「どうせ寄与分なんて認められない」で泣き寝入りしない!介護の苦労を相続分に上乗せする「計算式」と「証拠」

「兄さんは実家に寄り付きもしなかったのに、遺産はきっちり半分なんて納得できない」
「仕事を辞めてまで母の介護をした私の苦労は、タダ働きなの?」

あなたは今、そんなやり場のない怒りを抱えていませんか?

何もしなかった兄弟が得をして、一番苦労した人が報われない。そんな理不尽を是正するために、法律には「寄与分(きよぶん)」という制度があります。

しかし、ただ感情的に「大変だった」と訴えるだけでは、「家族の扶養義務の範囲内」として片付けられてしまうのが厳しい現実です。

この記事では、あなたの介護を「正当な金額」として算出する計算式と、それを認めさせるための「証拠の揃え方」を解説します。

目次

寄与分の主張で乗り越えるべきハードル

寄与分とは、相続人(あなた)が被相続人(親)の財産の「維持」や「増加」に特別な貢献をした場合に、その分を遺産分割で上乗せして受け取れる制度です。

しかし、これを法的に認めてもらうには、以下のハードルを越える必要があります。

「親孝行」はゼロ評価。「扶養義務」の壁を知る

法律上、親子には互いに助け合う「扶養義務(民法877条)」があります。

そのため、家庭裁判所の実務では、「親族として通常期待される程度の貢献」は、当然行うべきこととして相続分の中に含まれていると考え、寄与分とは認めません。

  • 認められない例
    • 週末に実家へ通い、家事や買い物を手伝った
    • 入院中の親の見舞いや、短時間の付き添い
    • 単なる精神的な励ましや、話し相手になった

これらは「家族ならやって当たり前」と判断され、金銭的な評価はゼロです。

寄与分として認められるには、この扶養義務の範囲を遥かに超える、「職業人が行うレベルの労働を、無償で、長期間提供した(特別の寄与)」という実績が必要です。

重要なのは「遺産を守った」という経済的効果

寄与分の本質は「ご褒美」ではなく、「財産の清算」です。

「あなたが身を粉にして介護をした結果、本来ならヘルパーや施設に支払うはずだった介護費用が浮き、その分だけ親の財産が減らずに済んだ」という因果関係がなければなりません。

つまり、きょうだいを説得するキーワードは、「私の苦労」ではなく、「私が浮かせたコスト」なのです。

これなら勝てる!寄与分が成立する「療養看護型」の要件

介護による寄与分(療養看護型)が認められるためには、以下の厳格な要件をクリアする必要があります。

要介護度2以上がひとつの目安(必要性)

そもそも親に「介護の必要性」がなければなりません。

実務的な目安として、介護保険の「要介護2」以上の状態(歩行や起き上がりに支障があり、排泄や食事等に一部介助が必要)であったことが求められます。

「自立して生活できるが、高齢で心配だから同居していた」というレベルでは、家事援助の範囲内とされ、寄与分は認められにくいのが現実です。

ヘルパー代わりを務めた(特別の貢献・専従性)

「片手間」ではなく、かなりの負担を要する介護であったことが必要です。

仕事を辞めたり、自身の生活を犠牲にして、排泄介助や入浴介助など、本来ならプロに頼むべき身体介護を行っていたかどうかが問われます。

無償で、長期間続けた(無償性・継続性)

対価(給料や多額のお小遣い)を受け取っていないことが条件です。もし親の年金から生活費以上の金銭を受け取っていれば、「すでに精算済み」とみなされます。

また、期間としては、「1年以上」継続していることが実務上の目安となることが多いです。

実務で使用される「計算式」。あなたの介護はいくらになる?

では、具体的にいくら請求できるのでしょうか?

家庭裁判所の調停や審判で用いられる一般的な計算式(療養看護型)は、以下のとおりです。

「プロの日当 × 日数 × 裁量割合」の計算式

寄与分額 = 介護報酬相当額(日当)× 療養看護日数 × 裁量割合

ここで最も重要なのが、実務特有の「裁量割合」という考え方です。

なぜ満額請求できないのか?(裁量割合の正体)

あなたがどれだけプロ顔負けの介護をしたとしても、あなたは「家族」であり、プロのヘルパーではありません。

前述した「扶養義務」があることや、有資格者ではないことを考慮し、プロの報酬(介護報酬基準)をそのまま請求することはできず、実務ではそこから減額調整されます。

この調整率を「裁量割合」と呼び、通常は「0.7(7掛け)」前後(0.5〜0.8の範囲)に調整されます。

シミュレーション:仕事をセーブして3年間介護した場合

  • 状況:要介護3の親を、自宅で3年間(1095日)介護した。
  • 日当:介護保険の「身体介護」報酬基準を参考に、1日あたり6000円と仮定。
  • 計算:6000円 × 1095日 × 0.7(裁量割合)=459万9000円

もしあなたが介護をしていなければ、この約460万円はヘルパー代として消えていたはずです。

「私が460万円分の遺産流出を防いだのだから、その分を優先的に受け取る権利がある」という主張であれば、法的にも説得力を持ちます。

証拠がなければ「0円」!揃えるべき3つの資料

どんなに苦労話をしたとしても、裏付けとなる証拠がなければ、裁判所は寄与分を認めてくれません。寄与分を証明するためには、主に以下の「証拠」が必要になります。

親の医療・介護記録

  • 要介護認定の通知書:親が「いつから」「どの程度の」介護が必要だったかの証明になります20
  • 診断書・カルテ:特に認知症の進行具合や、身体の状態を証明するために不可欠です。
  • 介護サービス利用票:デイサービスなどを利用していた日を除外して、純粋に自分が介護した日数を算出するために必要です。

介護日誌・介護メモ

「○月○日、下の世話をした」というメモ書きでも構いません。
実務では、日記や手帳の記録が「専従性」や「過酷さ」を認定する決め手になることが多々あります。
「いつ」「どのような介助(食事・排泄・入浴など)」「何時間費やしたか」を具体的に記録してください。

金銭の記録(家計簿、領収証など)

親の通帳や家計簿など、あなたが介護の対価としてお金を受け取っていないこと、あるいは親の生活費を立て替えていたこと(領収書)を示す資料も重要です。

まとめ:感情ではなく「数字と証拠」で説得しよう

「兄さんは冷たい」「私ばかり損をしている」

その怒りはもっともですが、遺産分割協議という交渉の場で感情をぶつけても、相手は心を閉ざすだけです。

弁護士が戦うときに使うのは、感情ではなく「証拠」と「計算式」です。

「法律の基準に照らし合わせると、私の貢献は約〇〇万円と試算される。これを無視して遺産分割することは、公平の観点から問題があるのではないか」

このように、冷静かつ論理的に、数字を突きつけてください。

あなたの献身的な介護が、正当な「価値」として認められるための第一歩は、今すぐ手元の記録を整理することから始まります。

目次