遺言書で「0円」でも諦めない!遺留分を取り戻すための基礎知識と請求の手順
「全財産を長男に相続させる」
「お前には一銭も渡さない」
もし、亡くなった親や配偶者の遺言書にそんな言葉が書かれていたら、目の前が真っ暗になるかもしれません。「自分には何ももらう権利がないのか?」と不安になり、泣き寝入りを考える人もいるでしょう。
しかし、諦めるのはまだ早いです。たとえ遺言書があっても、法律で「最低限の遺産を受け取る権利」が保障されています。それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。
この記事では、あなたがその権利を持っているかどうかの確認方法から、実際に現金を取り戻すまでの具体的な手順を解説します。まずはこの記事を読み、ご自身の手で状況を整理し、大切な権利を守る第一歩を踏み出してください。
私は対象?遺留分を請求できる人・できない人
まず最初に確認すべきは、「あなたに遺留分を請求する権利があるか」という点です。実は、相続人なら誰でも請求できるわけではありません。
配偶者・子供・親はOK。でも「兄弟姉妹」はNG
遺留分が認められているのは、被相続人(亡くなった方)と以下の関係にある人だけです。
- 配偶者(妻・夫)
- 子(実子、養子、非嫡出子を含む)、またはその代襲相続人(孫など)
- 直系尊属(父母、祖父母など)※子がいない場合のみ
ここで最も注意すべきなのは、「兄弟姉妹には遺留分がない」というルールです。
もし、あなたが「亡くなった兄」や「亡くなった妹」の遺産を期待していた場合、残念ながら遺言書の内容が優先され、遺留分を主張することはできません。これは法律で明確に定められています。
いくら取り戻せる?「法定相続分の半分」が目安
次に気になるのが「具体的にいくらもらえるのか?」という金額です。
平成30年の民法改正により、現在は、不動産などの「物」を返してもらうのではなく、侵害された額に相当する「金銭」を請求する権利となっています。
遺産総額の1/2(または1/3)を頭数で割る計算式
遺留分の全体枠(総体的遺留分)は、以下のルールで決まります。
- 直系尊属(親など)のみが相続人の場合: 遺産の 3分の1
- それ以外の場合(配偶者や子がいる場合): 遺産の 2分の1
あなたが個人的に請求できる割合(個別的遺留分)は、上記の枠に、あなたの「法定相続分」を掛け合わせて計算します 6。
計算例:
相続人が「配偶者」と「子2人(兄・弟)」で、遺産が3,000万円。
遺言で「全財産を愛人に渡す」と書かれていた場合。
- 遺留分全体の枠は 1/2 なので 1,500万円。
- 配偶者の法定相続分は 1/2 なので、750万円を請求可能。
- 子の法定相続分はそれぞれ 1/4 なので、375万円ずつ請求可能。
生前贈与も計算に入る?(過去10年分の持ち戻し)
「遺産は預金が少しだけ。でも、生前に長男だけが多額の援助を受けていた」
このような場合、残った財産だけで計算すると不公平になります。
そこで、遺留分の計算では、以下の生前贈与も遺産に「持ち戻して(足して)」計算します。
- 相続人への贈与(特別受益): 原則として、相続開始前の10年間になされたもの(結婚資金、住宅購入資金、生計の資本など)。
- 第三者への贈与: 原則として、相続開始前の1年間になされたもの。
- 悪意の贈与: あなたに損害を与えることを知って行われた贈与は、さらに昔のものも対象になります。
この「過去10年分の贈与」を計算に入れることで、請求できる金額が大幅に増える可能性があります。
期限はたったの1年!「時効」で泣かないために
遺留分で最も恐ろしいのは「時効」です。悩んでいる間に権利が消滅してしまうリスクがあります。
「遺留分侵害を知った日」からカウントダウンは始まる
遺留分侵害額請求権は、以下の時点からたった1年行使しないと、時効によって消滅します。
- 相続の開始を知った時(通常は被相続人が亡くなった日)
- 遺留分を侵害する贈与や遺言があったことを知った時
「遺言書の内容を知ってから1年」と考えてください。この期間は非常に短いです。
また、遺言の存在を知らなくても、相続開始から10年が経過すると、除斥期間(じょせききかん)により権利は完全に消滅します。
とりあえず「請求する」という意思表示だけでも送ろう
「正確な金額がわからない」「まだ相手と揉めたくない」と躊躇している場合でも、1年の時効を止めるアクションだけは起こすべきです。
具体的な金額を明示する必要はありません。まずは「内容証明郵便」を使って、「遺留分侵害額請求権を行使します」という意思表示を相手に送ってください。これだけで時効はストップ(中断)し、金銭債権として5年間の時効期間が確保されます。
実際に請求するまでの5ステップ
では、具体的にどのように進めればよいのでしょうか。法的手続きの流れを整理します。
事実調査・計算
遺産がどれだけあるか(不動産、預貯金)、過去の贈与はないかを調査し、基礎財産を確定します。
内容証明郵便の送付
前述の通り、時効を止めるために「請求の意思表示」を行います。配達証明付きの内容証明郵便が必須です。
支払いの交渉
相手方(多くの場合は多くの遺産をもらった相続人)と話し合います。金額や支払方法(一括か分割か)を協議します。
「家庭裁判所」に調停を申し立てる
当事者同士で話がまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。第三者(調停委員)が入って調整します。原則として、訴訟の前にこの「調停」を経る必要があります(調停前置主義)。
「地方裁判所」に訴訟を提起する
調停でも決着がつかない場合、地方裁判所(140万円以下なら簡易裁判所)に訴訟を提起し、裁判官に判断してもらいます。
「裁判なんて怖い」と思うかもしれませんが、いきなり訴訟になることは稀です。
まずは内容証明郵便で意思を伝え、交渉や家庭裁判所での調停(話し合い)で解決を目指すのが一般的です。特に親族間の争いでは、感情的な対立も激しいため、調停手続きで冷静に解決を図ることが推奨されています。
まとめ:権利があるなら堂々と主張しよう
遺言書は故人の意思ですが、遺留分は「残された家族の生活保障」や「公平」のために法律が認めた正当な権利です。
「お金のことで揉めたくない」という気持ちも分かりますが、1年という期限は待ってくれません。後になって「やっぱり請求しておけばよかった」と後悔しても、時効が過ぎれば手遅れです。
まずは「自分は権利者か」「時効まであとどれくらいか」を確認し、期限が迫っているなら「意思表示の通知」だけでも済ませておくことを強くお勧めします。行動することで、あなたの未来の選択肢は大きく広がります。

