遺産分割で揉めたら?調停と審判の違いと手続きの流れを弁護士が解説
こんなお悩みを持つ方に役立つ記事です
・相続人の間で遺産の分け方の意見がまとまらない
・一部の相続人が「遺産分割協議書」にハンコを押してくれない
・特定の相続人が遺産を独り占めしようとしていて、話し合いにならない
・親の土地や家など、不動産の分け方で揉めている
・家庭裁判所の手続きと聞いて、何から手をつけていいか分からず不安
・「調停」や「審判」という言葉は聞くけれど、違いがよく分からない
30秒でわかる!遺産分割の調停と審判
Q:遺産分割で揉めたらどうしたらいい?
まずはご自身の状況を整理し、家庭裁判所に調停をすぐに申し立てるべきか、その前段階として弁護士に交渉を依頼すべきかを見極めましょう。
Q:遺産分割は「調停」と「審判」、どっちから始めるの?
まず調停から始めます。原則として、いきなり審判はできません(調停前置主義)。
Q:調停でもまとまらなかったらどうなる?
調停が不成立になると、自動的に審判手続きに移行します。
まず結論:遺産分割は「調停」から。審判は最終手段。
遺産分割で相続人同士の話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の手続きを利用することになります。
その際、原則として、「調停(ちょうてい)」から始めなければなりません。
「裁判で白黒ハッキリさせたいから、いきなり審判を申し立てたい」と考える方もいらっしゃいますが、それはできません。法律により、審判の前に、まず調停で話し合うことが原則とされているからです。これを「調停前置主義(ちょうていぜんちしゅぎ)」と呼びます。
遺産分割手続きの流れ
- 協議(話し合い):まずは相続人全員で話し合います。
- 調停(家庭裁判所での話し合い):協議でまとまらなければ、家庭裁判所で調停委員を交えて話し合います。
↓ - 審判(家庭裁判所での決定):調停でもまとまらなければ、裁判官が法律に基づいて分け方を決定します。
なぜ調停から?「調停前置主義」という基本ルール
なぜ、法律は話し合いである「調停」から始めるよう定めているのでしょうか。それは、相続問題が、お金だけの問題ではなく、家族間の感情的な対立を含んだデリケートな問題だからです。
裁判官が一方的に「こう分けなさい」と決める前に、まずは公平な第三者である調停委員(民間から選ばれた良識のある専門家)を交えて、冷静に話し合う機会を設けることが、円満な解決につながりやすいと考えられています。
よくある勘違い:
- 「裁判所で争う=いきなり裁判官が判決を下す」
間違いです。 まずは当事者の合意を目指す「調停」というクッションが置かれています。 - 「調停は難しそうだから、自分だけでは無理」
ご自身で手続きを進めることも可能です。しかし、法的な主張を整理したり、相手方との交渉を有利に進めたりするためには、弁護士のサポートが有効な場面が多いのも事実です。
遺産分割調停と審判、何がどう違う?
調停と審判は、どちらも家庭裁判所で行われる手続きですが、その性質は全く異なります。
調停は「話し合い」であり、審判は「裁判官による決定」です。
調停:あくまで「話し合い」の場
調停のゴールは、相続人全員が合意することです。
- 進め方:
裁判官1名と、男女ペアが基本の調停委員2名が間に入ります。
当事者である相続人は、別々の待合室で待ち、交互に調停室に呼ばれて調停委員に自分の意見を伝えます。相手と直接顔を合わせずに済むケースがほとんどです。
調停委員は、双方の主張を聞き、法的な観点や過去の事例を踏まえながら、お互いが納得できるような解決案(落としどころ)を探っていきます。 - 結論の形:
全員が合意に達すると、その内容をまとめた「調停調書(ちょうていちょうしょ)」が作成されます。この調書は、裁判の確定判決と同じ強い効力を持ちます。 - メリット:
当事者の事情に合わせた柔軟な解決が可能(例:長男が家を継ぐ代わりに、他の相続人には多めに現金を渡すなど)。
手続きは非公開で、プライバシーが守られます。 - デメリット:
相手方が合意しなければ、いつまでも成立しません。
話し合いが長期化することもあります。
審判:裁判官が最終「決定」を下す場
調停での話し合いがまとまらず、「不成立」となった場合に、自動的に移行するのが審判手続きです。
- 進め方:
話し合いの場ではありません。調停で提出された書類や主張内容を引き継ぎ、裁判官がそれらを精査します。
必要に応じて、追加の資料提出を求められたり、事実関係の調査が行われたりします。
最終的に、裁判官が民法などの法律に基づき、最も公平・妥当と判断する方法で遺産の分割を命じます。 - 結論の形:
裁判官の決定内容を記した「審判書(しんぱんしょ)」が相続人全員に送られます。
内容に不服がある場合は、審判書の受け取りから2週間以内に「即時抗告(そくじこうこく)」という不服申し立てを高等裁判所に対して行うことができます。 - メリット:
相手の合意がなくても、必ず結論が出ます。 - デメリット:
法律に基づいた判断となるため、当事者の感情や特別な事情が反映されにくい「機械的な」結論になることがあります。
必ずしも自分の希望通りの結果になるとは限りません。
「調停」と「審判」の違いまとめ
項目 | 遺産分割調停 | 遺産分割審判 |
---|---|---|
目的 | 合意形成(話し合い) | 法的判断(決定) |
主導者 | 調停委員(当事者の間に入る) | 裁判官(最終決定権を持つ) |
雰囲気 | 話し合い。比較的穏やか。 | 裁判官による審理。厳格。 |
結論の形 | 調停調書(全員の合意が必要) | 審判書(裁判官が一方的に決定) |
柔軟性 | 高い(当事者が合意すればOK) | 低い(法律に基づいて判断) |
公開性 | 非公開 | 非公開 |
不服申立 | なし(全員が合意しているため) | 即時抗告(2週間以内)が可能 |
遺産分割調停の申立て方法と手続きの流れ(チェックリスト付き)
「調停を申し立てたい」と考えた場合、具体的に何をすればよいのでしょうか。ここでは、その手順と必要書類を解説します。
調停申立ての7ステップ
- [✔] 申立先の家庭裁判所を確認する
原則として、相手方(申立ての対象となる相続人)のうちの一人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
ただし、当事者全員が合意すれば、別の家庭裁判所を選ぶことも可能です。 - [✔] 必要書類を収集する
戸籍謄本や不動産の登記事項証明書など、多くの書類が必要です(詳細は後述)。収集には時間がかかるため、早めに準備を始めましょう。 - [✔] 「遺産分割調停申立書」を作成する
裁判所のウェブサイトから書式をダウンロードできます。申立人、相手方、申立ての趣旨(どういう分割を希望するか)、申立ての理由などを記載します。 - [✔] 収入印紙と郵便切手を準備する
申立手数料として、被相続人1人につき1,200円分の収入印紙が必要です。
また、裁判所からの連絡用として、数千円程度の郵便切手も必要になります(金額は裁判所ごとに異なります)。 - [✔] 家庭裁判所に提出する
完成した申立書と添付書類一式を、管轄の家庭裁判所に持参または郵送で提出します。 - [✔] 第1回調停期日の呼出状が届く
申立てから約1〜2ヶ月後に、裁判所から第1回目の調停期日を指定する「呼出状(よびだしじょう)」が全当事者に届きます。 - [✔] 調停期日に出頭する
指定された日時に家庭裁判所へ行きます。通常、調停は1回2時間程度で、1〜2ヶ月に1回のペースで開かれます。
申立てに必要な書類一覧
【必ず準備するもの】
- [ ] 遺産分割調停申立書
- [ ] 当事者等目録、遺産目録、相続関係図
- [ ] 収入印紙(被相続人1人につき1,200円分)
- [ ] 連絡用の郵便切手(裁判所に金額を確認)
【被相続人(亡くなった方)に関する書類】
- [ ] 出生から死亡までの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- [ ] 住民票の除票 または 戸籍の附票
【相続人に関する書類】
- [ ] 相続人全員の現在の戸籍謄本
- [ ] 相続人全員の住民票 または 戸籍の附票
【遺産に関する書類】
- [ ] 不動産: 登記事項証明書、固定資産評価証明書、住宅地図
- [ ] 預貯金: 通帳の写し や 残高証明書(金融機関名、支店名、口座番号がわかるもの)
- [ ] 有価証券: 証券会社の残高報告書など
- [ ] 自動車: 車検証の写し
- [ ] その他: 生命保険の証券、借金がある場合は金銭消費貸借契約書など
- [ ] (あれば)遺言書の写し
※事案によって追加の書類が必要になる場合があります。
調停・審判で失敗しないための3つのポイント
調停や審判を有利に進めるには、感情論を排し、客観的な事実と証拠に基づいて主張を組み立てることが不可欠です。
- 主張には必ず「証拠」をセットで準備する
失敗例: 「私が親の介護を一身に背負ってきたのだから、遺産を多くもらうべきだ!」と感情的に訴えるだけ。
回避策: 主張を裏付ける客観的な証拠を提示しましょう。例えば「介護の貢献(寄与分)」を主張するなら、介護サービス費用の領収書、自分の仕事を休んで介護にあたった日数がわかる記録、介護日記などが有効です。 - 複数の「落としどころ」を考えておく
失敗例: 自分の主張だけを繰り返し、一切譲歩しない。
回避策: 調停は話し合いの場です。100%自分の希望通りになることは稀だと考え、譲れる点と譲れない点を明確にしておきましょう。「不動産は私がもらうが、その代わりに他の相続人には現金(代償金)を支払う」など、複数の解決案を準備しておくと、交渉がスムーズに進みやすくなります。 - 財産調査を徹底的に行う
失敗例: 相手の言う財産リストを鵜呑みにし、後から隠されていた預金が見つかる。
回避策: 遺産目録に漏れがないか、ご自身でも可能な限り調査しましょう。相手が財産隠しをしている疑いがある場合は、弁護士を通じて金融機関に照会をかける「弁護士会照会」などの制度を利用することで、正確な財産状況を明らかにできる可能性があります。
費用と期間の目安はどれくらい?
- 期間の目安:約半年 〜 2年程度
調停: 比較的スムーズに進めば半年〜1年ほど。争点が多く、相続人が多い複雑なケースでは1年半以上かかることもあります。
審判: 調停から移行した場合、半年〜1年ほどが目安です。ただし、これも事案の複雑さによって大きく変動します。 - 費用の目安
① 実費(裁判所に納める費用)
収入印紙: 1,200円(被相続人1人あたり)
郵便切手: 数千円〜1万円程度
その他: 戸籍謄本などの取得費用(数千円〜)、不動産鑑定を行う場合はその費用(数十万円〜)
② 弁護士費用
法律事務所によって料金体系は異なりますが、一般的には「着手金」と「成功報酬」で構成されます。
着手金(依頼時に支払う費用): 20万円 〜 50万円程度
報酬金(解決時に得られた経済的利益に応じて支払う費用): 経済的利益の10% 〜 20%程度
※上記はあくまで一般的な目安です。ご依頼前には必ず見積もりを確認してください。
【事例】実家の分け方で揉めた相続、調停から審判へ
【登場人物】
- 申立人: 長女Bさん(50代、主婦)
- 相手方: 長男Aさん(50代、会社員)
- 被相続人: 父(母は数年前に他界)
【事案の概要・論点】
- 遺産は、父が一人で暮らしていた実家の土地建物(評価額5000万円)と預貯金1000万円の合計6000万円。
- 長男Aさんは「自分が生まれ育った実家を残したい。自分が実家を取得する代わりに、Bさんには法定相続分(3000万円)に満たないが1000万円を代償金として支払いたい」と主張。
- 長女Bさんは「実家は誰も住まないのだから売却し、公平に2分の1(3000万円)ずつ分けたい」と主張し、平行線のまま協議が決裂。Bさんが遺産分割調停を申し立てた。
【調停から審判、そして結末へ】
- 調停では、調停委員から「Aさんがもう少し代償金を増額できないか」「Bさんも多少の譲歩はできないか」といった調整案が示された。しかし、Bさんは「法定相続分での相続しか考えられない」と強く主張し、Aさんもこれ以上の資金捻出は困難だったため、話し合いはまとまらず調停不成立となった。
- 審判に自動的に移行。裁判官は、①AさんがBさんに支払える代償金額が法定相続分に比べて著しく低いこと、②Bさんの換価分割(売却して現金で分けること)を望む意思が明確であること、③不動産をAさんが取得しなければならない特別な事情も認められないこと、などを総合的に考慮した。
- 最終的に、裁判官は「当該不動産を競売によって売却し、その売得金から競売費用を差し引いた金額を、AさんとBさんで2分の1ずつ分割するように」という換価分割(競売)の審判を下した。
遺産分割の調停・審判でよくある質問(FAQ)
まとめ
遺産分割で揉めたら、まず家庭裁判所の「調停」で話し合います。そこで合意できなければ「審判」で裁判官が判断します。手続きや書類は複雑なため、専門家への相談が円満かつ有利な解決への近道です。