相続不動産の「評価額」をカンタンに計算する方法
遺産分割では不動産の評価が決定的に重要
突然ですが、この不動産はおいくら?と聞かれたら、あなたはどのように答えるでしょうか?
毎年送られてくる固定資産税納税の通知書に書いてある評価額で答えるでしょうか?
それとも、不動産業者に聞いてくるからちょっと待っててと、一旦保留にするでしょうか?
実は、どちらも間違っているわけではありません。
不動産の評価方法は複数あり、評価方法によって評価額も変わります。
問題は、目の前の遺産分割で、一体どのような方法で不動産を評価すればいいかです。
不動産を売却し、法定相続分で単純に分けるだけであれば、不動産の評価額は問題になりません。
結果的に売れた金額を分ければいいだけです。
しかし、一人の相続人が不動産を取得し、その代わりに、他の相続人にお金を支払うという「代償分割」をするのであれば、不動産の評価額は大いに問題となります。
たとえば、相続分が1/2だったとすると、不動産の評価額が1000万円なら500万円もらえますが、評価額が2000万円であれば1000万円もらえます。
遺産分割における不動産の評価額を誤解すると、あなただけ一方的に損をする可能性があります。遺産分割における不動産の評価方法は、公平な相続を実現する上で、決定的に重要になります。
遺産分割は時価で評価
相続税申告の必要がある場合、相続税申告書にも不動産の評価額が記載されています。
しかし、結論から言うと、相続税申告書に記載されている不動産の評価額は、遺産分割における不動産評価額とは異なります。
相続税申告における不動産の評価方法は、あくまでも相続税申告の評価方法であり、路線価を基準に算定します。
路線価というのは、毎年国税庁が公表する路線の評価額で、これに土地の面積を掛けるなどして不動産を評価します。
これに対して、遺産分割における不動産の評価方法は時価を基準に算定し、路線価を基準に算定した評価額とは異なる評価額になるのが通常です。特に市街地では、時価基準の方が路線価基準よりも評価額は高くなる場合が多いです。
相続税申告書記載の評価額(路線価基準価額)を前提にして遺産分割をすると、不動産をもらう人が得をし、お金をもらう人は損をすることがあります(安く不動産を売ってあげるようなものです)。ご注意ください。
素人でもカンタンに(一応の)相続不動産の時価を計算できる方法
今のあなたの最大の関心事は、遺産分割の話し合いにおいて、なるべく簡単に不動産の時価を計算し、他の相続人を納得させることだと思います。
あります。
素人でもカンタンに(一応の)相続不動産の時価を計算できる方法が。
ここからが今回の本番です。
固定資産税評価額や路線価を利用する方法
一つ目は、「固定資産税評価額や路線価を利用する方法」です。
遺産分割における評価方法とは違うと言ったばかりじゃないかと、突っ込みを入れたくなるかもしれません。
しかし、固定資産税評価額や路線価基準価額を利用し、より時価に近づける方法があります。
もともと固定資産税や路線価は、公示価格という公的な価格が基準となっています。
具体的には、固定資産税評価額は公示価格×7/10、路線価基準価額は公示価格×8/10を目途に算出されます。
市区町村や国税庁のホームページに記載されていますので、プリントアウトして説明資料にするといいでしょう。
これを逆算し、
- 固定資産税評価額×10/7
- 路線価基準価額×10/8
の算定式で計算すれば、公示価格に近い価格になり、これが時価だ!という説明が可能です(建物については、固定資産税評価額のままにするのが通常です)。
計算も説明もとても楽です。
お上の基準をベースにしていますし、裁判でもよく使われる評価方法です。
実際はそこまで単純ではなく、絶対のものと考えると危険ですが、素人相手の説得材料としては通用すると思います。
ただし、戸建て住宅を前提にしており、マンションの評価方法として使うことはできません。
マンションの場合、一つの土地の上に多数の住人が細かい敷地権を有していますし、築年数や設備内容等の個別の特性・利用状況などによっても影響を受けます。周辺土地の一般的な利用状況を踏まえて設定される路線価から引き直せるとは限りません。
かつて、タワーマンションによる節税対策がはやりました。タワーマンションの相続税評価額と取引価格との差を利用した節税対策(タワマン節税)です。
このタワマン節税のように、マンションの時価と固定資産税評価額・路線価は、評価額にかなりの差が出る場合もあります。
10/7や10/8の算定式では、必ずしも説得力のある説明とはいえません。
不動産業者の簡易査定を利用する方法(マンションはこちら)
二つ目は、「不動産業者の簡易査定を利用する方法」です。
●●不動産といった不動産業者は、簡易の不動産査定書を無料で作成してくれます。
まずは2~3社から査定書を取得します。次に、取得した査定書の平均値を計算します。専門業者の平均値で均したのだから、これが時価だ!という説明が可能になります。
実務でもよく利用される方法で、特に、マンションの評価ではこちらを使います。
ただし、簡易査定を利用する場合、以下の点に注意する必要があります。
- 不動産の所有・賃貸借などの権利関係を漏らさず伝える
実際の権利関係を反映した評価額になりませんので、もめる原因となります。 - 自分が取った査定書を絶対のものと考えない
査定の条件によって、査定額にかなりの幅が出る場合もあります。
また、訪問査定ではなく机上査定の場合、実際の評価額はもっと下がる可能性があります。 - 不動産業者に査定を依頼する際、査定額を操作しない
査定額は高め低めなどの要望を出せますが、実体から離れますので、無用にもめて長引く原因となります。
注意事項はありますが、簡易査定書2~3社分を取得し、その平均値を計算すればいいだけですので、誰でもカンタンに時価の計算ができます。しかも無料です。
こちらも実際はそこまで単純ではなく、絶対のものと考えると危険ですが、素人相手の説得材料としては通用すると思います。
不動産鑑定は有効だが費用がかかる
不動産鑑定士に不動産鑑定を依頼する方法も考えられます。
しかし、鑑定費用が数十万とかかかる場合もありますので、費用面でカンタンとは言えません。
もっとも、専門家がピンポイントでその不動産を評価しますので、お金がかかってもいいのであれば、前の2つよりも有効な方法です。
相続の正しい理解が大事
不動産の評価方法を知っておくだけでも、なんだかよく分からないまま遺産分割協議書にサインしてしまうことを避けられます。しかも、小学校レベルの計算ですので、そこまで難しいわけではありません。
とはいえ、もし話し合いの進め方で悩むことがあれば、遠慮なくご相談ください。
一緒に解決策を考えましょう。
あなたが形だけの円満相続で後悔せず、「法の下の相続」を実現することを祈っています。