現在、新規の法律相談を停止しております詳しくはこちら

【特別受益の持ち戻し免除】で反論し、生前贈与をなかったことにする方法

被相続人から生前贈与をもらっていた場合、他の相続人から特別受益の持ち戻しを主張されることがあります。たしかに、原則としては、生前贈与は特別受益になり、遺産分割における相続分は減ります。しかし、【特別受益の持ち戻し免除の意思表示】があれば、法律上、例外的に相続分を減らさずに済みます。つまり、持ち戻し免除の意思表示で反論できるかどうかにより、遺産分割の結果は大きく変わります。相続に特化した弁護士が、特別受益の持ち戻し免除の意思表示の意味や反論のポイントを解説します。

目次

特別受益の持ち戻しを主張されても反論できる!

生前贈与は【特別受益】として持ち戻されるのが原則

相続では、原則として、法定相続分で遺産を分けます(遺産分割)。
相続人が妻と子2人であれば、妻の法定相続分は2分の1、子の法定相続分はそれぞれ4分の1になります。

しかし、特定の相続人だけが生前贈与をもらっていた場合、残った遺産を法定相続分で形式的に遺産分割すると、生前贈与をもらっていた相続人が生前贈与の分だけ得をします。

そこで、法は、法定相続分という原則を修正し、残った遺産の遺産分割においては、生前贈与をもらった相続人の相続分を減らすことにしました。

これを【特別受益の持ち戻し】といいます(民法903条1項)。

【特別受益】というのは、厳密には生前贈与とイコールではありませんが、今回は、生前贈与と同じようなものと考えてください。

【持ち戻し】というのは、生前贈与を計算上遺産に戻し、残った遺産の遺産分割において、法定相続分を修正することをいいます。

なお、生前贈与を計算上戻した遺産を【みなし相続財産】といい、法定相続分から修正された相続分のことを【具体的相続分】といいます。

具体例

・相続人:妻(法定相続分1/2)、子A(法定相続分1/4)、子B(法定相続分1/4)
・相続時の遺産:1億
・生前贈与:子Bに2000万円

この具体例において、形式的に法定相続分で遺産分割すると、各相続人の相続分は以下になります。

・妻:5000万円
・子A:2500万円
・子B:2500万円

しかし、生前贈与も加えると、子Bが法定相続分よりも多くの遺産を相続することになり、逆に不公平になります。
このような不公平を修正するのが、【特別受益の持ち戻し】という制度です。

具体的相続分を算定する手順と計算方法は、以下のとおりです。

  • 相続開始後の遺産に生前贈与を持ち戻す(みなし相続財産)
  • みなし相続財産に法定相続分をかける
  • 生前贈与をもらった相続人の相続分から生前贈与の金額を控除する(具体的相続分)

つまり、生前贈与を遺産に戻し、生前贈与をもらった相続人の相続分を生前贈与の分だけ減らすということになります。

上記具体例であれば、具体的相続分は、以下のようになります。

・みなし相続財産:1億円+2000万円(生前贈与)=1億2000万円
・妻:1億2000万円×1/2=6000万円
・子A:1億2000万円×1/4=3000万円
・子B:1億2000万円×1/4-2000万円(生前贈与)=1000万円

事前に生前贈与をもらった子Bは、残った遺産(1億円)の遺産分割において、生前贈与でもらった2000万円の分だけ相続できる遺産が減っていることが分かります。

特別受益の持ち戻しという制度により、生前贈与をもらった相続人ともらっていない相続人の不公平を修正するわけです。

持ち戻し免除の意思表示があれば、生前贈与はなかったことになる

それでは、あなたが親から生前贈与をもらっていて、他の相続人から特別受益の持ち戻しを主張されたらどうでしょうか?
法律で決められているのだから、相続分を減らさなければならないでしょうか?

しかし、親から生前贈与をもらっていたとしても、そもそも特別受益にならない生前贈与であれば、持ち戻しはされません。
たとえば、親子間の扶養の範囲といえる場合です。

そのため、まずは、生前贈与をもらっていた場合、まずは特別受益にならない生前贈与かどうかを考えます。

そして、もし生前贈与が特別受益にはなったとしても、特別受益の持ち戻しによって相続分を減らさずに済む場合があります。


この特別受益の持ち戻しの主張に反論する方法が

特別受益の持ち戻し免除の意思表示

です。

特別受益の持ち戻しの根拠となる民法903条には、以下のように規定されています。

(特別受益者の相続分)

第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

1項では特別受益の持ち戻しが定められていますが、被相続人が【異なった意思を表示したとき】は、被相続人の意思を優先するとされています。

この【異なった意思を表示したとき】が【特別受益の持ち戻し免除の意思表示】のことであり、特別受益の持ち戻しの主張に対する反論となります。

他の相続人から特別受益の持ち戻しを主張された場合に、特別受益の持ち戻し免除の意思表示という反論を知らなければ、あなたの相続分は減るでしょう。

しかし、特別受益の持ち戻し免除の意思表示という反論を知っていれば、生前贈与をなかったことにし、遺産分割において相続分を減らさずに済むかもしれません。

反論する方法を知っているか知らないかで、遺産分割においては大きな違いになります。

特別受益の持ち戻し免除の意思表示とは?

それでは、特別受益の持ち戻し免除の意思表示とは、具体的にどのようなものでしょうか?

特別受益の持ち戻し免除の意思表示とは、被相続人が生前贈与を特別受益として遺産に戻す必要はないという意思を示すことをいいます。

端的にいえば、被相続人は

生前贈与があってもあなたの相続分を減らすつもりはなかった

ということです。

最大の問題は、特別受益の持ち戻し免除の意思表示がなされていたことをどのように証明するかです。

理屈を知っていたとしても、証明できなければ、他の相続人を説得することはできませんし、裁判所も認めてはくれません。

特別受益の持ち戻し免除の意思表示はどうやって証明する?

明示の意思表示がある場合

遺言書などの書面の中で、特別受益として持ち戻す必要はないと明記されていれば、特別受益の持ち戻し免除の意思表示は明らかです。

これを【明示の意思表示】といいます。

明示の意思表示があれば、特別受益の持ち戻し免除の意思表示の証明は容易です。

明示の意思表示がない場合(黙示の意思表示)

特別受益の持ち戻し免除の意思表示で主に問題となるのは、遺言書などの書面には明記されておらず、特別受益の持ち戻し免除の意思表示があった「はずだ」と推測する場合です。

これを【黙示の意思表示】といいます。
黙示の意思表示であっても、特別受益の持ち戻し免除の意思表示として有効です。

しかし、黙示の意思表示の場合、周辺事情から特別受益の持ち戻し免除の意思表示を推測しますので、相続人間で見解の相違が生じやすい論点です。

重要なポイントは、特定の相続人に

相続分以上の財産を相続させようとしていたことを推測させる事情

の有無です。

  • 生前贈与の内容・価額
  • 生前贈与がなされた理由
  • 被相続人と生前贈与を受けた相続人の生活関係
  • 被相続人や相続人の職業・経済状態・健康状態
  • 他の相続人が受けた生前贈与の内容・価額

などといった様々な周辺事情を考慮して推測します。

逆に言えば、このような様々な周辺事情を裏付ける証拠をいかに確保できるかで勝敗が決まります。
具体的には、以下のような事情があれば、(黙示の)持ち戻し免除の意思表示が認められやすいと考えられています。

  • 特定の相続人だけでなく、相続人全員に生前贈与や遺贈をしている場合
  • 家業を継がせるため、家業に必要な財産を相続させる必要がある場合
  • 亡くなった人が生前贈与の見返りとなる利益を受けている場合
  • 特別な生活保障のために相続分以上の財産が必要な場合(病気など)

配偶者に対する居住不動産の生前贈与の場合、持ち戻し免除の意思表示の証明は容易

以上が原則ですが、配偶者に対する居住不動産の生前贈与(遺贈も含む)は例外です。

平成30年の相続法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他の一方に対して居住用不動産を生前贈与ないし遺贈した場合には、特別受益の持ち戻し免除の意思表示が推定されることになりました(民法903条4項)。

本来、特別受益の持ち戻し免除の意思表示を証明するのは、生前贈与をもらった相続人の方です。
しかし、配偶者に対する居住不動産の生前贈与の場合、法律により特別受益の持ち戻し免除の意思表示が推定され、持ち戻し免除が逆に原則になります。

そのため、特別受益の持ち戻し免除の意思表示はなかったと主張するのであれば、これを主張する他の相続人の方が証明する必要があります。

生前贈与が配偶者に対する居住不動産であれば、特別受益の持ち戻し免除の意思表示を主張・立証するのは容易になりますが、この法律の存在に気が付くことが重要です。

特別受益の持ち戻し免除の意思表示に特別な方式は必要か?

生前贈与の場合

特別受益には、生前贈与と遺贈(遺言書で相続する場合)の二つがあります。

このうち、生前贈与であれば、特別受益の持ち戻し免除の意思表示に特別な方式は必要ありません。

生前贈与と同時に意思表示がなされる必要はありません。
また、明示の意思表示でなく、黙示の意思表示でも構いません。

口頭でも、一応、意思表示として有効です。
ただ、口頭だと言った言わないの問題になります。
現実問題として、何らかの客観的な証拠がないと、証明するのは極めて困難です。

遺贈の場合

遺贈(遺言書で相続する場合)の場合、考え方が分かれています。

一つ目は、遺贈が遺言という方式でなされる以上、特別受益の持戻し免除の意思表示も遺言によらなければならないとする考え方です。

二つ目は、遺言という方式に限られないとする考え方です。

この点、大阪高決平成25年7月26日は、以下のように判断しました。

  • 持ち戻し免除の意思表示に遺言という方式は必要ない。
  • しかし、遺贈が遺言という形方式でなされる以上、生前贈与の場合に比べて、より明確な意思表示が必要。

ですので、遺言書に特別受益の持ち戻しの免除の意思が書いていない場合、(黙示の)持ち戻し免除の意思表示が認められるためには、少なくとも

生前贈与の場合よりも明確な意思表示の存在を証明する必要がある

と考えた方がいいでしょう。

相続の正しい理解が大事

特別受益の持ち戻しを主張された場合、特別受益の持ち戻し免除の意思表示という反論を知っているだけで、なんとなくの感覚で相続分を減らすことを避けられます。
【生前贈与をした張本人(被相続人)があなたの相続分を減らすつもりはなかった】という意味ですので、内容自体としては、そこまで難しいわけではありません。

とはいえ、他の相続人から特別受益の持ち戻しを主張され、遺産分割協議の進め方で悩むことがあれば、遠慮なくご相談ください。

東京相続弁護士法人は、相続問題の解決に特化し、「最高の相続専門店」を目指している弁護士事務所です。よりよい解決法が見つかるよう、お手伝いさせていただきます。

目次