相続手続きは何から始める?期限と優先順位がわかる遺産分割のロードマップ
親御さんが亡くなり、葬儀や法要がひと段落ついた頃、ふと現実的な不安に襲われることがあります。「役所への届出は終わったけれど、家の名義変更や預金の手続き、一体何から手をつければいいの?」
ネットで検索すると、「準確定申告」「検認」「特別受益」……聞き慣れない法律用語が羅列されており、余計に混乱してしまうことも少なくありません。
でも、安心してください。相続手続きは、すべてを一度にやる必要はありません。
大切なのは、「期限がある手続き」を最優先にし、「じっくりやるべき調査」と分けることです。これだけで、やるべきことは驚くほど整理されます。
この記事では、複雑な相続の流れを3つのフェーズに整理し、専門用語を極力使わずに解説します。まずはこの全体像(ロードマップ)を押さえて、焦らず一つずつ進めていきましょう。
まずは全体像を把握!相続手続きの3つのフェーズ
相続手続きで失敗しないコツは、以下の3段階で優先順位をつけることです。
多くの人がいきなり「遺産の分け方」を話し合おうとして揉めてしまいますが、まずは「①初動」と「②調査」をしっかり終わらせることが、円満な相続への近道です。
また、全体のスケジュールには、絶対に守らなければならない「3つのデッドライン」があります。まずはこれを把握しましょう。
| フェーズ | 期間の目安 | やることの核心 | 関連する重要な期限 |
| ① 初動 | 3か月以内 | 「借金の確認」と「遺言書の有無」 ※ここが一番期限にシビアです! | 【3か月】相続放棄 借金を背負わないための絶対期限 |
| ② 調査 | 4か月以内 | 「財産の洗い出し」と「親の税金」 ※損をしないために最も重要なステップ。 | 【4か月】準確定申告 親の最後の所得税申告 |
| ③ 分け方の決定 | 10か月以内 | 「誰が何をもらうか決める」 ※話し合いから名義変更まで。 | 【10か月】相続税申告 税金がかかる人の期限 |
💡 その前に!「14日以内」の役所手続きは終わりましたか?
フェーズ1に入る前に、以下の手続きは葬儀後すぐに済ませておきましょう。
- 年金の受給停止: 年金事務所へ(放置すると後で返金の手間がかかります)。
- 健康保険証の返却: 役所へ。「葬祭費(お葬式代の補助金)」の申請も忘れずに。
- 世帯主変更届: 親が世帯主だった場合。
【フェーズ1】期限厳守!3か月以内にやるべき「放棄」と「遺言確認」
最初に行うべきは、「マイナスの財産(借金)」と「遺言書」の確認です。ここには取り返しのつかないルールが存在するため、四十九日法要が終わる頃までに必ず着手してください。
借金があるなら要注意。「相続放棄」のタイムリミット
親に借金や連帯保証人の契約があった場合、何もしないと「借金もすべて子供が引き継ぐ」ことになります。
これを避けるためには、「相続放棄(=プラスの財産も借金も、一切引き継がない)」という手続きを家庭裁判所で行う必要があります。
- 期限: 亡くなったことを知ってから3か月以内
- 調べ方(隠れ借金を見つける):
- 郵便物をチェック(督促状や「〇〇ファイナンス」からのハガキがないか)。
- 通帳をチェック(消費者金融への引き落とし履歴がないか)。
- 【推奨】信用情報機関への開示請求: スマホや郵送で「CIC」「JICC」「KSC(全銀協)」の3社に情報開示を請求すれば、クレジットカードやローンの借入状況が一覧で分かります。
うっかり「単純承認」にならないための注意点
3か月以内であっても、うっかり「単純承認(=借金も引き継ぐことを認めてしまうこと)」をしてしまうと、後から相続放棄ができなくなります。
「単純承認」とは、行動で「私は相続します」と認めたとみなされることです。以下のような行動はリスクが高いため、注意してください。
⚠️ やってはいけないNG行動(単純承認)
- 亡くなった親の預金を引き出して、自分の生活費や遊興費に使った。
- 親名義の車や不動産を勝手に売却・処分した。
- 親の借金の一部を、自分の判断で返済してしまった。
- 親のクレジットカードのポイントを使ってしまった。
※「葬儀費用」のために預金を引き出すことは、常識的な範囲であれば認められる判例が多いですが、必ず領収書を保管し、それ以外の用途には一切使わないのが安全です。
遺言書が見つかったら、勝手に開けずに「検認」へ
もし自宅の金庫やタンスから「封のしてある遺言書」が出てきても、その場ですぐに封を開けてはいけません。
勝手に開封すると5万円以下の過料(罰金のようなもの)がかかる可能性がありますし、「中身を書き換えたのではないか」と親族に疑われる原因になります。
遺言書が見つかったら、まずは家庭裁判所に持っていき、「検認(けんにん)」という手続きを申し立てます。
- 検認:遺言書の中身を公式に確認し、その状態を記録する手続きのこと。
- ※「公正証書遺言(公証役場で作ったもの)」や「法務局で保管されていた自筆証書遺言」の場合は、検認は不要です。すぐに手続きに使えます。
【フェーズ2】ここが損得の分かれ道!徹底的な「財産調査」
相続放棄の心配がなくなり、遺言書の確認も済んだら、次は「どんな財産が、どこに、どれだけあるか」を調べます。ここが漏れると、後で遺産分割をやり直す羽目になります。
また、この時期には「準確定申告(4か月以内)」という税金の期限もやってきます。
通帳は「残高」だけでなく「過去の取引履歴」も見る
銀行の手続きでは「残高証明書(亡くなった日の残高)」をもらうのが基本ですが、必ず「過去の取引履歴(過去3年〜5年分)」も取得しましょう。
- チェックポイント: 亡くなる直前に、使途不明な多額の引き出しがないか? 特定の子供への定期的な送金がないか?
- 理由: もし特定の親族が勝手に引き出していた場合(使い込み)や、生前に多額の援助を受けていた場合(特別受益)、その分も「すでに受け取った遺産」として計算に含める必要があるからです。
不動産は「名寄帳」を使って洗い出す
預金と違い、不動産は通帳のように一覧になっていません。「実家だけだと思っていたら、実は山林や私道の持分を持っていた」というケースは非常に多いです。
固定資産税の通知書だけでなく、「名寄帳(なよせちょう)」を取ることをお勧めします。
- 固定資産税の課税明細書: 毎年春頃に役所から届く通知書。ここに所有物件が一覧で載っています。
- 名寄帳(なよせちょう): 役所の資産税課で取得できる「その人がその市区町村に持っている全不動産の一覧表」です。
- 課税明細書には載らない「非課税の道路(私道)」や「山林」なども見つかるため、取りこぼしを防ぐ最強のツールです。
📝 忘れずに!「準確定申告」は4か月以内
親が「自営業」だったり、「年金収入が400万円超」だったりした場合、親の代わりに最後の所得税申告(準確定申告)をする必要があります。
期限は「亡くなってから4か月以内」。期限が早いため、財産調査と並行して源泉徴収票や医療費の領収書を集めておきましょう。
介護などで貢献した親族がいる場合の「特別寄与」を検討
財産調査の段階で、「誰がどれだけ親に尽くしたか」についても情報を整理しておきましょう。
長年にわたり親の介護を無償で行っていた親族(長男の妻など)がいる場合、「特別寄与料」として、相続人に対して金銭を請求できる制度があります。
「いつ、どのようなお世話をしたか」を日記やメモなどで整理しておくと、後の話し合いで考慮しやすくなります。
【フェーズ3】いよいよ本番。「遺産分割協議」の進め方
財産がすべて明らかになったら、最後に「誰がどの財産をもらうか」を話し合います。これを「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」と呼びます。
「法定相続分」はあくまで目安。話し合いで決めてOK
法律では「子供同士は均等に分ける(法定相続分)」といったルールがありますが、これはあくまで「揉めた時の最終的な目安」に過ぎません。
全員が納得するなら、
- 「母の介護をしてくれた長女が多めにもらう」
- 「家を継ぐ長男が不動産をすべて相続し、次男は現金を多めにもらう」
といった分け方でも全く問題ありません。法律の数字に縛られすぎず、家族の事情に合わせて自由に話し合って決めましょう。
揉めないための「遺産分割協議書」作成ポイント
話し合いで合意ができたら、「遺産分割協議書」という書類を作成します。これがないと、不動産の名義変更や銀行預金の解約ができません。
▼ 作成のポイント
- 具体的に書く: 「誰が」「どの財産を(口座番号や土地の地番まで正確に)」取得するかを明記する。
- 予備の条項を入れる: 「後から新たな財産が見つかった場合どうするか」も決めておく(例:改めて協議する、発見者が取得するなど)。
- 実印と印鑑証明: 相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付する。
🔔 注意:不動産の名義変更(相続登記)について
2024年4月から、不動産の相続登記が義務化されました。
遺産分割が成立してから3年以内に登記を行わないと、10万円以下の過料の対象となります。協議書ができたら、速やかに法務局(または司法書士)へ依頼して手続きを済ませましょう。
どうしても話がまとまらない時は「調停」という選択肢も
当事者同士での話し合いが平行線で、感情的になって進まない場合は、無理に続けずに家庭裁判所の「調停(ちょうてい)」を利用することを検討しましょう。
調停とは、裁判官や調停委員といった第三者が間に入り、妥協点を探ってくれる手続きです。裁判のように「勝ち負け」を決めるのではなく、あくまで「話し合いによる解決」を目指すものです。
まとめ:焦らず、期限管理だけはしっかりと
親が亡くなった後の手続きは膨大ですが、すべてを一度にやる必要はありません。
- 3か月以内: 借金の有無を調べ、必要なら「放棄」する。(※最優先!)
- 4か月以内: 親の確定申告(準確定申告)が必要か確認する。
- その後: じっくり財産を調査し、全員で分け方を話し合う。
- 10か月以内: 相続税がかかる場合(基礎控除を超える場合)のみ、申告・納税する。
まずはこの流れだけを押さえ、「3か月以内の放棄期限」だけは絶対に過ぎないようにカレンダーに書き込んでおきましょう。
一つひとつのフェーズを確実にクリアしていけば、必ず手続きは完了します。焦らず、まずは書類の整理から始めてみてください。

