遺産分割の審判と調停の違いは何ですか?

回答

遺産分割調停は、家庭裁判所で相続人全員の合意により遺産の分け方を決める手続です。遺産分割審判は、協議が調わないときに家庭裁判所が分け方を定める手続で、裁判所は一切の事情を考慮して分割方法を決めます。調停が不成立で終わると、調停を申し立てた時に審判の申立てがあったものとみなされ、審判手続に移ります(家事事件手続法272条4項)。

目次

遺産分割調停と審判のそれぞれの意味

遺産分割は、家事事件手続法の別表第2の12の項に掲げる事件として、家庭裁判所の調停と審判の対象になります(家事事件手続法244条)。

遺産分割調停は、調停委員会が間に入り、相続人全員の合意によって遺産の分け方を決める手続です。調停委員会は、裁判官と、民間から任命された2人以上の家事調停委員で構成されます(同法248条1項)。実務では調停委員が2人のことが多く、事案によっては3人以上が指定されることもあります。合意が成立し、その内容が調停調書に記載されると、調停が成立します(同法268条1項)。調停制度の本質的な機能は、当事者の合意による紛争の解決にあります。調停委員会の役割も、相続人が納得できる解決方法を自分で検討し判断できるように、事案に応じた支援を行うことに置かれています。

遺産分割審判は、相続人の間で協議が調わないとき、または協議ができないときに、家庭裁判所が遺産の分け方を定める手続です。共同相続人は、遺産の全部または一部の分割を家庭裁判所に請求できます(民法907条2項)。家事審判の手続は、裁判所が後見的な立場から個別の事案に即した判断を行うものとして組み立てられており、裁判所には当事者の主張に拘束されない広い裁量が認められています。合意ではなく裁判官の判断で結論が出る点が、調停との根本的な違いです。

調停と審判の違い

項目遺産分割調停遺産分割審判
根拠条文家事事件手続法244条、268条1項民法907条2項、家事事件手続法191条1項
結論を決めるのは相続人全員(調停委員会が調整する)家庭裁判所(裁判官)
手続の始まり申立て、または係属中の審判事件を調停に付する決定(同法274条1項)申立て、または調停の不成立による移行(同法272条4項)
管轄相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定めた家庭裁判所(同法245条1項)相続が開始した地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所(同法191条1項)
判断の基準相続人全員の合意遺産に属する物や権利の種類・性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態、生活の状況その他一切の事情(民法906条)
決められる分け方全員が合意すれば内容を自由に決められる民法その他の法令に根拠のある分割方法に限られる
出席しない相続人がいる場合全員の合意が得られないため、調停は成立しない手続を進めて審判をすることができる
主張・資料の提出期限定めがない審理を終結する日までに提出されたものが判断の基礎になる(家事事件手続法71条)
記録の閲覧・謄写家庭裁判所が相当と認めるときに許可する(同法254条3項)原則として許可され、不許可となる事由は限定列挙されている(同法47条3項・4項)
不服申立て合意により成立するため制度がない即時抗告(同法85条1項、198条1項1号)
成立・確定後の効力確定した審判と同一の効力(同法268条1項)権利関係を変動させる効力と、給付を命じる部分の執行力(同法195条、75条)

いちばん大きな違いは、誰が結論を決めるかという点にあります。調停は相続人が一人でも同意しなければ成立しませんが、審判は全員の同意がなくても裁判所の判断で遺産分割が成立します。

次に大きいのが、決められる分け方の幅です。調停では、相続人全員が納得するなら、法律が用意していない分け方でも合意の内容にできます。これに対して審判では、民法その他の法令に根拠のある分割方法しか採用できません。遺産を分ける方法の種類については、「遺産を分けるにはどのような方法がありますか?それぞれの特徴を教えてください」で解説しています。

三つ目に、手続の中で情報がどこまで共有されるかも違います。調停は当事者の合意形成のための手続であって、裁判所の判断を求める手続ではないため、審判に比べると手続保障の要請が後退します。調停機関が一方の相続人から聴いた事情を他の相続人に逐一伝えることは求められておらず、記録の閲覧・謄写も家庭裁判所の裁量的な判断に委ねられるのは、そのためです。審判では、裁判所が判断の基礎とする資料を当事者に開示して反論の機会を与えることが求められるので、記録の閲覧・謄写は原則として許可されます。

一方で、共通する部分も少なくありません。調停・審判のいずれも一般には公開されず(家事事件手続法33条本文)、裁判所が職権で資料を収集する職権探知主義がとられ(同法56条1項、258条1項)、期日には原則として相続人本人が出頭しなければなりません(同法51条、258条1項)。

調停と審判は、別々の手続というより、つながった一つの流れとして運用されています。調停が不成立で終了すると(同法272条1項)、調停を申し立てた時に審判の申立てがあったものとみなされるため、あらためて申立書を提出しなくても審判手続が始まります(同条4項)。申立ての手数料を追加で納める必要もありません。表のとおり管轄は調停と審判で異なりますが、審判について管轄がない場合には、調停を担当した家庭裁判所が自ら処理する自庁処理の可否が問題になります(同法9条1項ただし書)。

審判で分割方法が決まるまでの流れ

家庭裁判所は、申立てが不適法であるときや申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当事者の陳述を聴かなければなりません(同法68条1項)。聴取の方法に制限はなく、審問のほか、書面照会や家庭裁判所調査官の調査によることもできます。ただし、当事者が直接裁判官に主張を述べたいと申し出たときは、審問の期日を開いて陳述を聴く必要があります(同条2項)。審問の期日には他の当事者も立ち会えるため、双方に反論の機会が保障されます(同法69条)。

裁判資料の収集については、裁判所が広い裁量のもとで適切な方法により資料を集めることとされ、当事者にも事実の調査や証拠調べに協力する責務があります(同法56条1項・2項)。もっとも、遺産分割は相続人が処分できる私的な財産をめぐる紛争ですから、主張の裏付けとなる資料の提出は、一次的には当事者の権能と責任と考えられています。実務で最も多く用いられる証拠調べは、遺産の評価額の鑑定です。

調停段階で提出された主張書面や資料は、当然には審判の資料になりません。審判手続のなかで事実の調査を経てはじめて、判断の基礎となる資料になります。家庭裁判所が事実の調査をしたときは、特に必要がないと認める場合を除き、その旨が当事者に通知されます(同法70条)。

これに対し、調停で積み上げた合意は審判でも尊重されます。遺産の範囲、遺産の評価、特別受益(被相続人から生前に受けた贈与などの特別な利益)、寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)は、いずれも相続人が任意に処分できる事項です。そのため、相続人がいったん形成した合意は、内容が違法・不当でない限り、審判でも判断の基礎や前提になります。家事事件手続法2条が、当事者は信義に従い誠実に手続を追行しなければならないと定めていることが、その根拠と考えられています。

審理が熟すと、裁判所は相当の猶予期間をおいて審理を終結する日を定めます(同法71条本文)。当事者双方が立ち会うことができる期日では、その期日で直ちに審理を終結することもできます(同条ただし書)。審理を終結したときは審判をする日を定め(同法72条)、審判書を作成します(同法76条1項)。審判は相当と認める方法で告知されますが(同法74条1項)、遺産分割審判の実務では、即時抗告の起算点を明らかにするため、審判書の正本を送達する方法によることが多くみられます。即時抗告の期間である2週間(同法86条1項)が経過すると審判が確定し、効力が生じます(同法74条2項・4項)。

どちらを選ぶべきか

遺産分割は、最初から調停を申し立てることも、審判を申し立てることもできます。もっとも、強制的な解決方法である審判よりも、相続人の合意による調停で処理されるほうが当事者の納得を得られやすいと考えられており、調停を経ずに審判が申し立てられた場合、裁判所は職権でその審判事件を家事調停に付することができます(家事事件手続法274条1項)。実務では、事案の内容からまず話合いによる解決を探るのが適切と判断される場合などに、この取扱いがされています。付調停にあたって裁判所は当事者の意見を聴かなければなりませんが、当事者が反対しても付調停の決定は可能です。手続の入口としては、調停の申立てから始まると考えて差し支えありません。

調停で全員の合意に至る見込みがなくなれば調停は不成立となり、審判へ移ります。審判に移った後も、合意による解決の可能性が失われるわけではありません。審理の途中で合意による解決の目処が付いた場合には、あらためて事件が調停に付されることがあり、調停が成立すれば審判事件は当然に終了します(同法276条2項)。

遺産の全部ではなく一部だけを対象として、調停や審判を求めることもできます(民法907条1項・2項)。一部分割の要件と使い方は、「遺産の一部だけを先に分割することはできますか?」で解説しています。

なお、相続開始の時から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分を反映した具体的相続分による分割ができません(民法904条の3)。10年を経過する前に家庭裁判所に遺産分割の請求をしたときはこの制限を受けないため、調停・審判の申立てには、具体的相続分の主張を維持するという意味もあります。この期間制限については、「相続から10年経つと特別受益・寄与分が主張できなくなるって本当ですか?」で詳しく解説しています。

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