共有名義の実家を丸ごと売るには、共有者全員の同意が要ります。ただ、兄弟が反対していても、持分を現金に換える方法は2つあります。裁判所に共有関係の解消を求める共有物分割請求と、自分の持分だけを買取業者に売る方法です。前者は時間がかかる代わりに時価に近い金額を見込め、後者は早い代わりに手取りが大きく下がります。実家の時価を把握した上で、金額・時間・兄弟との関係のどれを優先するかで選んでください。
ご相談に来られたのは、都内の実家を兄と2分の1ずつの共有名義で相続した50代の方でした。どちらかが実家を取得して代償金を支払う案も出ましたが、資金のめどが立たず、相続税の申告期限も迫るなか、やむを得ず共有で遺産分割協議をまとめたといいます。数年後、誰も住まなくなった実家の売却を持ちかけると、兄は「親の家を売る気か」と取り合いません。話はそこで止まったまま、固定資産税の負担だけが毎年続いています。
※事例は、複数のご相談をもとに内容を再構成しています。
兄弟が反対すると共有名義の実家は売れないのか
代償金の資金を用意できず、相続税の申告期限に追われて、「ひとまず共有」で遺産分割協議をまとめることは珍しくありません。ただ、共有分割は、解決というより先送りに近く、数年後にこのご相談のような形で問題が表に出てきます。
不動産会社に相談すると、「共有者全員が同意しないと契約できません」と言われます。これはそのとおりで、共有不動産の全体を売るには、共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。自分の持分がどれだけ大きくても、一人が反対すれば全体の売却は成立しません。
もっとも、法律は、共有を「ずっと続けるべき状態」とは考えていません。各共有者は、いつでも共有物の分割を請求できます(民法256条1項)。最高裁も、共有物分割請求権を共有の本質に関わる権利と位置づけています(最大判昭和62年4月22日)。相手が反対し続ければ現状のまま終わる、という仕組みにはなっていないのです。
共有状態を終わらせる方法は2つあります。ひとつは、共有物分割を請求し、最終的には裁判所の手続で共有関係そのものを解消する方法です。もうひとつは、共有関係はそのままにして、自分の持分だけを第三者に売って離脱する方法です。持分の処分は各共有者が単独でできるので、他の共有者の同意は要りません。
なお、相手が反対しているのではなく、行方不明で連絡が取れない場合は、別の裁判手続を使います。
動く前に、実家について確かめておく3つのこと
1. 遺産分割が終わっているか
共有物分割請求が使えるのは、兄弟それぞれの持分が確定している場合です。ご相談の例のように遺産分割協議で共有にした場合や、遺言で実家を兄弟に2分の1ずつ相続させるとされていた場合がこれにあたります。
実家がまだ亡くなった親の名義のままで、遺産分割が済んでいない場合は、共有物分割ではなく、遺産分割の協議・調停・審判で分けるのが原則です(民法258条の2第1項)。相続開始から10年を経過した後に共有物分割で解消できる例外もありますが、親の遺産の持分と、それ以外の通常の共有持分が混ざっている場合に限られます(同条2項)。登記事項証明書の名義と、遺産分割協議書の有無を先に確かめてください。
2. 実家の時価
交渉をするにしても、裁判をするにしても、持分を売るにしても、判断の基準になるのは「この実家が実際にいくらで売れるか」です。納税通知書に載っている固定資産税評価額は、実際の取引価格より低いのが通常で、これを基準にすると判断を誤ります。複数の不動産会社から査定を取り、近隣の取引事例も確かめて、時価の水準をつかんでおいてください。
3. 兄弟が反対する理由と、自分の着地点
同じ「反対」でも、中身はさまざまです。相手がその家に住んでいる。思い出のある実家を手放したくない。売ること自体はよいが、提示された価格に不満がある。あるいは、あなたと関わりたくないだけ。どれなのかで、現実的な着地点が変わります。相手が住み続けたいなら、あなたの持分を相手に買い取ってもらう形が本命になりますし、感情のもつれが原因なら、間に第三者が入るだけで話が動き出すこともあります。
あわせて、自分の着地点も考えておいてください。いくらなら手放すのか、いつまでに現金化したいのか、兄弟との関係をこれ以上悪くしたくないのか。共有物分割にするか持分の売却にするかは、この優先順位で選ぶことになります。
共有物分割と持分売却で、手元に残る金額はどれくらい違うか
方法を選ぶ前に、手元に残る金額の違いを数字で確かめておきます。都内の実家の時価が6,000万円、持分が2分の1の場合の目安です(仲介手数料や税金を差し引く前の金額)。
| 現金化の方法 | 受け取る金額の目安 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 全体を売却して代金を分ける(共同売却) | 約3,000万円 | 共有者全員の合意(訴訟上の和解を含む) |
| 兄弟に持分を時価で買い取ってもらう | 約3,000万円 | 相手に支払能力があること |
| 競売で売って代金を分ける | 3,000万円を下回ることが多い | 判決で競売が命じられた場合 |
| 持分だけを買取業者に売る | 900万〜2,100万円 | 業者の提示額を時価の持分相当額の3〜7割と仮定 |
共有者どうしで売買するときは、「時価×持分割合」が基準になります。全体を売れば市場の価格をそのまま分けられますし、兄弟が持分を買い取る場合も、買い取った側は単独の所有者になるので、共有であることによる値引き(共有減価)を差し引く理由がありません。
これに対し、持分だけを第三者に売る場合は、買い手がその後の交渉や裁判の負担を引き受けるため、大きく割り引かれます。この例では、同じ持分でも900万円から2,100万円の差が出ることになります。
共有物分割請求の進め方
時価の根拠を付けて、書面で提案する
いきなり裁判するわけではありません。査定書などの根拠を添えて、「全体を売却して時価で分けるか、私の持分を○○円で買い取ってほしい」と書面で提案するところから始めます。口頭のやり取りは「売る・売らない」の水掛け論になりがちですが、金額と回答期限の入った書面であれば、相手も具体的に検討せざるを得ません。返答がなければ、弁護士名の内容証明郵便に切り替えます。この段階で、ようやく相手が動き出すことも少なくありません。
協議がまとまらなければ、訴訟を起こす
協議が調わないときや、相手が協議に応じないときは、共有物分割請求訴訟を起こせます(民法258条1項)。訴訟といっても、関係を断つ宣言ではなく、期限のなかった話し合いに、裁判所という場と期限を設ける手続と考えた方が実態に近いでしょう。いきなりの訴訟に抵抗があれば調停を挟むこともできますが、調停を経ずに、最初から訴えを起こすこともできます。共有者が3人以上いる場合は全員を当事者にする必要があるので、他に共有者がいないかも、早めに確かめておいてください。
裁判所の分け方を知っておく――競売は最後の手段
判決まで進んだ場合、裁判所の分け方は3つあります。物理的に分ける現物分割、一人が全体を取得して他の共有者に代償金を支払う賠償分割、競売にかけて代金を分ける換価分割です。現物分割や賠償分割ができないとき、または分けると価格が著しく下がるおそれがあるときに、はじめて競売が命じられる仕組みです(民法258条2項・3項)。
「裁判になったら競売で安く処分されて終わり」というのは誤解です。最高裁は、価格が適正に評価され、取得する側に支払能力があるなどの事情があれば、共有者の一人に全体を取得させて他方に代償金を支払わせる分け方(全面的価格賠償)を認めています(最判平成8年10月31日)。昭和62年の大法廷判決が「共有の解消はいつでも求められる」ことを支え、平成8年の判決が「現物を分けず、競売にもかけず、お金で清算する」道を開きました。この2つの判例があるからこそ、時間はかかっても時価に近い形で決着する見通しを立てて交渉できるわけです。賠償分割は、令和5年4月施行の改正民法で条文にも明記されました(民法258条2項2号)。
実務では、判決まで進む事案より、訴訟の途中で和解する事案の方が多いくらいです。相手が持分を買い取る、あるいは全体を任意に売却して代金を分ける。競売は普通に売るより安くなりがちで双方が損をするため、裁判所も当事者も、たいていはその手前でまとめようとします。冒頭の例のように相手に買い取る資力が見込めないなら、相手が取得する価格賠償は成り立ちにくいので、全体の任意売却を軸に進めることになります。
状況ごとに目指す着地点は、おおむね次のとおりです。
| 状況 | 現実的な着地点 |
|---|---|
| 相手が住んでいて、買い取る資力もある | 相手が全体を取得し、あなたが代償金を受け取る(価格賠償)。 |
| 誰も住んでいない | 全体を任意売却して代金を分ける(和解)。まとまらなければ競売 |
| 自分が取得して使いたい | あなたが全体を取得し、相手に代償金を支払う(資力が前提) |
| 代償金の金額で折り合わない | 時価の資料や鑑定で金額を決める。 |
| 相手が行方不明で連絡が取れない | 所在等不明共有者の持分取得・譲渡の裁判 |
共有持分だけを買取業者に売ることもできるが、価格は大きく下がる
裁判にかける時間も気力もない、という方のための方法が持分の売却です。自分の持分を買取業者に売れば、他の共有者の同意なく、数週間程度で共有関係から離脱できます。
その代わりに、価格は大きく下がります。時価に持分割合を掛けた額がそのまま手に入ることはなく、そこから割り引かれた水準になり、半値以下になる例も珍しくありません。買い取った業者が、その後の他の共有者との交渉や裁判の負担を引き受けるためです。
もうひとつ、見落とされがちな点があります。あなたが共有関係から離脱した後、業者は他の共有者に買取りや共有物分割を持ちかけます。兄弟の間の問題が「家族対業者」の紛争に形を変えて続く、ということです。それで構わないと割り切れるならよいのですが、その家に高齢の親族が住んでいるような場合は、慎重に考えたい選択です。
あえて持分の売却を選ぶのは、金額より時間と気持ちの区切りを優先すると決めた場合や、相手との関わりを完全に断ちたい場合です。持分の売却まで考えるのであれば、業者の見積りを取ったうえで、その金額より少し高い金額で兄弟に買取りを打診してみる方法もあります。外部の業者に売られるくらいなら、と身内で決着することがありますし、断られたなら、迷わず業者への売却に進めます。
2つの方法を比べると、次のとおりです。
| 共有物分割請求 | 持分売却 | |
|---|---|---|
| 手取り額 | 時価の水準を狙える | 大幅に下がる(半値以下の例も) |
| 期間 | 半年〜1年以上。和解なら早まる | 数週間程度 |
| 兄弟との関係 | 手続の中で決着させる。和解の余地が残る | 業者との紛争に形を変えて続きやすい |
| 向いている人 | 金額を重視する人 | 早さと関係の解消を重視する人 |
共有名義の実家でよくある失敗
時価を確かめずに、持分を売ってしまう
あとで後悔する典型的な例です。最初に接触した業者の見積りだけで即決し、後で実勢価格を知ったとしても、売却は取り消せません。全体の時価査定を先にし、持分売却の見積りはその後で取ります。
協議が進まないため、何となく現状を維持する
現状維持にも負担が伴います。固定資産税と管理の責任を負い続けるうえ、反対している兄弟に相続が起きれば、説得すべき相手が1人から3人、4人へと増えていくからです。持分を相続した人には相続登記の申請義務もかかり、手続の負担も重くなります。長く放置された事案ほど、解決までの時間も費用も膨らむのが実情です。
感情の応酬にしてしまう
「絶対に売らない」「なら勝手にしろ」の言い合いからは何も生まれません。腹の立つ場面ですが、やり取りを書面と数字に切り替えた方が前に進みます。後で裁判になっても和解の可能性は残るので、感情的なメールや留守番電話の記録は、自分に不利な材料になりかねません。
「裁判=競売で安売り」と思い込み、訴訟を避け続ける
競売は最後の最後に行き着く先であり、多くは持分の買取りや任意売却の和解で決着します。訴訟を選択肢から外してしまうと、相手は安心し、「このまま現状を維持できる」と受け取ります。交渉が動かない原因は、実はそこにあるのです。

