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兄弟からの「過大な寄与分」の請求に反論する方法

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過大な寄与分請求には理屈で反論することが大事

親の介護をしていた兄弟が、当然のように多くの遺産を相続しようとすることがあります。ときには、他の兄弟に100万円程度を渡し、それで相続を終わらせようとします。

しかし、その分け方はおかしいとただ言うだけではどうなるでしょうか?曲がりなりにも親の介護をしていたわけですから、言い方によってはもめる原因になります。

では、どの程度の相続分にすれば、双方とも納得するでしょか?

親の介護をしていた兄弟は、勢い、過大な主張をしがちです。
このようなとき、親の介護をしたかしてないかの二択で考えてしまうと、寄与分の程度を調整する基準がないため、遺産分割が一向に進まなくなることもあります。

親の介護を理由に過大に遺産をもらおうとする兄弟に対しては、理屈で反論(説明)することがとても大事です。

説明のポイントとなるのは、

  1. そもそも、法律上、寄与分になるのか(寄与分の要件)
  2. 寄与分はどのように計算するのか(寄与分の計算方法)
  3. 寄与分を金銭で評価するといくらになるのか(寄与分の金額)

です。

親の介護が寄与分になる要件

親の介護を理由に過大な遺産を相続しようとする兄弟がいる場合、まず考えるべきことは、そもそもその貢献が寄与分になるかどうかです。寄与分にならないのであれば、少なくとも法律上は、相続分は増えません。

親の介護が寄与分になるためには、以下の要件をクリアする必要があります。

  1. 相続人自らの寄与があること
  2. 行った介護が「特別の」寄与であること
  3. 遺産が維持ないし増加したこと
  4. 遺産の維持ないし増加が行った介護によるものであること(因果関係)

以下、要件を一つ一つ見ていきます。

①相続人自らの寄与があること

相続人が自分で親の介護をしていたことが必要です。

介護事業者がサービスを行い、その費用を負担していた場合、この要件をクリアしません。
ただし、金銭を支出したという別の寄与行為になりますので、相続分に影響しないというわけではありません。

なお、相続人の寄与と同視できる場合には、配偶者等の寄与も相続人の寄与分として考慮することも許されるとした裁判例もあります。

しかし、平成30年の相続法改正により、相続人以外の親族による寄与分は、「特別寄与料」として請求できることになりました(民法1050条)。そのため、相続人以外の親族による寄与分は、原則として、特別寄与料で対応することになります。

②行った介護が「特別の」寄与であること

寄与分の制度は、条文上、ただの貢献ではなく、「特別の寄与」を対象としています(民法904条の2・1項)。

「特別の」と定められている以上、

通常期待される程度を超える貢献であることが必要

です。

つまり、

親の介護をすれば、なんでもかんでも寄与分になるわけではない

ということです。

ここは誤解されがちなところですが、とても重要です。

ここまで聞くと、じゃあ「通常期待される程度を超える貢献」かどうかをどうやって判断するんだ、と言いたくなるのではないでしょうか?

寄与分の決め方は、法律上、「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮」すると定められています(民法904条の2・2項)。
一切の事情を考慮しますので、必ずしも明確に寄与分を決められるわけではありません。

しかし、寄与行為の類型に応じて、ある程度の判断基準はあります。
親の介護であれば、「特別の寄与」といえるためには、さらに以下の要件が必要とされています。

  • 介護の必要があること(介護の必要性)
    単に介護を必要とする状態だったことだけでなく、「相続人自身の」介護が必要な状態だったことも必要です。
    たとえば、病院や老人ホームなどの施設に入っていて、施設職員が療養看護・介護を行っていたような場合、相続人が別途介護を行ったとしても、原則として寄与分とはなりません。

    また、実際にどのような療養看護・介護を行ったかだけでなく、「要介護の状態」「必要とされる介護の内容」がポイントとされています。
    独力での歩行や起き上がりが困難になる要介護2が一つの目安ともされていますが、診断書、医療カルテ、要介護認定資料、介護記録などの資料を分析し、療養看護(介護)の必要性を具体的に判断する必要があります。
  • 特別の貢献を行うこと(特別性)
    介護の内容・程度や期間などから、亡くなった人との身分関係に基づいて通常期待される範囲を超えていることが必要です。
    判断が難しいかもしれませんが、親子関係でよくある程度のお世話であれば、「扶養義務の範囲」になり、特別の貢献とまではいえないことになります。
  • 無報酬ないしそれに近い状態で従事すること(無償性)
    無報酬又はそれに近い状態で介護を行っていたことが必要です。
    もらうものをもらっていたのであれば、相続人としての特別の寄与とはいえないという発想です。
  • 相当期間継続して行うこと(継続性)
    介護の期間に決まりはなく、様々な事情を総合的に判断することになります。
    ただし、相当程度の長さは必要でしょう。
  • 専従していること(専従性)
    介護の内容が片手間のようなものであれば、専従性はクリアしません。
    しかし、専念することまでは必要とされず、相当の負担を負っていた場合には専従性を充たすとされています。

③遺産が維持ないし増加したこと

寄与分で相続分を増やす以上、遺産を維持したり増やしたりする「財産上の効果」が必要です。

親の介護であれば、維持を増やすというよりも、余計な経費をかけず、遺産を維持したという財産上の効果であることが通常です。

④遺産の維持ないし増加が行った介護によるものであること(因果関係)

相続人の介護により、介護事業者のサービス料金が浮きますので、通常、遺産の維持との因果関係は認められます。

もっとも、介護事業者の様々なサービスを受けていたりすれば、遺産を維持しておらず、因果関係が否定されるかもしれません。

親の介護の寄与分がいくらか計算する方法

親の介護を相続分に反映させるためには、寄与分を金銭的に計算し、評価する必要があります。そうでないと、なんとなくの感覚で決めることになり、双方の溝を埋めることが難しくなります。

そのため、親の介護という寄与行為を、寄与分の額という金銭的な評価に変える作業が必要です。

問題は、

寄与分をどのような算定式で計算するか

です。

一般的な考え方

考え方は分かれますが、一般的に考えられる算定式は、以下のとおりです。

報酬単価×介護に従事した日数×裁量割合

報酬単価は「介護報酬基準」で算出することが多いです。
もっとも、介護報酬は資格者(プロ)への報酬であり、親族である寄与者への報酬額とは異なります。
それを調整するのが「裁量割合」で、70パーセント程度が平均だと言われています。

なお、親の自宅で在宅介護していたのであれば、家賃が浮きますので、その居住の利益分を差し引く場合があります。
ただし、常に差し引くわけではなく、同居の必要性や生活費の分担割合などの事情によりますので、注意が必要です。

東京高裁平成29年9月22日決定

介護型の寄与分の算定方法について、比較的最近の裁判例として、東京高裁平成29年9月22日決定があります。参考になる裁判例ですので、簡単に紹介します。

裁判例

【事案】
・被相続人の子が同居し、被相続人を療養看護
・被相続人の要介護度は当初4。後に5。
・介護期間は約4年8か月。
・同居の子が遺産分割において寄与分を主張

【結論】
「介護報酬基準に基づく報酬相当額×療養看護の日数×裁量割合による修正(0.7)」という算定方法を採用(ただし、痰の吸引については、より高額な介護費で修正)

なお、同居の子(寄与主張者)は、実際の介護の内容や所要時間などを具体的に検討すべきと主張しました。
しかし、裁判所は、実際の稼働時間ではなく、介護報酬基準の日当で類型的に寄与分を算定し、同居の子の主張は受け入れられませんでした。

【ポイント】
同居の子の主張と裁判所の判断との違いは、介護の内容と時間を具体的に考えるか、ある程度類型的に考えるかという、算定方法の考え方そのものです。

状況に応じて介護の内容や所要時間は変わるため、実際の稼働時間をベースに具体的に検討すべきとする同居の子の主張が正しいと考える人も多いと思います。

しかし、毎日の介護の内容や時間を正確に証明することは困難ですし、介護報酬も行政の基準に基づいて決まっていますので、介護報酬基準という類型的な基準で算定する方法にも一定の合理性があります。

また、寄与分は被相続人に報酬を請求できる権利ではありませんので、アルバイトと同じように単純な時給計算で算定できるわけではありません。

介護型の寄与分の算定方法は誤解しがちですので、寄与分を主張する側も反論する側も注意が必要です。

相続の正しい理解が大事

寄与分の要件や計算方法をきちんと知っていれば、親の介護をしていた兄弟に対しても理屈で反論でき、介護をしていなかった後ろめたさで必要以上に相続分を減らすことを避けられます。

寄与分の理屈はとても難しいですが、ポイントだけであれば、素人でもある程度までは対応できます。

とはいえ、もし遺産分割の話し合いの進め方で悩むことがあれば、遠慮なくご相談ください。一緒に解決策を考えましょう。

あなたが形だけの円満相続で後悔せず、「法の下の相続」を実現することを祈っています。

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