その株価、安すぎませんか?「相続税評価額」vs「時価」で見る非上場株式の適正価格
「うちは小さな町工場だし、借金もあるみたいだから、会社の株に価値なんてないよ」
「兄さんが会社を継ぐんだから、株は兄さんがタダ同然で引き取るのが筋だろう」
親が亡くなり、遺産分割の話し合い(遺産分割協議)の場で、会社を継ぐ予定の兄弟や親族からこんなことを言われていませんか?
もし、その言葉を鵜呑みにしてハンコを押そうとしているなら、ちょっと待ってください。その「価値がない」と言われている株券、実は数千万円の価値がある「現金引換券」かもしれません。
上場企業のように新聞に株価が載っていない「非上場株式」は、評価方法次第で値段が何倍、何十倍にも変わります。特に、会社を継がない相続人にとって不利な数字が提示されているケースが非常に多いのです。
この記事では、決算書に隠された「本当の株価」を見抜くためのポイントを解説します。
なぜ揉める?「相続税評価額」と「時価」の決定的な違い
相続の現場で最も多いトラブルの原因は、「税金を計算するための株価(相続税評価額)」と「遺産分けのための株価(時価)」が全く別物であるという事実が知られていないことです。
税理士が出してくる数字は「税金を安くするための数字」
遺産分割の際、後継者(兄など)が「税理士先生が出した株価評価書だよ」といって資料を見せてくることがあります。そこに「1株=500円」と書かれていれば、あなたは「そんなものか」と思うかもしれません。
しかし、その評価書は「相続税申告」のために作られたものではありませんか?
国税庁が定めるルール(財産評価基本通達)で計算される「相続税評価額」は、あくまで税金を公平・低廉に計算するための画一的な基準であり、その株の「実際の価値(私法上の時価)」を表すものではありません。
多くの場合、相続税評価額は、実際の価値よりも低くなるように設定されています。これを遺産分けの基準にしてしまうと、会社を継がないあなたは、本来もらえるはずの財産を放棄しているのと同じことになってしまいます。
遺産分け(遺産分割)では「会社を解散したらいくら残るか(純資産)」で考えるべき
では、遺産分けの話し合いではどの価格を使うべきでしょうか?
それは、民法や会社法上の「私法上の時価(本当の価値)」です。
私法上の時価にはいくつかの計算方法がありますが、会社を継がない相続人が最もイメージしやすいのは「コスト・アプローチ(純資産法)」という考え方です。
考え方はシンプルです。
「今すぐ会社を解散して、資産をすべて売り払い、借金をすべて返したら、手元にいくら現金が残るか?」
この残った金額(純資産)を株数で割ったものが、株主の持分としての本来の価値に近いと言えます。
後継者側は、配当金などの収益に基づいた低い評価額(収益還元法や配当還元法)を主張してくることが多いですが、「会社資産の裏付けがある価格」を主張することもできるのです。
決算書の数字を信じてはいけない!「含み益」の探し方
「でも、決算書を見せてもらったら『純資産』は大した金額じゃなかったよ」
そう思う方もいるでしょう。しかし、中小企業の決算書(貸借対照表)に載っている数字は、あくまでも「買った時の値段(簿価)」です。ここには大きな落とし穴があります。
本当の価値を知るには、決算書の数字を現在の価値(時価)に引き直す「修正純資産法(時価純資産法)」を使う必要があります。以下のポイントをチェックしてください。
会社名義の「不動産」は、今の値段(時価)で再計算せよ
最も「含み益」が隠れているのが不動産です。
- 土地:30年前に買った工場の土地。決算書には「購入時の価格」で載っていますが、現在は地価が数倍になっている可能性があります。
- 建物:減価償却が進み、決算書上は「1円」や「数万円」になっている本社ビル。しかし、実際にはまだ使えますし、売れば数千万円になることもあります。
決算書上の「簿価」だけで判断せず、近隣の取引価格や固定資産税評価額などを参考に、今の価値に直して計算し直す必要があります。
「生命保険」や「有価証券」も簿価より増えている可能性がある
不動産以外にも、資産が隠れている項目があります。
- 生命保険:経営者が会社名義で加入している保険。解約したらいくら戻ってくるか(解約返戻金)は、決算書の貸借対照表には正確に載っていないことがあります。
- 有価証券:会社が付き合いで持っている取引先の株や、投資信託など。アベノミクス以降の株高で、買った時より大幅に値上がりしているケースがあります。
これらをすべて「今の時価」で計算し直し、借金を引いた残りが、本当の「会社の価値」です。
株価算定でもめた時の対処法
「税理士の評価額はおかしい、時価で計算し直すべきだ」と主張すると、後継者である兄や親族と対立することになるでしょう。その際の対処法を解説します。
本格的な「株価鑑定」は費用が高いので注意
「正確な時価を出そう」として、公認会計士や不動産鑑定士に正式な「株価鑑定」を依頼すると、その費用は数十万円〜数百万円と高額になる場合があります。
遺産全体の規模がそれほど大きくない場合、鑑定費用で財産が目減りしてしまっては本末転倒です。また、鑑定をしたからといって、相手がその数字に納得するとは限りません。
まずは「修正純資産法(簡易版)」でざっくり計算してみよう
いきなり高額な鑑定を依頼する前に、まずは自分で、あるいは相続に詳しい税理士などに依頼して「簡易的な修正純資産法」で試算してみることをお勧めします。
- 会社の「貸借対照表」を入手する。
- 土地や建物、有価証券の時価を概算で調べる(ネットの不動産情報や路線価などを参考)。
- 簿価との差額(含み益)を純資産に足す。
- 発行済株式数で割る。
この数字(本来の時価に近い数字)と、相手が提示してきた相続税評価額を比較してください。「1株1万円」と言われていたものが、実は「1株10万円」だった、というような大きな差があるなら、交渉する価値は十分にあります。
まとめ:非上場株式は「紙切れ」ではない。正当な権利を主張しよう。
非上場株式は、市場で売買できないため、「換金できない=価値がない」と思われがちです。しかし、法律上は会社の資産に対する正当な権利(準共有持分)を持っています。
- 税理士の出す「相続税評価額」で遺産分けをしてはいけない。
- 決算書の「簿価」ではなく、不動産などの「含み益」を考慮した「時価」を見る。
- 安易に遺産分割協議書にハンコを押さず、資料の開示を求める。
会社を継ぐ側にとっては「株価を低く見積もりたい」というのが本音です。しかし、会社に関与しないあなたにとっては、適正な対価(代償金など)を受け取ることは正当な権利です。
「家族だから」といって曖昧にせず、まずは「会社の本当の値段」を知ることから始めましょう。それが、後々の親族間のトラブルを防ぐことにもつながります。

