相続不動産の評価額、そのままだと損をする?「適正な時価」を割り出す3つの計算テクニック
遺産分割協議で実家を誰が継ぐか話し合っているとき、こんな悩みはありませんか?
「市役所から届く通知書の金額をそのまま使って遺産分けをしようとしているけど、本当にそれでいいの?」
「兄が提示してきた実家の評価額が、近所の相場より安すぎる気がする……」
結論から言います。市役所から届く「固定資産税納税通知書」に書かれている評価額をそのまま遺産分割の基準にしてはいけません。 そのままハンコを押してしまうと、数百万円、場合によっては数千万円単位で損をする可能性があります。
円満かつ公平に遺産を分けるための基本は、「時価(実際に売れる金額)」を知ることです。
なぜ「納税通知書の金額」を使ってはいけないのか?
「公的な書類に書いてある金額なんだから、正しいに決まっている」
そう思うのは当然です。しかし、不動産の世界には「一物四価(いちぶつよんか)」という言葉があり、「何のために使う価格か」によって、1つの土地に4つの異なる値段がつけられています。
遺産分割の話し合いで「どの価格」を採用するかによって、あなたの取り分は天と地ほど変わってしまうのです。
そもそも「4つの価格(一物四価)」とは?
まずは、この4つの価格の違いをざっくり理解しましょう。
| 価格の種類 | 誰が決める? | 何のための価格? | 価格の目安(時価を100とした場合) |
| ① 実勢価格(時価) | 市場(買主と売主) | 実際に売買される価格 | 100(基準) |
| ② 公示価格 | 国(国土交通省) | 土地取引の目安 | 90〜100 |
| ③ 相続税路線価 | 国(国税庁) | 相続税の計算用 | 80 |
| ④ 固定資産税評価額 | 市町村 | 固定資産税の計算用 | 70 |
ここで重要なのは、③と④です。
これらは税金を計算するための基準であり、実際の価値(時価)よりもあえて低く設定されています。
【重要】代償分割で「固定資産税評価額」を使うと、もらう側が損をするカラクリ
遺産分割でよくある「代償分割(だいしょうぶんかつ)」という方法で考えてみましょう。これは、「長男が実家を継ぐ代わりに、長男は次男にお金を払って精算する」という分け方です。
例:実家の価値をどう見積もるか?
- 実家の「時価(売れる金額)」: 3,000万円
- 実家の「固定資産税評価額」: 2,100万円(時価の7割程度)
- 相続人: 長男(実家を継ぐ)、次男(現金をもらう)の2人
- 分け方: 半分ずつ(1/2)
▼ パターンA:正しい「時価」で計算した場合
長男は3,000万円の価値がある家をもらいます。
次男に公平に分けるため、長男は次男に1,500万円の現金を支払います。
- 長男:実家(3,000万)- 現金(1,500万)= 1,500万円の得
- 次男:現金 = 1,500万円の得👉 これなら公平です。
▼ パターンB:「固定資産税評価額」を使ってしまった場合
長男は「評価額は2,100万円だから、半分の1,050万円を払うよ」と提案しました。
- 長男:実家(価値は3,000万)- 現金(1,050万)= 1,950万円の得
- 次男:現金 = 1,050万円の得
👉 お気づきでしょうか?
実家を継ぐ長男は、本来払うべき金額より450万円も安く実家を手に入れ、次男は450万円も損をしています。長男がその直後に実家を売却すれば、濡れ手で粟の大儲けです。
このように、不動産をもらわない側(現金で精算する側)は、低い評価額を使われると確実に損をします。 だからこそ、自分で「時価」を計算するスキルが必要なのです。
テクニック1:電卓ひとつで完了!「割り戻し計算」のやり方
では、どうやって時価を調べるのでしょうか? 不動産屋を呼ばなくても、手元の資料とスマホがあれば目安は出せます。これを「割り戻し計算」と言います。
土地の場合:「路線価 ÷ 0.8」または「固定資産税評価額 ÷ 0.7」
土地の価値は、国が定めた税金用の価格から逆算できます。
① 「相続税路線価」が分かる場合
国税庁のウェブサイトで「路線価図」を見て、実家の前の道路に書かれている数字(千円単位)を確認します。路線価は時価の約80%になるように設定されています。
★計算式
【 時価の目安 = 相続税路線価 ÷ 0.8 】
例: 路線価が2,400万円の土地の場合
2,400万円 ÷ 0.8 = 3,000万円(時価の目安)
② 「固定資産税評価額」しか分からない場合
毎年春に届く「固定資産税納税通知書」の「価格」または「評価額」の欄を見ます。土地の固定資産税評価額は、時価の約70%を目安に設定されています。
★計算式
【 時価の目安 = 固定資産税評価額 ÷ 0.7 】
例: 評価額が1,400万円の土地の場合
1,400万円 ÷ 0.7 = 2,000万円(時価の目安)
※ただし、土地の形がいびつだったり、道路との高低差があったりする場合は、ここからさらに減額される可能性があります。あくまで「目安」として使ってください。
建物の場合:基本的には「固定資産税評価額」でOKな理由
建物(家屋)に関しては、土地ほど複雑に考える必要はありません。
日本の木造住宅は、築20〜25年で市場価値がほぼゼロになると言われています。
- 築古の木造住宅:固定資産税評価額をそのまま「時価」として扱って問題ないケースがほとんどです(むしろ、解体費用がかかるため、実際の価値はマイナスになることさえあります)。
- 築浅の物件や鉄筋コンクリート造:まだ市場価値が高いため、後述する「不動産査定」を利用したほうが無難です。
★建物の計算ルール(目安)
・築20年以上の木造:固定資産税評価額 = 時価 とみなす
・築浅やマンション:固定資産税評価額では安すぎるためNG(テクニック2へ)
テクニック2:マンションなら必須!「無料査定の平均値」戦略
実家が「マンション」の場合、先ほどの「割り戻し計算」は使わないでください。 大損する可能性が高いです。
なぜマンションは「割り戻し計算」が通用しないのか?
マンションの市場価格(時価)は、「土地の広さ」よりも「立地・ブランド・階数・眺望」で決まります。
特に都心部のマンションなどは、「固定資産税評価額の3倍〜5倍」の値段で売れることも珍しくありません。評価額ベースで計算すると、実家を継ぐ人だけが極端に得をしてしまいます。
1社だけでは危険。「3社平均」で客観的な数字を作るコツ
マンションの時価を知るには、不動産会社の「無料査定」を使うのが一番です。ただし、1社だけに頼むのは危険です。会社によって査定額に数百万円のズレが出るからです。
【損をしない査定の手順】
- 3社以上に無料査定を依頼する(大手、地元密着型などバラバラに)
- 出揃った査定額の「平均値」または「中央値」を出す
- その金額を遺産分割協議のテーブルに乗せる
「A社は4,000万、B社は3,500万、C社は3,900万と言っています。間をとって3,800万円を基準に話し合いませんか?」と言えば、他の相続人も納得しやすくなります。この「客観的な証拠」を集める作業が、自分を守る盾になります。
テクニック3:最終手段「不動産鑑定」はいつ使うべき?
ここまで紹介した方法は、あくまで「目安」や「無料」の範囲です。しかし、どうしても話し合いがまとまらない場合の最終手段として、不動産鑑定士に依頼する方法があります。
費用対効果を考える(揉めている時や高額物件向け)
不動産鑑定士が出す「鑑定評価額」は、裁判でも通用する強力な証拠になります。ただし、数十万円(30万〜50万円程度)の費用がかかります。
【鑑定士に依頼すべきケース】
- 兄弟間で完全に信頼関係が崩れており、無料査定の数字を誰も信用しない。
- 相続する不動産の価値が非常に高い(1億円以上など)。
- 土地が特殊で、素人計算では価値が読めない。
- (例:土壌汚染の可能性がある、地下に埋設物がある、文化財が埋まっている可能性がある、極端に不整形な土地など。これらは専門的な調査をしないと正しい減価ができません)
逆に言えば、一般的な戸建てやマンションで、ある程度話し合いができる状態なら、わざわざ高いお金を払って鑑定する必要はありません。まずはテクニック1と2で十分です。
まとめ:ハンコを押す前に、まずは自分で計算してみよう
遺産分割協議書に一度実印を押してしまうと、後から「やっぱり安すぎた!」と覆すことは非常に困難です。
- 固定資産税評価額は「時価」ではないと肝に銘じる。
- 土地は「路線価 ÷ 0.8」か「固定資産税評価額 ÷ 0.7」でざっくり計算してみる。
- マンションは不動産会社の査定を3社とる。
この3つを実践するだけで、知識のないまま不利な条件を飲まされるリスクは激減します。
まずは手元にある「固定資産税納税通知書」を開いて、電卓を叩くところから始めてみてください。その数分の手間が、公平な相続を実現することにつながります。

