遺留分請求は「準備」で決まる!過去の贈与や遺産漏れをチェックし、請求額を最大化する4つの手順
「遺言書を見たら、兄にすべての財産を譲ると書いてあった」
「私の取り分がゼロなんて納得できない」
そう感じて、すぐに「遺留分を払え!」と相手に詰め寄ろうとしていませんか?
少し待ってください。その行動は、あなたにとって大きな損になる可能性があります。
なぜなら、提示された遺産額が「本当の数字」とは限らないからです。もし、生前贈与や使い込みによって財産が隠されていた場合、本来もらえるはずの遺留分が大幅に減ってしまいます。
遺留分請求で最も重要なのは、請求書を送る前の「調査(証拠集め)」です。
この記事では、あなた自身の手で正確な遺産総額を突き止め、正当な権利を最大限に行使するための「財産調査と請求準備」の具体的な手順を解説します。
Step1:遺言書と「遺産目録」の確認
まず最初に行うべきは、相手方(多くの場合、財産を多くもらう相続人や遺言執行者)が提示している情報の精査です。
遺言執行者には「遺産目録」を見せる義務がある!
もし、遺言書の中で相手方(兄など)が「遺言執行者」に指名されている場合、相手は法的な義務を負っています。
民法第1011条には、遺言執行者の義務として以下のように定められています。
民法第1011条(相続財産の目録の作成)
遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
つまり、遺言執行者は「どんな財産が、どれだけあるか」をリスト化し、あなたに渡さなければならないのです。これは好意で行うものではなく、法律上の「義務」です。
見せてくれない時の対処法(法的根拠の提示)
もし相手が「忙しいから」「お前には関係ない」などと言って財産目録を見せない場合は、毅然とした態度で請求してください。
口頭で言っても動かない場合は、以下の文面を参考に書面(手紙やメール)で送ると効果的です。
「民法1011条に基づき、相続財産目録の作成および交付を請求します。遺言執行者としての法的義務ですので、〇月〇日までに速やかに開示してください。」
この遺産目録は、遺留分算定の「スタート地点」となる重要な資料です。まずはこれを入手し、記載されている不動産や預貯金に漏れがないかを確認します。
Step2:隠れた贈与を探せ!「預貯金口座」の調査
相手が作成した財産目録は、あくまで「死亡した時点」の残高に過ぎません。
遺留分請求で重要なのは、「過去にさかのぼって、生前贈与(特別受益)がなかったか」を調べることです。ここが隠し財産の宝庫です。
通帳がないなら銀行から「取引履歴」を取り寄せる
「実家の通帳はすべて兄が握っていて見られない」
そんな場合でも諦める必要はありません。相続人であるあなたは、単独で銀行に対して「取引履歴(取引推移表)」の開示請求を行うことも可能です(ただし、金融機関の取扱いや請求のタイミングによっては、拒否される場合もあります)。
他の相続人のハンコは不要です。以下の書類を持って、被相続人(亡くなった方)が口座を持っていた銀行の窓口に行きましょう。
- 被相続人の除籍謄本(死亡の事実がわかるもの)
- あなたの戸籍謄本(相続人であることがわかるもの)
- あなたの実印・印鑑証明書
- 身分証明書
ここで重要なのは、「過去10年分」の履歴を取り寄せることです。遺留分の計算において、相続人への贈与は原則として相続開始前の10年間が対象となるからです(民法1044条3項)。
どこを見る?「多額の出金」が特別受益のヒント
取り寄せた取引履歴(または通帳)を確認する際は、以下のポイントに注目してください。
- 数十万円〜数百万円単位のまとまった出金:贈与の可能性があります。
- 使途不明な定額引き落とし:保険料や特定の親族への援助かもしれません。
- 相手方の口座への振込:これこそが「特別受益」の動かぬ証拠です。
もし「300万円」の謎の出金が見つかり、それが兄の家の購入資金や借金返済に充てられていたと証明できれば、その300万円も「遺産」に持ち戻して計算できます。結果として、あなたの遺留分請求額が増えることになります。
Step3:意外な落とし穴。「相続人の確定」
財産調査と並行して必ず行うべきなのが、戸籍による「相続人の確定」です。「家族構成なんて分かっている」と思い込むのは危険です。
「前妻の子」や「養子」はいませんか?戸籍調査の必要性
遺留分の割合は、「法定相続分」を基礎に計算されます。もし、あなたが知らない「前妻との子」や「認知した子」、あるいは「養子」がいた場合、計算の前提となる分母が変わってしまいます。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
これらを役所で取得し、相続人が誰であるかを法的に確定させてください。この作業は、遺留分侵害額請求を行う際の「請求額の計算ミス」を防ぐために不可欠です。
Step4:準備ができたら「請求」へ
ここまで調査を行えば、手元には「正確な遺産目録(不動産評価・預金残高)」と「過去の贈与の証拠(取引履歴)」が揃っているはずです。これらを元に、いよいよ請求を行います。
正確な数字が出れば、相手もぐうの音も出ない
単に「遺留分をくれ」と言うのと、「調査の結果、遺産総額は〇〇円、過去の贈与が〇〇円あるため、私の遺留分侵害額は〇〇円になります」と言うのとでは、説得力が段違いです。
相手方が財産を隠そうとしていても、銀行の取引履歴などの客観的な証拠を突きつけられれば、言い逃れは難しくなります。
調査結果を元に「内容証明郵便」を作成しよう
遺留分侵害額請求には、「相続開始および侵害を知った時から1年」という時効があります(民法1048条)。
調査に時間をかけすぎて時効になってしまっては元も子もありません。期限が迫っている場合は、まず「遺留分を請求する」という意思表示だけでも内容証明郵便で送っておく必要があります。
その上で、調査に基づいた具体的な計算書を提示し、支払いを求めましょう。これが、あなたの取り分を最大化する最も確実なアプローチです。
まとめ:証拠集めは探偵ごっこではなく、あなたの正当な権利です
「家族の口座を調べるなんて、まるで探偵のようで気が引ける」と思うかもしれません。しかし、これは「探偵ごっこ」ではなく、法律で認められた「相続人の正当な権利行使」です。
- 遺言執行者に財産目録を出させる
- 銀行から取引履歴を取り寄せる
- 過去の贈与を洗い出す
- 正確な数字で内容証明を送る
この4ステップを踏むことで、不透明だった遺産の実態が明らかになります。
感情的な争いにするのではなく、「数字と証拠」に基づいた冷静な交渉こそが、あなたを守る最大の武器になります。まずは銀行の窓口へ行くことから始めてみましょう。

