簡単に分かる遺留分請求の手順と手続
まず、遺言書で遺産の内容と遺産の分け方を確認します。一人の相続人だけが不動産を取得するという内容であれば、遺留分を請求できる可能性が高まります。
遺産の内容で分からないものがある場合、他の親族や遺言執行者(遺言を実現する人)から財産目録を取得し、内容を確認します。
なお、遺言執行者は、遺言書で何ももらえない相続人に対しても、財産目録を交付しなければなりません(民法1011条)。遺言執行者が親族だとよくあることですが、財産目録を交付しない場合には、法律上の権利として請求することができます。
遺留分を計算する前提として、法定相続分を確定する必要があります。
通常はあまり問題になりませんが、たとえば前妻の子も相続人ですので、法定相続分を確定するため、戸籍で親族の調査をします。
漏れている遺産や隠れている生前贈与を発見し、「正しい遺留分」を算定するためには、預貯金口座の調査が不可欠です。 過去の通帳は廃棄・紛失している場合がありますので、金融機関から取引明細書を取り寄せるのがセオリーです。
ただし、それなりの手数料を銀行に支払う必要がありますので、生活状況、財産管理状況、認知症の程度、処分した財産の有無などをトータルで分析し、何年遡るかを考えます。
特に問題となるのは、不動産です。相続税申告における評価額は納税のための評価方法ですので、遺留分における評価額とは異なります。
特にマンションは、相続税評価額と時価の差を利用した節税対策で購入されるくらいですので、相続税評価額を鵜呑みにすると遺留分が少なくなります。 まずは不動産業者から簡易査定書を取得し、必要に応じて不動産鑑定を依頼するのがセオリーです。
計算式自体は法律で決まっていますが、最大のポイントは遺産の評価額(特に不動産)と生前贈与の金額を正しく把握することです。遺留分算定の基礎となる数値自体が間違っていれば、何度計算しても「正しい遺留分」は出てきません。
請求額が算定できたら、多くもらった相続人に侵害額相当のお金を支払うよう請求します。
決まった形式があるわけではありませんが、通常、計算根拠を明らかにするため、書面で請求します。
また、時効にかかりそうなときには、内容証明郵便を送り、いつ遺留分の請求をしたかを明らかにしておきます。
話し合いでまとまった場合には、合意書を作成し、決まった金額を支払ってもらいます。分割支払いも可能ですが、支払いが滞ったときのため、担保を取ったり、公正証書を作成したりすることを検討します。
不動産の評価額や生前贈与の有無などで話がまとまらない場合には、遺留分調停を申し立てます。
なお、調停も話し合いではありますが、調停委員という第三者を交えての話し合いですので、当事者間では無理でも調停ではまとまる可能性があります。
調停でも話がまとまらない場合には、遺留分訴訟を提起します。
和解でまとまる場合が多いですが、仮に和解でまとまらなくても、最終的に裁判所が判断してくれますので、決着は着きます。
決まった金額を支払わない場合には、債権回収と同じ発想で、相手名義の財産を差し押さえ、強制的に回収します。
相手が不動産を相続していれば、その相続不動産を差し押さえ、それで足りない場合や相続不動産がない場合には、相手名義の預貯金や株式を差し押さえます。
以前は、他人名義の預貯金や株式の詳細を知ることは難しかったのですが、2020年4月1日に施行された改正民事執行法で「第三者からの情報取得手続」が新設されました。金融機関や証券会社から提供される預貯金や株式の情報により強制執行が容易になりましたので、遺留分でも裁判をするメリットが大きくなったといえます。