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「特別受益証明書」には要注意!相続放棄との違いやデメリットを解説

「相続放棄をしようと思っているけど、他の相続人から送られてきた特別受益証明書という書類。これで相続放棄になるの?」
「特別受益証明書は相続放棄と同じだと言われたけど、そのままサインしても大丈夫なのだろうか・・・」

今、あなたもこのように悩んでいませんか?
法律相談においても、特別受益証明書と相続放棄を混同している方が多くおられますので、その気持ちはよく分かります。

そんな悩みを抱えるあなたに、この記事では以下の内容をご紹介します。

・特別受益証明書では「正式な」相続放棄にならない。
・特別受益証明書のデメリットやリスク
・相続手続きの書類に安易にサインするのはNG

この記事を読み終わった頃には、特別受益証明書のデメリットやリスクが分かり、どのように対応したらいいかのヒントが得られることでしょう。

目次

特別受益証明書とは?

親が亡くなってしばらく経つと、他の兄弟から「特別受益証明書」という書類が送られてくる時があります。

「特別受益証明書」を一言で言うと、

自分は相続しないことを認める書類

です。

具体的には、「被相続人から既に財産の分与を受けており、被相続人の死亡による相続については、相続する相続分の存しないことを証明します。」といった内容が記載されています。

この「特別受益証明書」にサインすると、正式に相続しないという意思表示をしたことになります。

「相続分がないことの証明書」「相続分不存在証明書」などのタイトルで届くことがありますが、法的な意味は同じです。
いずれも、自分が相続しないことを認める書類です。

「特別受益証明書」は、相続しないという点において、相続放棄と似ています。
そのため、法律相談においても、「特別受益証明書」を相続放棄と同じものと考えている方が多いです。

しかし、「特別受益証明書」と相続放棄は、そもそもの法的性質が異なります。
同じものだと誤解して安易にサインすると、あとで後悔する可能性がありますので、サインするかどうか慎重に検討する必要があります。

特別受益証明書を作成する理由

特別受益証明書が必要になるのは、主に相続登記の場面です。

不動産の相続登記をするには、通常、遺産分割協議書(ないし遺産分割協議証明書)が必要です。
しかし、相続人全員で遺産分割の話し合いがまとまる必要がありますし、書面の内容も複雑になりますので、作成の手間と時間がかかります。

これに対して、特別受益証明書は、2、3行のごく簡潔な書面ですので、すぐに作成できます。
遺産分割協議や「正式な」相続放棄によらず、他の相続人だけで簡易に相続登記できるようになりますので、相続登記における「便利な書類」として利用されます。

なお、相続放棄申述受理証明書(ないし受理通知書)という相続放棄の書類でも、相続登記はできます。
しかし、「正式な」相続放棄は家庭裁判所に「相続放棄の申述」手続をする必要がありますので、こちらも手間と時間がかかります。

特別受益証明書は「相続放棄とは違う」ので要注意!

「正式な」相続放棄とは?

特別受益証明書は相続しないことを認める書類ですので、相続放棄と同じものだと考える相続人がおられます。
しかし、特別受益証明書と相続放棄は、法的性質も手続きも全く異なるものです。

「正式な」相続放棄は、家庭裁判所に「相続放棄の申述」をし、相続放棄申述受理証明書(ないし受理通知書)をもらうという手続きです。
1枚の書類にサインをするだけで完了するわけではありません。

その代わり、借金や連帯保証などの相続債務はすべて免除され、債権者から請求された場合でも、相続放棄申述受理証明書(ないし受理通知書)を出せば、それ以上請求されずに済みます。

特別受益証明書にサインをするリスク

借金は放棄できない

特別受益証明書は、「正式な」相続放棄とは異なり、放棄するのは遺産(プラスの財産)だけです。
相続債務(マイナスの財産)まで放棄できるわけではありません。

被相続人(亡くなった人)が借金や連帯保証をしていた場合、相続人は、遺産のみならず、借金や連帯保証も当然に相続します。
特別受益証明書にサインする前提として、被相続人の借金は他の相続人が支払うと約束していたとしても、それはあくまでも相続人同士の約束事にすぎません。
債権者には関係のない話ですので、法的効果も及びません。

つまり、遺産も借金も相続しないつもりで特別受益証明書にサインしたら、借金だけは支払わなければならないという事態も起こりうるわけです。

一度サインしてしまうと撤回が困難

また、特別受益証明書は、相続人間では、自分が相続しないことを認める正式な書類です。
一度サインしてしまうと、撤回が困難になります。

特別受益証明書の意味内容を理解していなかったのであれば、無効になる可能性はあります。
しかし、裁判で証明する必要がありますので、かなりハードルは高いです。

証明書の記載内容が事実と異なっているが、意味内容は理解していた場合は、裁判例が分かれています。
しかし、裁判例が分かれているがゆえに、決着が着きづらく、裁判が長期化する可能性があります。

また、相続登記の申請自体を阻止できるわけではありませんので、登記の抹消を含め、時間と費用をかけて裁判をする必要があります。

特別受益証明書に安易にサインをするのはNG

このように、特別受益証明書は「正式な」相続放棄ではありませんし、様々なリスクがあります。
特別受益証明書にサインするのは慎重にし、心配が残るようであれば、家庭裁判所で「正式な」相続放棄をすることをおすすめします。
期限内であれば、専門家に依頼するまでもなく、相続人本人でもできる簡単な手続きです。

特別受益証明書は「もらう相続人」にもリスクがある

特別受益証明書は、放棄をした相続人だけでなく、「もらう相続人」にもリスクがあります。

特別受益とは、簡単に言えば生前贈与を受けたことを意味しますので、特別受益証明書は、本来、生前贈与を受けた人が作成する書類です。
実際は生前贈与を受けていないのに、生前贈与を受けたことにして特別受益証明書を作成した場合、事実と異なる証明書になってしまいます。

それでも全く無効になるわけではなく、特別受益証明書の作成・交付に至るまでの経緯、その際の説明、当事者の証明書に対する理解度、代償金の授受等の諸事情を総合的に検討し、法的効果が判断されます。

しかし、放棄をした相続人とあとでもめた場合、事実と異なることを理由に、特別受益証明書は無効であると主張されるリスクがあります。
実際、裁判例で、特別受益証明書の法的効果が否定されたこともあります。

相続登記などの手続きで便利だからといって、事実と異なる特別受益証明書を作るのは避けた方がいいでしょう。

そもそも相続手続きの書類に安易にサインするのはNG

特別受益証明書以外にも、相続手続きではたくさんの書類が必要です。
どのような書類かよく分からず、「相続手続きで必要な書類」と考え、安易にサインしてしまう相続人も多くいます。

たとえば、正式な遺産分割協議書の作成を後回しにし、遺産整理手続の一環として、預貯金の解約手続をどんどん進めていく場合があります。
単なる解約手続のつもりでサインしたとしても、それは遺産の一部を分割したことになります。
そして、後付けで遺産分割協議書を作成しようした時、そんなつもりではなかったといってもめたりします。

そのようなことになる大きな原因は、手続最優先で解約や名義変更をどんどん進め、完了させた相続手続きと辻褄が合うように遺産分割しようとする相続手続きの進め方にあります。

本来、相続手続きの前に、遺産の分け方を決める必要があります。
よく分からないまま解約や名義変更に同意させようとする手続きの進め方には注意が必要です。

流れ作業的に相続手続きの書類にサインをしてしまい、後でもめたり後悔したりする場合がよくあります。
特別受益証明書以外でも、相続手続きの書類については、内容と意味をよく確認し、納得してからサインする必要があります。

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