共有持分は、他の共有者の同意がなくても、自分の分だけ売ろうと思えば売れます。ただ、買取りでも仲介でも、買い手は「持分」を買う人なので、共有であることによる値引き(共有減価)を前提に価格が決まります。全体の時価×持分割合に近い金額で現金化するためには、全員で共同売却するか、他の共有者に時価で買い取ってもらうしかありません。反対する共有者と交渉し、応じなければ訴訟で決着させられるのは弁護士だけです。
ご相談に来られたのは、父の自宅を弟と2分の1ずつの共有で相続した50代の方でした。弟は売却に応じず、話し合いも進みません。検索すると、「共有持分は同意なしで売れる」「すぐに現金化できる」といった買取業者の案内が並んでいます。査定を申し込んでみると、示された金額は、自宅全体の査定額の半分の、さらに6割ほどでした。このまま売ってよいのか迷い、相談に来られました。
※事例は、複数のご相談をもとに内容を再構成しています。
持分だけなら同意なしで売れる。それでも手取りが下がる理由
共有不動産の全体を売るには共有者全員の同意が要りますが、自分の持分だけなら、他の共有者の同意がなくても売れます。持分の処分は、各共有者の自由だからです。他の共有者に事前に知らせる義務もありません。
ただ、持分だけを買った人は、その不動産を自由に使うことも、単独で売ることもできません。使うにも売るにも、残った共有者と話をまとめるか、共有物分割請求訴訟を起こして共有を解消する必要があります。買い手は、そのための時間と費用、思いどおりにならない可能性を見込んで値段を付けます。これが共有減価と呼ばれる値引きで、持分の価格が「全体の時価×持分割合」を大きく下回る理由です。
買取業者に直接売るのではなく、仲介で買い手を探し、入札で競わせる方法もあります。買い手どうしが競えば、買取りより高くなることはあるでしょう。それでも、入札に参加するのは持分を買う業者や投資家で、競っているのは共有減価を前提とした持分の値段です。
全体の時価×持分割合に近い金額を受け取れるのは、全体をまとめて第三者に売って代金を分けるか、他の共有者に時価で買い取ってもらうときです。共有者どうしの売買であれば、買い取った側は単独の所有者になるので、共有減価を差し引く理由がありません。
買取り・仲介・弁護士による交渉で、手取りはどれくらい違うか
時価3,000万円の自宅を2分の1ずつ共有している場合で比べます。持分相当額は1,500万円です(手数料や税金を差し引く前の金額)。
| 現金化の方法 | 受け取る金額の目安 | 期間の目安 | 主な費用 |
|---|---|---|---|
| 持分を買取業者に売る | 450万〜1,050万円(持分相当額の3〜7割と仮定) | 数週間程度 | 手数料を取らない業者が多いが、その分は値引きに織り込まれている |
| 持分を仲介(入札など)で売る | 買取りより高くなることはあるが、共有減価を前提とした価格 | 買取りより長くかかる | 仲介手数料 |
| 弁護士が交渉し、全体の売却か共有者の買取りでまとめる | 約1,500万円 | 半年〜1年以上(和解なら早まる) | 弁護士費用、全体を売る場合の仲介手数料 |
業者の買取価格は、物件の種類や共有者の数、持分の大きさによって変わり、持分相当額の3割程度から7割程度まで幅があります。高い方の7割で売れたとしても、この例では450万円の差が残ります。
判断の分かれ目は、この差額が弁護士費用を上回るかどうかです。弁護士費用は事務所や事案によって違うので、相談の際に、費用を差し引いた後の手取りの見込みを具体的に確かめてください。持分が小さい場合や、不動産の価値が低い場合は、差額が費用に届かないこともあります。そのときは、業者への売却が合理的な選択になりえます。
共有持分の手取り試算
査定額と持分を入れると、持分だけを業者に売った場合との差が分かります。
不動産会社の査定額など、全体を売った場合の金額の目安を入れてください。
※ 手数料や税金を差し引く前の金額です。業者の価格の目安(持分相当額の3〜7割)は一般的な幅で、物件や共有の状況によって上下します。査定額は時価の目安にすぎず、この試算は実際の売却額や解決の内容を保証するものではありません。入力した内容は送信も保存もされません。
共有者に売却を断られたら、誰が代わりに交渉するのか
持分だけを売る前に、まずは共有者全員での売却や、他の共有者による買取りを打診するのが通常の順序です。全体で売る方が高くなるので、相手が応じてくれれば、それに越したことはありません。問題は、相手が拒んだり、話し合いに応じなかったりした後です。
弁護士でない者が、報酬を得る目的で、争いになっている法律問題について代理や和解の交渉を取り扱うことは、法律で禁じられています(弁護士法72条)。買取業者ができるのは、持分を買い取ることや売買の仲介までで、反対している共有者と、あなたの代わりに条件を詰めることはできません。
反対している共有者と本人に代わって交渉し、応じなければ共有物分割請求訴訟を起こして、裁判所で決着させる。ここまでを一貫して担えるのは弁護士だけです。共有物の分割は、相手が協議に応じない場合でも裁判所に請求でき(民法258条1項)、相手に拒否権はありません(民法256条1項)。
持分を買い取る側と売る側は、価格について利害が反します。売る側の手取りを最大化する立場で動けるのは、売る側から依頼を受けた代理人の弁護士です。業者に所属・提携する弁護士がいる場合も、その弁護士が誰の代理人として、何をしてくれるのかを確かめておくとよいでしょう。
弁護士に依頼した場合にまとめて解決できること
持分を業者に売れば、共有関係からは抜けられます。ただ、それまでの共有関係から生じた問題は、売っただけでは片付きません。弁護士に頼む場合は、次のような問題も、共有の解消と一緒に扱えます。
- 独り占めされてきた賃料の精算や、相手が単独で使ってきた分の使用の対価(民法249条2項)。持分を売っても過去の分を請求する権利は自分に残るので、業者に売る場合は、別に手続をとる必要があります
- 遺産分割が終わっていない場合の分け方。不動産だけを切り離して売るより、預貯金など他の遺産と合わせて分け方を決めた方が有利になることがあります
- 連絡の取れない共有者がいる場合の、持分取得や譲渡の裁判
共有物分割の訴訟は避けるべきものなのか
共有物分割の訴訟と聞くと、「最後は競売にかけられて、不動産を失うのでは」「何年もかかるのでは」と心配される方が少なくありません。訴えられる側で、その家に住み続けたいのに買い取る資力がない人にとっては、たしかにそのとおりの面があります。
しかし、売りたい側にとって、訴訟は相手を話し合いの場に着かせる手段です。裁判所は、現物分割や、一方が全体を取得して代償金を支払う賠償分割を先に検討し、それができないときにはじめて競売を命じます(民法258条2項・3項)。競売は双方の手取りを減らしやすいので、判決まで進まず、相手による買取りや全体の任意売却で和解するケースが多いのが実際です。期間は事案によりますが、半年から1年以上が一つの目安で、和解がまとまれば早く終わります。
訴訟を選択肢から外したまま交渉すると、相手は「このままでよい」と受け取ります。訴訟まで進める用意があると伝えるだけで、相手の態度が変わることも少なくありません。
それでも業者に売った方がよい場合
もっとも、弁護士に頼むことが、常に最善とは限りません。次のような場合は、業者への売却が合理的な選択になりえます。
- 持分が小さい、または不動産の価値が低く、手取りの差が弁護士費用に届かない場合
- 一日も早く共有関係から抜けることを、金額より優先したい場合
- 相手の共有者と一切関わりたくなく、交渉や訴訟の負担に耐えられない場合
その場合も、売る前に二つのことを確かめてください。一つは、不動産全体の時価です。全体の査定を先に取っておけば、業者の提示額が持分相当額の何割にあたるのかが分かります。もう一つは、他の共有者に同じ金額で買い取る意思がないかどうかです。業者の見積りより少し高い金額で打診すると、外部の業者に売られるくらいなら、と身内で決着することがあります。断られたなら、迷わず業者への売却に進めます。
持分を業者に売った後は、残った共有者が業者と向き合うことになるので、家族との関係をどう考えるかも判断の材料の一つになります。

