親の借金を相続したくない!相続放棄のやり方と注意点を弁護士が解説
「親が多額の借金を残したまま亡くなったが、相続したくない。相続放棄はどうやってしたらいいのか・・・」
「親が事業をしており、もっと負債や連帯保証があるかもしれない。まだ相続放棄の判断ができないときはどうしたらいいのか・・・」
今、あなたもこのように悩んでいませんか?
相続放棄に関して同じように悩み、当事務所にご相談される方もおられますので、その気持ちはよく分かります。
そんな悩みを抱えるあなたに、この記事では以下の内容をご紹介します。
・相続放棄の具体的な手続きと流れ
・相続放棄をする際の注意点
・期限内に相続放棄の判断ができない場合の対応
この記事を読み終わった頃には、相続放棄の手続きや注意点が具体的に分かり、親の借金にどのように対応したらいいかについてヒントが得られることでしょう。
親の借金は子が相続する
親が亡くなった時、「相続するものがない」と考える相続人がおられます。
しかし、相続人が相続するのは、プラスの財産だけではありません。
マイナスの財産、つまり、借金も相続します。
「相続するものがない」といって放置していると、知らないうちに借金だけ相続していたということになりかねません。
親が目ぼしい資産を持っていなくても、借金があるかどうかを調査する必要があります。
親の借金を調べる方法
それでは、親に借金があるかどうかは、どうやって調べればいいのでしょうか。
考えられる方法は、
- 遺品の中に貸金契約書などの書類があるか確認する
- 通帳に銀行や消費者金融への振込みや引落しがあるか確認する
- 信用情報機関から被相続人の信用情報を取り寄せる
です。
特に、網羅的に調査する方法として、③の信用情報の取り寄せが重要になります。
信用情報機関とは、クレジットやローンの取引情報(信用情報)を管理している会社をいいます。
つまり、信用情報機関から信用情報を取り寄せれば、親の借金に関する情報が分かります。
具体的には、CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センターの3つがあります。
この3つの信用情報機関から被相続人の信用情報を取り寄せれば、亡くなった親のクレジットやローンの取引情報を確認できます。
相続人の立場で被相続人(亡くなった人)の信用情報を取得する手続きや必要書類については、各信用情報機関のホームページをご確認ください。
信用情報機関 | 主な加盟企業 |
---|---|
株式会社シー・アイ・シー(CIC) https://www.cic.co.jp/index.html | クレジット会社 |
株式会社日本信用情報機構(JICC) https://www.jicc.co.jp/ | 消費者金融 |
全国銀行個人信用情報センター https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/ | 銀行 |
相続放棄をすれば、親の借金を支払わなくて済む
信用情報機関などで親の借金が判明した場合には、そのまま放置すると、相続人が支払う羽目になります。
しかし、「相続放棄」という手続きをすれば、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
そもそも相続人ではなくなりますので、遺産を相続しない代わりに、借金を支払わずに済みます。
借金があるか分からない場合でも、遺産もないし、相続しなくても問題ないのであれば、念のために相続放棄をしておくと安心でしょう。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄は、家庭裁判所で「相続放棄の申述」という手続きをする必要があります。
以下、具体的な手続きの流れを解説します。
相続放棄の申述書を入手する
相続放棄の申述は、家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出する必要があります。
申述書は、家庭裁判所に指定の書式がありますので、お近くの家庭裁判所で入手できます。
家庭裁判所のホームページで申述書のデータをダウンロードできますので、プリントアウトできる方は、データをダウンロードした方が早いです(「相続の放棄の申述書(成人)」)。
相続放棄の申述書を作成する
相続放棄の申述書を入手したら、ひな形に沿って記入していきます。手書きでも全く問題ありません。
家庭裁判所のホームページには、申述書の記入例もあります(「記入例(相続放棄(成人)」)。
記入例を参考にすれば、申述書は誰でも作成できます。
なお、「相続財産の概略」については、よく分からないので記入できないと考える方もおられます。
しかし、多少不正確でも、相続放棄の申述は認められますので、ご安心ください。
分かる範囲で記入すれば大丈夫です。
添付書類を集める
相続放棄の申述は、申述書だけでなく、「添付書類」も提出する必要があります。
具体的には、以下の書類が必要です。
- 被相続人の住民票(除票)又は戸籍の附票
- 申立人の戸籍謄本
- 被相続人との身分関係が分かる戸籍謄本
相続放棄の申述書と添付書類を家庭裁判所に提出する
相続放棄の申述書に記入し、添付書類を集めたら、家庭裁判所に提出します。
申述書を提出する家庭裁判所(管轄裁判所)
相続放棄の申述は、管轄の裁判所に提出する必要があります。
管轄の裁判所は、「被相続人の最後の住所地の家庭裁判所」です。
たとえば、東京都新宿区が最後の住所地であれば、管轄の裁判所は「東京家庭裁判所」になります。
申述にかかる費用
申述にかかる費用は、以下のとおりです。
- 収入印紙
・申述書の「収入印紙貼付欄」に収入印紙800円分を貼ります。
・合計で800円になればいいので、収入印紙の組み合わせは何でも構いません。
・収入印紙は、郵便局、裁判所、コンビニなどで購入できます。 - 郵便切手
・各裁判所で異なる場合がありますので、裁判所に確認する必要があります。
・東京家庭裁判所であれば、合計376円(84円×4、10円×4)です(2023年12月現在)。
・申述書とともに、裁判所に提出します。
申述書を提出する方法(郵送も可)
申述書の提出は、窓口に持参しても構いませんし、郵送でも構いません。
ただし、熟慮期間が迫っているときは、窓口に持参した方が確実でしょう。
相続放棄の申述に関する「回答書」に記入し、提出する
相続放棄の申述書を提出すると、家庭裁判所から、相続放棄に関する照会書と回答書が送られてきます。
相続放棄は、借金だけでなく、プラスの財産もすべて放棄するという重大な効果が生じます。
そのため、裁判所も慎重に判断する必要があり、本人の意思を直接確認するわけです。
回答書の記入は難しい作業ではなく、質問事項が記載されており、チェック形式で回答することになります。
回答書に記入する内容は、概ね以下のとおりです。
- 被相続人が死亡し、相続人になったことをいつどのように知ったか
- 被相続人に借金があることをいつどのように知ったか
- 被相続人の死亡後、被相続人の財産を処分したり、借金を返済したりしたか
- 自分の意思で相続放棄の手続きをしたことに間違いはないか
- 相続放棄をする理由は何か
相続放棄申述受理通知書の送付
相続放棄に関する回答書を返送すると、1週間から10日程度で、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」という書類が送付されてきます。
相続放棄申述受理通知書を受領すれば、相続放棄の手続きはすべて完了します。
債権者から請求を受けた場合には、相続放棄申述受理通知書を提示すれば、それ以上の請求はしてこないのが通常です。
相続放棄申述受理通知書は再発行されないので、しっかり保管しておいてください。
なお、家庭裁判所に申請すれば、「相続放棄申述受理証明書」という書類を発行してもらえます。
相続放棄申述受理通知書を紛失してしまった場合や、債権者から提出を求められた場合は、別途相続放棄申述受理証明書の発行を申請しましょう。
相続放棄をする際の注意点
相続の開始があったことを知った時から「3か月以内」に手続きをする
相続放棄の期間制限(熟慮期間)は「3か月以内」
相続放棄には、熟慮期間という期間制限があります。
具体的には、
「相続の開始があったことを知った時」から「3か月以内」
に、家庭裁判所に、相続放棄の申述書を提出する必要があります(民法915条1項)。
かなり短い期間ですので、相続放棄をするかどうかの判断は早めにする必要があります。
熟慮期間は延長できる(熟慮期間の伸長)
遺産や借金の調査が終わっておらず、相続放棄するかどうかの判断ができない場合でも、慌てる必要はありません。
家庭裁判所に申し立て、熟慮期間を延長してもらうことも可能です。
これを、熟慮期間の伸長の申立てといいます。
熟慮期間の伸長の申立ては、家庭裁判所にある一般的な家事審判申立書に記入し、必要書類とともに提出します。
家庭裁判所のホームページで申立書のデータをダウンロードできますので、プリントアウトできる方は、データをダウンロードした方が早いです(「家事審判申立書」)。
申立書の記載事項や必要書類等は、以下のとおりです。
- 申立ての趣旨
「申立人が、被相続人○○○○の相続の承認又は放棄をする期間を令和○○年○○月○○日まで伸長するとの審判を求めます。」と記載します。 - 申立ての理由
・自分が相続人であること(被相続人との身分関係)
・被相続人の死亡日と相続が開始したこと
・遺産や借金の調査が終わっておらず、相続放棄するかどうかの判断ができない状況であること
・伸長を求める期間
を記載します。 - 必要書類
・被相続人の住民票(除票)又は戸籍の附票
・申立人の戸籍謄本
・被相続人との身分関係が分かる戸籍謄本 - 申立費用
・収入印紙:800円(申立人1人につき)
・郵便切手:合計376円(東京家庭裁判所の場合) - 申立ての期限
相続の開始があったことを知った時から3か月以内
家庭裁判所のホームページには、申立書の記入例もあります(「記入例(期間伸長)」)。
記入例を参考にすれば、申立書は誰でも作成できます。
伸長の期間は裁判所の判断によりますが、熟慮期間を3か月~6か月程度伸ばせることが多いです。
ただし、相続放棄と同様、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に申し立てる必要があります。
熟慮期間内に相続放棄の判断ができなそうな場合は、早めに伸長の申立てを検討しましょう。
熟慮期間が過ぎてしまっても諦める必要はない
では、熟慮期間を過ぎてしまったら絶対相続放棄できないかというと、必ずしもそうではありません。
最高裁判所は、3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、
- 相続財産が全く存在しないと信じたためであり、
- このように信ずることについて相当の理由がある場合
には、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算する
と判断し、起算点を繰り下げました(最判昭和59年4月27日)。
簡単に言いますと、(マイナスの財産を含む)相続財産がないと信じた理由があるのであれば、形式的に相続を知った時からではなく、
(マイナスの財産を含む)相続財産の存在を知ることができた時から熟慮期間をカウントする
という趣旨です。
この起算点の繰り下げが認められるどうかはケースバイケースで、上記基準を機械的に当てはめて判断するわけではありません。
たとえば、相続財産の一部に認識があっても相続放棄を認めることはありますので、簡単に諦める必要はありません。
相続放棄が受理されると、撤回できなくなる
相続放棄は、一度受理されると、撤回できなくなります(民法919条1項)。
相続放棄により相続人ではなくなりますので、あとでプラスの財産を発見しても、相続できなくなります。
そのため、相続放棄をする前に、遺産調査をしっかり行う必要があります。
預貯金を下ろすなどして「単純承認」しないように
逆に、熟慮期間の前であれば、いつでも相続放棄できるというわけではありません。
預貯金を下ろして使うなど、遺産を「処分」してしまうと、相続を承認したことになります。
これを「単純承認」といいます
単純承認してしまうと、「熟慮期間の前であっても」相続放棄ができなくなります(民法920条)。
そのため、相続放棄は、相続開始直後から意識しなければならない問題といえます。
相続放棄により、相続人でなかった親族が借金を相続する場合もある
相続放棄により、自分は相続人ではなくなりますが、親の借金が消えてなくなるわけではありません。
玉突きのように、本来相続人でなかった親族が相続人となり、親の借金を相続します。
たとえば、子供だけが相続人の場合に、子供が全員相続放棄をすると、次順位の相続人である祖父母や叔父叔母が相続します。
本来の相続人が全員相続放棄したことで安心していると、他の親族に親の借金を押し付けることにもなりかねません。
次順位の相続人がいる場合、自分たちは相続放棄をしたことを教え、さらに相続放棄をするよう促す必要があります。
特別受益証明書や相続分がないことの証明書は「正式な」相続放棄ではない
家庭裁判所における相続放棄の申述ではなく、相続放棄「のようなもの」として、特別受益証明書や相続分がないことの証明書などの書類にサインをする場合があります。
特別受益証明書や相続分がないことの証明書は、遺産を相続しない点では、相続放棄の申述と変わりありません。
しかし、「正式な」相続放棄ではないため、肝心の借金は免れることができません。
特別受益証明書や相続分がないことの証明書にサインするにしても、亡くなった親の通帳や契約書・請求書などを精査したり、信用情報機関で親の信用情報を確認したりし、借金がないことを確認してからの方が安全です。