なぜ相続は揉めるのか?「争族」を避けて円満に解決するための3つの鉄則

「兄貴は何か隠しているんじゃないか…」
「妹は自分の都合のいいことばかり言ってくる…」

遺産分割の話し合いを前に、こうしたモヤモヤを抱えていませんか? 親族だからこそ、一度「疑い」が生まれると、過去のわだかまりまで噴出してしまい、話し合いそのものが怖くなってしまうものです。

でも、少し深呼吸をしてください。

実は、相続が揉める原因の多くは、相手の「悪意」ではありません。「事実の確認不足」と「話し合いの順序の間違い」が、無用な疑心暗鬼を生んでいるケースがほとんどなのです。

ここでは、家庭裁判所の調停現場でも使われている「正しい話し合いの型」を、誰でも実践できる3つの鉄則としてご紹介します。感情論に流されず、事務的に、かつ穏やかに進めるための「地図」としてお使いください。

目次

鉄則1:まずは「疑い」をやめて「事実」を確認する

相続のトラブルで最も多いのが、「相手が財産を隠している気がする」という疑いです。しかし、その疑いの多くはコミュニケーション不足から生じています。

「隠している」のではなく「知らないだけ」かも?

例えば、親と同居していた長男と、離れて暮らす次男がいるとします。次男からすれば「兄貴なら親の財産をすべて把握しているはずだ」と思いがちですが、実際には「親が通帳を管理していて、長男も全貌を知らない」というケースも多いのです。

それにも関わらず、次男が「全部知ってるんだろ? 出せよ」と詰め寄ると、長男は「知らないのに疑われた」と腹を立て、防衛的になります。これが「隠蔽だ!」「言いがかりだ!」という不毛な争いの入り口です。

まずは「相手も全貌を知らないかもしれない」という前提に立ちましょう。

疑う前に資料(通帳など)を一緒に見ることから始めよう

疑心暗鬼を消す唯一の方法は、「情報の透明化」です。

「どれくらい財産があるか分からないから、不安なんだ。一緒に通帳を確認する時間を作ってくれないか?」と提案してみましょう。

ポイントは、相手を責めるのではなく、「一緒に事実を確認したい」というスタンスをとること。

資料(通帳、不動産の権利証、保険証券など)をテーブルに広げ、全員で同じものを見る。このプロセスを経るだけで、「隠されている」という不安は驚くほど解消されます。

鉄則2:話し合いには「順番」がある!家庭裁判所式・論点整理術

「実家は誰が継ぐ?」「預金はどう分ける?」

実は、いきなりこの話を始めるのが、相続で失敗する最大の原因です。

いきなり「誰が何をもらうか」から話すと失敗する

全体像が見えていないのに、個別の取り分を主張し合うと、話は必ず堂々巡りになります。

「兄さんは家をもらうんだから、預金は俺が全部もらう」「いや、家の評価額なんて今いくらか分からないだろ!」といった具合です。

相続の話し合いには、「ここが決まらないと、次に進めない」という厳密なルール(段階)があります。これを無視してゴール(遺産分割)へ飛び込もうとすると、間違いなく転んでしまいます。

揉めないための最強ツール「段階的進行モデル」とは?

家庭裁判所での遺産分割調停では、「段階的進行モデル」と呼ばれる鉄則のステップに沿って話が進められます。ご家庭での話し合いも、このステップを真似するだけで、驚くほど冷静に進められます。

以下の5つのステップを、必ず「1から順番に」クリアしていってください。前のステップが合意できていないのに、先へ進んではいけません。

  1. 【相続人の範囲】
    • 誰が相続人なのか?(戸籍を集めて全員を確認する)
  2. 【遺産の範囲】
    • どんな財産があるのか?(借金も含めてすべてリストアップする)
    • ※ここで「隠している・いない」の議論を終わらせます。
  3. 【遺産の評価】
    • それぞれの財産はいくらの価値か?
    • ※特に不動産は評価額で揉めやすいので、固定資産税評価額を使うか、査定に出すかなどの「基準」を決めます。
  4. 【各相続人の取得分(特別受益・寄与分)】
    • 生前に贈与を受けた人はいるか?(特別受益)
    • 親の介護や事業を特別に手伝った人はいるか?(寄与分)
    • ※ここは感情が絡む難所です。証拠がない主張は認められにくいことを理解しましょう。
  5. 【遺産分割】
    • 具体的にどう分けるか?
    • ※ステップ1〜4で「分ける対象」と「価値」が確定して初めて、この話ができます。

話し合いが感情的になりそうなときは、「ちょっと待って、今私たちはステップ2(遺産の範囲)の話をしているよね? ステップ5(分け方)の話は、これが決まってからにしよう」と立ち戻ることで、冷静さを取り戻せます。

鉄則3:文書だけのやり取りはNG!誤解を防ぐコミュニケーション

遠方に住んでいる場合など、メールや手紙だけで済ませようとしていませんか? 文字だけのコミュニケーションは、相続においては「冷たい」「強引」と受け取られがちです。

いきなり遺産分割協議書を送りつけるのは「宣戦布告」と同じ

よくある失敗が、良かれと思って「遺産分割協議書」を自分で作成し、いきなり兄弟に郵送して「これにハンコを押して」と頼んでしまうケースです。

受け取った側は、内容がどれだけ公平であっても「勝手に決められた」「従わせようとしている」と感じ、反発心を抱きます。これは相手にとって「宣戦布告」と同じです。

電話や対面で「なぜその分け方なのか」背景を伝える重要性

文書はあくまで「結果」を記すものです。「過程」は、必ず電話や対面(オンライン通話含む)で共有しましょう。

  • 「なぜ実家を継ぎたいと思っているのか」
  • 「親の介護の時にどういう苦労があったのか」
  • 「あなたにはこうしてあげたいと思っている」

こうした背景や想い(ストーリー)を自分の言葉で伝え、相手の言い分にも耳を傾けること。

「決定事項」を伝えるのではなく、「相談」を持ちかける姿勢が、相手の警戒心を解く鍵となります。

まとめ:感情ではなく「ルール」に沿って進めば怖くない

相続は、親族同士だからこそ「分かってくれるはず」という甘えと、「損をしたくない」という欲がぶつかり合う難しい場面です。

しかし、今回ご紹介した以下の3つを守れば、無用な「争族」は防げます。

  1. 推測で疑わず、資料を一緒に見て事実を確認する。
  2. いきなり分け方の話をせず、5つのステップを順に登る。
  3. 文書を送りつけず、対話で背景を共有する。

もし話し合いの最中に心がざわついたら、「今はどのステップにいるんだっけ?」と地図を見直してください。ルールという「手すり」に掴まっていれば、足を踏み外すことはありません。

まずは次の週末、「これからの進め方について、一度みんなで整理しない?」と、兄弟姉妹に連絡を入れることから始めてみませんか?

目次