(地方の山林・原野、古い農地、忘れられた共有持分、転居前の自治体に残っていた小規模な土地等)が見落とされやすいポイントです。協議成立後にこれらが新たに発覚すると、別途協議を要するだけでなく、その存在を前提として協議内容そのものを見直す必要が生じる場合もあり、全部または一部のやり直しを余儀なくされるリスクがあります。所有不動産記録証明制度の施行により、こうした遠隔地の不動産の捕捉漏れリスクは大幅に低減されました。相続が発生したら、まず所有不動産記録証明書で全国の登記情報を一括で押さえることを早期の手続として位置付けることをお勧めします。

同居相続人による生前の動きにも目配り

同居相続人が固定資産税納税通知書を見せないケースでは、すでに生前に贈与や売買が行われているケースも見受けられます。直近数年の登記履歴を確認し、登記原因や時期を整理しておくことが望まれます。生前贈与であれば特別受益(民法903条)、有償譲渡であれば対価の流れ(通帳の入出金)の確認につながります。

調停申立てを見据えた書類の用意

不動産の開示をめぐる対立が深まり、家庭裁判所の調停・審判での解決が視野に入る段階では、不動産については登記事項証明書とともに固定資産税評価額が分かる資料(納税通知書または名寄帳の写し等)の提出を求められます。協議が難航し、調停申立ての可能性が出てきたら、所有不動産記録証明書と名寄帳を早期に取得しておくことで、申立て時に慌てて書類を揃える必要がなくなります。

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