「法定相続分」はもらえない!遺言書がある時に請求できる「遺留分」との決定的な違い
「長男に全財産を譲る」
親が亡くなり、そんな不公平な遺言書が出てきたとき、多くの人がこう思います。
「法律では兄弟平等のはずだ。だから自分にも法定相続分(遺産の2分の1)をもらう権利がある!」
残念ですが、その考えは大間違いです。
もしあなたが「法定相続分」を主張して兄や姉と交渉しようとしているなら、今すぐ止めてください。なぜなら、遺言書がある時点で、あなたにはもう「法定相続分」を請求する権利はないからです。
この記事では、多くの相続人が陥る「計算の罠」と、あなたが実際に請求できる「遺留分」の正しい計算方法を、具体的な数字を使って解説します。
そもそも何が違う?「法定相続分」と「遺留分」
まずは、言葉の定義を明確にしましょう。この2つは似て非なるものです。
法定相続分=「遺言書がない」時の目安
「法定相続分」とは、民法(900条)で定められた「遺産を分ける目安の割合」のことです。
しかし、これはあくまで「遺言書がなかった場合」に、遺産分割協議を行うための基準にすぎません。
被相続人(亡くなった人)には「自分の財産を自由にあげる権利(財産処分の自由)」があります。そのため、有効な遺言書が存在する場合、法定相続分よりも遺言書の内容が優先されます。
遺留分=「遺言書がある」時の最低保証
一方で、「遺留分」とは、遺言書の内容にかかわらず、一定の相続人に法律上保障された「最低限の取り分」のことです(民法1042条)。
「全財産を長男に」という極端な遺言書があったとしても、残された家族(配偶者や子)の生活保障や公平性の観点から、「最低これだけは渡しなさい」と法律で守られている権利、それが遺留分です。
つまり、今のあなたの状況は以下の通りです。
- あなたが主張しようとしている権利=法定相続分→遺言書があるので使えません。
- あなたが実際に持っている権利=遺留分→これを侵害額として請求します。
実際いくら減る?「1/2」になってしまう残酷なルール
では、遺留分は法定相続分と比べてどれくらい減るのでしょうか?
結論から言うと、基本的に「法定相続分の半分」になります。
【図解イメージ】法定相続分が50%なら、遺留分は25%
具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。
【モデルケース】
- 遺産総額: 1億円
- 相続人: 長男、次男(あなた)の2人のみ(母は既に他界)
- 遺言書: 「長男に全財産を相続させる」
この場合、それぞれの取り分は以下のようになります。
| 項目 | 本来の割合(法定相続分) | あなたが請求できる割合(遺留分) |
| 計算式 | 1/2 | 1/2(法定相続分) × 1/2(遺留分率) |
| 割合 | 50% | 25% |
| 金額 | 5000万円 | 2500万円 |
いかがでしょうか。
あなたが「法律上の権利だから5000万円もらえるはずだ」と思って交渉に臨んでも、法律があなたに保証しているのは2500万円(法定相続分の半分)だけなのです。
親のみ、兄弟のみの場合の例外ルール
「半分になる」というのは、相続人が「配偶者や子」の場合の基本ルールですが、例外もあります。
- 相続人が「直系尊属(親など)」のみの場合
- 親だけの遺留分全体の割合は「遺産の1/3」となります。
- 相続人が「兄弟姉妹」のみの場合
- ここが重要です。兄弟姉妹には「遺留分」がありません。
- もし、親も子もいない被相続人が「愛人に全財産を譲る」という遺言を残した場合、兄弟姉妹は1円も請求できません(民法1042条1項本文)。
交渉で「法定相続分」を主張してはいけない理由
「とりあえず高めの金額(法定相続分)をふっかけて、間を取ればいいだろう」と考える方もいますが、これはお勧めできません。
相手に「法律を知らない」と舐められるリスク
遺言書がある事案で「法定相続分を払え」と内容証明などを送ってしまうと、相手方(および相手についた弁護士)はこう思います。
「この人は法律の基本を分かっていない。あるいは、遺言書を無視しようとしている」
こうなると、相手は「法的に支払う義務があるのは遺留分(侵害額)だけだ」と態度を硬化させます。結果として、本来スムーズに回収できたはずの遺留分交渉すら難航する原因になります。
遺言書がある以上、話し合いのスタートラインは「遺留分」
遺言書で「長男に相続させる」と書かれている以上、その財産は被相続人の死亡と同時に、法的には長男のものになります。
あなたが持っているのは、遺産そのものを分ける権利(遺産分割)ではなく、「私の最低保証分(遺留分)を侵害されたので、その分を金銭で払ってください」という請求権(遺留分侵害額請求権)だけです。
この権利は、平成30年の法改正により、「金銭債権」となりました。つまり、「不動産の半分をよこせ」とは言えず、「計算上の不足分をお金で払え」としか言えないのです。
まとめ:自分の「本当の権利」を正しく計算してから請求しよう
遺言書がある場合、あなたが請求できるのは「法定相続分」ではありません。
以下の計算式で、ご自身の「本当の権利(遺留分)」を計算してみてください。
- 遺産総額を把握する(不動産や生前贈与も含みます)
- 自分の法定相続分を出す(例:兄弟2人なら1/2)
- それをさらに「半分」にする(これが遺留分割合です ※兄弟姉妹は0)
- その割合を遺産総額に掛ける
これが、あなたが法的に堂々と請求できる金額の上限です。
「法定相続分」という言葉に惑わされず、正しい数字をもとに冷静な交渉を行うことが、結果として最も多くの資産を確実に手にする近道となります。

