10年以内じゃない!遺留分を請求する側の生前贈与だけ「無制限に」請求額から引かれる理由

「遺言書で兄にすべての財産を渡すと書かれていた。納得できないから遺留分を請求したい」 このようなご相談を受ける際、私が必ず確認することがあります。それは**「あなた自身が、過去に亡くなった方から大きな援助(生前贈与)を受けていませんか?」**という点です。

多くの相談者はこう答えます。「昔、自宅を購入する際、援助してもらいましたけど、もう20年も前の話ですよ? ネットで『遺留分の計算に入るのは10年前まで』と書いてありました。だから私の昔の贈与は関係ないですよね?」

実は、これが最大の落とし穴です。

法律には、遺留分を請求する側の生前贈与について、一見不公平ともいえるルールが存在します。これを知らずに請求すると、「計算してみたら、請求できる額がゼロだった」という事態になりかねませんので、注意が必要です。

目次

原則:「基礎財産」に加算される生前贈与は10年分だけ

まず、遺留分を計算する際の土台となる「基礎財産」についてです。これは「もらえるパイの大きさ」を決める計算です。

平成30年の民法改正により、以下のルールが明確化されました。

相続人に対する生前贈与(特別受益)で、基礎財産に加算するのは、「相続開始前の10年間」になされたものに限る。

なぜ10年限定なのか?

もし、何十年も前の贈与まで全て計算に含めるとなると、遺留分を請求される側(受遺者など)にとって、予期せぬ高額な請求を受けることになり、不測の損害を与える恐れがあるためです

つまり、「パイの大きさ」を決める段階では、10年以上前の古い贈与は「なかったもの」として扱われ、計算に入りません。

例外:「あなたの取り分(侵害額)」から引かれる生前贈与は「無制限」

ここからが本題です。 遺留分を請求する側(あなた)が、実際に相手から支払ってもらえる額を「遺留分侵害額」といいます。

この計算式は、ざっくり言うと以下のようになります。

遺留分侵害額=(あなたの本来の遺留分額)-(あなたが過去にもらった生前贈与額)

この「引かれる生前贈与」について、法律には恐ろしいルールがあります。

請求者が過去に受け取った特別受益(生前贈与)を差し引く際、「10年」という期間制限はありません

つまり、あなたが受け取った贈与が、15年前だろうが、30年前だろうが、特別受益(結婚資金や住宅資金など)に該当する限り、その全額があなたの請求額から差し引かれます

ここが落とし穴!「計算のねじれ」が生む不利益

上記の「原則」と「例外」を組み合わせると、請求する側(あなた)にとって非常に不利な「計算のねじれ」が発生します。

例えば、あなたが15年前に500万円の贈与を受けていたとします。

  1. 「基礎財産」の計算(パイの大きさ)
    • 10年以上前なので、この500万円は加算されません
    • 結果:全体の遺留分額(分母)は増えず、あなたの取り分も増えません。
  2. 「侵害額」の計算(手取りの計算)
    • 期間制限がないため、この500万円はしっかり差し引かれます
    • 結果:もらえるはずの額から、500万円が丸々カットされます。

具体的なシミュレーション

  • 遺産:3000万円(全て兄が相続)
  • あなた:12年前に父から500万円の贈与を受けていた
  • 計算結果:
    • 本来なら、遺産3000万円の1/4である「750万円」を請求したいところです。
    • しかし、あなたの500万円は10年以上前なので「基礎財産」には足されず、ベースは3000万円のまま。
    • そこから、あなたが過去にもらった500万円が無期限で控除されます。
    • 請求できる額 = 750万円-500万円 =250万円

もし、この贈与が10年以内であれば、基礎財産に足されるため(3500万円×1/4-500万円=375万円)となり、もう少し多くもらえたはずですが、「古すぎる贈与」であるがゆえに、かえって計算上不利になるという現象が起きます。

なぜこのような仕組みなのか?

請求する側からすれば「理不尽だ!」と感じるかもしれません。しかし、法的には、以下のような理由で正当化されています。

  • 二重取りの防止:もし請求者の過去の贈与も「10年前まで」として無視してしまうと、昔に多額の財産をもらっていた人が、さらに遺留分も満額請求できることになります。これは「もらいすぎ(二重取り)」となり、請求される側にとって過酷で不公平です。
  • 公平性の確保:遺留分制度は、相続人間の公平を図る制度です。過去に十分な利益を得ている人には、これ以上の保護を与える必要性は低いと判断されます。

請求する前にチェック!これらはすべて「遺産の前借り」です

「お小遣い程度なら関係ないだろう」と思うかもしれませんが、金額が大きいものは「特別受益」として扱われる可能性が高いです。以下の項目に心当たりはありませんか?

住宅資金、開業資金、高額な学費…心当たりはありませんか?

これらは何十年前のものであっても、遺留分を減らす要因になります。

  1. 住宅取得資金:結婚した時にマンションの頭金を出してもらった、実家の土地に家を建てさせてもらった(土地の無償利用)など。最も高額になりやすく、致命的です。
  2. 開業資金・事業援助:独立する時に親から資金援助を受けた、借金を肩代わりしてもらったなど。
  3. 特別な学費:「長男は公立だったが、次男(あなた)だけ私立医学部に行かせてもらい、留学費用も出してもらった」といったケース。他の兄弟と比べて著しく高額な場合、特別受益とみなされます。
  4. 持参金・支度金:結婚の際、家具家電や新婚旅行費用としてまとまったお金をもらった場合。

まとめ:請求前の「過去の棚卸し」が重要

「10年以内」というのは、あくまで「遺産全体の計算(基礎財産)」の話であり、「あなた自身の取り分(侵害額)」の計算においては、過去の贈与はゾンビのように蘇ってきます。

自分の古い生前贈与は、遺留分を増やす要素にはならないのに、減らす要素としてだけ機能します。遺留分を請求する前に、相手の財産だけでなく、「自分自身が過去に何をもらったか」を正確に思い出す必要があります。

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