家業手伝いの寄与分、いくら請求できる?「貢献」を「現金」に変える計算シミュレーション
「長男だから」という理由だけで実家の家業を継ぎ、薄給あるいは無給で何十年も働き続けてきたあなた。
親が亡くなり、いざ遺産分割の話になると、家を出て自由に暮らしていた兄弟から「遺産はきっちり法定相続分どおり(等分)に分けよう」と言われ、愕然としていませんか?
「親の財産がここまで残ったのは、俺が身を粉にして働いたからだ!」
その怒りはもっともです。そして、その苦労は法律上「寄与分」として認められ、遺産の上乗せ(現金化)ができる可能性があります。
しかし、単に「頑張った」と主張するだけでは認められません。裁判所の実務でも使われる「計算式」を使って、あなたの貢献を「金額」に換算して交渉する必要があります。
この記事では、家業を手伝った場合の寄与分(家業従事型)の計算シミュレーションを解説します。
そもそも認められる?「家業従事型」寄与分の必須条件
計算に入る前に、あなたのケースが法的に「寄与分」として認められる条件を満たしているか確認しましょう。単なる「親孝行」や「手伝い」レベルでは、残念ながら遺産は増えません。
実務上、以下の条件(特に「無償性」)が非常に重要視されます。
①【最重要】無償性:給料を「普通に」貰っていたらNG
これが最大のハードルです。寄与分とは、いわば「未払い賃金の後払い」のような性質を持ちます。
もしあなたが、世間一般の同業種と同程度の給料を受け取っていた場合、法律上は「労働の対価はすでに受け取っている」とみなされ、寄与分は認められません。
寄与分が認められるのは、以下のどちらかのケースです。
- 無報酬で働いていた場合
- 世間一般の給与水準に比べて、著しく低い給料(例:小遣い程度)で働いていた場合
給料が少額であっても、それが「労務の対価として到底十分でない」場合には、報われていない残りの部分について寄与分と認められる余地があります。
②継続性と専従性:片手間ではなく「長期間・メイン」で
親子には互いに助け合う義務があるため、一時的な手伝いや週末だけの稼働では「特別の寄与」とは認められません。
- 継続性:目安として3年以上など、相当の長期間続いていること
- 専従性:片手間ではなく、かなりの負担を要するレベルで従事していること
いくら増える?「貢献」を現金化する計算シミュレーション
では、具体的にいくら請求できるのでしょうか?
裁判所の調停や審判などの実務で使われる計算式を紹介します。感情ではなく「数字」で示すことが、兄弟を説得する最強の武器になります。
ステップ1:計算式の基本
家業従事型の寄与分は、以下の式で算出するのが一般的です。
寄与分額 = 寄与者が本来得られたはずの年間給与額 × (1 - 生活費控除割合) × 寄与した年数
ステップ2:各項目の数字を当てはめる
「本来得られたはずの給与額」はどう決める?
あなたが実際に貰っていた給料がゼロ、あるいは極端に低い場合、基準となるのは「賃金センサス」です。これは厚生労働省が発表している統計データで、あなたの年齢・学歴・産業・企業規模に応じた「世間の平均賃金」を参照します。
「生活費控除割合」とは?
家業を手伝っていた方の多くは、親と同居し、家賃や食費を親の財布から出してもらっていたケースが一般的です。
この場合、「給料は安かったが、生活費も浮いていた」とみなされ、その分を計算から差し引く必要があります。
実務では、事情によりますが「40%〜50%」程度が控除される(差し引かれる)ことが多いです。
ステップ3:シミュレーション実行
以下の条件で、具体的に計算してみましょう。
- 状況:長男が親の農業(または個人商店)を10年間手伝った。
- 給与:実質無給(小遣い程度)。
- 本来の市場価値(賃金センサス):年収400万円相当。
- 生活状況:実家で親と同居し、生活費は親持ち(控除割合40%とする)。
【計算式】
400万円 ×(1-0.4)× 10年=2400万円
この場合、2400万円があなたの「寄与分」として認められる可能性があります。
遺産分割においては、まず遺産総額からこの2400万円をあなたが先に受け取り、残った財産を兄弟全員で分けることになります。
ここが落とし穴。「法人化(会社)」している家業は要注意
計算上は高額な寄与分が出ても、家業の形態によっては請求自体が難しいケースがあります。それが、家業が「株式会社」や「有限会社」として法人化されている場合です。
原則:「会社への貢献」は「親への寄与」にならない
寄与分とは「被相続人(親)の個人の財産」を維持・増加させたことに対する評価です。
会社は法律上、親とは「別人格」です。あなたがどれだけ会社のために身を粉にして働き、会社の資産を増やしたとしても、それは「会社の財産」が増えただけであり、「親個人の財産」が増えたわけではないと判断されるのが原則です。
例外:「実質個人経営」なら認められる余地あり
ただし、諦めるのはまだ早いです。形式的には会社組織であっても、以下のような事情があれば、例外的に寄与分が認められる可能性があります。
- 会社と親の財布が実質的に一つだった(会社が実質的に個人経営に近い)。
- 親の個人資産のほとんどが会社の担保に入っており、会社への貢献が親の資産確保に直結していた。
- 会社への労務提供に対して、対価が支払われていなかった。
このように「会社への貢献 = 親の資産確保への貢献」という明確な関連性がある場合に限り、認められる余地があります。
4. 兄弟を説得するために。今すぐ集めるべき証拠資料
寄与分は「主張した者」が証拠を出さなければなりません。「俺は頑張った」と口頭で言うだけでは、調停や審判では認められません。計算の根拠となる以下の資料を探し出してください。
- 同業種の給与明細や賃金センサス:あなたの労働の「本来の市場価値」を証明するため。
- 過去の確定申告書・源泉徴収票:あなたが実際に貰っていた給料が「著しく低かった(あるいは無給だった)」ことを証明するため。
- 家業の収支報告書・決算書:親の事業の収益性を示すため(事業が赤字続きだった場合などは、貢献による「維持」の証明が必要になります)。
- 業務日誌・手帳:どのような業務を、どの程度の頻度で行っていたか(専従性)を証明するため。
まとめ:泣き寝入りせず、まずは「計算」して提示しよう
家業に従事してきたあなたの貢献は、単なる家族の助け合いを超え、親の財産を「作ってきた」あるいは「減らさずに守ってきた」という自負があるはずです。
その思いを「寄与分」として現金化するには、感情論ではなく「未払い給料の精算」という発想で、具体的な金額を提示することが最も効果的です。
まずは上記のシミュレーションを使って、「私の寄与分は〇〇万円になるはずだ」という数字を出してみましょう。それが、対等な遺産分割協議への第一歩になります。

